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変わる世界  作者: オピオイド
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外話 樹海にて 中篇

今回は残酷なシーンもしくは少しグロい表現があるので苦手な方は『戻る』ボタンで回れ右お願いします。

女は樹海の中で逃げていた。

先ほど駐車場で出会った男ではなく、今現在彼女を追い回している男どもだ。


「くくく、ねーちゃん。何処に行くのかなぁ? 」


下卑た複数の笑い声と足跡が、暗い樹海の闇の中から近づいてくる音を彼女は聞いた。

懐中電灯の光が迫る、女は光から逃げる様に森にある窪みに身を隠した。


「出ておいで、お嬢ちゃん。俺らがぜ~んぶ有効活用してやるからよ」

「そうそう上から下まですべてだ、上も下も前も後ろも全部だぁ」

「目も心臓も肝臓も肺も腎臓も、ヒッヒッヒヒヒヒヒヒヒ!!」


コワイコワイコワイと女は耳を塞ぎ目をつぶり、窪みに蹲る。

暫くすれば通り過ぎたのか、男達の声と足音が遠ざかっていく。

女は音が聞こえなくなると、辺りを見回すように顔を上げた。

周囲には誰もいないそう確認してから女は立ち上がろうとしたが、立ち上がる事が出来ない。

完全に腰を抜かしていた。

ここに居てもいいが、あの男達がまた戻ってくる前に此処から離れたい、そう考えていると窪みの奥に薄ぼんやりとだが穴を見つける。

人一人ほどが入れそうなの溶岩洞窟だ。

抜けた腰の代わりに腕だけの力で女は洞窟へと入り蹲る。


「どうして、こうなったんだろう?」


女はほんの一時間前のことを思い出した。




女は樹海の遊歩道を歩いていた。

富士の裾野の樹海と言えばオドロオドロしいイメージがあるが実はそうではない。

とても気持ちのいい木漏れ日が差す遊歩道だったりする。

しかしながら、それはあくまでも昼間に限ってだ。

時刻は18:00近く、空は薄暗く回りは闇に染まっていっている。


「うん、ここら辺でいいや」


女はおもむろに道から外れる。

道から少し外れるだけでそこは別の世界へと変貌する。

舗装されていない溶岩で固められた起伏のある原生林。

転びでもしたら良くて傷だらけ、悪くて死んでしまいそうな硬くてゴツゴツとした森はとても危険だ。

そんな場所に、視界も閉ざされ始める時間帯に入るのは自殺行為だ。


いや彼女自身、自殺志願者だからむしろ望む所だろう。


女には嫌な過去があった。

いや、嫌な人生が続いているといっても良いだろう。

容姿は平凡、何処にでも居るような顔。

性格は引っ込み思案で、口下手。

友達づきあいも下手で、変な所で壁を作ってしまい大学でも良く苛められていた。

何でもない平凡な人生どころか、落ち込んでいる人生。

だがしかし女には一つ特技があった。

それは相手の『欲しいものを知る』能力。

手順は簡単でただ知りたい相手を見ようと思って見るだけでいい、そうすると相手の欲しいモノが相手の声となって聞こえるのだ。

子供のころは重宝していた、相手の欲しいものを知りサプライズプレゼントといってたまにやれば相手はとても喜んでくれたのだ。

しかし、問題は大人になって行く頃からだった。

中学の頃、女には好きな男が出来た。

学年は一つ上のバスケットボール部のエースと噂される少年。

女は一目見てすぐに好きになった、一目惚れだ。

それから女の地獄がはじまった。

不用意に『能力』を使ってしまったのだ。

健全な中学生男子、思春期真っ只中で有り余った体力を運動で解消しているような人間が欲しがるものなんて高が知れている。

そして、それを知ってしまったのだ。

幻滅どころではない、一度好きになり自分の中で美しい存在まで格上げしていたのだ。

それは女の心に嫌悪感と恐怖心を植えつけるのに十分だった。

それからは最悪だ。

他人にいつも嫌悪感と恐怖心を持つ事となり、自然と友達と疎遠に。

口数も減り顔は俯きがちになり、彼女は次第に苛められてきた。


それから数年が過ぎ、彼女は一つの事を思い立つ、いや思ってしまった

自分はどれだけ人に振り回されて来たんだろう?

自分が決めたことなんてあるのだろうか?

そう思ったらもう駄目だった。

女の心は落ち込み、何もする気がなくなる、『鬱』という病気になっていた。

多くの人間のたどる道は大抵同じ、周りの人間や家族が支えるしかない。

しかし彼女の間違った決心は、思ったよりも早い行動を起こさせた。

それが、この樹海に来た理由。

睡眠薬を大量に飲み、誰も踏み入らない樹海の奥で静かに死のうと思ったのだ。

しかし、睡眠薬を飲もうとした段階で横槍が入る。

ジャラジャラとアクセサリーを幾つもつけたチンピラのような男達が突然現れて、女の睡眠薬を奪い去ったのだ。


「なっ誰?」

「困る、困るんだよ…こんな死に方は一番ね?」


飲もうとした睡眠薬を目の前に掲げ下卑た笑いでこちらを見てくる、宵闇の暗さがあいまって気持ち悪く恐ろしい。


「こんなので死なれたら商品価値が下がりかねないんだ? 睡眠薬としての生理作用的には問題ないんだけど、買い手の問題ってのもあるんだ。イメージが悪いわかるよねぇ?」


クククと笑う男に女は後ずさる。

男達は迷いのない躊躇いのない動きで女を囲もうとする。

その時、女は自分の『能力』で男達を見て知ってしまう。






「嫌、自分で静かに死ぬならまだ納得できた。犯されて、生きたまま解剖されて売られるのは嫌……」


女は洞窟の中でイヤイヤと頭を振り、外界からの全てを遮断する様に頭を抱え込む。


「何で、何でこうなるの? 私何も悪い事してないのに、どうして?」

「何でって? そういう運命なんじゃねーのか?」


唐突に声が聞こえると同時に女の髪が掴まれ洞穴から引きずり出される。


「いやあぁぁああ!!!」

「みーつけた。おい、少々時間が食ったさっさとやるぞ」


男の一人に乱暴に引きずり出され、抵抗も出来ずに女は引きずられる。

ガリガリと削れる背中の痛みを感じながら、女は諦めと共に呟いた。


「どうして?」

「悪い事もしてなくてもよい事もしてないだろう? だからさ、おねーさん?」


響く声、女が声の方向へと頭だけを動かして見ると、そこには樹海の入り口で出会った男だった。

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