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変わる世界  作者: オピオイド
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外話 樹海にて 前編

この話は『いつもの日々に戻るまで』の『五里霧中』の話の前後あたりの話です。

読まなくても本編とは関係ありませんが、読まれていると面白く読めるとは思います。

ではどうぞ!!

富士の樹海と聞いて思い浮かぶのはどんな噂だろうか?

誰に聞いても大体同じ返事が返ってくるのが『自殺の名所』だろう。



PM17:00 富士の樹海○○洞バス停前



富士の樹海の観光名所といえば溶岩洞穴が有名だろう。

その昔、富士山が噴火した時に流れた溶岩流、その上に森が出来たのが富士の樹海。

その富士山の溶岩が固まったときに出来たのが、溶岩洞穴だ。

洞穴の中はとても複雑で人の体内のようと思われ人穴とも言われている。

そんな洞穴を観光する為に、樹海に敷かれた道へ入る駐車場の一つが此処だ。

この入り口は今では廃れた場所で、滅多に人が訪れない。

それ故にこの場所は自殺する人間が最後に立ち寄る場所として有名だった。

その場所に一人の女性が軽自動車を乗り付けてフラリとやってきた。

車から出た足取りは重く、目は少し虚ろで焦点を結んでいない。

女は弱弱しく車のドアを閉めると、鍵も掛けずにゆっくりと樹海の道へと迷わず歩いていく。

俯きがちの顔を少し上げて見れば、女の目には自殺防止の看板が目に入る。


『命は親から頂いた大切なもの もう一度静かに両親や兄弟、子供の事も考えて見ましょう。一人で悩まずまず相談してみてください』


そんな文字が目に入るが、女の心には何も響かない。

自分を見直して冷静になってもらいたい、そんな言葉で心が変わるなら自分は今頃…と女が思っている時、声を掛ける者がいた。


「こんにちは、お姉さん」


女以外いなかったはずだったので、彼女は大きく驚いた。

それはもう飛び上がるほどの。

女が振り返ると、そこには年若い青年が立っていた。

少し黒が入った金髪に碧い目、スラックスにワイシャツと言った何とも年齢が断定できない格好をしていた。

特徴的なのがその表情、目を細めてやや日本人のような欧風の顔つきで優しそうに笑っていた。

全体的な雰囲気としては少年の様な雰囲気を醸し出している。


「こっこんにちは」


思わずどもりながらも女は返事を返す。

緊張した為に口が上手く回らなかったのだ。

突然の登場や自分が今から行う事への後ろめたさもあったが、それ以上に目の前の人物から感じる静かで何故か『嵐の前』を感じさせる様な存在感に彼女は怯んでしまった。

そんな彼女の態度に何かしらの満足がいたのか、男は笑顔をさらに深める。


「ねえ、お姉さん。こんな時間にこんな所で何処に行くの?」

「え、えと。あなたには関係ないわ」

「ふーん、まあいいけど」


男は簡単に引き下がる。

とても不自然だが女には丁度いい。

今から行う事は、自分がこんな人間になってから始めて決めた事で誰にも邪魔されたくなかったのだ。

そんな女の決意も男には関係なく、彼は踵を返し離れていく。


「ああ、そうそうお姉さん。一つ聞きたいんだけど?」

「なあに?」


女も同じように踵を返し樹海へと入る道へと踏み入れ様としたとき声がまたかかる。

今度は驚かない、女には何となく声がかかる気がしていたのだ。

しかし、次の発言に驚く。



「もし、あなたの気が変わったら僕の物にならない?」



雰囲気と優しい声色にそぐわない言葉を彼女は聞いた気がした。

彼女が思わず振り向いて男を見ると、こちらをニコニコと笑いながら見ていたためやはり空耳じゃないかと思い始めていた。


「空耳じゃないよ、お姉さん。例えばさ、今からお姉さんがその道に入る。そして何かをしようとするじゃない? その時にその『事』をする気が変わったら僕の物にならない? って事」


男は顔に似合わずすごい事を言ってのける。

さらに困惑したのは女だった。

明らかに自分のし様としている事が見抜かれている。

慌てて走り、やや足をもつれさせながら樹海へと入っていく。


「私はやるんだ。今度こそ…やるんだ」


少し息を切らしながら樹海へと踏み入っていく。

男は森へと消えていく女性を変わらない笑顔で見送りながらポケットの中から携帯電話を取り出し電話を掛ける。


「ターゲットが森へと入った。気付かれない様に追え…ああ、4から6まではA装備で囲むように。ああ、処理の事は気にしなくていい…一杯あるだろう? そこらじゅうに」


電話を掛ける男の顔は、先ほどの笑顔とは違う精悍かつやや邪悪さを持ち合わせた笑顔だった。


「今からそっちにいく、装備を用意しておいてくれ」


そこまで言うと男は携帯をポケットにしまうと背伸びを一回して歩を進めた。

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