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一瞬の銃撃戦と最終型番

 ジャミングミストのせいで周囲の地形情報は得られない。既にクロエの背中から降りた鼠とクロエは一メートル先の視野も利かないジャミングミストの中、鼠の《爆破》で視界を確保しつつ通路に沿って進んでいた。


「目の前の通路さえ見えていればなんとか進めるような構造で良かった」

「そうっスね! 大体のゲートの方向はまだ分かるっスし!」

 鼠とクロエはジャミングミストが撒かれる前のゲートのおおよその方向を覚えており、十字路やT字路では意識してゲートへ近づく道を選択していた。内側の構造が複雑な室内ではなく、なるべく通路を選んで駆ける。


(……マナの感じ、もう三割くらいは使ってるのか。大丈夫なのか?)

(まぁこのジャミングミストがどこまでも続くなら考えモンだけど、もうすぐ突破できるでしょー)


 お得意のマナ感知が使えず、周囲のことはさっぱりわからないはずなのに、ラスは中空に浮かんだまま頭の後ろで両手を組み、目を閉じて伸びをして見せる。

(暢気だなぁ……)

 ラスに呆れたような念話を送り、ラスの目論見通り多少リラックスした鼠は、再びナイアーラMAR-S-r-IIIから《爆破》込みの魔弾を発射する。

 距離を調節して数発放たれた魔弾だったが、全て十数メートル先で爆発する。怪訝な顔をした鼠だったが、同時に霧が吹き払われて現れたものを見て驚愕した。


「土壁……? ダンジョンの壁とは材質がまるで違う。それにただの土壁が僕の《爆破》でこの程度で済むわけが……ッ、はっ」


 口にしたあとに正解に気がついた鼠は周囲の部屋の中にも魔弾を撃ち込む。霧が散じたあとに現れたのはやはり同じ土壁だった。恐らくは気がつかれないために部屋の中に設置された土壁だったが、爆撃を受けた直後に崩れ始め、そして部屋のすぐ外側、通路の壁面に沿うように土壁が新たに出現し鼠たちを通路に閉じ込めた。


「誘いこまれた……わけじゃない。進路を誘導されている感じはしなかった。機を見計らってついさっきここに設置したんだ。おそらく《固有魔法》で。なぜ今、このタイミングで……?」

「そんなの決まってるっスよ。獲物を逃がしそうだから、あるいは……」


 ぐいっと。既に腕を通していた防護コート〈黒熊〉が無理矢理に鼠の身体を反転させる。


(追いついたから。鼠、合図したら魔力制御を全部ラスに任せて引き金を絞って。事前に可能な限り補助スーツを固めて。費用対効果を考えたら初撃が一番苛烈なはず)


 長引かせて消耗したり逃亡の可能性を上げるよりも、初撃を少々過剰にぶち込んで一撃で決める。気がつかれていない時は狙撃によるヘッドショットが最適解だったかもしれないが、気がつかれた今はまた違う。


 鼠が心臓が素早く三つ打った。


(――今ッ!)


 鼠はマナのことを一切考慮せず、今来た通路の奥へ銃口を向けていたナイアーラMAR-S-r-IIIの引き金を握り込むように絞った。


「痛ッ……!!!」

(マナを使おうとしないで! 補助スーツを操作して姿勢を維持して、衝撃に耐えて!)


 ナイアーラMAR-S-r-III本体を軋ませ、銃口から飛び出していった無数の魔弾。当然反動も凄まじく鼠の全身の骨を砕きにかかる。ラスが操作する〈黒熊〉が衝撃を吸収してくれればよかったがラスは今、魔弾の複雑怪奇な軌道操作で手一杯だ。鼠自身が〈魔纏〉を使うことも迷惑だということで、鼠に残されたのは補助スーツによる姿勢制御、それしかなかった。


「が、がぁぁああっ!」

(耐えて! あと一秒っ!)


 縦に長い通路の上方を埋め尽くすように飛んで来ていた小型ミサイル、通路の床面近くを塗りつぶした実弾の嵐。その双方をラスは完璧に防いでいた。マナの消費を抑えるため《爆破》はなるべく使わず、小型ミサイル一発ごとに魔弾一発、実弾の嵐に関しては魔弾の強度を上げることで一発で数発の実弾を防いでいた。


 銃撃が止む。鼠は呻き声を上げる。衝撃を受け止め続けた右腕がだらりと下がった。特に銃床を当てていた右肩がひどい。途中からもはや補助スーツを外骨格のように使い、中身がぐちゃぐちゃの右腕を上げ続けていた。咄嗟にナイアーラMAR-S-r-IIIを落とさず左手に持ち替えたのは鼠にも多少は積み上がってきた経験のたまものだろう。


(小型ロケットの弾切れ! 弾幕でジャミングミストが吹き払われてこちらからも補足できた! ジャミングミストが戻る前に決めるっ!)


 ラスの操作で〈黒熊〉が左腕を上げさせる。追随する鼠の動きがやや緩慢なことに気がついたラスは鼠の顔を覗き込みながら声をかけた。


(大丈夫? あの敵は生半可な攻撃じゃ貫けない盾を持ってる。それを()()()()するために鼠の左腕にも相当な負担をかけるよ。覚悟してね)

(……覚悟か)


 鼠は顔を上げる。震え、痛みに引き攣りながらも不敵に微笑んでいた。


(あぁ。覚悟(ソレ)だけはラスにはどうにもできないみたいだからな)

(……まぁ、及第点かな)


 ラスは満面の笑顔で返すと、スパイクアルマジロを屠った時のようにナイアーラMAR-S-r-IIIの銃口に両手を添える。


(今回はエネルギーシリンダー全部使うよ。……あ、私がいなくなっても寂しいとか考えてないで、〈魔纏〉でもなんでも使って身を守ってね)

(え? いなくなる? あと〈魔纏〉は邪魔になるんじゃ)

(発射しちゃえば関係ないよ。さっきは連射させてたから、かつ鼠の身を慮ってられなかったってだけ。相手が射撃を再開する前に決めるつもりだけど、ラスがいなくなったあとで再開しないとも限らないからね)

(だからさっきからいなくなるって)


(いいから()()()。説明すると長くなる)


 鼠は憮然とした表情のまま補助スーツを固定し、衝撃に最大限耐えられるようにする。ラスの意図がわからぬまま、それでも投げつけた念話は芯を喰っていた。

 

(……ちゃんと倒してこいよ)

(……ふふ、勿論!)


 鼠の身体が一瞬爆発的な魔力に包まれる。直後それはナイアーラMAR-S-r-IIIの弾室に集約され、一発の超密度の魔弾となった。

 引き金がゆっくりと絞られる。ロックを外された光学エネルギーシリンダーから発射機構へとシリンダー一本全てのエネルギーが供給される。その全てを一瞬で消費し莫大なエネルギーを得た超密度の魔弾が銃口から放たれる。それは螺旋を描くように超速で回転し、前後に長く引き伸ばされて一本の槍のように長い廊下を音速をはるかに超えて飛翔した。破滅的な衝撃を鼠の身体に残して。


 ◆


(……ッ! なんだこの魔力はッ!)

 ダンジョンが震えたような気すらした。鼠の身体から一瞬溢れ出したマナ。

(多いかといえばそんなことはない。しかし純粋すぎるというか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()というか、とにかくあのマナはやべぇッ!)

 

 ブモは二本の機工腕で掴んでいた小型ロケットランチャー二丁を投げ捨て、正面に設置していた強化大楯を掴み直す。


(さっきの俺の掃射を防ぎきった時も似たような感じがした。まるでこのダンジョン自体が力を貸して俺の攻撃を防いでいるような錯覚が。馬鹿馬鹿しい。だが、あのマナの透明度はどう説明する? あの小僧自身の色が限りなく薄い、あのマナをッ!)


 鼠のマナがブモへ向けて構えているアサルトライフル型魔銃に集約されるのを見て、ブモは勝負を分ける一撃だと確信した。同時に掃射によってジャミングミストが僅かに吹き散らされていることに気がつく。


(……とはいえ弾丸や小型ロケットが通過しただけで、濃度は多少薄まった程度のはず。それであの距離から補足できるのか。良いレーダーを積んでいる……)

 そこで先ほどの馬鹿馬鹿しい感覚を思い出す。

(ダンジョンが力を貸しているんだったら、補足できて当然……? 馬鹿がッ! オカルトも大概にしろッ! 目の前のガキは俺を殺しうるッ! 余計なことを考えている暇はねぇッ!)


 アサルトライフル型魔銃から光学エネルギーまでをも吸い上げて一発の魔弾が発射される。螺旋に回転したその魔弾は形態制御に僅かに耐えかね、密度を減ずる代わりに体積を増して一本の槍のように飛翔する。

 その魔弾が発射された瞬間、ブモは確信した。


(勝ったッ! あの魔弾じゃあ俺の強化大楯二枚を貫くことはできねぇッ! 反動でガキは吹き飛んでるッ! こいつを防げば終わりだッ!)


 僅かにずらしていた強化大楯二枚を魔弾の軌道上に並べ、僅かに上向きに反らして傾ける。エネルギーを上方へ逃がし、自身の身体を床に押し付けさせる安定した防御態勢だった。

 コンマ数秒。魔弾が飛来する僅かな時間に、ブモは高い集中によりレベル6の実力以上の動きで完璧な体勢を取った。


 しかし。

 耐えきる自信のあった衝撃が……来ない。


(…………?)


 安定のために姿勢を下げ、強化大楯の方に感覚を集中させていたブモは、改めて瞳に表示される情報収集機器からの加工済みデータに注意を向ける。

「…………ッ!」

 恐慌に駆られ、通路の上方、自分のほぼ真上に視線を上げる。

「……ば……か……な」


 そこには一匹の魔物のように身をくねらせた槍のような細長い魔弾が静止し、ブモを睥睨していた。

 そしてブモには見えないが……その傍らでラスが片手を魔弾の槍に伸ばし、掌を広げて静止させていた。


「何者だテメェはァッ!!!!」


 ブモの叫びは魔弾の槍を放った、向こうでぶっ倒れている鼠に対してのものだった。しかし魔弾の槍に向けて叫んだことで、奇しくもラスへ向けた糾弾のようなものになる。

 その偶然にラスはフ、と息を漏らし、高慢に目を細めてブモを見下げた。


(いいだろう。答えてやろう。どうせ聞こえていないだろうがな。……私の名前はラストロットNo12。魔術的プログラミングによって織られたこのダンジョンを管理する魔術的人工知能(マザー)を補佐するために織られた膨大な数の魔術的下位人工知能(SAI)。その正真正銘『最終型番(ラストロット)』、それが私だ。私に与えられた仕事は存在せず、膨大な時間の自己演算の中で……。いや、時間か。自分語りは爽快だという人間の感情も再現されているのだな。ほら見ろ、豚が大楯を掲げようとしているぞ。この魔弾はまだこの楯二枚を貫ける威力は持っていない)


 ラスが静止させていた腕を振る。一切の遅れなしに滞空していた魔弾はその身を伸ばし、一本の槍となって防護鎧や補助スーツごとブモの胸を貫いた。

ネタバレ早かったですかねー。まぁでもまだプレイヤーとかの謎は残ってるし……

え、ばればれすぎる?

バレてるかはともかく陳腐じゃないといいんですけども……

あ、プレイヤーは遊んでません。あと……いや止めておきましょう。

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