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101話 ~ 150話

 「詳細はこちらに」ポンパーが懐に手を入れたのを見て、春哉が小さな本を差し出した。身体検査したときに取り上げておいたのだ。キャラメル色の皮表紙を開くと封筒が出てきた。「計画を遂行した後に開封するようにと言われておりました」彼は封蝋を破り封筒から中身を取り出した。

【キャラメル / 本 / 封蝋】


 出てきたのは蜂蜜色に褪せた地図と一枚の便箋。地図を広げた皇帝が驚きの声をあげた。「なんと、余はこんな辺境に送られておったのか」「辺境なの?」「この列島はピコラタ王国に属しておるのじゃが、人はほとんど住んでおらぬのじゃ」地図にはダイヤモンド形の印がつけられている。

【地図 / ダイヤモンド / 蜂蜜】


 「面白いな。この近辺の地形図だ」春哉は大喜びだ。文字の形成がどうしたとかつぶやきながら奇妙な記号を調べ始めた。「王国って? フーカーは帝国から来たんでしょ?」「帝国の内部には、自治を許された二百余りの王国があるのじゃ。ピコラタもその一つじゃな」スケールがでかい。

【喜ぶ / 文字 / 形成イェツィラー


 便箋に目を通したポンパーは、地図の上のダイヤの印を指差した。「『門』を開くには『皇帝の証』を持ってこの場所に立つのです」術師が『門』を開く目印にするのだそうだ。地図には八本足の怪物の歩く姿も描かれている。「これ、本当にいるの?」「だから誰も住みたがらぬのじゃ」

【歩く / 怪物 / 皇帝エンペラー


 「『皇帝の証』って?」春哉が尋ねた。「我が祖先が創造神より授かった夜を映す石なのじゃが、ショウコにやってしもうた」春哉が怪訝な顔で私を見る。私は耳飾りを取り出しポンパーに差し出した。「これを持って帰って皇帝は死んだって言って。そうすればホッピイも諦めるでしょ?」

【諦める / 夜 / 創造ブリアー


 「じゃが、その石はそちに与えたのじゃぞ」皇帝は不服そうだ。「ハルヤが贈った三日月柄の腕輪は大切にしておるではないか」ああ、さては私の留守中にジュエリーボックスを覗いたな。でも、どうして春哉から貰ったって分かるの?「そちの念がこもっておるぞよ」あんた、霊能者かい?

【贈る / 腕輪 / ムーン


 「そんな事言ってる場合じゃないでしょ?」腕輪と何の関係があるのよと言いかけて、彼の悲しげな瞳に気づく。春哉に妬いてるんだ。この石、どうやら梅干の種の謝礼ではなかったらしい。自分の鈍感さに腹が立つ。いくら皇帝を辞めたからって由緒ある宝石を簡単に手放すわけがないのに。

【悲しむ / 腕輪 / 皇帝エンペラー


 しょんぼり垂れた皇帝の耳。抱きしめてやりたい気持ちになる。「ごめん」私は謝った。「でも、私には石よりもあなたの命の方が大切なの。命を狙われてちゃ、安心して隠者にもなれないよ」「それもそうじゃのう」彼の顔に大輪の牡丹のような笑みが広がる。最初からこう言えばよかった。

【抱きしめる / ボタン / 隠者ハーミット


 腕輪の事を春哉に知られてしまった。でも彼は気にも留めない様子で笑ってる。そっちには未練はないんだろうけど、その笑顔は残酷すぎるよ。「じゃあ『門』を開くのに石を使っても構わないね」春哉はさっさと話題を元に戻した。季節行事を待ちわびる子供みたいに瞳をきらきらさせて。

【笑う / 季節行事 / 残酷アクゼリュス


 春哉が首を傾げた。「もし『皇帝の証』がなければどうなるの?」「『門』は開きませぬ」「……つまり、皇帝を抹殺できなければ戻ってくるなという意味だよね」ポンパーが凍りついた。シトリンの瞳に拒絶の色が浮かぶ。「いえ、そんなはずはありませぬ」だが彼の声はか細く不安げだ。

【不安 / シトリン / 拒絶シェリダー


 「でも『皇帝の証』がないと戻れない。そうだね?」追い討ちをかけるように春哉が言う。ポンパーの教皇への忠誠心を蝋燭の炎のように吹き消そうとしているのだ。こんな時、春哉は悪魔のように冷酷になれる。「我が君が私をお見捨てにはなるはずが……」苦しげな表情に胸が痛んだ。

【痛む / 蝋燭 / 悪魔デビル


 ポンパーはぼんやりとベランダの朝顔を見つめている。春哉が黙って足のテープを剥がし始めたが、それにも気づかないみたい。この人、信用してもいいのかな? 彼の足輪に彫られた美しい模様は殺し屋には似つかわしくない。「今日はここまでにしよう」静かな声で春哉が言った。

【足輪 / 声 / 朝顔】


 春哉はポンパーを脱衣所に連れて行き、浴室の使い方を説明し始めた。彼の面倒見のよさには頭が下がる。「余の寝巻きを使うがよいぞ」私は皇帝が選んだ派手な紫色のパジャマとオリーブ色のバスタオルを手渡した。ポンパーは沈んだ顔で礼を言うと、アコーディオンカーテンを閉めた。

【紫 / アコーディオン / オリーブ】


 浴室からは水音が聞こえてくる。鉱物オタクでもある春哉は『皇帝の証』を熱心に調べ始めた。「とりあえず、この石があればポンパーを送り返してやれるわけだ」「『対の石』じゃ駄目?」「全く違う石じゃからの。教皇は余が死んだ証が欲しいのじゃ」皇帝は窓の外の夜空を見上げた。

【夜 / 鉱物 / 水】


 やっぱり故郷に戻りたいよね。でも皇帝が帰っちゃったら退屈だな。彼の幸せと私情を天秤にかけちゃいけないんだけど。って、私、彼にここにいて欲しいと思ってる? その時、脱衣所からポンパーが現れた。絹糸のような金髪に肌を桜色に上気させた彼は目の覚めるような美青年だった。

【桜 / 絹糸 / 天秤】


 皇帝と春哉も呆気にとられてポンパーを見ている。この人、どんだけ汚れてたのよ? 教皇の裏切りを嘆いていたのか目が赤いが、尻尾は真っ白だし皇帝よりも品があるんじゃない? 紫色のパジャマはブカブカだ。後ですそだけ縫ってやろう。春哉が時計を見上げた。「もう帰らなきゃ」

【縫う / 時計 / 教皇ハイエロファント


 私は春哉について玄関に出た。明日も仕事を休んで来てくれるという。言葉では表せないほど感謝していると伝えると彼は笑った。「俺は『門』が開くのを見たいだけさ」靴を履きながら意味ありげに私を見る。「フーカーが招子に出会えたのは星の導きだと言ってた。意味は分かるよね?」

【休む / 言葉 / スター


 当然、春哉も皇帝の気持ちに気づいてるか。「そうなの。どうしたらいいと思う?」春哉は答えず、私のカフェオレ色のサマードレスを指差した。「それ、海に行った時に着てたね。懐かしいな」「汚れたから部屋着にしちゃった」唐突に彼が聞いた。「招子はまだ俺のこと好き?」ひっ!

【カフェオレ / ドレス / 海】


 春哉は玄関のハイヒールに目をやった。「もし、俺が彼女と別れたって言ったら? よりを戻してくれる?」私の顔を見て彼がにやりとする。「ごめん、今のは冗談だよ」ううん、彼は嘘をついてはいなかった。なのに言葉が出てこない。どうしても彼のこと、諦められなかったはずなのに。

【ハイヒール / 嘘 / 諦める】


 悲しい気持ちで春哉の汚れたスーツを見つめる。さっきは会社から飛んできてくれたんだ。あなたが大好き。なのになんで戻りたいって言えないの? 「招子はフーカーが好きだから」私の心の疑問が聞こえたかのように春哉が答えた。いや、それはないって。それだけは。首筋が熱くなる。

【首筋 / スーツ / 悲しむ】


 「でもあの人、耳生えてるし、不法入国者だし」「だから嫌い?」そういう事じゃなくて。私はいらいらと彼を睨み、そして泣きたくなった。いつもの喧嘩のパターン。煙草の匂いはしないけど彼も私も変わっていない。同じ過ちを繰り返すから、恋人たちには戻れない。戻らない方がいい。

【泣く / 煙草 / 恋人たち(ラヴァーズ)】


 「あの刀、見ただろう? 俺ならびびって招子を守れなかったと思うよ」春哉が続ける。「フーカーの事はこれからも相談に乗る。褒美にこれ、貰っちゃったから」彼はにやりと笑うとポケットから飴玉を出して見せた。「万が一、彼が帝国に戻ることがあれば、公爵にでもして貰おうかな」

【飴 / 公爵 / びびる】


 「招子だって彼のために必死だったね。拷問なんて言い出すから驚いた。彼の助け舟がなかったらヤバかったけどさ」皇帝が泣き出した事? あれは芝居だったっていうの? 「皇帝をなめちゃいけない。ああ見えてもたいした知識人だ。王位継承レースを勝ち抜いてきたのかもしれないよ」

【舐める / レース / 知識ダアト


 「本当は昨日の晩、招子の気持ちを確かめに来たんだ。おかげでこんな事に巻き込まれちゃった。俺も星に導かれたのかもね」春哉は突然に私を抱きしめた。「じゃあ、明日ね」懐かしい感触に胸が高鳴る。でも私には分かった。これは春哉の別離の儀式なんだ。明日から二人はただの友達。

【抱きしめる / 感触 / スター


 「ハルヤは帰ったのか?」部屋に戻ると皇帝が尋ねた。「せめて余に術の知識があればそちを守れたのにのう」疲れたのか青い瞳が菫色に見える。「そちに恐ろしい思いをさせてしまい、ハルヤに申し訳が立たぬのじゃ」「春哉は関係ないでしょ?」叱りつけるような声に自分でも驚いた。

【叱る / 菫 / 知識ダアト


 皇帝は食べかけのアイスクリームを置いた。「どうしたのじゃ? ハルヤと何かあったのか?」私は黙って皇帝を見つめた。美しい顔を曇らせて心から案じているのが分かる。春哉なら一人で勝手に気持ちの整理つけて帰っちゃったわよ。あの日泳ぎに行ってから、私の人生、どうなっちゃった?

【泳ぐ / アイスクリーム / ティファレト


 「大丈夫、気にしないで」私は笑って見せた。皇帝の手首の包帯が緩んでいる。結び直そうとかがんだら、彼に肩をつかまれた。見上げればそっと唇を吸われる。ふんわりと春の匂い。「そちに触れてしもうた。余は尻尾を切り落とされてしまうのかのう?」思いつめたような声で彼が尋ねた。

【春 / 包帯 / 吸う】


 情けないウサギ男など断固として拒絶すべし。なのに体は固まったまま、彼を突き放すことができない。「ハルヤの方がよいのじゃろう?」皇帝が尋ねる。そう、私は春哉が好きなの。あなたなんて……。沈丁花の香りが私を包み込む。彼に抱き寄せられて私はいつしかキスを返していた。

【放す / 沈丁花 / 拒絶シェリダー


 皇帝は驚いたように動きを止め、私の顔を覗き込んだ。恥ずかしいからやめてよね。嬉しそうに笑い、再び私に口付ける。彼のキスはお菓子のように甘い。これが不安定な関係だと分かってるのに、鬱屈した気分が嘘のように晴れていく。まるでこうなる事をずっと望んでいたみたいに。

【鬱屈 / お菓子 / 不安定アィーアツブス


 「今宵は余の物となれ。技をつくし考えうる限りの快楽をそちに与えてやろうぞ」そう来ると思ったけどね。「それは駄目だって」なぜって、ポンパーがルビーみたいに真っ赤になって見てるから。「わたくしの事は気になさらずに」「そう申しておるが」だからって私が気になるでしょう?

【快楽 / ルビー / アーツ


 「いいから包帯結ばせなさいよ」「厳しいのう。余の祖母であった女教皇のようじゃ」恨みがましく皇帝が言う。婆ちゃんと一緒にしないで。念のため傷を見たら、あれ、治ってる? うっすら真珠色の傷跡が残っているが、それももう消えそうだ。「どういう事?」「余にも分からぬのじゃ」

【恨む / 真珠 / 女教皇プリエステス


 ポンパーも首をひねる。「手ごたえはありました。陛下は不死身でございますか?」縫わずに済んだのは助かったけどどうなってるの? 皇帝が膝を打った。「そうか。梅干の効用じゃ」「なんと、宇宙を統べる神々の瑪瑙と呼ばれるあの梅干でございますね?」スーパーの梅干、恐るべし。

【縫う / 瑪瑙 / 宇宙ユニバース


 ホットミルクを一杯飲んだポンパーの目には霧がかかっている。机にもたれて今にも眠ってしまいそうだ。彼は押し入れに寝かせよう。念のため引き戸に防犯ブザーをテープで貼り付ける。開けたらブザーが鳴る仕組みだ。術をかけたから開けたら雷が落ちると言い聞かせ、引き戸を閉めた。

【霧 / 杯 / 机】


 私達も寝支度を済ませる。明かりを消したとたん、皇帝にベッドに押し倒されたが、耳をねじって退けた。「ポンパーが帰るまで待ちなさいよ」「剛毅な女じゃ。嘘ではあるまいのう」彼が不満に頬を膨らませる。ポンパーが帰る……? そうか。どうしてそれを思いつかなかったんだろう。

【不満 / 嘘 / 剛毅ストレングス


 ポンパーの事にばかり気を取られて知恵が回らなかった。私は皇帝を見た。「ええと……」彼がにやりと笑って手を伸ばしてくる。「なんじゃ、急にその気になりおって」違うけど。やっぱり言いにくい。でも言わなくっちゃ。「ポンパーと一緒に『門』を通ってあっちには戻れないの?」

【笑う / 手 / 知恵コクマー


 「招子は余を送り返したいのか?」彼の目に浮かんだ哀しみに私は慌てて首を振った。「ううん、あなたとは別れたくない」でも、どう表現すればいいのか分からないが、皇帝はここにいてはいけない気がするのだ。森に棲む鳥を鳥籠に押し込めてしまうのが、間違っているのと同じように。

【哀しむ / 鳥籠 / 表現アッシャー


 「でも、向こうの世界に戻りたいんでしょう?」「戻りたくないといえば嘘になるがのう」やっぱり。彼の気持ちを思えば胸が痛む。「じゃが、そんなことをすれば飛んで火にいる夏の虫じゃ」そりゃそうか。皇帝はどこからともなくジャムの小瓶を取り出すと、指ですくってぺろりとなめた。

【痛む / ジャム / 世界ワールド


 「『門』をくぐればそこには術師がおるからのう。すぐに捕まってしまうじゃろう」誰を恨む様子もなく壁際の地球儀を見つめたまま淡々と彼は言う。もう二度と家族にも会えないっていうのに、このまま残酷な仕打ちを受け入れちゃうつもりなの? 「なんとか捕まらない方法はないのかな?」

【恨む / 地球儀 / 残酷アクゼリュス


 「その雷を落とす機械があれば無敵なのじゃがのう」「何のこと?」「ほれ、そこの緑色のやつじゃ」皇帝は押入れの扉を指差した。どうやら防犯ブザーの事を言ってるらしい。ふとある考えが頭に浮かぶ。いや、それは無茶だ。でも……もしかしたら。「フーカー、戻れるかもしれないよ」

【雷 / 機械 / 緑】


 私は彼に思いつきを話した。だけど皇帝はぼんやりとカーテン越しに月を見上げているだけ。期待はずれの反応に私は彼の尻尾の毛を一本引っこ抜いた。「いたた、何をするのじゃ?」「戻りたいの? 戻りたくないの? どっちなの?」「そうじゃのう……」どうも乗り気ではないようだ。

【期待 / 尾 / ムーン


 「幼少のころ、宮殿の近くに糸車を回す婆がおっての、余の顔を見るたびにこう言ったのじゃ。陛下の幸福はとても遠いところにあるのかもしれませぬのう、とな」皇帝はそう言って私の顔を見た。「帝国の事は忘れ、隠者としてそちとここで暮らすことが余の幸福ではないかと思うのじゃ」

【幸福 / 糸車 / 隠者ハーミット


 でもこんな不安定な暮らしを続けていくのは無理だ。「あなたは帰らなくちゃ駄目」皇帝は困惑した顔で私を見た。「やはり招子は余を送り返したいのじゃな」心なしか目には涙が浮かんでいる。「ご両親も捕まってるんでしょ? 助けなきゃ一生後悔するよ。私も一緒に行くからさ」あれ?

【困惑 / 涙 / 不安定アィーアツブス


 皇帝の驚きに満ちた瞳が私を見つめる。「そちの勇気には恐れ入った。余は偉大なる正義の執行者であるのに、そのことを忘れておったわ。民のために戻らねばならぬようじゃの」彼の耳が翼のようにはためいた。ウサギ耳の世界に行くって? 私ったらなんてことを言っちゃったんだろう。

【勇気 / 翼 / 正義ジャスティス


 皇帝は嬉しそうに私を抱きしめた。仕方ない。彼を送り返すには私も行くしかなさそうだ。「一緒に行かなきゃ王国だってもらえないしね」「なんじゃと?」彼が幻でも見たかのような顔をする。「前にくれるって言ったじゃないの」別に欲しくないけどさ、自分で言っといて忘れんなよな。

【抱きしめる / 幻 / 王国マルクト


 「フーカーはちゃんと皇帝やってたの?」「おかしな質問じゃのう」「だって頼りなさそうだもん」「民には慕われておったぞ。政はそれぞれの地方の長が集まって行うのじゃ」「なら、皇帝なんていらないよ?」「いや、皇帝こそが力の根源なのじゃ。政治と力の両翼が揃わねば国は動かぬ」

【慕う / 翼 / 根源アツィルト


 彼は再びジャムを食べ始めた。「皇帝がおってこそ術師は術を使える。余は宇宙の力を導き集める媒体なのじゃ」サファイア色の瞳に宿る力はそういうこと?「じゃ、いなくなったら大変でしょ?」「困った事に教皇も同じ力を持っておる。王冠をかぶらずとも余の双子の弟じゃからのう」

【食べる / サファイア / 王冠ケテル


 なんだって? もしや、これは壮大なる兄弟げんか?「だから皇帝が不在でも術師は困らぬ。『門』を開くこともできるのじゃ。ただ、惜しい事に昔からホッピイには暗黒の力ばかり集まってきよってのう……」憂鬱げな彼の瞳を通して、インクの染みのようなドス黒い闇が見えた気がした。

【惜しむ / インク / 皇帝エンペラー


 「民には秘密じゃが父がホッピイを皇帝に選ばなかったのもそれが原因なのじゃ。根っからの無神論者だと知りながら、代わりに教皇の座を与えてしもうた。教皇となった後もあやつは余に嫉妬し続けておった。父ですら憎んでおる。あやつと喧嘩にならなかったのは女の好みだけじゃのう」

【嫉妬 / 秘密 / 無神論バチカル


 「やがてホッピイは父の戒めも聞かず己の欲望のみを追い求めるようになった。その上、余を帝国より追放すべく密かに手勢を集めておったのじゃな」皇帝は話し終えると暗い表情でぺろりとジャムをなめた。どうやら彼の弟は暗黒卿だったらしい。頭の中で「帝国のマーチ」が鳴り響いた。

【戒める / ジャム / 欲望ラスト


 青い瞳を巡る星雲の夢を見て目覚めればもう朝だ。「すみませぬ。扉の術を解いてくだされ。厠に行きたいのです」押入れの中からポンパーの声がする。私を魔術師だと思ってるみたい。起き上がろうとしたら皇帝が私の胸に頭を乗せてすやすや眠っていた。とうとう乳枕されてしまったか。

【眠る / 星雲 / 魔術師マジシャン


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