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51話 ~ 100話

 「梅干の種の礼じゃ。受け取るがよい」それじゃ私が詐欺師じゃないの。それにしても綺麗な石だ。エメラルドかな? 目をあげると皇帝の顔がそこにあった。「美しかろう。古より銀河を映す石だと伝えられておるのじゃ」あれ? 彼の瞳の奥にも星の海が見える。吸い込まれそうだ。

【梅 / エメラルド / 銀河】


 その時、玄関からノックの音が響き、針で刺されたかのように皇帝が飛び上がった。「俺だよ」懐かしい声に急いで靴をひっかけ、玄関のドアを開く。「仕事、休んでたから気になって」春哉が入って来た。「しょ、処刑された男ではないか。幽霊か?」観葉植物の陰で皇帝がつぶやいた。

【植物 / 靴 / 針】


 スーツ姿の春哉は皇帝の耳と尻尾を見て凍りついた。「邪魔したね。ごめん」完全に誤解した顔で玄関のドアを閉める。ドアの脇にかけられた風鈴がチリンと鳴った。違う、違うのよ。未だに彼の夢を見るっていうのに、こんなことになるなんて。急いで飛び出して、彼の後を追った。

【夢 / スーツ / 鈴】


 これじゃ怪しまれるのも当然だ。私たちの関係をどう思ったのか、春哉の顔がすべて表現していた。「お茶ぐらい飲んでいって」誤解だけは解こうと必死で引き止める。皇帝が部屋から顔を出した。「この娘は余に仕えておるのだ。幽鬼は冥界に戻るがよい」余計に誤解されるだろうが。

【怪しむ / お茶 / 表現アッシャー


 「この人の耳、本物なの」耳を引っ張ると皇帝は悲鳴をあげた。「秘密にせよと言ったのはそちではないか」「この際、仕方ないでしょう?」春哉が目を見張る。「どういうこと?」「海で泳いでたら拾っちゃったの」以前は彼と私も浜辺の恋人たちの一組だったのに。切ない記憶が蘇る。

【泳ぐ / 秘密 / 恋人たち(ラヴァーズ)】


 『吊るされた男』が幽霊でないと分かった皇帝は手に持った饅頭を下ろした。春哉に投げつけるつもりだったようだ。「招子はなんでも拾ってきちゃうんだね。昔と変わってない」紅茶のカップを手に春哉が笑う。皇帝がおもむろに尋ねた。「ときにショウコとは何者じゃ?」私だけど。

【投げる / 紅茶 / 吊るされたハングドマン


 SF映画好きの春哉は状況を理解するのも早かった。彼に色々質問されて皇帝もまんざらでもないようだ。一転して和んだ雰囲気になる。尻尾の飛び出た部屋着を見て春哉が笑った。「俺のジャージ、まだ取ってあったんだね」皇帝の透き通った瞳がオパールのような翳りを帯びた気がした。

【和む / オパール / 理解ビナー


 春哉は皇帝がどこから来たのか聞き出そうとしている。宇宙の話から、皇帝が店で見た望遠鏡の話題になった。春哉は昔、天文オタクだったのだ。あの地球儀も彼がくれた。木星の衛星が六十個以上あると聞いた皇帝はあんず飴を落っことした。「余のレンズだと四つしか見えぬのじゃ」

【あんず飴 / レンズ / 衛星】


 皇帝は星にただならぬ興味を持っているようだ。「国の命運を星で占うから?」彼は困惑した顔になった。「余はただ星が好きなだけなのじゃ。宇宙の深さを思う時、世の醜さを忘れられる。人の世など花の命のように儚いモノじゃからのう」この人、皇帝になんてなりたくなかったのかも。

【困惑 / 花 / 宇宙ユニバース


 「どこの星から来たのか分かった?」こっそり春哉に尋ねた。「彼は地球人だよ」春哉は地球儀の上の湖を差す。「帝都は黒海の辺り。そしてこれが帝国の版図」ユーラシア、ヨーロッパ、アフリカ、インド、アジア。地球儀が回る。その超巨大帝国の支配者は現在水飴に苦戦していた。

【春 / 水飴 / 湖】


 「でも、そんな帝国、ないでしょう?」「僕たちのいる世界じゃないんだよ」水飴を諦めた皇帝は、クレープ紙に包まれた花びらみたいな焼き菓子を食べ始めた。「タイムマシンで未来から来たとか?」「彼は天文に詳しい。蝕の時期や惑星の位置からいって、現代だとしか思えないんだ」

【花びら / タイムマシン / クレープ】


 「昔見た映画にパラレルワールドって出てきたよね?」皇帝の世界には魔法だとしか思えない不思議な技術が存在する。春哉の話を聞きながらも私の心は過去の思い出へと彷徨い出した。彼とはこうやって夜更けまで言葉を交わしたものだ。皇帝がずるんとホットチョコレートをすすった。

【ホットチョコレート / 言葉 / 夜】


 皇帝は突如乱入した教皇の兵に捕らえられたのだという。彼は純真だ。猜疑心も持たず、貪欲でもない。あれほどの巨大帝国を治めていたとは信じがたかった。無能さ故に追放されたってことはないよね?「そろそろ帰らなきゃ。今度は天体望遠鏡を持ってくるよ」春哉が立ち上がる。

【猜疑心 / 天体 / 貪欲ケムダー


 これからも相談に乗ってくれると言う春哉に、皇帝はあんみつを食べ食べ礼を言った。常に冷静な彼が協力してくれると聞いて、肩の荷が下りた気がする。春哉は玄関の棚のオルゴールに目を留めた。彼からの誕生日祝い。未練がましいと思いながらも捨てられなかった思い出の品だ。

【あんみつ / オルゴール / 冷静】


 蓋を開ければ優しい音楽が流れ出す。春哉は私の顔を見て微笑んだ。シャツの袖に柘榴色の石が光る。私があげたカフスボタン、まだ使ってくれてたんだ。あなたも捨てられなかったの? そんなはずないよね。今はあの子がいるんだから。「明日また会社でね」そう言って彼は帰った。

【柘榴 / 音楽 / カフスボタン】


 窓の月にかかる雲を眺めていた皇帝が言った。「ショウコはあの者が忘れられないのじゃな」初めて彼に名前を呼ばれて顔を上げる。今も春哉が好きだ。彼とはくだらない喧嘩で別れてしまった。未だに煙草の臭いがすると切ない気持ちになる。あの子のためにやめたって聞いたけど。

【雲 / 煙草 / 切ない】


 自分で寝支度をした皇帝は、押入れの中でウサギの人形を抱えている。なんだかかわいい。「何がそんなにおかしいのじゃ?」棘のある言い方だ。「不機嫌だね」「余は慈悲深き皇帝であるぞ。機嫌など損ねたりはせんのじゃ」扉が閉まる。その晩、押入れから祈りの歌声は聴こえなかった。

【聴く / 棘 / 慈悲ケセド


 翌朝、押入れの戸は閉じられたままだった。今日は会社は休めないので無理やり起こす。皇帝は朝食にも無感動な目を向けるだけ。ホームシックかな? 私が支度をする間も怠惰な姿勢で壁にもたれ、窓から空を眺めている。くれぐれも外にだけは出ないように釘を刺し、私は家を出た。

【怠惰 / 空 / 無感動アディシェス


 昼休み前に春哉からメール。昼食に付き合えという。高鳴る胸を抑えて彼の部署に行くと、彼は仕事用の眼鏡を外して立ち上がった。彼の同僚が驚いた顔でこっちを見ている。二人で近所の洋食屋に向かった。アップルパイがおいしい店だ。皇帝はちゃんとお昼ご飯を食べているだろうか。

【胸 / アップルパイ / 眼鏡】


 席に着くなり春哉は皇帝の話を始めた。そんな事だろうと思ったけど。皇帝の世界について色々仮説を立てたようだ。付き合ってた頃もよく今と同じ顔をしてた。天体観測に行けば、朝方空が白むまで星の形成だとか宇宙の歴史について語ってくれたものだ。つい昔を懐かしんでしまう。

【懐かしむ / 朝 / 形成イェツィラー


 私は春哉に皇帝が落ち込んでいる事を話した。そうだ、お土産にお菓子を買って帰ろう。カラフルなゼリービーンズを見たら元気も出るでしょう。家にこもってちゃ気が滅入るもんね。明日は朝陽の昇る前に起きて長い散歩に連れ出そう。週末には映画に行こうかな。彼の驚く顔が見たい。

【朝陽 / 映画 / ゼリービーンズ】


 気づいたら春哉が目を丸くして私を見ていた。私、おかしなこと言った? 慌ててミルクティーを飲み干し、メニューを読むフリをする。春哉がくすっと笑った。「招子は楽しそうだね」ええ? 表の鳥籠で文鳥がさえずっている。だってほら、皇帝ってペットみたいでしょ? だから……。

【ミルク / 鳥籠 / 読む】


 夕方、アパートに戻ると皇帝の姿が見当たらない。慌てて探せばベランダに立って表の楓の木を眺めていた。ウサギの人形を抱いて、幻みたいにはかなく見える。「フーカー?」ゆっくりと彼が振り返った。「呼び捨てはやめろと言ったじゃろう」彼の笑顔はなんだか寂しそうだ。

【幻 / 人形 / 楓】


 散歩に行かぬかと誘われ、夕闇の中、外に出る。夕立で濡れた土の匂いが漂い、空には緑がかった大きな月がランプのように浮かんでいた。皇帝が振り返った。「もう少ししたら、一人で暮らそうと思うのじゃ」ええ? そんな限りなく不可能に近いことを言い出されても困るんだけど。

【土 / ランプ / 緑】


 「不満があるんだったら言ってくれたらいいのに」皇帝が苦笑した。「余もそこまで野暮ではないのじゃ」そうか、私たちに気を使ってるんだ。「春哉とはなんでもないよ」「じゃが、忘れられぬのじゃろう?」帽子からはみ出したベルベットのような耳にふわりとカゲロウがとまった。

【蜻蛉 / ベルベット / 不満】


 「そちに男がおったと知って心穏やかではなかったが、あの者が相手なら諦めもつくのう」「フーカー?」「なんじゃ、また呼び捨てか」夕闇に彼の目が青い光を放つ。瞳の奥の銀河が光っている。それって……つまり……あなたは私を……。投函しようと持ってきた封筒を握り締めた。

【封筒 / 銀河 / 青】


 「そちとハルヤは似合いじゃ。余は邪魔者になるつもりはない」皇帝は道端の夏桔梗に目を落とした。春哉は好きだ。でも、彼には恋人がいる。それに……。その時、背後の楓並木の陰から男が現れた。手には細身の剣が握られている。そして、彼の頭の上には長い耳が揺れていた。

【楓 / 剣 / 桔梗】


 「国賊フーカーよ。生き永らえておったか」男の目が鉱石のような冷たい光を放った。「ホッピイの刺客じゃな」皇帝の声に憎しみがこもる 。男は刀を構えた。「お前が消えれば勝利は我が君の物よ」「よかろう。だが、この娘には触れるでないぞ」両腕を開き、皇帝が私の前に出た。

【憎む / 鉱石 / 勝利ネツァク


 男は奇声と共に皇帝に切りかかった。すばやく飛び退いたものの皇帝は苦痛の声をあげて手首を押さえる。切られたのだ。「フーカー!」「そちは逃げよ。もしまた会えたなら、感謝の乳枕を忘れるでないぞ」馬鹿! 男が剣を構え直した。封筒を握った手が震える。彼を助けなきゃ。

【手首 / 封筒 / 感謝】


 勝利を確信した男はゆっくりと歩く。そうだ、鍵に防犯ブザーをつけていた。ストラップを引けば、けたたましい音に男が耳を押さえてくずおれた。効果ありすぎでしょ? 落とした剣を男に突きつける。「フーカー、急いで!」だが、皇帝様も一緒に地面に転がっていたのだった。

【歩く / 鍵 / 勝利ネツァク


 すぐに春哉が来てくれて助かった。ウサギ耳の男が二人も倒れていては困ったことになっただろう。暗殺者をアパートに運び込み、手足をガムテープでぐるぐる巻きにした。彼の額には傷があり、ラピスラズリの耳飾りをしている。意識が戻った皇帝にはホットチョコレートを飲ませた。

【額 / ラピスラズリ / ホットチョコレート】


 皇帝の傷は出血の割には驚くほど浅かった。病院に連れて行かなくても済みそうだ。傷の手当をしようとしたらスプレー式の消毒薬が怖いらしく痛まないのじゃと逃げ回る。やっと捕まえて吹き付ければ飛び上がって後ろの家具に頭をぶつけた。さっきの度胸はどこに行ったんだろう?

【痛む / 家具 / 皇帝エンペラー


 暗殺者は目は覚ましたものの、放心状態だ。腕には教皇に仕える者の印だという薔薇の刺青が入っている。「この人どうするの?」「余の命を狙わぬのであれば、見逃してやってもよいのだがのう」ちょっと待ってよ。殺されるところだったんだよ。慈悲深いのを通り越して甘すぎる。

【放心 / 薔薇 / 慈悲ケセド

 

 春哉がささやいた。「このまま逃がすと危険だ。懐柔策を見つけなきゃ」私は男にお菓子のお皿を差し出してみた。「食べる?」「いらぬ」あっさりと拒絶される。「やっぱり皇帝とは違うよね」皇帝は憤然として鳥の羽根みたいな耳をぷるぷるさせた。「余はそんなにいやしくないのじゃ」

【食べる / 羽根 / 拒絶シェリダー


 「もう皇帝を狙わないって約束してくれない?」男が私をねめつけた。「それはできぬ。教皇様のためならこの命捨てても後悔せぬわ」それじゃ、仕方ない。私はMP3プレーヤーのイヤホンを男のウサギ耳にねじ込んだ。あれ、この人、金木犀の香りがする。皇帝が不安げに私を見た。

【後悔 / 金木犀 / 教皇ハイエロファント


 「ショウコよ、何をする気じゃ?」「拷問」「なんじゃと?」男の鷲のように鋭い眼差しにも不安の色が混じり、赤いフェルトのマントの下で肩がこわばった。音量を絞り、なるべく激しそうな曲を探す。春哉も驚いた顔で見てるけど、こうなったらやるしかない。再生ボタンを押した。

【鷲 / マント / 赤】


 黄色いLEDが点滅し、男が呻いた。「頭の中に魔物の声が。お前は術師か?」私は冷静を装って紅茶を一口飲んだ。「皇帝を傷つけないって約束するんだったら術を解いてあげてもいいわ。さもなきゃ一生このままよ」男は金色の瞳で私を睨み付ける。「私は我が君に忠誠をちかったのだ」

【紅茶 / 金 / 黄】


 私はプレーヤーの音量をあげた。恨むならホッピイを恨んでよね。パール・ジャムじゃ刺激が足りないみたい。曲目リストからデスメタルを選ぶ。私の趣味じゃないからね。男は目をつぶって耐えている。彼は小柄で俊敏そうだ。有能な殺し屋って感じ。隙を見せればこちらがやられる。

【恨む / ジャム / 死神デス


 私は机の上に座って足を組んだ。こうなったら根競べだ。まだ若く見えるのに彼の耳は古傷だらけ。柊の葉のようにギザギザだ。少し怖がらせれば降参すると思ったのに考えが甘かった。気持ちに焦りが出てきたその時、ちゃぶ台の上でエナメルのポットがかたんと音を立てた。

【柊 / 机 / エナメル】


 見ると皇帝がちゃぶ台に両手をついている。鼻梁を伝ってぽたぽたと落ちる涙が皿の上のビスケットを濡らしていた。「ショウコよ。このような恐ろしい真似はやめるのじゃ。お願いじゃ」誰のためだと思ってるの? これじゃ私が悪者じゃないの。皇帝の涙は香水のような香りがした。

【鼻梁 / 香水 / ビスケット】


 唐突に男が言った。「申し訳ございませぬ」ええ? 私は慌ててプレーヤーを止めた。無感動だった彼の顔に浮かぶのは驚きと感謝の念。「陛下は冷酷無残な人物だと聞いておりましたが誤りであったようでございます」私は彼の指輪に気づいた。どこかで見た緑色の石がはまっている。

【感謝 / 指輪 / 無感動アディシェス


 防犯ブザーもあることだし彼の腕だけほどいてやった。「そちの名は?」「ポンパーと申します」「まあこれでも食べよ」渡されたシュークリームを一口食べて彼の耳がぴょこりと動いた。緊張が解けたせいか窓からの夜風が心地よい。「その入れ墨、教皇に深き忠誠を誓った者じゃな」

【夜 / シュークリーム / 入れ墨】


 「余はここで隠者として暮らすつもりじゃが、そちは余に恨みがあるようじゃの」「陛下は私から妹を奪いました」「なんの話じゃ?」「町に兵が来て、皇帝に献上するのだと美しい娘達を……」皇帝は彼の足輪に目をやった。「そちはポムポムの者じゃの?」「はい」それは地名ですか?

【恨む / 足輪 / 隠者ハーミット


 「そちの妹じゃが、あの王国の者であれば乳は小ぶりであろうの」「はい」「見よ。余はこのような豊満な乳が好みなのじゃ」皇帝は口についたクリームを舐めながら、私の胸を指差した。「ほほう、これは見事でございますな」ポンパーの蜂蜜色の目がまん丸になる。ちょっと、やめてよね。

【舐める / 蜂蜜 / 王国マルクト


 「それに献上させねばならぬほど、女に困ってはおらぬしのう」ポンパーが砂色の髪を揺らしてうなずいた。「私には陛下が嘘をついているとは思えませぬ」さすがは皇帝陛下、女には困ってない、か。自分一人じゃ何もできないくせにさ。私はシュークリームを丸ごと口に押し込んだ。

【シュークリーム / 砂 / 嘘】


 「もしそれがまことだとしても、余が失脚した今、そちの妹は解放されておるはずではないかの?」ポンパーの顔に困惑が浮かぶ。「確かにそうでございますな。では妹はいずこに?」彼の口元には砂糖の結晶が光っている。髪には倒れたときの土がついたまま。お風呂に入れてしまいたい。

【土 / 結晶 / 困惑】


 「言いにくいのじゃがホッピイが怪しいのう。奴は乳の小振りな娘を好むのじゃ」憂鬱げに皇帝が言った。「我が君がそのような真似をするはずがありませぬ」「余を信ぜずともかまわぬ。あちらの世界に戻ったらそちが己の目で確かめるがよいぞ」ポンパーの肩が小鳥のように震えた。

【憂鬱 / 鳥 / 世界ワールド


 「そちはどうやって余を見つけたのじゃ?」「月明かりを頼りに石に導かれるまま歩いて参りました」ポンパーは緑の石のはまった指輪を皇帝に手渡した。「なんと『皇帝の証』の対の石じゃな?」そうか、私がもらった石に似てるんだ。石同士が磁石のように引き付け合うのだという。

【歩く /磁石 / ムーン


 「遠い昔に失われたと思っておったが」「我が君が持っておりました」「ホッピイめ、隠しておったな」皇帝が憎々しげにつぶやく。「君はあっちの世界にどうやって戻るの?」春哉が尋ねた。夜風に風鈴が鳴る。ジャムパンをかじる皇帝の目に切なげな光が浮かぶのを私は見逃さなかった。

【ジャム / 風鈴 / 切ない】


 「今日から三日後の正午、ある場所で『門』が開くことになっております」緊張が解けた今、ポンパーの顔は別人のように穏やかだ。マシュマロをもぐもぐ頬張っている。お腹がすいていたみたい。「世界と世界を繋ぐ『門』だね? どうしたら『門』が開くの?」春哉は好奇心満々だ。

【緊張 / マシュマロ / 世界ワールド


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