1話 ~ 50話
三年ぶりの海を泳いていると水面からウサギの耳のような物体が突き出ているのに気づいた。すぐ下で影がゆらりと動く。人だ、男の人が溺れているんだ。私は夢中で男の身体を浜へと引きずり上げた。男はサファイア色の瞳を開き、私を見つめると「よい乳じゃ」とつぶやいて気を失った。
【耳 / サファイア / 海】
男はひとまず海の家へと運び込まれた。ド派手な孔雀色のローブを脱がせくすぐってみたが目を覚まさない。姉ちゃん、人工呼吸してやんなって、こんなコスプレイヤー、私の彼氏じゃありません。焦って蹴飛ばしたらやっと目を開けた。「ここはいずこの国じゃ?」記憶、ないんですか?
【雀 / 記憶 / くすぐる】
おばちゃんのくれた焼きもろこしとイカを平らげ、私のクッキーを齧りながら、男は売店の絵葉書を眺めてぶつぶつ言っている。頭がおかしいんだろうか。パレットみたいな彩りの首飾りは高価そうだ。濡れた黒髪から突き出した長い耳には、その場の誰もが気づかないフリをしていた。
【クッキー / 絵葉書 / パレット】
海の家のおばちゃんは、鼻歌ふんふん、店じまい。ねえちゃんが警察に連れてってやんなと、残酷にもシャッターを下ろす。この件には関わりたくないのだ。外はもう薄暗い。ああ、私の三年ぶりの海を返して。「今宵の寝所に案内せよ」 悩む私に向かい、男が尊大な口調でのたまった。
【悩む / 歌 / 残酷】
「夕食はまだか?」街並みを眺めるのにも飽きたのか男が尋ねた。たしか駅前に交番があったはず。さっさとこいつを置いてこよう。「それ、もう取りなさいよ」私がウサギ耳をひっぱると男は絶叫した。「悪魔のごときおなごじゃのう」涙声で私を睨む。警察は……まずいかもしれない。
【飽きる / 夕 / 悪魔】
結局アパートまで連れてきてしまった。「質素な家具じゃのう。そうか、修行中か」イミフだが腹が立つ。「あなたは誰なの? 宇宙人?」思い切って聞いてみれば、彼は耳をぴんと立て胸を張った。「余は帝国の至宝、偉大なる正義の執行者と謳われた、かの皇帝フーカー八世であるぞ」
【聞く / 家具 / 正義】
自称皇帝様にはお菓子を与え、夕食の支度を始める。二人分の食事を作るのは久しぶり。残念ながらここにいるのは恋人たちではなくて、正体不明のウサギ男と独身OLだけど。そういえばこいつのせいで今日は全然泳げなかったじゃないの。「余は竜の肝を所望じゃ」 ああ、ムカつく!
【泳ぐ / お菓子 / 恋人たち】
竜の肝はないから鶏肝の煮つけを出した。「余の勇気が試される時が来たようじゃ」そんなに嫌なら食べないで。食卓の席で尋問を始める。「なんで皇帝がここにいるの?」「星の導きじゃ」そう言って硝子ビンの醤油をぺろりと舐めた彼は満面の笑みを浮かべた。「鳳凰の血じゃな」違う!
【勇気 / 硝子ビン / 星】
「星の導き?」「この地に来たのは余のさだめだと言うことじゃ」次に梅干を口に入れた皇帝は、見る間に言葉では表現しがたい顔になった。「それ、梅干よ」おかしなことを言い出す前に説明する。「なんじゃと? 一粒で千年の寿命を得るという幻の仙果じゃと?」言うんじゃなかった。
【見る / 梅 / 表現】
「余は千年も生きたくないのう」突如彼の目からこぼれた涙に、慌ててスーパーの梅干に効用はないのだと言って聞かせる。実は気の毒な身の上なのかも知れない。紅茶の入ったティーカップを手渡すと少し元気になったようだ。「結構な夕食であった。湯の支度をせよ」同情して損したよ。
【夕 / ティーカップ / こぼす】
「梅干の種を持ち帰ってもよいか?」ねだるように彼が言う。「いつ帰るの?」と聞けば、また物憂げに窓の月へと目をやった。「あそこから来たのね?」ウサギだし。「そんなはずがあるまい。月には大気も無く、昼夜の気温差が二百度以上あるのじゃぞ」何よ、その馬鹿にした目は?
【ねだる / 種 / 月】
もう夜も遅い。潮臭い皇帝を風呂に入れてしまおうとアコーディオンカーテンの向こうの脱衣所に押し込んだ。「おい」と呼ばれて中を覗いたら、ひい、全裸じゃないの。それに……尻尾が生えてやしませんか? 「おお、見事じゃろう」と彼が尻を振ってみせる。私のマフラーにそっくり。
【尾 / アコーディオン / マフラー】
「背を流せ」と言うので湯船に蹴り込んでドアを閉めた。この傲慢な男はこの世界の生き物ではない……と思う。だって学校では習わなかったし。悲鳴がするので覗いたら口から泡を吹いていた。石鹸をラムネ菓子かなにかだと思ったようだ。何でこんなの持って帰ってきたんだろう?
【傲慢 / ラムネ菓子 / 世界】
皇帝の磯臭い衣服を調べてみる。微かに沈丁花の香りもするが彼の秘密に繋がりそうなものは見つからない。突如、彼が素っ裸で風呂場から飛び出てきた。「そちに伽を申し付けるぞ。器量は今一つじゃが、乳が大きいので合格とする」ずっと劣等感を抱いてたことをずばりと言いやがった。
【沈丁花 / 秘密 / 劣等感】
どこの天体から来たんだか知らないが、これ以上の狼藉は許せない。皇帝の鼻先にフェイクファーのマフラーを突きつけてやった。「私に触ったら、あんたの尻尾もこうなるからね」彼の耳がぴくぴくと震える。「こ、今宵は一人で眠るのも悪くはないかのう」わたし残酷ですわよ。
【眠る / 天体 / 残酷】
皇帝は壁際でぶつぶついじけている。「憎むべきは教皇ホッピイであるぞ」む、新情報。裸じゃ困るのでマシュマロで釣って男物のTシャツを着せた。風呂に入ってさっぱりしてみれば意外にイケメンだ。「そちの乳もこの菓子のように柔らかいのじゃろうなあ」しゃべると台無しだけど。
【憎む / マシュマロ / 教皇】
ズボンはないので彼の腰にパレオを巻いた。尻尾は丸見えだが前が隠れたからよしとしよう。肩まである髪を乾かし、藤色のシュシュでまとめたらいい感じ。ドレスシャツなんて着せたら似合うかも。「貧しい暮らしなのに世話をかけるのう」感謝されて腹が立つってどういうことよ?
【藤 / ドレス / シュシュ】
押入れの上段を空にして予備の布団を敷く。「高貴な客人はここでお休みくださいね」「だが蒸し暑いのじゃ」アイスクリームを渡すと静かになったが、またすぐにぶつぶつ不満を言う。「眠れぬようでしたら、未来永劫目を覚まさない秘術もございますが」引き戸がぴしゃりと閉まった。
【不満 / アイスクリーム / 永劫】
灯りを消して布団に入った。夜中過ぎ、祈りのような声に目を覚ます。傷ついたレコードみたいに繰り返されるフレーズに「どうしたの?」と引き戸を開ければ、いきなり抱きしめられた。「余を一人にせんでくれ。王国でもなんでもくれてやる」皇帝様は子供みたいに泣いていた。
【抱きしめる / レコード / 王国】
温かいミルクを飲ませ、やむを得ず膝枕で寝かしつけた。皇帝と言えば峻厳なるご老体ってイメージなのに、この人はせいぜい三十ぐらいかな。見つかれば騒ぎになると思って連れてきてしまったが、どうすればいいんだろう? 捕まれば解剖されちゃうかも。悩み出したら眠れやしない。
【悩む / ミルク / 峻厳】
気がつけば朝。皇帝の頭を膝に載せたまま眠っていた。押入れの壁に不安定な姿勢でもたれていたので身体が痛い。彼の寝顔は無防備だ。柔らかな耳に触れるとぴこぴこ動いた。この人は元来た場所に返すしかないだろう。とりあえず目を覚ましたらキャラメルでも与えて慰めるか。
【眠る / キャラメル / 不安定】
そっと押入れから抜け出して部屋のカーテンを開けた。天気雨が降っている。紅茶を飲みながら朝食の支度を始めたら皇帝陛下が起きてきた。耳は折れ曲がり、黒い髪は寝癖でくしゃくしゃだ。「昨夜はご苦労であった。だが余は膝枕よりも乳枕が好みなのじゃぞ」えんえん泣いてたくせに。
【天気雨 / 黒 / 紅茶】
洗面所からの凄まじい悲鳴にマグカップを落っことしそうになる。アコーディオンカーテンを開ければ、尻尾を逆立てて硬直した皇帝の周りにメレンゲみたいな泡の塊が散乱していた。ムースの缶をいじったのか。こいつは一人では顔も洗えないらしい。早くどうするか決めてしまわなきゃ。
【メレンゲ / アコーディオン / マグカップ】
食卓をはさんで質問する。「ホッピイって人に追い出されたの?」「どうしてその名を……さては教皇の手の者か?」自分がそう言ったんでしょ?「奴は裏切りおったのだ。余を欺き、我が帝国より追放しおった」サファイア色の瞳が翳り、彼は切ない吐息を漏らす。星の導きって嘘かよ?
【切ない / サファイア / 教皇】
つまりクーデターってこと? 「それじゃ、戻ったら……」「余は処刑されるであろうの」第一『門』を開く術師がいないと帝国に帰ることすら出来ないそうだ。これから、どうすんのよ? 「おのれ、教皇め」彼の顔に嫌悪の色が浮かび、モヘアの毛糸玉のような尻尾がぴょこんと跳ねた。
【嫌悪 / 毛糸玉 / 教皇】
「この地で亡命生活を送ることになりそうじゃ。領主の下へ案内せよ」それは駄目だ、ウサギ耳だとバレたら鋏でちょん切られるのだと告げると、彼は震え上がった。「なんと、ここは悪名高き猿耳人の国か。ホッピイめ。飽くことなく私欲を満たし、果ては慈悲の心まで失いおったか」
【飽きる / 鋏 / 慈悲】
「過去の栄光を悼んでも仕方のないことじゃな」キャラメルを頬張りながら皇帝が言う。諦めが早過ぎやしませんか?「ここでそちの世話になるしかないようじゃ」結局そうなるわけ? どうして私は昨日海になど行ってしまったのだろう? 「星の導きじゃ」って、それはもういいわ。
【悼む / キャラメル / 栄光】
幸い今日は日曜だが、明日からは仕事だ。果たして皇帝に留守番ができるのだろうか。考えるほど焦燥感が増す。飴をなめながら窓の外を見ていた皇帝が大声を上げた。「なんと見事な戦車じゃ!」見ればランドローバーが走っている。社会勉強に連れ出すか。服も買ってやらなくちゃ。
【焦燥 / 飴 / 戦車】
ふと思い出して引き出しを開ければ、男物のジャージの上下が出てきた。このままだと窮屈なので尻尾用の穴を開け、ほつれないように縫ってやる。腰に上着を巻けば尻尾は隠せるだろう。「彫刻のごとき肉体じゃろうが」飴をなめなめ皇帝がポーズを取る。着替えぐらい自分でしろよな。
【飴 / 彫刻 / 縫う】
最後は耳だ。方位磁石の針のようにくるくる逃げ回る二つの耳をニット帽に押し込んだ。「痛いのじゃ。我が美しき耳にしわが寄ったらどうする?」「隠さなきゃ怪しまれるでしょう?」「だが蒸れるのじゃ。聞こえないのじゃ」「なら、ちょん切られてもいいのね?」急に静かになった。
【怪しむ / 磁石 / 美】
帽子からはみ出た髪を櫛でとかして出来上がり。さあ外出だ。まずはここで暮らすための知識を身につけてもらわなきゃ。道行く人々が皇帝を振り返る。やっぱりこの人、見た目だけは格好いい。女の子達の視線にちょっぴり優越感を覚える。「おお、今の娘の乳を見たか?」見てないよ。
【優越感 / 櫛 / 知識】
真夏の太陽は容赦なく照りつける。男を誘惑するのが目的だとしか思えない露出度高めな少女達とすれ違った。皇帝様には目の毒だな。耳が暑いと騒ぐのでまずは冷房の効いたショッピングセンターに連れて行くことにする。ぐったりしていた皇帝も様々な店舗が並ぶのを見て瞳を輝かせた。
【夏 / 毒 / 誘惑】
皇帝はカメラ屋の店先の天体望遠鏡に夢中になった。「これほど精巧なモノは見たことがないのじゃ」どうしても離れようとしないので、食べ物をエサに引き剥がす。店で一番大きなパフェを注文すれば、ぺろりと平らげた後に口直しじゃと角砂糖を口に入れた。見ているだけで胸が焼ける。
【角砂糖 / パフェ / 天体】
次は皇帝の服を買いに行く。「これがいいのじゃ」と握り締めているのは、蜂みたいなボーダー柄のシャツとオパール色に輝くフェイクレザーのボトム。だから目立つのは駄目だって言ってるでしょう? ってか、それ、スカートだしさ。よし、無難にユニ●ロに行こうか。
【蜂 / オパール / スカート】
洋服とお菓子を仕入れた後、この近辺を見せておこうと、彼を駅前ビルの屋上に連れて行った。最初は怖がった皇帝も、高さに慣れてくるとはしゃぎ出した。眼下に広がる街が箱庭のようじゃと、鼻をひこひこさせて風の匂いを嗅ぐ。べっこう飴の袋を握り締め、夏の暑さも忘れたようだ。
【べっこう飴 / 箱庭 / 嗅ぐ】
隅に置かれた鉢植えの朝顔がしぼんでいる。午後も遅いしそろそろ帰ろう。「皇帝」と声をかければ、近くの恋人たちがくすくす笑った。くっそー。「フーカー、帰るよ」飼い犬みたいだが、これならニックネームに聞こえるでしょ?「余を呼び捨てにしおるか」皇帝様は不満そうだけど。
【不満 / 朝顔 / 恋人たち】
皇帝はUFOキャッチャーの中のウサギの人形を見つめている。「あれは何じゃ? 余と似た耳をしておるのじゃ」この人、ウサギを知らないの? すごく欲しそうなので学生時代に鍛えた腕で取ってやることにする。クレーンの腕が人形を捕まえると彼は歓声をあげた。見たか、皇帝。
【腕 / 人形 / 捕まえる】
帰り道、彼がショーウインドウの前で立ち止まった。飾られているのは、純白のクレマチスをあしらったウェディングドレス。「質素な服しかないのかと思っておったぞ」皇帝は大喜び。「そちに着せてみたいのう」不覚にもドキリとする。「さぞ、乳が映えるじゃろうに」そっちかよ。
【ドレス / クレマチス / 喜ぶ】
教育の甲斐もあってか、今夜は一人で入浴も着替えも出来た。愚者は経験に学び、って言うしね。期待に満ちた目を向ける皇帝を押入れに押し込み、時計を見上げる。明日は仕事、休んじゃおうかなあ。どうせあの会社は辞めるつもりだったから……。今夜もあまり眠れそうにない。
【眠る / 時計 / 愚者
今夜も壊れたレコードみたいな声が。押入れを開けば「この世に正義などないのか」と皇帝が這い出て来た。私も全くの同意見です。膝枕は辛いから添い寝してやるか。でももし私に触ったら……私は彼の片耳を捻り上げた。「ぎゃっ! ち、乳枕だけでいいのじゃ」もう片方もぎゅううっ。
【這う / レコード / 正義】
手を握ってやると皇帝はすぐに寝息を立て始めた。護身用に枕元に重い花瓶を用意したが、必要はなさそうだ。すっかり安心しきった様子で、巨乳美女の幻でも見ているのか笑みまで浮かべている。翌朝、彼は私よりも先に起きていた。勝手に戸棚を開けてクッキーをもぐもぐ食べている。
【幻 / 花瓶 / クッキー】
皇帝は地球儀の脇に置かれた写真に目を留めた。「この吊るされた男は誰じゃ?」「昔の彼氏」「公開処刑されたのじゃな」いえ、バンジージャンプの写真です。「皇帝に仕える者は生娘でなくてはならぬのじゃぞ」彼の声に苛立ちが混じる。別に仕えたくて仕えてるわけじゃないんだけど。
【苛立つ / 地球儀 / 吊るされた男】
昨日の外出で皇帝はずいぶん日に焼けていた。今日は麦藁帽子を買ってやるか。ニット帽だと耳がもこもこ動いて怪しまれそうだしね。「吊るされた男などなぜ飾るのじゃ? 不吉ではないか」写真が気になるようなので引き出しにしまった。どうせ片付けようと思ってたところだし。
【怪しむ / 麦藁帽子 / 吊るされた男】
皇帝に新しい服を着せたら格好良くなりすぎた。地味な服を選んだのになあ。今日は電車に乗せてやろうと駅まで歩く。彼は切符の販売機には大興奮したが改札機は怖いらしく通るまでに数分を要した。おいしいモンブランが食べたくなって、学生時代の記憶を頼りに小さな喫茶店を探した。
【モンブラン / 切符 / 記憶】
「この世界はよいところじゃの」彼はフォークの先で感触を確かめるようにモンブランをつつく。「だが人々はモノを所有することに夢中になり過ぎておる。我が帝国もホッピイの手にかかればいずれは物質主義に侵されてしまうのであろうな」苛立ちを隠せぬように帽子の下の耳が動いた。
【苛立つ / 感触 / 物質主義】
窓辺でレースのカーテンが揺れる。「あやつは余を亡き者にすべくここへ送り込みおった。余は命があることを喜ぶべきなのじゃ。ここで隠者として余生を送るのも悪くはない」こいつはうちで余生を送る気か?「でも、家族もいたんでしょう?」奥さんも、と聞きかけてなんとなくやめた。
【喜ぶ / レース / 隠者】
「老いた父母や忠臣たちは捕らえられてしもうた。彼らの身を案ずる時、余は泣きたくなるのじゃ」なるほど、それは心配だろう。「本当は国に戻りたいんだね?」「だが、余には世界と世界を繋ぐことはできぬ。その知識は術者だけに受け継がれておるのじゃ」帽子の下で耳が震えた。
【泣く / 帽子 / 知識】
皇帝は次に現れた巨大なアイスクリームサンデーの基礎をスプーンで崩し始めた。甘いモノを見ると挑まずにはいられないらしい。当分は私が面倒をみるしかないようだ。今、仕事を辞めるのはまずいな。滅多に見かけないとはいえ、あの人と同じビルで働くのは気が進まないのだけど。
【挑む / スプーン / 基礎】
方々を歩き回り、夕食も済ませてようやく帰宅。足が痛い。ハイヒールなんて履くんじゃなかったよ。皇帝の見栄えがよくなったので、合わせなくちゃとお洒落してしまったのだ。アパートの前で彼は夜空を見上げ、星を指でなぞった。「夏の逆立ち大ナマコが見えるのう」それって星座?
【指 / 星座 / ハイヒール】
帰宅しても皇帝はお菓子を食べている。耳の付け根に小さな宝石がはめ込まれているのに気づいた。「この耳飾りは皇帝の証なのじゃ」彼は石をはずすと私に差し出した。「そちにやろう」「そんな大切なモノ、もらえないって」「過去の栄光はもういらぬ」笑顔が妙にすがすがしくないか?
【食べる / 耳飾り / 栄光】