第1話 Extra Fantasy③ 千あれど頭ひとつ
ここは黒鉄砂城と呼ばれているフィールドダンジョン。
嘗ての時代―――狂骨戦士と戦いを経験した奴の手記通り、肉と血を啜って黒くなった〔黒鉄砂〕の砂丘が広がる死の砂漠地帯。砂丘を越えた先には、岩肌剥き出しの断崖絶壁が特徴的な峡谷がある。その峡谷に近付くにつれて、〔黒鉄砂〕の色は白い砂粒〔白銀砂〕に変わっていく。
これはここまで辿り着いた者が多くいないことを指している。
峡谷のそれぞれの谷間には道筋ができている。城主が産み落とした怪物たちが通り抜けていく道だ。この獣道ならぬ魔物道を抜けるか、激しい峡谷の岩肌を登って頂上から向かうかは、プレイヤーの選択次第になる。進む先には真っ白な砂丘で待つ黒鉄砂城の主が待ち構えていると言う。
主の名は〝骸王〟。
スカルリベンジャーの上半身だけを巨大化させた難攻不落の要塞並みの防御と圧倒的な攻撃力を備え持つ白い巨城のように佇む。目測での全長は、凡そビル換算で10階建てに相当する高さ。背骨が途中で途切れ腸骨・恥骨・坐骨を含めた寛骨とそれより下の下半身はない。キャンバスに埋もれている訳ではない。元来より下半身が存在しないらしい。肘を曲げ巨大な両腕を交差させ、自身を覆い隠すような繭でいる形態。胸部の内側の臓器を守る為の肋骨だが、肉はなく血も通ってない怪物に内臓はない。但し、心臓部位には大層ご立派な〔魔石〕が瘴気を放っている。
魔石とは、魔物の心臓部。弱点であり、オレ達にとって収入源に成り得る素材だ。
魔物の等級や内包した経験値で大きさや色が異なる。ヴェルデ・ギガントの場合、本体が直接倒していなくとも子供たちが侵入者を倒した経験値のすべてが丸っと取り込んでいるっぽい。<ゴールドスター>が倒したスカルリベンジャーは、商人やその護衛を倒したにも関わらず〔魔石〕が転がっていなかったし、どういう仕組みか理解できないがそう捉えた方が良さそうだ。通常の〔魔石〕は緑色をした結晶の欠片で子供の掌に収まるほどに小さいものだが、ヴェルデ・ギガントの〔魔石〕は目に見えて巨大で色も異なる。ビル換算で一階半か二階クラスの大きさ。紫紺色の〔魔石〕ともなれば、価値もそうだがオレ達の想像を遥かに凌駕する数の侵入者を屠ってきたのだろうことがわかる。
あれだけ巨大だと、どうぞ狙ってください。と謂わんばかりだ。
―――が紫紺色の〔魔石〕から放たれる瘴気が行く手を阻む。近付くだけで複数の状態異常がランダムで発症させられる。爆発物付きの弓矢や超遠距離からのライフル狙撃で壊すのもひとつの手としてない訳じゃないが、そう易々と〔魔石〕を破壊できはしない。何故なら奴らがまだそこに居るからだ。
狂骨騎士。
スカルリベンジャーの容姿に酷似しているが、それぞれが異なる武器を持った精鋭たちが守護している。4体のそれぞれが肋骨の内側と足元であの〔魔石〕を守っている。スカルナイトの強度と力は、スカルリベンジャーの凡そ2倍にもなるらしい。スカルリベンジャーは、理性の欠片もない衝動的な行動をする一方でスカルナイトたちは手段を考え連携を繰り出す知性を兼ね備えた強敵。警戒心も並外れ外敵を見つれば、反射的に危険信号をヴェルデ・ギガントに伝える。直ぐにウェーブに至る群れを産み落としては来ないものの、手こずった先で20数体規模のスカルリベンジャーとの連戦は正直キツイ。
最悪な結果を生んでしまうことだってある。
実際に今回の〝骸王〟討伐依頼を請け負ったのは、王国戦士団の一団が壊滅してしまったからだ。スカルナイト2体を討ちはしたらしいが、溢れるウェーブに押し負けたらしい。激しい戦いだったのだろう。所々に遮蔽物に成り得る尖った岩場?にここからでも目視できるほど大きな血痕が残っているのが見える。あのキャンバスにも戦士団の剣や盾が無残に遺っている。
「なあ、ユナイト。一個良いか?」
装備を整えて今にも飛び出しそうなユウマだったが、傍に立つ魔法使いに問うた。
ユナイトは、〔魔導士のとんがり帽子〕が強風に飛ばされないよう淵を摘まんで返答する。
「何でしょう?」
「なんで戦士団の剣や盾だけが遺ってるんだ?」
え?と一瞬硬直した。
どうして今更そんなことを訊くのか、分からなかったからだ。確かに疑問に思うところはあった。倒されれば問答無用でスカルリベンジャーがキャンバスを赤黒く染める。それなのにキャンバスが白いままなのはおかしい。〔白銀砂〕に埋もれた?なくはない話ですが・・・とユナイトは、妙な不自然さを覚えて考え込む。
戦士団の生き残りは二桁もいない。と聞いています。
そんな彼等では遺体回収は困難でしょう。後から≪遺体回収人≫を雇って回収させた?それも無理でしょうね。戦士団が敵わなかった怪物相手にどれだけ大金を積んでも彼らが動くことはないでしょうし。それなら一体誰が回収したのか。疑問が深まる一方だったが・・・。
「ああ、なるほどな。」
ユウマは何かを見つけたようで、そう言って片方の口角を上げて笑った。
何を見つけたのかとユナイトは、ユウマが見ていた方向に目を向けるが、あるのは変わらぬ景色。〔白銀砂〕に埋もれる王国騎士団の剣や盾が散乱し、所々に小中大の岩山がランダムに配置されている。大きな変化は見る限り、この盆地の端っこ。僕達が居る場所とは反対側にいるヴェルデ・ギガントが肘を下して凶悪なツラを露わにしたぐらいなもの。
「オレが今から教えてやるよ!」
ユウマは、スキルを駆使して断崖を下りていく。
あれは足場なのか疑問に思うほど崩れれば一巻の終わりに成り得る極小の足場。そこへ降りる度にふわりと首飾りの銀のチェーンが浮くのが見えた。
ユウマが繰り出したのは、≪軽戦士≫のスキル【ポイントステップ】。
予め足場に成り得る着地点を目視でチェックして歩くか飛んで正確に降り立つことができるスキル。崖から誤って落ちてしまっても緊急時に安全な足場に着地する回避技として使われることが多い。但しリキャストタイムを無視して、ぽんぽん連続で行使できるようなチートスキルではない。
スキルには、それぞれ再発動までの時間が設けられている。
【ポイントステップ】のリキャストタイムは10秒と短いようで長く特に切羽詰まった戦闘中の10秒は、地獄にも勝る。それを補うための装備があのエピック級に匹敵するという首飾り。〔半饑半渇半月の首飾り〕。半分以上飢え、半分以上喉が渇いた状態且つ〖飢餓〗〖飢渇〗になっていない状態で、空気が乾燥した環境下でのみ効果が発動する。とことんリアルさを追求した世界で、ファンタジー要素をも散りばめたゲームですから定期的に食事や水分補給をしなければ、集中力が低下し〖眩暈〗や〖昏倒〗などの状態異常が発症してしまう。
黒鉄砂城では、〔黒鉄砂〕が太陽の熱を吸収して日中においても《《最低気温》》が30℃を超えるほどの猛暑。
乏しい装備だけでは〖熱中症〗を確定で発症してしまうから、プレイヤーは常に体調や健康の管理をしなければならない。〖飢餓〗は、〖空腹〗状態から長時間食事を摂らずにいると自然発症する状態異常。特にスラム街に住む働き手がない子供から大人たちのNPCに多くが発症するありふれたもの。スタミナの低下から始まり、激しい運動をしなくとも最終的にHPが蝕まれライフが尽きしまう。プレイヤーは画面表示である程度、自身の健康状態を含んだ情報が開示・確認することができるが、〖半飢餓〗〖半飢渇〗などという状態異常は存在しないからシビアな調整が要求される。ただ効果は絶大でリキャストタイムを3分の1にするというもの。【ポイントステップ】に限っては、実質3秒ほどで再発動できることになる。
ユナイトは、手に顎を乗せて思考を加速させる。
既存のVRアクションゲームでは、命を落としたプレイヤーやNPC。耐久限界を迎えたアイテムの情報体が砕けるような演出と共に消えて無くなることが定番でしたが、このゲームでは何の理由もなく消えることはありえません。プレイヤーであれば強制復活する際、最後にベッドインした宿泊施設や仮眠をとったテントなどの更新地点に強制退去させられますが戦士団はNPCで僕達とは異なります。彼らのHPが尽きたなら必ず遺体がその場所に残ります。残った遺体はスカルリベンジャーが例の如く肉塊ならざる物にするでしょう。〔白銀砂〕が〔黒鉄砂〕に変わる筈だというのにそうはなっていない。その疑問は直ぐに解消されることになった。
キャンバスまで降り立ったユウマは、背中に装備していた武器を鞘から抜いた。
右手で掴み取ったのは、骨断ち包丁の形をした片手剣。移動中に≪剣士≫スキル【レクスチャージ】を行使しながら走り出した。
あの片手剣は、クラン専属契約を結んでいるNPCが丹精込めて打ち上げた逸品で銘は〔叢雲〕。
今まで討伐してきた魔物の種類や数で武器のステータスが向上する成長するタイプの武器。メンテナンスを怠り酸化し錆びたり、研がずに刃毀れで打撃属性が付く場合もありますが刃があるほとんどの武器は、斬撃属性の攻撃を繰り出すのが一般的。ですが〔叢雲〕はひとつの攻撃に2つの属性攻撃を同時に与えることができます。ひとつは当然の如く斬撃属性。切断に特化した攻撃属性ですが、明らかに耐久値が高く硬い魔物には不向きな部類。もうひとつは打撃属性。今回のような耐久値が高く硬い骨の怪物には有効打を与えられます。属性割合は、斬撃属性:打撃属性という二属性武器。
「さあ、戦おうぜ!」
ユウマが武器を構えるが其処にはまだ何もいない。ただユウマにはそれが居るという確信があった。
ゲームの中で探しても存在しないスキルがいくつかある。特にプレイヤーが今まで培ってきた経験や技術をどんなに磨いても手にするのはほんの一握りのそれをプレイヤースキルと呼ぶ。ユウマが身に着けたのは【【直感】】というプレイヤースキル。経験則が、胸のザワツキが、警告を告げている気がしたのだろうか。
ユナイトは自分の目を疑った。
確かにそこには何もなかった。自分の索敵魔法にも引っ掛からなかったのに、それは目に見えて動いた。強風で〔白銀砂〕が舞い上がったのではない。あれは尾。尾が・・・違う。無数の骨の足が砂をかき分けるように震わせて砂が舞ったのだ。
「憂さ晴らしの時間だ。」
ユウマはギアをひとつ上げて加速させて中ぐらいの岩山へ跳躍した。
岩山の頂点に足が着くなり岩山が深く沈んだ直後、地鳴りが聞こえた。それを予測していたかのように≪軽戦士≫スキル【ラビットジャンプ】を使って、さらに上へ跳躍した。
【ラビットジャンプ】での最高到達点はビル換算で一階分から体を捻って方向転換した。
聞こえていた地鳴りは止まり砂丘が爆発する。吹き出るように、それは姿を現した。巨大な骨の百足〝狂骨千足〟。
ユウマは、それを見つけていたのだ。
岩山は背中の一部分だったのだろう。ユナイトにとっても騎士団にとっても只の岩山であって身を隠すための遮蔽物という認識としか思わない。スカルミルパットは、地面を高速で這うような動きで頭から胴体そして尻尾へと波が伝わっていく蛇特有の動作で砂の中を泳ぎまわる。あの岩場は所謂囮だ。勝手に遮蔽物があると勘違いさせて油断させる巧みな罠。安心しきった戦士団は奴の餌食になったのだろう。
通常のムカデの大きさがは60~200mmの平たい形をしている多足生物。
漢字で「百足」と書かれることからも分かるように脚の数が多いことが特徴。その脚の数は、多い品種によっては173対もあるらしいがスカルミルパットは明らかにその10倍はあるだろう。頭部はまさにムカデに相応しい特徴的な2つの触角が伸びている。噛まれれば痛いでは済まないだろう顎肢は、真っ黒に染まっていた。肉もなければ内臓もないが、巨大で強固そうな脊椎と異様な数の肋骨を足代わりに動いている。ミルパットという言葉は確か・・・フランス語で千本足というらしい。そこから来てるから〝狂骨千足〟なのだろう。
そんな豆知識はユウマにはない。
正直現れるまでムカデ型の魔物だということさえ分からなかったし、ユナイトもデフォルトも知らない最も嫌いなワースト3に入る害虫だとは知る筈がなかった。
嫌いと苦手は全く違う言葉だ。
昆虫が好きか?と問われれば好きな方だ。園児の頃は近所の親しい幼馴染なんかとカブトムシとクワガタを土俵で対決したりというエピソードだってある。モルフォン蝶の翅色は普通に綺麗だと思うし、ヘラクレスオオカブトの角なんかは格好いいと思う。ただ、それは観賞。見る側としての意見であってオレ個人に飼育はムリだった。
蛹や幼虫の外見的エグさで生理的に受け付けないわけじゃない。
小学生の課題とはいえ飼っていたホタルが原因とは思いたくはないが、昆虫の一生はあまりにも短く産まれた折から始まる生存競争には着いていけないものがある。短命だからキライなのではない。人間や昆虫に危害を加える害虫がキライというだけであって例えば、そう蜘蛛やカメムシもキライな枠組みに入る。何処からともなく虫籠の中に現れた蜘蛛は2週間しか寿命がないホタルを幼いオレの目の前で食い殺された。目の前のその光景は当時のオレには衝撃だった。
他にも秋から冬場にかけて現れるアイツもいつの間にか其処にいる。
温かい空気を好む体質なのか部屋の蛍光灯に向かって羽音を立ててぶつかっていく様は滑稽だ。白い壁が好きなのか太陽の熱で集まったのか玄関にうじゃうじゃ群がるウザさがキライだ。何よりもヤツがカメムシが攻撃されたと反射的に放つ異常な異臭が大キライだ。
―――話を戻そう。
あれは春休みの延長上のGWの泊りがけに起こった。GWと言えば次の学年に上がり新学期が始まった学生が最初に味わう長期的な休日。本来なら友人と出掛けたり、部活動で仲間たちと汗を流したり、動画一気見やゲームクリアに奔走する奴もいるかもしれない。ただオレの場合はGW前日の放課後から山奥の道場に連日連夜泊りがけで稽古を受けていた。全部が自分の為にやっていることなので面倒くさいなんて思い浮かぶ筈もなく身を粉にして稽古に打ち込んでいたがあの日は違った。
標高が高く酸素濃度が明らかに低い山々を全力疾走で走破する『山凪』という無茶苦茶な体力づくりでオレたちは途中途中で倒れる者が続出した。当然だ。高山病になってもおかしくないくらいだが、おじいさんが処方箋を予め用意していたらしく後遺症が残らなかったのが救いか。っまあ、『山凪』が始まる前に書類書かされた時からイヤな予感はあったけどな。
そんなこんなでオレ達はぐったりしていた。
夕飯は優しめコース『山波』を走破した女性の門下生たちにお任せして、オレを含めた他に数人の門下生が畳の上に敷布団を敷いて雑魚寝していた。慣れない山道の登り降りの繰り返し。それを朝から晩まで死ぬ気の全力疾走する謂わば体力作りの段階だが、体力の限界と疲労困憊でぐっすり眠っていた。っていうのに、野郎は掛け布団の隙間を掻き分けて疲労で感覚が鈍った足をよじ登って下着の中をもぞもぞしてきやがった。
違和感を察知して起き上がるのは人間の本能であって、ムカデを攻撃するのが目的ではなかった。
しかし、ムカデは些細な刺激も攻撃されたと反射的に防衛本能が働いて噛みつく。その場所が男の魂が宿るタマでなければ寛大な心持ちで許したかもしれないが。・・・いや、やっぱ許さん。ムカデの噛みつき場所も相まって悲痛の叫びたのは言うまでもないだろう。場所が場所だ。オレは急いで下着に手をかけて脱いで患部を視認する必要があった訳で、エクスカリバーを見せつけるのが目的な変態野郎では決してない。――が結果的にオレは変態野郎に成り下がった。そりゃあさ、あれだけの奇声らしからぬ叫び声を上げたら何事かと集まってくるのが人間だもの。
つまり何が言いたいかというとオレは心底ムカデが嫌いだ。
だから奴の頭部に酷似したツラに頭の血管が切れたような感覚と共に、〖怒り〗の沸点が臨界点を超えて〖憤怒〗に変わったのは必然。その直後、予め〔叢雲〕にチャージしていた【レクスチャージ】を解放させる。〖憤怒〗の補正が入った【レクスチャージ】によって刀身が鮮やかな赤いオーラが燃えながら雷が如く轟いた。スカルミルパットの口。右側の顎肢に当たる直前に≪剣士≫スキル【兜割り】を発動させた。
「砕けろ!」
≪剣士≫スキル【兜割り】が炸裂した。
雷が直撃したようにバチバチ放電する炎と爆発的な熱が籠って、砕かれた黒い顎肢も本体も燃え広がっていく。スカルミルパットは恐怖したのか怯みながら絶叫するも、透かさずユウマは左側の顎肢へ攻撃を仕掛ける。片手剣の熟練度が高ければ高いほど切れ味が上がり、一度に複数回斬りつけることができる≪軽戦士≫スキル【乱磨乱月】で綺麗な切り口で破壊にした。一番の武器を失ったスカルミルパットは逃げるように砂丘に潜り込む仕草を取るが―――。
ユウマはそれを許さない。
左側の触角を掴み、〖憤怒〗の補正が入った己の握力だけで触角をそのままへし折り頭部に着地。暴れ始めるも、へし折った触角を千切って黙らせる。頭部と胴体を結ぶ関節部分に乱雑に連続して斬り付けてクリティカルヒットを何度も重ねていき苦しみ藻掻き続けるも、最期は胴体から頭部が落ちて絶命した。その頭部。頭上でユウマは高らかに笑っていた。
「はっははっははは!!」
「最高だ。」
「さあ、次はジャイアントキリングと行こうか!」
戦闘開始から僅か1分も掛からずに敵を黙らせていた。
称賛に値するタイムレコードを刻んでいたが、これは序盤。驚異的な強さを誇るとは言ってもスカルミルパットはスカルリベンジャー同様にプレイヤーにとっては雑魚敵だ。高揚感を上げるには俄かに物足りないとデフォルトは内心思っていたが、そうでもないらしい。
デフォルトは逸早くヴェルデ・ギガントの動きを察知して準備していた。
繭な状態を解いて次にとる行動は、最も接近する侵入者の警戒ではない。侵入者など最初から眼中にないからだ。それにその役目はアイツらスカルナイトたち。王国騎士団が2体討ったことで残りは2体という話だったが、担当の受付嬢の話とは大きく違っていた。
千か万か雑兵の如くわらわらとヴェルデ・ギガントの足元から現れた。
キャンバスから無限に湧き出るスカルナイトや近縁種か亜種か分からないが丸々太ったホブゴブリンにそっくりな骨の巨人までいる。討伐ゲーから一気に一騎当千の無双ゲーに変わっていた。あれすべてをユウマに任せるのは計画の範囲外であって明らかな異常事態だった。本当なら此処で切るべき手ではないが、いま剣を失う訳にはいかないという判断でユナイトに例の作戦を実行するように緊急連絡をとった。
「嵐の時間を始めよう。」