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短編~中編

パパがお嫁に行くからもう乙女ゲームでギスギスしないで!! ~娘が二人同時に前世を思い出してバカ王子(18歳)を取り合ってるけど彼の本命はパパ(35歳)なんだ

作者: 朱音ゆうひ

 数百年前の戦争で国王から名誉ある称号を贈られた五大名家のうちのひとつ、アクリティア公爵家には、二つの旗が掲げられている。

 紅薔薇のアクリティアの旗。

 そして、星十字のデルリアンの旗――嫁いできた妻の家の旗だ。

 

 両家の結束は強い。

 そのためラブリエス・アクリティア・レ・クレス公爵は国内有数の権力を握っている。しかも、国一番の美形と名高くて、老若男女かまわずモテモテだ。

 

 そんな魅惑の公爵は、頭を抱えていた。


「乙女ゲームよー!」

「乙女ゲームよねー!!」

 

 娘たちだ。娘たちが騒いでいる。

  

「やったー、私がヒロインよ! 王子殿下は私がもらうわね!」

「なんですって! ざまぁされるのは妹って決まってるのを知らないの? 殿下はわたくしを溺愛するのよ!」

 なんと娘たち、同時に前世を思い出したのだという。


 二人の娘は、姉がアークリア、妹がヒエロンヌ。

 父譲りであるふわふわのローズピンクの髪にアクアマリンの瞳をした可憐な姉妹だ。


「明日のパーティでヒロインのパワーを見せてあげるわ。練習しとこっと。ふえぇん、お姉様がいじめたわぁ~、ひどぉい」

「甘いわねヒエロンヌ。あなたのそれ、まさにざまぁされる妹のムーヴなのよ!」


 姉妹はパーティの支度をしながら、ざまぁざまぁと繰り返している。


「二人ともやめなさい。優雅な貴族たる身の上、お互いに思いやりを持つべきではないか」

 

「でもパパ! 王子が婚約者候補の中からひとりを選ぶ婚約イベントがもうすぐなの!」

「そうよパパ! 原作では婚約できなかった婚約者候補全員がざまぁコースで人生お先まっくらなんだから」

 娘たちが何を言っているかわからない!


「パ、パパ……?」

 今まではおしとやかに「お父様」と呼んでいたのに。でも、「パパ」って呼び方はちょっといいな。娘カワイイ。


 ちなみに娘たちが狙っている王子は、十八歳のヒュベリオンという王子。素行に問題大ありの困った王子だ。父である国王が定めたことを「オレ様は王子だから! 権力あるから!」と言って変更するよう命じて、あとから父王に叱られたりすることがよくある。

 

 しかも男女問わず気に入った者を寝所に呼んで、けしからん行為に(ふけ)っているという噂もあって。

 

 さらに言うならあの王子、ラブリエスにも目を付けていて事あるごとに気持ちの悪いポエムを送ってきたり、腰を抱こうとしたり、尻を撫でてくるのだ。

 耳に息を吹き込まれながら甘ったるく「オレ様の本命は貴公だ」などと愛を囁かれたこともある――全部父親に言いつけておきましたッ!

 

「こほん。お前たち聞きなさい。お父様は、ヒュベリオン王子殿下に娘をやるつもりはない。そもそもあのバカ王子には廃嫡の話も出ているくらいなのだぞ」

 

 ヒュベリオン王子と婚約してもいいことなんてない。父はそう思うッ!


「でもパパ!」

「パパーー!! でも、婚約できなかったらざまぁされちゃう!」


「この先何があろうと、お父様……パパの娘が人生お先まっくらなんてことはない。パパが守ってやるから、安心するように」


「お姉様、よかったわね。安心して婚約者の座から転落できるわね」

「ヒエロンヌって本当にざまぁしたくなるオーラが出てるわね。覚悟しなさい」


 娘たちはギスギスを続行していた。


「腐っても王子は王子なのよ。やっぱり最高権力者になる男をアクセサリーにしなきゃ」

「やだヒエロンヌ、気が合うじゃない。王子って肩書きがいいわよね。うふふ、溺愛させてやるんだから、見てなさい」

「乙女ゲームだもん。攻略してなんぼよね」

「わかる~っ! わかる~っ!」


 ……もう仲が良いのだか悪いのだか、パパにはわからない!! 


 

 * * *


 

 パーティの日。


「皆の者! 本日はオレ様が主役だっ! オレ様を気分良くさせよ! 婚約者にしてやるぞ」


 絢爛豪華な会場で、バカ王子ことヒュベリオン王子がわかりやすく調子に乗っていた。

 

「どの娘も可愛い! よーし、よしよし」

 婚約者候補たちをはべらせて堂々とキスしたりベタベタ触りまくったりとおよそ紳士失格な好色っぷりをみせるヒュベリオン王子。

 

「ほら、我が娘たちよ。見なさい。あれがお前たちが攻略しようとしているバカだぞ」

 もはや王子と呼びたくなくなったラブリエスだが、娘たちは王子と同じくらいおかしかった。


「やだ~、本物の王子様、顔がいい。よーし、王子の目の前でハンカチを落とすわよ」

「王子様、イケボよね。私もハンカチ落としちゃう」

「どっちのハンカチが拾われるか勝負ね」


 なにをやってるんだ、なにを。

 顔がいい? イケボ? それはなんだ。二人とも、何かに憑りつかれたようにおかしくなっているぞ!

 これはいかん、パパは許さん!

 

 ラブリエスは二人の娘がヒラヒラッと落としたハンカチがカーペットに落ちるより先に、驚異的な反射神経でシュバッと拾い上げた。

 ヒュベリオン王子は目の前で奇行に走った名家の父娘を面白がるように笑って、ラブリエスの肩を抱いた。

「これはこれは魅惑の公爵。貴公から寄ってくるとは珍しいな! さ、て、は……嫉妬だな! オレへの愛を自覚して、オレが貴公に愛を告白したのに別の者を婚約者として選ぼうとしている真意を聞きにきたのだな、そうだな!!」


 うわぁ、気持ち悪い。

 生理的嫌悪感で全身の肌をゾゾゾッと粟立てつつ、ラブリエスは「いや待てよ」と考えた。


 毒を持って毒を制すというではないか。

 ここはパパがこの身を犠牲にして、このバカ(もはや王子とは呼びたくない)がどれだけ婚約相手に選ぶ価値のないバカ(二度目)かを娘たちに見せてやるのだ。


「お前たち、いいか。パパが……」

 ラブリエスは景気付けにワインの注がれたグラスを一気に煽った。そして、見る者すべてが蕩けてしまいそうな深刻な決め顔と乙女ゲーム声優も真っ青なバリトンボイスで、渋く言い放ったのだった。

「パパがお嫁に行く! お前たちは見ていなさい!」 


「パ、パパ……!?」

 これがパパの愛だ。パパの勇姿だ。

 見よ娘たち。この王子、パパが顎を指先で撫でてやっただけでトロットロに蕩けた顔で喜んでるんだぞ。

 おい、腰を抱くな。尻を撫でるな。

 いやしかし、これを見せたかったんだ。どうだ娘たち! 

 

「殿下。あなた様の本命は、この私ラブリエス。そうですな?」

「お、おお。ラブリエス! なななんだ、その気になったのかっ? いきなりデレるじゃないか、もちろんお前が本命だ! お前以外、目に入らぬ!」

 

 言質を取ったぞ。

 どうだ娘たちぃっ! 王子の本命は、パパなのだぞ! 

 

 娘への愛あふれる自己犠牲精神で我慢していると、ヒュベリオン王子は酒を飲み、セクハラの限りをつくし、調子に乗りまくっていく。


「ね、ねえお姉様。パパが二次創作みたいに王子に押し倒されてる」

「ヒエロンヌ、あなた二次創作もたしなんでいたのね」

「好きな王子のイラストを一枚でも多くみたくて漁っていたら、偶然出会ってしまったの」

 娘たちがまたパパにわからない話をしている。しかし、先ほどよりは「王子格好良い♡」な気配が薄まっているようだった。よかった。

 

「よーし、もうオレ様、ラブリエスと婚約するぞーぉ」

「きゃー!」

 ヒュベリオン王子の宣言に黄色い歓声が沸く。どんな感情に起因する歓声だ、これ。


 貴婦人たちは頬を染め、貴公子たちは困惑し。

 

 ……パーティ会場に、警備兵の悲鳴と場違いな馬のいななき、そして(ひづめ)の音が響き渡ったのは、その時だった。


「パ、パーティ会場は馬から降りていただきたい!」

「あーっ! 夫人! いけません、あーっ!」


 黒い馬に乗り、颯爽とあらわれたのはラブリエスの妻であるゴリエンヌだった。

 紅薔薇のアクリティア。

 星十字のデルリアン。

 旗持ちが後ろにつづいて、五大名家のうち二つの旗を気高く掲げている。


乱痴気(らんちき)騒ぎは、そこまでです! わが夫は結婚しているので、殿下の婚約者にはなれません!」

 

 戦乙女のように凛々しく声を響かせたゴリエンヌは、この国の国防を担う騎士団長である。

 その鍛え抜かれたたくましい腕が王子の腕から夫ラブリエスを救い、馬上に引き上げて自分の前に抱きかかえるようにして座らせる。

 

 王子はというと。

「ひひーん!」

「うぎゃっ」

 馬にゲシッと蹴られて床に転がり、ひんひん泣いた。

「け、蹴られた! 馬に蹴られた! 医者を呼べー、痛いよう、死ぬ、死んでしまうーっ!」

 一国の王子にしては余りにも情けない姿に、周囲の貴族たちはドン引きしつつ医者を手配した。

 

「情けない!」

 ゴリエンヌは遠慮なく言い捨てて、夫ラブリエスを見た。 

「あ、な、た。また襲われていましたの? 隙だらけで、目が離せないんだから。さあ、帰りましょうね」

「アッ――――」 

 用意してきたらしき麻縄でラブリエスの胴体を自分の身体とくっつけるように縛り上げ、ゴリエンヌはカッと威厳たっぷりに娘たちに言った。


「アークリア、ヒエロンヌ! そこのバカは廃嫡決定しました! 関わるだけ時間の無駄だから、帰るわよッ!! 前世だかなんだか知りませんが、あなたたちも明日から令嬢教育をし直しますからネッ!!」


 一家はゴリエンヌに引率されて無事帰宅し、ラブリエスはその夜、ヤンデレ風にメイクラブを迫る妻と熱い夜を過ごした。


「こんなにあなたにむかついたのは、久しぶりですわ。どうしてあの王子にべたべた触られて黙っていましたの!」

「す、すまないゴリエンヌ。あ……愛しているよ」

 


 なお、この事件がきっかけで、公爵家には新しい子供が生まれることになった。

 それも、後継ぎになる元気いっぱいの男の子だ。めでたし、めでたし。



 ――Happy End!!


 読んでくださってありがとうございます。

 もしもこの作品を気に入っていただけた方は、お気に入りや広告下の評価をいただけると、創作活動の励みになります。よろしくお願いいたします!

 最後までお読みいただきありがとうございました!


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[良い点] パパがヒロイン力高くて爆笑しました! そしてまさに母は強しですね! 非常に面白かったです!!
[良い点] めっちゃ好き
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