第7話 パーティー全滅を達成しました
「な、なんで……?」
「ユ、ユカリ! 今日のタルテカルディアはおかしい! 何かしらのエラーが起きているようだ! あとで、運営に文句を言ってやろう!」
「エラー、なのよね……でも、こんなエラーおかしくない?」
【ユカリ】の不安そうな表情を見た【ユーゴ】は少し目を伏せ考えると顔を上げて口を開く。
「……一応エラーじゃなかった時の為に、一つ目巨人は倒しておこう。回復を」
仮にエラーだとしても、運営が認めなければ、死んでデスペナを受けるだけ。
であれば、ギリギリまで悪あがきせざるを得ない。
【ユーゴ】は覚悟を決めたようだが、【ユカリ】はこの期に及んで及び腰になっている。
「で、でも、さっきガイに回復魔法を使ったつもりが攻撃魔法が」
「なら、攻撃魔法を使ったら回復魔法になるんじゃないか? とにかく、回復出来なければ全滅だ。やるだけやってくれ!」
「わ、わかった! じゃあ、逆の……白炎……え?」
先程【ガイ】を燃やし尽くしたヒールではなくホワイトファイアを唱える【ユカリ】。だが、今度はコール通りの白い炎が【ユーゴ】を襲う。
「う、うわああああ! ……はあっはあ、ユカリ、君は……って、うわああああ!」
ユカリの攻撃魔法を耐えたユーゴだったが、そちらに意識をとられすぎた。
ユカリの方へ振り返ってしまった為に襲い掛かってくる一つ目巨人に気付けず、強力な一撃を喰らう。
流石に、爆弾、白炎、そして、一つ目巨人の連続攻撃には耐えられなかったようだ。
いや、そもそもハングドマンを肉壁にすれば乗り切れると思っていたのだろう。回復も適当だった為に、ライフポイントは多くはなかった。
油断。
人間は油断する。
それを突くことが出来れば、まだまだオレは復讐できる。
オレの足元の方でユーゴがべしゃりと潰れて、光となって消えていく。
「そ、そんな……! わ、私一人? こ、こんなのどうし……え? 真っ暗? なんで!? 故障!?」
突然、ユカリが慌て始め、ウロウロと動き出す。
『オレを死体と間違えて踏んでいる』ユカリが。
何故オレが踏まれているのか。
オレは、レンの爆弾を持たされた後、気付かれぬようレンへ向かうハングドマンに渡し、爆風にギリギリ耐えられる距離に移動した。
そして、爆風を喰らい、仕様に従い『瀕死になると回復キャラに近づく』行動をとる振りをし、ユカリのそばで倒れ込み、足元という視界にとらえづらい状態で近づいた。
ユーゴやガイの爆発に気を取られている間に、オレはユカリを触れる距離に入る。
まさか動揺してウロウロしてた先にオレの身体があって、踏まれるとは思っていなかったが。
多少の屈辱はあったが、労せずしてオレの目的は達成されたのでよしとした。
そう、『ユカリに触る』という目的が。
最後の仕上げに入る為に、気付かれないよう少しだけ身体の角度を動かし、ユカリがオレからどくように促す。
パニックになったユカリは本能的に足元だけでも安定をとなったのか、オレの身体から離れる。その瞬間、オレはユカリの足を掴む。
大丈夫、コイツは今、視界が『バグって』いる。
ビクリと震えるユカリだったが、いきなり金切り声で『キレ』始める。
「だ、誰よ! ねえ、誰! こんな悪戯してるの! ちょっと、何も見えないんだけど!」
「そりゃそうだろ、オレが視界を『バグらせた』からな」
オレはとんでもなく愉快だという様子で嗤いながらユカリに話しかける。
ユカリは杖を振り回してオレから離れるが、視界が見えないために見当違いの方向に振り回している。
オレのスキル〈致命的な過ち(グリッチ)〉。
恐らくバグによって生まれたスキル。
対象の『何か一つを一時的におかしくさせることが出来る』スキルだ。
ミラの防御力を、レンの命令、そして、爆弾ハングドマン達の動きを、ユカリの行動、そして、今は視界をおかしくさせた。
これで、証明された。オレは、戦える。プレイヤー達と。
「ちょっと、バグ技使ったプレイヤーキルなんてクソみたいな事やってたらバチが当たるわよ!」
「バチ? 罰か? はっはっはっは!」
神から何か罰が与えられるならやって欲しい、ゲームの中まで来られるなら。
いや、それならこいつ等に与えろよ。
「何がおかしいのよ!?」
何がおかしい? 何もかもおかしい。オレからすれば、理不尽に生みだされ、人間に嗤われ弄ばれ殺されるオレ達の存在とお前らの脳みそがおかしい。
お前らプレイヤーからすれば、おかしいのはオレだろうけど、別にそれでいい。
オレはこの世界の狂人だから。
だから、オレは正しくなくてもお前らを蹂躙する。絶対に。
「この、クソプレイヤー!」
オレをプレイヤーだと思っている。そりゃそうだ。こんなに流暢に人間を馬鹿にしたように喋れるNPCなんていると思わないだろう。AIの進化によって、ほぼ人みたいに喋り学習していけるようだが、人間には逆らわないようにプログラミングされているらしい。
だから、バグったことで生まれた意思持つNPCなんて想像もしてないだろう。
こうやってプレイヤーと誤解してくれればそれでいい。
運営である八賢の目を掻い潜りながらオレは復讐しなければならない。
オレなら、出来る。このパーティーだけでなく、オレ達を殺していったプレイヤー共に!
一万人のプレイヤー共に復讐を!
これはその狼煙だ。
「ちょっと! 聞いてんの!?」
「聞いてる聞いてる。けどさ、いいのか? オレの方に集中してて」
「え?」
「目の見えない神官対一つ目巨人。かなり不利だよね、まあ、精々頑張ってね」
「きゃ、きゃああああ! こ、来ないで来ないで! ハ、ハングドマン! なんとかしなさい!」
ユカリの叫びは空しく、誰も動かない。
オレはユカリの醜態を眺めながら移動し、ハングドマンの『指示に従う』のを〈致命的な過ち《グリッチ》〉で一時的におかしくさせた。
ハングドマンは受けることのできない指示を待ち続け、残ったプレイヤーのユカリをじっと見ている。
オレにはその目に恨みや悲しみが込められているような気がしたけど、それはバグったオレの勝手な解釈だろう。
オレも同じようにユカリを見つめる。
みっともなく杖を振り回し泣き叫んでいる人間を。
「やめて! こっちは見えないのよ! 卑怯だと思わないの! くそ! くそ! くそ! 運営が! クソゲームが! バグだらけじゃねえか! くそ!」
ユカリが悪態を吐きながら、攻撃を喰らい続け、そして、
「いやぁあああああああ!」
ぐしゃりと潰され、光となって街へと飛んでいく。
そして、パーティーが全滅すると、オレ達ハングドマンは光の演出も何もなく、元居た島へと一瞬で送られる。
死んだ時の罰、デスペナルティの一つに、一部のアイテムロスト、所有物の喪失がある。
ハングドマンは強制的にロストとなり、島に戻るのだ。
そして、新しい所有者を島で待ち続ける。
モノとして。肉壁として。ネタキャラとして。NPCとして。
無感情に島を歩き始めるオレそっくりのハングドマン達を見つめながら、オレは思った。
確かに、クソゲーだ。この世界は。オレにとって。
だから、バグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせてバグらせて滅茶苦茶にしてやる。
この世界の人間共を、そして、この世界を作った八賢共を。
オレは、バグった吊られた男は、12011人のプレイヤーと8人の賢者への復讐の為に動き出した。
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