第1話 『恐怖』を取得しました
恐怖。
オレは今、その感情を初めて知った。
目の前で起きている惨劇。
青い肌をした一つ目の巨人が、向かってくる男達を蹂躙している。
男達は、巨人の持つこん棒であっけなく潰されていく。
ぐしゃり、と。
嫌な音を立てて潰れる男達だったモノの体液が、地面に飛び散っていく。
胃から何かがせり上がって来る感覚に震えながらも、目を逸らす事が出来ない。
男達は同じような悲鳴を上げて一人二人と潰れていく。
(何だこれは? これが現実なのか? こんな事があっていいのか? )
そんな思いが頭を駆け巡る中、青い肌をした巨大な一つ目は、次の獲物を探し周囲を見回していた。
一つ目の巨人は、見るからに醜悪な姿で、一目見ただけで嫌悪感を覚える姿形をしている。
青黒い皮膚の上に張り付くように生えた短い毛並み。
口元には鋭い牙が何本も生えており、滴るのは赤い液体。
そして……頭部にある大きな一つ目からは、狂気の色が感じられた。
だけど、それだけが、恐怖の原因じゃないことは分かってる。
オレの目の前にある死体の山。
その殆どが原形を留めていない。
折れた骨は肉を突き破り、内臓はグチャグチャになって原型を失っている。
そして、まだ僅かに動く腕や足…………。
血生臭さと死臭が入り混じった臭いが鼻腔を刺激し、再び嘔吐感に襲われる。
そして、その死体の全てが同じ顔をしていた。
全く同じ顔。同じ体格。同じうめき声。
何もかもが同じだった。
そして、オレもまた同じ顔。
オレは……オレ達は……
「おい、コイツ等も残りすくねえし、そろそろ倒さねえとクリアできねえぞ」
「もー、ゲームなのに、無駄にコイツ等の死亡エフェクトがリアル過ぎてキモすぎなんだけど」
オレ達とは根本的に違うプレイヤー達が顔を顰めてこちらを見ている。
そう、オレ達はゲームの世界の登場人物。いわゆるNPC。
「まあまあ、それだけタルカディアオンラインのクオリティの高さが分かるってことじゃん」
「話題作だけあるよな……さあ、そこで活躍する為に精々いい肉壁になってくれよ! ハングドマン!」
ゲームの中のキャラクターで、しかも、『肉壁』と呼ばれるネタキャラという存在。
ハングドマンと呼ばれる雑魚NPC。
そのはずなのに、オレには何故か意志があった。
いや、意志が生まれた。
意志を手に入れたオレが初めて得た感情は『死の恐怖』だった。
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