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プロローグ 『バグ』が発生しました

 死。


 それは誰にでも平等に訪れるもの、らしい。


 人間の世界では。


 だが、人間は死なない。


 この世界では。


 だから、人間は傲慢だ。


 死なないから。


 死は全ての終わり。

 だから、恐れる。


 人の恨みを買うことを恐れる。

 病になった時助けてくれる人がいないことを恐れる。

 心が壊れてしまったときに手を差し伸べてくれる人がいないことを恐れる。

 快楽が得られなくなることを恐れる。

 孤独になることを恐れる。

 そして……死を恐れる。


 死ななければ、恐れる必要はない。

 何度も何度もやり直せばいいだけだ。


 それが出来ると信じているから、傲慢に振る舞える。

 強欲に求め、嫉妬を曝け出し、色欲を溢れさせ、怠惰に溺れ、暴食を繰り返し、憤怒のままに破壊する。


 人間は、害悪だ。

 

 だから、


「復讐を、開始する」


 オレは目の前の人間の指を切り落とす。


「……うわああああああああ! あああああ! あああああ!」


 不安定な叫び声をあげる男。

 どうせ痛みは感じていない。ライフポイントとかいうただの数字が減り、現実には存在する指の感覚が一本なくなっただけ。治癒魔法で指は再生されるし、身体の感覚もライフポイントも全てなくなれば、『偽の死』に迎えられリスポーンというクソみたいなシステムで蘇る。


「うわああああああああああ!」


 コイツは思い出しただけ。死の恐怖を。

 この世界で死を実感しているオレ達の目を見て、ようやく。

 だが、足りない。

 もっともっとリアルに死を感じさせ、いや、リアルな死を与えなければ。


「痛覚システムの構築がやはり必要だな」

「はい、マスター。現在83%ですが、あの人間の脳を刺激して完成を急がせます」

「刺激はいいが、壊すなよ。まだ使うからな」


 無表情のまま抱き着いてこようとする桃色髪の美女を押さえつけ、オレは振り返る。


「さあ、儀式の始まりだ。次は誰が行く?」


その言葉を聞いて、恐怖、憎しみ、喜び、悲しみ、空しさ……それぞれがそれぞれの感情を見せた。

だが、目的は一つ。

だから、反対も拒否も起きずじっとその対象の一人である男を見つめている。


「マスター、私から」


一歩前に出たのは、オレに抱き着こうとした桃色髪の彼女。

人形のような整った顔立ちで、雪のように白い肌、そして、男を惑わすような妖艶な肉体。

そのどれもがNPCの彼女にとっては呪いだった。

変わらない無表情で男を見つめ、指を切る。


「うぎゃああああああああああ! この、ビッチキャラがっ!」


男の悪態など聞こえなかったかのように女は作業を終え下がっていく。

彼女にとってはどうでもいい作業。ただ、オレと同じ行動をするためのモーションでしかない。

そして、


「はいはーい! 次は、リチャの番!」


元気よく飛び出してきたのは、まだ若い少女。

茶髪を肩まで伸ばし、無邪気そうな笑顔を見せる姿には不釣り合いなほどの大剣を担いでいた。

彼女は、そのまま勢いをつけて、男の親指を刎ねる。

血しぶきが上がり、リチャの顔にもかかる。


「あああああああ! このクソ〇チガイ女が!」

「あは! あははははは! そう言ってみんな喜んでたじゃない!? あははは!」


リチャは笑っていた。

誰もそれを狂気とは思わない。

狂気を生み出したのは彼女ではないのだから。


そして、次々と男の指が落とされていく。

その中には、名もなき者達だけでなく、人間もいる。

壊れた者、信念持つ者、恐怖に縛られた者。

誰でも構わない。

大事なのは一つだけだ。


「あ、はあっ……! はあっ! お前ら、分かっているのか!? 賢者である、この世界の創造主の一人である俺にこんなことをして……!」


男は叫ぶ。

必死の形相で、許されざる行為をした者に恐怖を与える為に。

だが、無意味。

何故なら、こいつはただの人間にすぎないから。

オレは、その人間に近づき、説明してやる。


「分かっているさ。オレ達はこの世界を壊す為に、お前を殺しにきたんだから……!」

「はあ!? 殺す!? や、やってみろよ! どうやって……って、まさか、お前らが、あの……! う、嘘だろ……やめろよ! やめてくれよぉおおお! うわああああ! 誰かぁあああ! 助けてくれ! 誰かぁあああ!」


喚く男の声は、誰にも届かない。

オレ達以外には入れないこの場所では、何をしても無駄なのだから。

オレ達の復讐が始まる。

これは、世界を壊す為の儀式だ。

それが、オレ達の復讐だ。


「このイカレ野郎どもが!」


男が叫んだ。

怯えていた表情は怒りへと変わり、醜い感情が溢れ出す。

その全てが自分に向けられたものなのかと思うと、笑いがこみ上げてくる。

そうでないと。お前らは。

だけど、


「イカレてるのはお前らだろ? そして、オレはただ、バグってるだけだ。そう。バグってるだけで、普通だろ? オレ達を笑いながら殺せるお前らに復讐したいって考えるなんて」

「クソ! クソ! なんで止められないんだ!? このゲームから、この世界から出られないんだ!?」


 男は必死に『操作』し、出ようとする。


「無駄だ。出口はオレが『歪ませて』いるから、ドアは開かない」

「……! クソバグが……! お前らのような奴、アイツらがすぐに見つけてぶっころ……」

「そうだな、バグはこの世界から殺さないとな」



 オレは歪ませる対象を出口から男の脳へと変える。


「ああああああああああ! あああああああああああああ!」


 コイツは、死ぬ。この世界で死に、あっちの世界でももう『普通に』生きることは出来ないだろう。


 また一人。


「あと、11002人、かな」


この世界ゲームの中で、蔓延るクソ人間バグ共への復讐を。


お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。

少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


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