第68話 エピローグ①
およそ1年後。王都の壁外にて。
「カカカカッ! この《大魔王》セージ様に楯突こうというのか!」
「《凶獣》セージが現れたなっ! みんなっ、かかれー!」
「「「わぁー!」」」
「うぎゃー!」
俺は手に手に棒を持った貧民窟のガキどもに追われていた。
ヒツジさんボディはいくらぶん殴っても怪我しないもんだから全員遠慮なしだ。まったく、ガキってのは加減しないから困る。まっ、俺は1発も喰らわないけどな。
「ヒツジ先生ー、ごはんできたよー」
「おっ、メリスちゃんありがとう。おらっ、ガキども! 冒険者ごっこは終わりだ。メシ食いに行くぞ!」
「「「わーい!」」」
メリスちゃんが作った羊肉のスープに、欠食児童どもが群がる。
え、えと、メリスちゃん? ここで羊肉を使ってることに他意はないよね……?
「さあ、みんないっぱい食べるっす! いっぱい食べて、立派な悪の組織の戦闘員になるっすよ!」
「くっくっくっ、孤児を幼少からみっちり育て上げてジャークダーの精鋭戦闘員に育て上げる。それがしが言うのもなんであるが、完璧な計画でござるよ」
木皿にスープをすくい、配膳しているのはマサヨシ君とサムライお姉さんの夫婦だ。
アキバとチョーダ王国の交易路が確立したら、アキバの守りを六鬼将のポンコツどもに任せて王都に引っ越してきた。名目は貧民窟のガキどもをジャークダーの引き込むことだが……どっからどう見てもボランティアのお兄さん、お姉さんである。
なお、戦闘員スーツを脱いだマサヨシ君は細マッチョの精悍な男であった。ろくに手入れもしていなそうな赤茶けたボサボサヘアーがワイルドな魅力を放つイケメンである。くそっ、爆発しねえかな。
1年前、俺たちがあの蛇野郎を撃破した後からが忙しかった。
亜空間とやらから2万人もの異世界人を助け出し、生活の基盤を整える手伝いをしなければならなかったのである。あのYADOBASHIビルには大量の物資が残されていたが、2万人で消費するとなると心もとない。あっちこっちに畑やら工場やらを作らせて、チョーダとの交易で経済が成り立つように整えなければならなかったのだ。
「おい、ヒツジ野郎。ミストの姐さんが呼んでっぞ」
「ハッ! 俺がハーピー如きに捕まえられると思ったか!」
「ったく相変わらずめんどくせえな……。メリスの嬢ちゃん、頼むよ」
「わかったー!」
空をバッサバッサと飛んできたピュイのリクエストに答え、メリスちゃんが全身を金色に輝かせてシュボッと姿を消す、次の瞬間には俺はピュイの鉤爪に捕えられ、王都の青空を舞っていた。
「ヒツジ先生ー! いってらっしゃーい!」
「はーい、いってきまーす」
メリスちゃんはこの1年で魔力の直接制御をすっかり身につけて、一瞬だけ魔力を解放して身体能力を劇的に高めるなんて無茶苦茶ができるようになっていた。これは俺が生身のときにもできなかった代物だ。ミストと師匠が研究中らしいが、原理はさっぱりわからないらしい。
「おおー、こうして見ると王都もずいぶん変わったんだなあ」
「ああン? 巣を直すなんてあたりめえだろうが。人間ってのはそんなこともしなかったのか?」
ピュイにぶら下げられて王都を上空から見ると、あっちこっちの建物の外壁に金属メイドが張り付いて修繕工事をしている。降魔災害以前、王都の一帯はマルノウチと呼ばれていて、そのころの遺跡を流用しているものが多いのだ。何しろ築千年だから、あっちこっちがボロボロなのである。
ちなみに、百年前の学院が《円環の内側》と呼ばれていたのは、マルノウチをかっこよくもじった結果だ。古語を上手に使うとどんなイモっぽい地名でも格好良くアレンジできるのである。
【……セージたち、遊んでる?】
「うーん、遊びたいんだけど、ミストに仕事に呼ばれてるみたいなんだよね」
「おう、シロっち。ミスト姐さんのところまで届けたらおしまいだからよ。終わったら蛇の蒲焼丼でも食いに行こうぜ! そのあとはリバーシ大会だ!」
【……ん。わかった】
学院まで飛んでいく途中で、銀色の翼をはためかせるシロちゃんがやってきた。
正体は秘密のはずだったのだが、シロちゃんがあっさりと正体をバラしてしまった。おかげであっちこっちの貴族や上級冒険者パーティから面倒な誘いが来るようになったそうなのだが、シロちゃんは話が面倒になるとドラゴン化して飛び去るというムーブをしている。さすがドラゴン、自由気ままな振る舞いが板についてるぜ。
なお、当然のことだが俺はリバーシ大会には付き合わない。
ピュイ率いる魔土怒羅権の面々はもはや王都のリバーシランキング上位の常連となっているし、シロちゃんも同様だ。つまり、彼女らはプロなのである。いくら大賢者とはいえアマチュアである俺が出しゃばる幕などない。ふふ、よくぞここまで育った。ピュイたちをリバーシに引き合わせたのはですね、まあ、遠慮がちに言っても私の手柄みたいなもんなんですよ。
そんな感じなことを考えつつピュイにぶらぶらされていたら、目下にミストの研究室がある学院の建物が見えてきた。
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