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非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~  作者: 瘴気領域@漫画化してます


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第57話 大賢者、大相撲を楽しむ

「えっと、これでボクらの4連勝。勝ち越し確定だから、通してくれるんだよね?」

「ちょ、ちょっと待って欲しいっす。念のため上司に確認を……」

「なんだ? ジャークダーというのは一度取り交わした約束事さえ守れないのか?」

「ひぃ……か、確認するだけっす。ほ、ホウレンソウは悪の組織の基本なんす……」


 マサヨシ君がツカサとミストに詰められている。

 なぜだかわからないが、ちょっと羨ましく感じている自分がいる。巨乳ボクっ娘と知的クール美女によるダブルアタック。人生でそんな経験を味わう機会などないのではないか――ハッ!? 俺はいま何を考えていた!? 俺は慌てて頭を振って、異次元から侵食してきた瑪瑙色の煩悩を振り払った。 


「確認など要らんたい。おいの宿命の対決がまだ済んでいないでごわす!」


 俺が名状しがたい煩悩と戦っていたら、ずしーんずしーんとひどく重たい足音が近づいてきた。

 音のした方に目を向けると、そこには隆々たる体躯の大男が、巨大な何かを肩に担いで歩いてくるところだった。身長2メートルを優に超える巨体にゆったりとした浴衣を身にまとっており、髪は大銀杏に結われている。


 大男は、ずどーんと担いでいたものを地面に下ろした。

 正方形の土台の上に、円形のリングが描かれたそれは――まさしく土俵であった。


「おいは関取怪人オーゼキング! ジャスティスイエロー、おんしと決着をつけにきたでごわす!」

「うげぇ、やっぱり出てきた……」


 ツカサがげっそりした表情でため息を洩らした。

 何か面倒な因縁のある相手なのか? ツカサが300階で一旦探索を切り上げたのも、あの大男と遭遇するのが嫌だったせいなんだろうか。


「一度戦ってからね、ずっとつきまとってくるんだよ……」

「まだ戦いの決着はついておらん! 神聖な土俵の上でない限り、力士同士の決着は決してつかないのでごわす!」

「ほら、こんな調子でね……」


 大男は、浴衣を脱ぎ捨てると土俵に上った。

 一見して肥満体型だが、その一挙手一投足から厚い脂肪の下に高密度の筋肉が詰まっていることが伝わってくる。肩甲骨のあたりから、左右に3本ずつ金属製の管が伸びており、そこから蒸気がぶしゅーと吹き出していた。よくよく見れば、大銀杏に見えた髷もヘルメットのようだ。まわしには幾何学的なラインが幾本も通り、青い光で明滅していた。


 って、完全に人外やんけ。人間やめてる系やんけ。


「怪人相撲で生体改造は基本でごわす! さあ、ジャスティスイエロー。今日こそ一番、土俵の上で正々堂々勝負でごわす!」

「ツカサッ! あそこまで言ってるんだッ! 一度くらいは戦ってやろうぜッ!」

「えっ、ヒロトはどっちの味方なの!?」


 正々堂々というキーワードに触発されたのか、なぜかヒロトが怪人の肩を持っている。


「まあ、相撲ならば怪我もすまい。もはや勝敗も関係ないし、一戦くらいはつきあってやったらどうだ?」

「ミストまで!?」

「あたし、お相撲見たことない!」

「……シロも」

「メリスちゃんにシロちゃんまで……はあ、わかったよ。仕方ないなあ」


 ツカサはため息をつきながら土俵に上がった。

 これまで塩試合しかなかったからなあ……。もはやエキシビジョンと化しているが、一戦くらいはまともな戦いがあってもいいかもしれない。

 それに、俺もツカサの取り組みを見るのはひさしぶりだ。楽しみじゃないと言ったら嘘になる。


「ジャスティスイエロー、まさか変身なしでやるつもりじゃなかな? 手抜きのおんしを倒しても自慢できんたい」

「はいはい、ボクだって生身で君に勝てると思っちゃいないよ。いま変身するって」


 そういうと、ツカサは蹲踞(そんきょ)の姿勢で腰を落とした。

 両手を左右に大きく広げ、そして胸の前でパンッと小気味良い音を立てて柏手(かしわで)をひとつ打つ。左足をほとんど垂直になるまで高く上げ、ドンと土俵を踏みしめる。続けて右足も同じように踏みしめる。体軸がブレることが一切ない、それはそれは見事な四股(しこ)だった。


「決して倒れず、決して退がらず、こうと決めたら真っ向正面迎え撃つ。それが力士の心意気、粋な力士の桜道。今日も見せよう横綱相撲。あとに残るは電車道――」

「いいぞ、豪津山(ごっつやま)ぁー!」「よっ、豪津山(ごっつやま)ぁー!」

「ああっもうっ! その名前で呼ぶなって! これだから相撲はイヤなんだっ!」


 見事な口上を受け、俺とミストは思わず喝采してしまった。

 ツカサが現役の大相撲力士であった頃を思い出してしまったのだ。イエローこと、前世名ゴッツァンデス・フジヤマは、千年を越す歴史を誇る王都大相撲の最年少横綱であり、不世出の名力士であった。しこ名は豪津山(ごっつやま)。綱取りをして早々に引退したため活躍した期間は短いが、歴代最強横綱と推す声も少なくない。


「ええい、とにかく変身ッ!」


 ツカサが黄金色の光で包まれる。

 まばゆい光の中で、ツカサの立派な胸がぷるんと揺れると、全身が黄色いスーツで覆われる。頭部にはヘルメット状の装甲が装着され、腰にはまわしを模したベルトが構築された。


「ジャスティスイエロー! ただいま土俵入りっ!」


 ツカサの背中に荒ぶる海が幻視され、どこからともなく観衆の大歓声が響く。

 これが《救国の四英雄》がひとり、《横綱戦士》イエローの真の姿だった!


「真の姿じゃないっ! ああ、もう、さっさとはじめるよ。マサヨシ君、君が行司ね」

「えっ、自分っすか? わ、わかったっす」

「立ち会いはおいたちで合わせるたい。『はっけよい、残った』とだけ言えばよか」

「そ、それじゃ……。はっけよぉーい、残ったっ!」


 急遽、行司役に任命されたマサヨシ君の合図とともに、ツカサとオーゼキングが弾丸の勢いで激突する! ツカサは小兵だ。上背はオーゼキングの方がはるかに高い。しかし、ツカサは体格差を逆手に取り、低い姿勢で潜り込んで諸差(もろざ)しにまわしを取った。上手い!


 体勢で遅れを取った形のオーゼキングはツカサを潰すように体重をかけつつ、長い腕で上手(うわて)を取りに行く。がっぷり四つのスタミナ勝負に持ち込まれれば、小兵のツカサの不利は否めない。だが、あまりの体格差に目測を見誤ったのか、オーゼキングの両手がつかんだのは――


 ――小兵力士に似つかわしくない、立派なお尻であった。


「ど、こ、を、触ってるんだ! バカァァァアアア!!」

「こっ、これは事故でごわす!? ぐわぁぁぁあああ!!」


 ツカサがオーゼキングの巨体を持ち上げ、そのまま背を反って土俵に向けて突き刺した! オーゼキングは上半身を土俵に埋めて、前衛芸術みたいになっている。


「勝負ありッ! 軍配はジャスティスイエロー! 決まり手は撞木反(しゅもくぞ)りっす!!」

「やったぜ、豪津山(ごっつやま)ぁー!」「さすがだ、豪津山(ごっつやま)ぁー!」

「だからそれやめろっ!」


 第5試合、大相撲対決も見事我々が制したのであった。

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