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非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~  作者: 瘴気領域@漫画化してます


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第51話 大賢者、発作を起こす

「ヒツジ先生ー、ジャーキー食べる?」

「先生はだいじょうぶだよ。お腹が空いてるなら、メリスちゃんがお食べ」

「……シロも、食べる」


 ずっと歩いていてお腹が空いたのか、メリスちゃんとシロちゃんがポーチからジャーキーを取り出してあむあむとかじりはじめた。

 探索中の栄養補給は重要だ。普通の食事以外にもちょくちょく軽食を摂って、スタミナ切れを起こさないようにしなければならない。メリスちゃんたちには積極的に間食を摂るようにあらかじめ教えていた。


「そういえば、ツカサたちはメシはどうしてたんだ?」

「メシ屋ならたくさんあるからなッ! そこで食ってたぜッ!」


 ツカサに聞いたのに、ヒロトが要領の得ない返事をしてくる。


「メシ屋なんてどこにあんだよ? だいたい、人間はいないんだろ?」

「あーあ、せっかくならいきなり見せて驚かせたかったんだけどな。あっ、エレベーターに着いた。ごはん屋さんのところまで一気に移動するから、説明するより見てもらった方が早いかな」


 なんとも形容しがたい配色と形状のメイドの群れはいつの間にか終わっており、目の前には金属製の引き戸らしきものがあった。

 ツカサが壁のボタンを押すと、「ポーン」と軽い音がして戸が開く。中は小部屋になっていて、片面はガラス張りで外が見えた。なるほど、金属メイドたちを運んでいたチューブがこれだったんだな。


「お客さん用と関係者用で分かれてるけどね。メイドを運んでたのは関係者用だよ」

「扉が開いたらメイドの群れとご対面……って心配はないってことか」

「そそ、そういうこと。んじゃ、ひとまず50階まで行っちゃうね」


 ツカサが数字の書かれたボタンを押すと、扉がしまってすうっと身体が重くなる。

 ガラス越しに外を見ると、みるみる地面が遠くなっていった。

 そしてふっと身体が軽くなる感覚と共に、エレベーターが止まる。

 再びポーンと音がして、扉が開いた。


「ここがごはん屋さん。色んなものが食べられるよ」

「これがメシ屋……?」

「ひっろーい!」

「……ごはんの匂い、しない」


 扉の先に広がっていたのは、椅子とテーブルが見渡す限り続く空間だった。

 テーブルの上にはそれぞれ四角い鏡のようなものがひとつずつ置かれており、人の気配はどこにもない。メリスちゃんは見通しのきく空間に出てテンションが上がっているが、どうもお腹が空いたらしいシロちゃんは不満げだ。


「まあまあ、とりあえず座ってよ」


 ツカサが手近な6人がけのテーブルに座って手招きをする。

 よくわからんが、促されるままに席についた。


「それでね、このタブレットから注文するんだよ」


 続けて、テーブルに置かれた鏡のようなものを差し出してくる。

 そこには色とりどりの料理の写真が載っており、それぞれに古語で料理名や値段が書かれていた。


「へえ、ずいぶん凝ったメニュー表だな。王都の高級店でもこんなのないんじゃないか?」

「ふうむ、印刷物とは違うようだが……」


 興味を惹かれたらしいミストが、メニューの表面を指先でなぞって感触を確かめる……と、写真がズルっと動いてまったく違うメニューが表示された。


「えっ、何これすげえ。動かせる写真なん?」

「おお、これはすごいな。映魔器の映像ともまた違う。見る側が自在に動かせるとは、いったいどんな原理で……」

「こうすると大きくできるぜッ!」


 俺たちが覗いているタブレットとやらに、ヒロトが二本の指をそえてぐいっと拡げる。すると、その動きに合わせて写真の方も大きく引き伸ばされた。


「すっごーい! メリスもやりたい!」

「……シロも、やる」

「おうッ! ちょっと待ってなッ!」


 ヒロトが席を立ち、近くのテーブルからタブレットを持ってきて二人に渡す。メリスちゃんもシロちゃんも、楽しそうにそれをいじりはじめた。

 ヒロトは気遣いなんて一切できない熱血バカに見えるが、しれっとこういうことをするんだよな。やってることは当たり前なんだが、動き出しがとにかく速い。しかも普段の空気が読めなそうな態度とのギャップも相まって、「がさつに見えるが女子供に優しい男」というポジションでモテていた。

 くそっ、それが誤解じゃなくて本当なんだから余計に腹立たしいぜッ!


 ともあれ、うちのメリスちゃんたちに悪影響があってはいけない。

 こんな暑苦しい正義バカはうちの子たちにふさわしくないのだ。俺はどんぐりの蹄でズダダダダッとテーブルを叩き、歯を剥いてカチカチ鳴らし、ヒロトを威嚇した。


「おっ、セージもひとりで使いたかったのか? 気づかなくて悪りぃな!」


 ヒロトはキラッと白い歯を輝かせると、俺のためにもタブレットを取ってくれた。

 わーい、ありがとう! 俺は受け取ったタブレットをすいすいと動かしてメニューを眺めていく。うむ、これどれくらいまで拡大できるんだろ? おお、相当に寄れるな。粗挽きハンバーグの粗挽き加減が確認できるレベルだ。メニューの種類もやたらに多いな。えっ、寿司まであんの? 王都でもトーキョー湾に近くないと食べられないのに……。この近くに海ってあるんだろうか?


「って、そうじゃないっ!」


 俺はタブレットをぱーんとテーブルに叩きつけ……ずに、そっと置いてから、両手の蹄を天に向かって突き出し、両足の蹄でテーブルをスチャチャチャチャッとタップで刻んだ。タブレットを叩きつけなかったのはアレである。物を当たるのはよくないからね。


「ヒロトぉ! お前のそのよぉ、無自覚モテムーブ、いい加減にしろって言ってんだよォ! うちのメリスちゃんたちに悪い影響があったらどう責任を取ってくれんだオラァ!? お前はアレだよ、『もう、この人には私がついてなきゃダメなんだから』とか、『本当は繊細な人なんだから。私だけはお兄ちゃんのことわかってるからね!』みたいなダメンズに惹かれる女子を引き寄せる謎の魔力があるんだよッ! 新手の魔法か!? 未知の異能か!? そういうの、ほんっとーによくないと思いますッ!」

「お、おう? なんか悪かったな?」

「気にするな。まあ今更言うまでもないが」

「あはは、ひさびさに見た。セージの謎発作」


 俺の純粋で素朴な正義に基づく怒りは、いつものこととして流された。

 俺は心の目から熱い涙を流した。

 当作のファンアートを頂戴しました!

 活動報告に載せていますので、ぜひご覧ください。

 メリスにぐえーされている大賢者のかわいいイラストです。

 https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2199935/blogkey/3085201/

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