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非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~  作者: 瘴気領域@漫画化してます


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第49話 大賢者、武装白十字に遭遇する

「とりあえず、ビルの後ろに回ってみて」

「わかった。ピュイ、微速前進だ」

『りょーかーい。おう、てめぇら、ビソクゼンシンだ!』


 ミストは伝声管を通じて機関室のピュイたちに指示をした。

 地上帆船がゆっくりと進みはじめたのに合わせ、ミストが慎重に舵輪を回して進路を調整する。


「よーそろー! 面舵いっぱーい! ってやつだね」

「海ではないからな。そんな急に舵を切っては壊れてしまう」

「俺も回してみたいぜッ!」

「ヒロトは絶対にさわるなよ。間違いなく壊す」


 ミストたちの他愛も無いやりとりに、俺はかつての冒険を思い出す。

 俺の主観ではせいぜい数ヶ月ぶりなんだが……客観的には百年ぶりなんだよな。そういう情報のせいか、はたまた意識がなかった間も時の流れを感じていたのか、なんだかやけに懐かしい感じがした。


「ミスト先生ー、あそこにでっかい穴が空いてるー」

「穴というより、人工的に作られたものだな。この船でも問題なく入れそうだ。ツカサ、お前の目当てはあそこか?」

「そうそう、地下駐車場の入り口。危険はないから入っていって」


 ミストが舵輪を左に切り、船はゆるやかなスロープを下って地下に入っていく。

 すると、真っ暗だった大穴の中がふっと青白い光に照らされた。操舵室の窓から辺りを確認してみると、金網に覆われた細長い照明があちこちで輝いている。色は沼地の鬼火(ウィルオウィスプ)に似ているが、動きもしなければゆらめきもしていない。不思議な光だった。


「どういうわけか、電気系統が生きてるんだよね。発電所なんてどこにも見当たらないのに」

「ほう、これは電気の光なのか。降魔災害以前の文明はこんな光で照らされていたんだろうか?」

「魔法の代わりに電気を使ってるんだぜッ!」

「すっごい乱暴な言い方だけど、ヒロトの言う通りだよ。ボクたちが来た世界には魔法がなくて、大体のことは電気を使ってなんとかしてたんだ」

「それは興味深いな。そういえば、お前たちの変身魔法も本当は電気の力なのか?」

「うーん、それは違うらしいんだよね。ボクらのは特別。っていうか、原理がわからない。あっ、あのへんに停めて」


 ツカサが指差した場所に船が停まった。

 船の駆動音がなくなると、辺りはシンとして物音ひとつしない。あの気味の悪い金属メイドや、野生の魔物などはいないようだった。


「ここに停めておけば、十中八九安全だよ」

「なぜそう言える? 外からあのゴーレムたちが入ってくるんじゃないか?」


 ミストの疑問はもっともだ。

 この地下駐車場とやらの入り口は開けっ放しで、侵入を妨げる要素はない。それにもし暗闇を好む魔物や異類がいれば、格好の住み処になるだろう。


「地面を見て。ここは特別な場所なんだよね」


 ツカサに促されて、俺たちは甲板に出て地面を確認する。

 進行中は気が付かなかったが、辺り一面に赤いペンキが撒き散らかされており、その上には白いペンキで注射器とメスをバツ印に組み合わせた意匠が等間隔に描かれていた。


「なんだこれ? なんか不気味だな……」

「あ、セージでもそう思う? だよねえ、デザイン考えた人のセンスを疑うよね」

「俺でもってどういう意味だよ。ともかく、こりゃ何なんだ?」

「武装白十字っていう国際団体のシンボルだよ」

「武装白十字……?」

「世界を股にかけた自警団みたいなもの、かなあ」


 ツカサの説明によると、ツカサたちのいた世界は国家や企業、結社、宗教団体が無数に存在し、それぞれが勢力争いを繰り広げていたそうだ。

 明確な国境すらなく、土地、建物、果ては個人単位で属する勢力が異なっている。武装白十字はそれらのひとつで、絶対中立を謳い、自らの勢力下での争いごとを許さない。その姿勢を圧倒的な武力でもって示し続けたことから、この赤いペンキが塗られたエリアは闘争禁止という不文律が成立したそうなのである。


「物騒なんだか、平和主義なんだかよくわからん連中だなあ」

「うん、正体不明だったよ。無闇矢鱈に強いし」

「ああッ! あいつら、めちゃくちゃ強いんだぜッ!」


 ツカサとヒロトが認めるぐらいなんだから、とんでもない強さだったんだろう。なぜか一瞬、黒竜のおっさんが脳裏をよぎる。あのおっさんみたいなやつだったら、趣味でそういう活動をしてもおかしくないと連想してしまったのだ。


「ヒツジ先生ー、もう降りてもいいの?」

「……探検、行きたい」


 おっと、いかんいかん、すっかり大人連中で話し込んでしまった。

 メリスちゃんとシロちゃんが、甲板から身を乗り出して辺りを見回している。うふふ、好奇心旺盛だね。


 危険な気配は感じられないし、とりあえず船を降りて問題ないだろう。

 タラップを展開し、そこからぞろぞろと外に出る。床は継ぎ目もなくツルツルで、水でもまいたらよく滑りそうだ。よくこんなものを作れたもんだ。

 床に気を取られ、視線が下に向かっていたときだった。


『ココハ武装白十字ノ規定スル永世中立えりあ。汝ラハ、当該えりあニオイテ、一切ノ暴力ノ放棄ヲ誓ウカ?』


 突然、頭上から声がしてびくっと天井を見る。

 するとそこには、白装束に長杖を持った人影が、天井に逆さまになって立って(・・・)いた。


「はいはーい、誓いまーす」


 ツカサが軽い調子で応じると、白い頭巾の奥で赤く光っていた目玉らしきものが緑色に切り替わる。何あれ……あれが武装白十字ってやつ? めっちゃ不気味なんだけど……。


「っていうかさ、ビルん中じゃ誰にも会わなかったって言ってなかったか?」

「うん、人間には(・・・・)ひとりも会わなかったね」


 ツカサが、いたずらを成功させた子供のようにニカッと笑った。

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