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非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~  作者: 瘴気領域@漫画化してます


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第22話 大賢者、火花を散らす

「わあー! ハーピーさんより、ずっとはやい!」


 メリスと俺は白銀のドラゴンにむんずと掴まれて飛んでいた。

 後方では、俺たちのキャンプがあっという間に豆粒のようになっている。

 天幕からハーピーたちが飛び出して、こちらを追おうとしている様子が見て取れた。


 俺は、ドラゴンに向けて話しかけた。


「ちょいとちょいと、シロちゃんや」

【……何?】

「仲間が心配してるからさ、いったん戻ってもらってもいい?」

【……嫌】

「うーん、なんでかな? 別に逃げたりはしないよ、ほんとに」


 そもそも、ドラゴンが本気で追ってきたら逃げ切ることなんて不可能だろう。

 俺が残った魔力をぜんぶ使ってぶっ放せばワンチャンあるかもしれないが……そういうことはやめろってミストにも怒られたしなあ。それに、食事に招待されただけだ。逃げる必要がない。


 やや間があって、シロちゃんが口を開いた。


【……あのお姉さん、怖い】

「……」


 俺は返事に詰まってしまった。

 そうだよなあ、ミストって怖いよなあ。俺も同意する。しかし、悪いやつではない。さっきのやり取りだって、パーティの安全のために警戒しただけなのだ。ミストに非はない。


 一方で、シロちゃんの方はどうか。おそらくまだ幼く、他の種族と接した経験がほとんどないのだろう。ドラゴンが、ドラゴンというだけで畏怖される存在である自覚がない。無知は罪だと言う者もいるが、子どもにそれは当てはまらないだろう。というわけで、シロちゃんにも非はないのだ。


「ミスト先生はねー、怖くないよー」

【……そう、なの?】

「ときどききびしいけど、やさしく魔法を教えてくれるの! きっといっしょにごはんを食べたら、たのしいよ!」

【……わかった】


 ナイスだ! メリスちゃん!

 俺が理屈をこねくり回そうとしていたらメリスちゃんがストレートなプレゼンにより説得を成功させた。まったく、メリスちゃんは天才だぜ。


 シロちゃんがくるっとUターンして、キャンプの方へ戻る。

 すぐにハーピーに吊るされたミストたちと空中でかち合った。

 ピュイをはじめとするハーピーたちは恐怖に顔を引きつらせており、ミストは冷や汗を流しながらワンドを構えていた。おおう、マズイ。当たり前だが一触即発だな。


 というわけで、さっさとこちらから声をかける。


「ミストー、俺たちドラゴンに招待されたからさー。一緒に来ないかー?」

「みんなでごはん食べるんだよーっ」

「は? 何を言ってるんだ?」

【……ついて、来る】


 シロちゃんは再びUターンして黒竜が飛んでいった先に進路を変えた。

 ミストたちは距離をおいてあとを追ってきている。とりあえず、戦闘は避けられたようだ。一緒にメシを食えば誤解も解けるだろう。


 しばらく飛んでいると、真っ白な山肌の中に突如として大きなお屋敷が現れた。


 * * *


「ハッハッハッ! セージ、そして初めてお目にかかる客人たちよ。吾輩の屋敷によく来てくれたのである。吾輩が黒竜公シュバルツ・ドラゴクロウその人である。そしてこれが我が愛娘の――」

「……シロ・ドラゴクロウ」

「うむうむ、よく挨拶できたのである」


 俺たちが案内されたのは、屋敷の中の一室だ。

 豪華な調度に囲まれた部屋の中に、大きな長机が置かれている。二十人くらいは一度に食事ができそうだ。


 上座にはちょび髭の紳士が座っている。

 真っ黒な髪を後ろに撫でつけ、きりりとした眉の下にはよく磨いたオニキスをはめ込んだような黒い目が光っている。一言で表すならばイケオジなのだが――左右にピンと伸びた口ひげのせいで雰囲気が台無しだ。そのひげはやめた方がいいと昔から何度も言っているのだが、百年経っても直すつもりはなかったらしい。

 なお、もはや言うまでもないだろうが、あの巨大な黒竜の人化モードである。


「ひさしぶりだな、黒竜のおっさん。相変わらず元気そうで何よりだ」

「セージの方はずいぶんと雰囲気が変わったのである。しばらく会わないうちに何があったのであるか?」


 俺はきぐるみモードを解除し、長机の上にちょこんと座っている。

 百年がしばらくか……長命種の時間感覚は俺たちの人間とはかけ離れすぎていて調子が狂うぜ。


 とりあえず、俺はどんぐりタップを披露しながらヒツジさんボディになった経緯を話した。

 もちろん、美少女に転生したいと願った件については伏せている。


(おい、いいかげんに説明しろ! お前は黒竜公とどういう関係なんだ!?)


 冷や汗をかきながら俺とおっさんの話を聞いていたミストが俺の脇腹をでゅくしでゅくしとつつきながら小声で話しかけてくる。


「うーん、昔の遊び友だち?」

「ハッハッハッ! 昔の友だちとはセージもつれないのである。一度友になったのであれば、それは吾輩が輪廻の輪に溶けても変わらないのである」

「ふっ、うれしいことを言ってくれるじゃねえか。……そういえば、まだ決着もついてねえしな。どうだ、これから決着をつけるか?」

「フッフッフッ! 百年前は互角であったからな。だがセージよ、いまの吾輩は昔の我輩とは違うのであるよ。敗北の屈辱をかみしめるセージの姿がいまから楽しみなのである」


 俺がニヤリと笑うと、おっさんもニヤリと笑い返した。

 俺たちの視線が交わり合い、ぶつかり合い、空中で火花を散らす。

 そしてメリスのおなかが「くぅぅ」とかわいらしく鳴った。


「……父上、ごはん、まだ?」

「おっと、これはすまなかったのである。すぐに支度をするから待っているのである」


 そう言うと、おっさんは席を立って食堂を出ていった。

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