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第1話 大賢者、死す

 渾身(こんしん)の封印術式が邪神のおぞましい巨体に無数の魔法陣を刻む。

 魂からごっそりと魔力が抜けていき、経絡(けいらく)の末端から細胞が死んでいく。


「上手く、いったか……」


 肺からせり上がった血を吐いて、その場に膝をつく。

 幸い、術式は無事成ったようだ。

 顕現(けんげん)しかけていた邪神の姿が徐々に消えていくのが朦朧(もうろう)とする視界に映る。


 薄れかける意識に、これまでの冒険と仲間たちの思い出がよぎる。

 へっ、走馬灯ってやつか。本当にあるんだな……。


 勇者のヒロト。

 笑うと白い歯がキラッと光る暑苦しいイケメンだった。暑苦しい正義漢で、事あるごとに正義がなんだと叫ぶ暑苦しい男だった。女にモテるのに、モテていることに気がつかない鈍感で暑苦しいやつだった。正直イラッとした。


 戦士のイエロー。

 カレーが好きなやつだった。カレーを食べている姿しか思い出せない。つか、あいつカレー食べる以外に何かしてたっけ? だが女には「かわいい~」とか言われてモテていた。照れながらカレーを食べるあいつには正直イラッとした。


 錬金術師のミスト。

 何を考えているのかよくわからないやつだった。何に使うのかよくわからないものをたくさん集めていた。一回、やつの部屋に勝手に入ったら、床いっぱいに見たことがない生き物の骨が転がっていて怖かった。それでも俺よりモテた。女なんかに興味がないぜって態度があからさまで正直イラッとした。


 ……クソみたいな仲間ばっかりだったぜ。

 だが、不思議とあいつらとの冒険は楽しかった。

 死を目の前にした今でも、後悔はない……ない……ないよな? ないよね? どうなの自分?


「って、あるわボケぇっ!」


 俺は肺に残った最後の空気を吐き出した。

 いったい何年だよ!? 野郎ばかりの4人パーティで旅をして!

 暑苦しいんだよバーカ! もっとこうさあ、女の子だらけのパーティでわいわいきゃっきゃと旅をする展開とかなかったの!?


 いやねぇわ。

 考えてみたら、俺って女の子とまともに話せないわ。

 俺って非モテだもん。女の子と話すとキョドるもん。反射的に丁寧語になっちゃうもん。


 女の子だらけのパーティとか、たぶん緊張からのストレスで禿げ散らかして死ぬ。

 セミみたいに1週間でこてっと死ぬ。

 その未来が確実にわかる。

 いや、もう未来とかないんだけど。


 せめてさ、自分が女の子だったらなとか思うよ。

 女同士ならさ、こう、気安く友だち付き合いできそうじゃん。

 それでさ、宿屋で同じ部屋に泊まってさ、「好きな人いるー?」とか恋バナしちゃうの。


「えへへー、秘密ー」いたずらっぽく笑うのは魔法使いの魔女っ娘だ。

「もうー、不真面目ですよう」腰に手を当ててぷんすか怒るのは神官の神官っ娘だ。

「男にうつつを抜かすなどたるんでいる!」きりっと睨んでくるのは女騎士の騎士っ娘だ。


 こんなパーティでさ、楽しく旅をするのさ。

 女子耐性がなさすぎて女の子の名前すらぱっと思い浮かばなかったのが残念だが、そういうさ、平和でほのぼのした冒険もしてみたかったなあ。


 我、願わくば美少女に生まれたかった。

 もはや視力を失った瞳から、熱いものがあふれて頬を伝った。


 ――その願い、叶えよう。


 あれ、なんだ、なんか脳内ボイスが聞こえてきたんだけど?


 ――邪神を封じた汝の功績を称え、次なる生は望みのままにしてやろう。


 えっ、ナニコレ? 神様転生的なやつ? 俺って無宗教だったんだけどさあ、かまわないのかな。いや、いまはそれどころじゃないな。できればそうですね。金髪で小柄な女の子がいいっす。おっぱいは大きすぎず小さすぎず、こう、コンプレックスを感じないくらいの大きさ? 目の色はねえ、グリーン系がいいかな。あっ、でもどうだろう。青っぽいのもいいよね。金髪碧眼ってやつ。お人形さんみたいでみんなの愛されキャラな感じ。それからそれから……


 脳内ボイスに膨大なリクエストをしているうちに、俺の意識は闇に呑まれた。

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[良い点] 勇者パーティーが濃くて吹きました。 カレー食ってるだけの戦士とか、お部屋が汚部屋でホラーな錬金術師とかw いいぞもっとやれ。
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