10.ダニエルのお守り
学園での日々が戻り、私達は日々の宿題やレポートに追われながら、生徒会の仕事に追われるようになった。
なんと、ダニエルが生徒会長になったのだ。
ダニエル曰く、兄様に負けたくない、だそうだ。
男爵の家で兄様に助けられた事が、かなり悔しかったらしい。
マリーは会計、私は副会長になった。学園行事だけでなく、生徒から様々な苦情も持ち込まれてくる。
その中の最たるものが、チルチェリアに関するものだった。
男子生徒からは、女子から虐められる彼女が可哀想だから何とかしてあげて欲しい、女子生徒からは婚約者のいる男性に媚びをうっているので、何とかして欲しいとの事。
これって生徒会が解決すべき案件なんだろうか?
「どうする?ダニエル。」
「うーん。勝手にしてくれと言うには、件数が多すぎるよな。」
「そうなんだよね。」
「一度会って話をしてみる?」
「そうするか。」
チルチェリアとは、今まで話をした事が無かった。過去のケイシーにとって、断罪に関わったのはマリーだったし、他の女性がダニエルに近づいた事も無かった。
しかし、ダニエルに彼女の事を聞くと、度々話しかけられては、面倒なので無視していたらしい。
でも、不思議な程、彼女に話しかけられた男子生徒は、彼女に好意を抱くらしい。
「どうして?」
「さあ?俺は鬱陶しかっただけ。あの女、変な事しか言わないし。」
「変な事?」
「公爵家嫡男として育って、いつも自分を抑えて我慢して大変ですね。とかさ。」
「はあ?ダニエルが我慢?」
「してないよな。」
「後、完璧な淑女が婚約者で息が詰まるでしょうとも、言ってたな。男爵の屋敷を調べようなんて言うじゃじゃ馬に、何言ってるんだよな。」
「外向きは淑女なの!ちゃんと家庭教師からも認めて貰ったんだから。」
「わかってるよ。ケイシーは立派なレディだ。」
ダニエルは笑いながら、私の頭を撫でた。急に褒められると照れるのに。
ダニエルの方を向いて、いつの間にか随分身長差がついたなと感じた。目線が違う。もう頭一つくらい差がついた。
以前は同じぐらいだったのに、最近は背も高くなり、肩幅も広くなった。
逞しくなって、たまに見惚れてしまう。
「何?」
「なんでもない。」
顔に血が上る。
「顔が赤いぞ。」
「夕陽のせいよ。」
「そうしといてやるよ。」
教室に行ったら、まだチルチェリアは残っていた。宰相閣下のご子息と抱き合って。
「ちょっと良いかな?」
宰相閣下の子息、ハモンドが不愉快そうに彼女を後ろに庇いながら、こちらを睨んできた。
「何の用だ。」
「ガーモンド令嬢と話がしたいのだが。」
「ふん。またチルチェリアに対する根拠の無い悪口か?」
「全く根拠が無い訳じゃないと思うが?君も婚約者がある身だろう?結婚前ならば、他の女性と触れ合うのは構わないとでも言うつもりか?」
ハモンドが悔しそうに歯噛みしながら、ダニエルを睨む。でも、ダニエルが言っていることに間違いは無いでしょ。
「私は、今、婚約解消を申し出ている。」
「それでも、婚約中である事に間違いはないだろう。」
「チルチェリアは、私の気持ちを分かってくれる。彼女だけだ。婚約者は私の気持ちなど考えようともしてくれなかった。私が彼女を選ぶのは当然だ。」
「婚約者を捨ててね。」
「ちゃんと誠意を持って話をしている。君には関係ない事だ。」
「それで、ガーモンド令嬢と婚約するって言うのか?」
「当然、そのつもりだ。」
「ガーモンド令嬢は、どうなんだ?彼と婚約するのか?」
ハモンドの後ろにいたチルチェリアは、彼の後ろからすっと出て、ダニエルの手を握った。
「そんな酷い言い方をしないで下さい。私は皆さんと仲良くしたいだけです。心の中に辛い気持ちを抱えている人の気持ちを軽くしてあげたいだけ。ダニエル様、あなたもそうでしょう?いつもできて当たり前と思われて、努力も当然と思われて、疲れているのを知っているわ。あなたの努力は素晴らしいのに。誰もあなたを褒めたりしないのよね。」
私もダニエルが言っていたことがよくわかった。面と向かってこんな訳の分からないことを言われると困ってしまう。
「あの、ガーモンド様、ダニエルは試験で良い成績をとる度に、家でお祝いをして貰ってますし、ご両親もいつも凄い凄いって自慢して、褒めまくってますけど?」
「え?そんなはずは。」
「そうなんですよ。だから、何を言われているのか分からないんですが。とにかく、手を離して下さい。」
ダニエルに手を振り払われると、チルチェリアは不思議そうにその手を見つめていた。
「ダニエル様、私の事がお嫌いですか?」
「私の名を呼んでいいのは、家族と、婚約者家族だけです。あなたに呼ばれたくは無い。私ははっきり言ってあなたが嫌いですから。」
「え?どうして?」
「ケイシー帰ろう。全く話が噛み合わない。」
ダニエルに手を引かれて、私達はその場を後にした。
その時ふと、チルチェリアの視線が彼の胸元に注がれるのを見た。そこには私がダニエルに贈った青く輝くお守りが揺れていた。




