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冥王と侍【連載版】  作者: 佐藤 亘
第四章:律の管理者と死霊術師
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86話 ハイリオーレを輝かせる言葉

 海を背にして大通り沿いを歩くと見えるという中央広場を目指し、十兵衛は俯きながら黙々と歩いていた。

 諸々立て込んできた事から、先んじて受けていた依頼に緊急性が無いか冒険者ギルドに聞いてくると出てきた結果、ハーデスとスイの協力の元で成り立つ依頼を勝手に受けてしまった。その事について二人に相談せねばならない事態に、心が塞いでいたのだ。

 高位神官としての任務。律の管理者としての仕事。二人には果たすべき使命があるというのに、自分の思いつきで受けた依頼に付き合わせてしまうことが心苦しくてならない。待ち合わせ場所でもある中央広場へ向かう足取りは、ただただ重かった。

 だが、歩けば必ず目的地には辿り着く。ほんの少し視線を上げると、すでに到着していたスイとハーデスが十兵衛に向かって顔を向けた所だった。


「十兵衛さん!」

「ぴったりの時間だ。丁度良かったな」

「二人とも……」


 予定を繰り上げて教会に向かうというスイに、十兵衛とハーデスが同行することになっていた。リンはスピーと留守番をし、アレンとガラドルフが戻り次第貰ったカードを使って買い物に出るという。

 そんな宿でのやり取りを思い返しながらも、今ばかりはもう少し時間に猶予が欲しかったと内心溜息を吐きながら、「それでは教会に向かいましょうか!」と明るく言うスイを引き留めた。

 不思議そうにするスイに、十兵衛は何と申し出ればいいか悩んで口ごもる。そうこうする内に、ハーデスが大きく溜息を吐いた。


「十兵衛」

「あ……すまない、時間も押しているのに」

「そうじゃない。言いたいことがあるならさっさと言え。何を遠慮している?」

「遠慮? 遠慮してるんですか? 十兵衛さん」


 そりゃするだろう、と十兵衛は言葉に出せずに俯く。そんな十兵衛の様子に顔を見合わせたスイとハーデスは、小さく嘆息してそれぞれ十兵衛の手を握って引いてみせた。

 それに驚いた十兵衛が顔を上げると、ちょっと怒ったような意地悪な二人の笑顔が、目の前にあった。


「今更何を遠慮することがあるんですか! 私達、友達ですよね?」

「そうだとも。お前は特別だと言っただろう? なんでもいいから言ってみせろ」

「……スイ殿、ハーデス……」

「十兵衛さんのお役に立てるなら、お願い事も悩み事もドーンと来いです! ね、ハーデスさん!」

「スイの言う通りだ。遠慮される方が気に喰わん」


「ねー!」と頷き合う二人に、十兵衛は目を丸くして唇を噛み締める。「やっぱり、俺の周りには善人ばかりがいるのだなぁ」と内心苦笑を零しながら、ぽつぽつと冒険者ギルドでの事を語った。

 十兵衛の話を聞きながら、スイがふむふむと頷きつつ顎に手を当てる。


「海底墓場ですか。オデット領では罪人を海に沈めるとは聞いておりましたが、いやはやまさか導きの祈りも捧げないとは……」


 フッフッフ、と怒りを禁じえない鋭さを目に宿しながら、スイが微笑する。そのあまりの恐ろしさに、十兵衛とハーデスは身を震わせた。


「普通はいけない事なのか?」

「レナ教は人のためにある宗教ですよ? それを人の勝手であえて魔物にして放置する方法を取るなんて言語道断ですよ! しかも、レイスになったら海路を行く人達が危ないじゃないですか!」

「だが、そのために【冒険者のお守り】があると冒険者達は言っていた」

「むしろ、あえてそれが必要な状況を作ってるようにも思えるな」


 ハーデスの疑問に、十兵衛ははっと目を瞠る。察していたのかスイは重々しく頷くと、開いた掌に拳をぱしんと叩きつけた。


「いや~あ、カガイ神官長がこれらの事をご存じだったのかは後で聞くとして、腕が鳴りますね~!」

「スイ……」

「高位神官として興味深いお話の数々! しょっ引き倒して差し上げますよ」


「この調子じゃ、やらかした神官を殴り飛ばしかねないな」とハーデスがこっそり十兵衛の耳元で呟く。あり得そうだと小さく頷いた十兵衛に、気を取り直したスイが「それはともかく!」と笑いかけた。


「良い情報をありがとうございます、十兵衛さん! 十兵衛さんの思いやりのおかげで、捜査が一歩進みました」

「それは何よりだ。……ただ、依頼の達成に二人の力を借りる必要があって……」

「なに、海底墓場に赴いてチャドリーの魂を探せばいいのだろう? 私の権能を使えばすぐに済む話だ」

「私もそちらに行く必要がありますしね! 迷える魂を導かないと」

「だから十兵衛が気に病む必要は何もない」

「です!」


 声を揃えて言う二人に、思わずぐっと息を呑む。そうして小さく「すまない」と謝罪した十兵衛に、スイもハーデスも首を横に振った。


「そこは言う事が違うんじゃないのか?」

「そうですよ! 私達のためを思う言葉なら、もっとふさわしい物があるはずです!」


 そう言われて、驚いたように目を瞬かせる。そこで気づいた事があったのか、十兵衛はふっと顔を緩めると、嬉しそうに笑った。


「……ありがとう」


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