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冥王と侍【連載版】  作者: 佐藤 亘
第三章:竜と聖騎士
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幕間3-1 複雑な乙女心

「皆も、本当にありがとう。お前達の尽力に感謝が絶えない」

 

 王花の大樹の元、ベルヴァインの秘密が語られ、一同が驚きに目を瞠った後の事だ。

 涙を拭い、深々と礼をするリンドブルムに、ウィル達は笑って受け止めた。


「ソドム隊長が言ってたろ? リンドブルムを助けられるなんて、何よりの誉れだって」

「そうそう! 私達、この都市とリンドブルムのおかげでたーっくさん魔法の進化が出来たし!」

「こちらのお礼が足りないくらいだとも。なぁ?」


「お礼ついでに公演でもする?」と提案するダニエラに、「いいなそれ」とウィルとジーノが乗っかってやいのやいのと相談を始める。

 そんな彼らを微笑ましそうに眺めながら、十兵衛が横を通り過ぎリンドブルムの前へと跪いた。


「十兵衛……」


 金色の大きな瞳が、真っすぐ十兵衛を見つめる。そこに映る己の姿を目にしながら、十兵衛は優しく微笑んだ。


「踏み出した一歩は、どうだった? リンドブルム」


 その言葉に、リンドブルムはぐっと唇を噛み締める。

 涙の膜が瞳を覆い、けれども零すまいと懸命に堪え、下手くそに笑顔を浮かべて指輪を握りしめた。


「どうしようもなく痛くて、……辛い。でも、あの祠では見えなかった物がたくさん、たくさん見えたよ」

「…………」

「ありがとう、十兵衛。お前が手を引いてくれなければ、きっと踏み出すことが出来なかった」

「……あぁ」


 万感の思いを抱きながら、十兵衛は少し震える手を伸ばし、ゆっくりとリンドブルムの頭を撫でた。

「おい、我はお前より随分年上なんだぞ」と文句を言いつつも嬉しそうに笑うリンドブルムを、十兵衛は目を細めて見つめる。

 十兵衛にはまだ行きつけない、一つの道を歩み始めた先達の笑顔が、ただただ眩しかった。


「さて皆さん。ご歓談もそこそこに、我々はまずするべきことがあります」


 と、そこで空気を変えるように手を打ったカガイに、一同の視線が集まる。

 スイの治癒を受けて気力が少し回復したクロイスが、「すること?」と首を傾げた。


「あるでしょうが。分からないんですかクロイス」

「……ええと、すまん。疲労で全然頭が回らん」

「風呂ですよ」


「風呂、」と全員が口調を揃えて呟く。


「ハーデスも私もスイも、ウィルもリンドブルムとてあの汚水溜まりにいたのです。私はすぐにでも風呂に入って汚れを落としたいという気持ちでいっぱいなんですが、君達は鼻が馬鹿になっているんでしょうかね?」

「……あ、」

「言われてみれば」

「におう、かも」


 スンスン、と鼻を鳴らしたダニエラに、目を丸くして話を聞いていたスイが、一気に顔を赤らめた。


「~~~~~っ!」


 ばっと勢いよく十兵衛を見たスイは、先ほどの戦闘中の出来事を思い浮かべる。


 スイの短慮をフォローする形で、抱えて逃げてくれた十兵衛。当初は驚きつつもお姫様抱っこをしてくれた十兵衛にときめき、思わず身を寄せてしまったが、カガイの言う通り引っ付くにはあまりにも汚れた身体だったのだ。

 乙女としてどうなんだそれはー! と内心頭を抱えたスイは、へなへなと力なく座り込んでクロイスにもたれかかった。


「お、おいおい、どうしたんだ」

「スイ殿? どこか体調でも……」

「よ、寄らないでください!」


 心配して歩み寄りかけた十兵衛を、スイは両手を突き出して止める。

 予想だにしなかった全力拒否に目を瞠った十兵衛を尻目に、スイは鋭い目つきでハーデスを睨んだ。


「ハーデスさん!」

「な、なんだ」

「私を含めた女子全員を! オーウェン公爵邸の風呂場に送ってください! 迅速に! すぐ! 大急ぎで!」

「わ、分かった……」


 あまりの迫力にしどろもどろになったハーデスは、困惑しながらもスイとダニエラとリンドブルムを公爵邸の風呂場に転移させる。

 残された男性陣一同は、呆気に取られて沈黙した。


「……な、何故……」


 そんな中でただ一人、スイに全力の拒絶を受けた十兵衛は、ショックを受けて肩を落とす。

 それをカガイは呆れたように眺めながら、「困った部下ですねぇ」と笑み交じりに嘆息するのだった。

 


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