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冥王と侍【連載版】  作者: 佐藤 亘
第五章:星と王
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138話 喧嘩の相手

 十兵衛とハーデスがスピーを連れてカルド村に転移したのを見送った後、ギルベルト達はスピーがいる場では話せなかった内容をクロイスに共有した。

 律の管理者に連なるハイネリア・ルルとエルミナの繋がり、バブイルの塔で判明した魔石の成り立ち、魔物と魔法使いの関係性やガラドルフの仮説――。そして、ハーデスの権能によりこの星に新たな魔法使いが生まれなくなったことを。

 一連の話を聞き終えたクロイスは、冷めた茶を口に含んでゆっくりと嚥下した。


「なるほどな。例えば私が死ねば、転移魔法を扱う魔物が。ギルベルト君が死ねば爆炎魔法を得意とするヴァルメロのような魔物の魔剣士が、新たに生まれる可能性があるわけだ」

「まったく笑えない冗談です」


 そうは言えども冗談ではないのだろうな、とクロイスは思った。律の管理者であるハーデスが断定したのであれば、それは間違いなく事実なのだ。

 ただ、疑問に思うところもあった。もし同様の流れがすでに死している父や祖父、曾祖父にも起こっていた場合、転移魔法を繰る魔物が発生していてもおかしくないからだ。だが、近年の魔物情報にそのような存在は無く、輪廻転生による魔物の発生時期にラグが生じているのかと黙考する。

 初代であるルーク・ベルヴァインが転生ののち魔物化していた場合、人類は滅びただろうという確信がクロイスにはあった。――魔法使いはあの賢者に敵わない。稀代の大魔法使いであるオーウェンですらそうだったからだ。

 転移阻害魔法を使った所で、それを上回る転移門を開けられれば意味がない。そんな魔物が王都のど真ん中に突如巨大な転移門を開いて軍を送り込めば、それだけでチェックメイトだ。

 今日までウェルリアード大陸にいる人類が滅んでない事が、ルークが転生していない証明のようにクロイスには思えたのだった。


「ところで……その。亜人と人の関係が変わるって、閣下はどこまでお考えなんですか?」

 

 ギルベルトの疑問に、黙考をやめてクロイスが顔を上げた。

 転移魔法の魔道具をスピーに持たせた時に言い放った言葉は、ともすれば亜人と手を取り合う道を示したといってもおかしくない。それは、現在のレヴィアルディア王国の法律では許されない流れだった。

 いくら大恩ある相手とはいえそこの線引きだけは揺らがなかったギルベルトの発言に、クロイスは己の考えを告げるべく口を開いた。


「ギルベルト君。君も知っていると思うが、ハーデス君の黄泉送りによってカルナヴァーンの作った兵士が全員星に還った。アンデッドでの復活も不可能ということはつまり、魔王軍の兵力の大幅な低下が見込めるわけだ」

「……はい。それは俺も、思うところであります」

「だろう? 故にあちらは焦っている。エルミナが軍勢を増やそうとリスクを冒してやってきたのも自明の理だ。魔物は出生率が極端に低いからな」

「…………」

「だからこそ、私はここで亜人国の立国を支援するべきだと思う」


 ガタ、と大きな音を立ててギルベルトが椅子から立ち上がった。

 険しい顔つきでクロイスを見るギルベルトの殺気立った様子に、スイがごくりと生唾を飲みこむ。


「どうか、それ以上の発言はおやめください。俺は貴方を刑に処したくはない」

「ここは誰にも話を聞かれない沈思の塔だよ? 名の通りこれからの未来について沈思したっておかしくないだろう」

「閣下……」


 苦々しい顔で眉根を寄せるギルベルトに、クロイスは冷たい目で笑う。


「魔王軍は軍勢を増やそうと躍起になっている。となると、人間を苗床として生まれる亜人の増加も十分考えられるわけだ。――勿論、そうならないよう防ぐのも大事だがね。ただ、こちらでより良い待遇を用意して亜人達の逃げ場所を作った場合、うまくいけば離間の計に繋げる事も出来る」

「それにスピーを利用するのか!」


 転移魔法の魔道具の件を思い出し、リンが声を荒げた。 

 奴隷の身からようやく自由になれたスピーに背負わせるには、あまりに重すぎるものだ。思わず苦言を呈したリンに、平然とした顔で「そうだよ」とクロイスは言ってのけた。

 その静かな声色に、スイもギルベルトも、そしてリンでさえぞっと背筋を凍らせる。


「必要であれば、私はなんでも使うよ。たとえそれがあんなに小さな少年であってもね」

「お父様……」

「それが、この星に生きる命の、ハイリオーレを守れる道ならば」


 クロイスの言葉に、全員がはっと息を呑んだ。


「いいかい? どうやら分かっていないようだから言うけれど、この先発生するであろう魔王軍との戦いは、通過点に過ぎない。それをよく覚えておくんだ」

「通過点……」

「ハーデス君の目指す、魂の循環の正常化。そこに至る道で必ず、」



「私達は、この星に喧嘩を売ることになる」

 

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