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冥王と侍【連載版】  作者: 佐藤 亘
第四章:律の管理者と死霊術師
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幕間4-3 老若男女狙い撃ち公爵

「オーウェン公爵閣下!」

「オーウェン公!」


 ギルベルト達は、出会い頭にかけられた声に思わず目を丸くした。

 時間魔法によるエレンツィアの復興も無事に終わり、民を迎え入れるために進めていた準備も完了したため、日が落ちて夜の気配が漂い始めた頃合いに彼らの移動先にハーデスが巨大な転移門を開いたのだ。

 先導するべく転移門を通ってやってきたギルベルト、フェルマン、そしてハーデスの三人は、人違いで呼ばれた名前に驚いた。

 かくいう民達も同様だったらしい。思っていたのと違う人物が現れたことに驚き、「あ、あれ!? アンバー将軍閣下!?」だの「オーウェン公爵じゃなかった!」だのどよめきが走っている。


「えー、静粛に! 静粛にお願いしまーす!」


 持ってきていた魔道具の拡声装置(メガホン)に口を当て、ギルベルトが大きな声を上げた。気になる話ではあったが、今は優先事項が別にあるのだ。

 列の最前から後ろに至るまで静めるのにはそこそこ時間がかかったが、ようやく落ち着いたのを確認し、ギルベルトは改めて声を張り上げる。


「レヴィアルディア王国国王陛下直下部隊、赤狼騎士団団長のギルベルト・アンバーです! カルナヴァーン討滅戦の英雄、八剣十兵衛と、聖騎士ガラドルフ・クレムの奮闘により、七閃将のエルミナの撃退に成功! また、アンデッドの軍も殲滅に至りました! こちらの大魔法使い、ハーデスによる時間魔法でエレンツィアの復興も完了しております。この転移門はエレンツィアの中央広場に繋がっておりますので、順に帰還して頂く形になります!」

「お、おお……!」

「ほ、本当に勝利したのか……!」

「すごいわ! 復興まで終わったなんて!」

「これよりオデット騎士団による案内を開始致します! 先導に従って焦らずゆっくりとお進みください!」


 わぁっ! と地鳴りがするような歓声が巻き起こった。

 感謝の言葉や、労わり、心配する言葉が民達の口から上り、それを受けたフェルマン達は安堵するように嘆息する。


「ありがとうございました、アンバー将軍閣下」

「なんの。じゃ、後は頼むぜ」

「はい」


 遅れて転移門からやってきたオデット騎士団と連携を取りながら、メガホンを持ったフェルマンが案内に向かった。

 それを列から離れた所でギルベルトとハーデスが見守る。実働はフェルマン達だが、総責任者としての立ち合いも兼ねてのものだった。

「何か問題があったら遠慮なく言ってくれ」と仁王立ちしているギルベルトに、激戦の痕が残る鎧傷を見ながら、民達が深々と頭を下げて転移門をくぐっていく。

 いくら早めの避難だったとはいえ、遠く爆音の響くエレンツィアを民達も耳にし、遠景より見ていたのだ。奇跡の復興を経てもあれが夢幻(ゆめまぼろし)の光景ではなかったことを、誰もが理解していた。

 あの名高いギルベルト・アンバー将軍が、こんな姿になってまで守ってくれたのだというその事実だけで、エレンツィア防衛戦の厳しさが十分すぎる程に伝わっていたのだった。


「それにしても、オーウェン公爵だとよ」


 隣に立っていたハーデスに、ギルベルトが話を向ける。


「ルナマリア神殿騎士団と高位神官を送って下さったのは知っていたが、ここにもいらっしゃってたのか」

「あー……」


 民達の移動も鑑み、リンドブルムにまで【賢者の兵棋(へいぎ)】を伸ばしていたハーデスは、深く溜息を吐く。

 術の行使中、クロイスからの干渉があったのは知っていた。逆探知も検知していたが、それどころではなかったためもう好きなようにしてくれと放っておいた所、本当に好きなようにしたらしい。

 転移門を通っていく民達から「転移門ってきたから、てっきりオーウェン公爵と思ったよな」だの「めっちゃかっこよかった……あんなの惚れるわ」だの噂話が漏れ聞こえてくるのに、乾いた笑いを漏らす。

 そんな時だ。遠く離れた所から「アンバー将軍閣下ー!」と女性の高い声が聞こえた。目を向けると、大きな胸を上下に揺らしながら駆け寄ってくる冒険者ギルド員の姿があった。

 飴色の美しく長い髪に、薄水色の瞳。「冒険者ギルドのギルド員、ノエミ・グリンワースと申します!」と息を整えながら二人の面前に立ったノエミは、自己紹介と共に「内緒にしてください!」と主語を抜いた願いを口にした。


「内緒? 何を?」

「オーウェン公爵がいらっしゃったことです!」

「へ?」


 きょとんと目を丸くする二人に、ノエミは「もう! あれだけ内緒って言ったのに口が軽いんだから!」と転移門を通っていく民達に睨みをきかせる。

 話が見えないので詳しい説明を促すギルベルトに、ノエミは迷いながらも「お名前が出ちゃった時点で無理かとは思いますが……内緒で!」ともう一度告げて、事の次第を語り始めた。






「実は、避難していた我々の所にアンデッドとレイスの軍団が向かってきていたんです」

「はぁ!?」


 驚愕の声を上げるギルベルトに、ノエミは語る。

 なんと、レイス二千、アンデッド千の軍団が海底を通って秘密裏にパルメア大運河を遡り、移動中の数万人に至る民を襲撃して手勢に加えようとしていたらしい。【賢者の兵棋】の探知でそれを知ったオーウェン公爵がカガイ神官長と共に駆け付け、転移魔法と奇跡の大技で一掃せしめたという。


「一掃って! いつの事だ!?」

「エレンツィアでなんかすごい霧が出てたあのちょっと前です」

「アンデッドの高位化の後じゃねぇか!」


「こっちはあの聖水球があったから広範囲殲滅出来たけど、奇跡で!?」と目を剥くギルベルトに、ノエミは頷き、うっとりとした顔で頬を染める。


「そうです。川から這い上ってきた恐ろしい高位アンデッドとレイス達を前に、絶体絶命を感じたあの時。民に襲いかかりかけた所を、オーウェン公爵が全て転移魔法で空中に転移させて」

「て、転移させて……?」

「カガイ神官長が奇跡で葬り去りました」

「つっよーーーーー!!」


 範囲魔法や範囲奇跡というものは、中心より外に行くほど効果が薄れるとは知られた話である。威力も半減するため、確実に殺せず討ち漏れがあるのもよくある話だ。

 それなのに、高位化したアンデットとレイス三千をあの二人は一撃必殺したというのだから驚きだった。


「でも、そんな話を声高にしたら、エレンツィアで戦ってくださってる皆様に手落ちがあったと思われてしまうでしょう? ですから、オーウェン公爵は『ここでの事は、どうか御内密に。君達は無事に避難出来たのだと、そういう筋書きで頼むよ』って仰って下さって……」

「閣下……!」


 思わず顔を両手で覆うギルベルトに、ノエミが全てを分かっているかのように優しい笑みを浮かべる。


「分かります、分かりますよアンバー将軍……!」

「分かってくれるか、ノエミ……!」



「惚れてまうやろがい!!」



 野太く力強い声で同時にそう叫んだギルベルトとノエミに、ハーデスが呆れたように白い目を向けた。


「まぁ、人の口に戸は立てられぬというからな。どの道内緒で通すのは不可能だっただろう」

「そうかもしれませんけど……はぁ。エレンツィアの民は約束も守れないと思われるのは残念です」

「表立ってとはいかないが、俺の方からオーウェン公爵に直接感謝は伝えておく。教えてくれてありがとうな、ノエミ」

「……はい!」


「アンバー将軍もハーデスさんも、本当にありがとうございました!」と深々と頭を下げ、ノエミが帰還の列に戻っていく。

 それに手を振って見送りながら、ギルベルトは腹の底から大きな溜息を吐いた。


「俺、一生オーウェン家に頭上がんねぇわ」

「ほーう。やったなクロイス、配下が増えるぞ」

「ばか。俺は陛下直属だぞ。でも……正直心揺れる~!」


「リンドブルムの騎士が羨ましい~!」と蹲ったギルベルトに、ハーデスは楽しそうに笑い声を上げるのだった。

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