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4-8 勝敗の分かれ道 男女別馬車内作戦会議

「はあ……ただの予行演習のはずなのにどうしてこうなった……」


 カイトはクリスタルホール行きの馬車に揺られながら愚痴をこぼしていたが、原因であるドレイクは悪びれる様子もなく、いつになく上機嫌だった。


「はーはっはっは、S級冒険者のカイトが弱気になることはないさ。さあ!僕とパッキーに君の生わからせを見せておくれ」


 そんなドレイクに触発されたのかパチョレックも妙にやる気になっていて、


「うん。勝負は好きじゃないけど向こうの馬車でも作戦会議してるだろうから、僕達もしっかり打ち合わせしようよ」


 それ自体は正論なので、カイトは頷きながら馬車の窓から女子グループが乗っている馬車にチラッと目をやった。


 そんな女だけの馬車の中――

 男子達が想像しているような和気あいあいとした作戦会議というよりも、反省会という空気になってリリーナが小さくなっていた。


「申し訳ないですわ……でも……黙っていられず……つい……」


 さっきまで大言壮語を吐いていた高飛車お嬢様が叱られた子犬のように震えているので、リューネは怒る気も失せてしまい、子供を諭すような口調で、


「まあ、気持ちはわかるわ。私も器用貧乏になりがちな魔法剣士だから面と向かって言われたらプライドが傷つくわよね……でも勝負って……向こうにはカイトがいるのよ?勝てるわけがないじゃない。最初のプランでは一緒にダンジョン攻略して常に監視するはずだったのに……ねえ、ダンジョンに着いたら謝って取り消しましょう」


「い、嫌ですわ!たとえ勝ち目が無くとも、一度口にしたことを取り消すなんてパーマストン侯爵家の恥ですわ!」


 リリーナは決して悪い子ではないのだが、貴族特有のプライドのせいで意固地なところがあって、リューネはため息をつくしかなかった。

 しかし、意外なことにセリアは目を輝かせていた。


「ふふふ、そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。私には秘策があります」


 リューネは直感的に妹が変な事を考えていると思いながら、黙って聞いていると予想外にまともな案だった。


「確かに最深部への競争では勝ち目はありません。だからカイト君の苦手な競技を変えてしまいましょう」


「それなら勝ち目はあるかもしれないけど具体的にどうするのよ?」


「今向かっているC級ダンジョン『クリスタルホール』は豊かな鉱山資源が特色で、その鉱物を食べるメタルリザードが生息しています。そのメタルリザードを倒した数を競うんです」


「確かに単純な競争よりはチャンスがありそうだけど、それでもカイトに勝てる気がしないわね……」


「いえ、最強で完璧で素敵なカイト君にも実は欠点があるんです……それはズバリ強すぎること!メタルリザードは非常に感覚が鋭くて臆病だから、強い外敵から逃げて姿を隠す習性があるんです」


 それを聞いたリューネとリリーナの表情はパッと明るくなった。


「それなら実質5対2……これで姉としての威厳を……ふふふ……」


「流石はセリアさん!それでは早速、競技の変更を私の風魔法であちらの馬車の窓に手紙を投げ入れて伝えますわ」


 こうして浮かれている三人とは対照的にフェリスとパレットは冷静……というよりも悲観的な顔をしていた。


「パレット先生……ボク……たぶん失敗すると思う……カイちゃんなら何とかしちゃうと思うんだ」


「同感です。S級冒険者というのは単に強いだけでなく、ダンジョンやモンスターの知識が豊富ですから……特にカイトさんは群を抜いています。しかし、それは逆にカイトさんの素晴らしさを見れる……つまり、わからされるチャンスということでもあります」


「流石はパレット先生♪ボク達は勝っても負けても得しかしないね♪」


 そんな感じで盛り上がってきた女子グループの馬車から手紙を投げ入れられた男子グループの馬車内では――


「はーはっはっは、ただの競争では美しさがないと気付いて競技を変更するなんて!ああ!リリーナも美というものを少しずつ理解してきたようだね!」


 そう言って狭い馬車の中で立ち上がってバラの花びらをまき散らすドレイクの手が握っている手紙には、



『親愛なるドレイク様


 いかがお過ごしでしょうか?こちらの馬車の中では、闊達な意見が飛び交って充実しております。そこで今回の競争をより洗練されたものしようという案がでましたので、ルールを【最深部到達時のメタルリザードの討伐数で勝敗を決める】というものに変更することにいたしました。そして私達が負けた時の罰ゲームはそちらが決めてくださいませ。それではクリスタルホールでお会いしましょう』


 あと一時間もしないうちに到着するのに、やたらと丁寧な手紙に記されていたルール変更にカイトは向こうの意図を瞬時に見抜いていた。


「誰の案なのか知らないけど確かに俺達が不利だな。メタルリザードは気配に敏感で臆病だから俺と召喚獣の気配を察知して出てこないことを計算されてる」


 それを聞いたパチョレックは動揺を隠せず意気消沈。


「それじゃあ実質2対5だね……それにクリスタルホールってメタルリザード以外も出るよね」


「ああ、メタルリザードとは逆に強い敵にも群れで対抗しようとするカッターバットがいるから俺は少し離れてドレイクとパッチョの二人に頑張ってもらうしか……いや、逆にいけるかもしれないぞ!」


 歩くゲーム攻略本であり悪戯好き思考を持ち合わせているカイトが悪い笑顔を浮かべると、ドレイクもつられて高笑い。


「はーははは!流石はわが友!流石はわからせ召喚士!策士の顔も美しいじゃないか!」


 そんな二人とは対照的にパチョレックはオロオロして、


「あ、あの……程々にしようよ。それに僕は足を引っ張っちゃいそうだし……」


「いや、この作戦のフィニッシャーはパッチョだぞ」


「ええええ、僕!?」


「まあ落ち着けって。パッチョは基本的にラストに魔法をぶち込むだけでいいんだ。それのお膳立てを俺とドレイクがやるからさ。作戦はこうだ……」


 こうしてカイトがクリスタルホールの地図を広げて作戦を説明……そうするとあっという間に目的地に到着した。

 両グループが同時に馬車から降りるとリリーナが早速宣戦布告。


「おーほっほ、ドレイク様。罰ゲームはもう決まりましたかしら?」


「ふふっ、罰ゲームなんて必要ないさ。むしろ、この罪深い美しさの僕がこの世のあらゆる罰を代わりに受けてもいいが、せっかくだから勝負が終わるまでに考えておくとしよう」


「全く相変わらず意味の分からない事を……どうせ私達の勝利でしょうから好きになさって構いませんが、こちらはもう決めてありますわ。それはシンプルに『敗者は勝者のいう事を何でも聞く』こと……私はドレイク様が素直にSクラスに来ることを要求いたします」


 リリーナはすっかり勝った気分で罰ゲームを公言したが、わからせシスターズの面々は口には出せないような内容なので胸の内に留めている――リューネとフェリスとパレットは顔がにやけるのを抑えながらカイトにエロい事を考えていたが、セリアだけは少し毛色が違う。


(他の皆はカイト君に特殊なエロプレイを要求するつもりですね……はあ、皆すっかりカイト君のメスになってしまって……それ自体は喜ばしいことですが、私はそれよりもパチョレックさんに釘を刺さなければ……しかし、カイト君に近づくなというのは悪女みたいですね……そうです!リリーナさんには悪いですが、ドレイクさんとくっついてもらいましょう!カイト君の前でキスをするドレイクさんとパチョレックさん!そして裸になって絡み合い、遂には合体……目の間で男友達が結ばれたのを見たカイト君は脳が破壊されてノンケ一刀流を開眼する……これしかありません!)


 そんな浮ついた女子グループとは対照的に男子グループは入念な打ち合わせを終えて冷静――この時点で勝敗は決していたのだが、それが判明するのは数時間後の事だった。

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