4-4 模擬パーティー実習試験のコース選びと乱入令嬢
カイトは心配してたのが馬鹿らしくなるくらいにすんなりと模擬パーティー実習のメンバーが決まったのだが、問題はまだまだこれから。それが発覚したのはSクラスの教室で模擬パーティー実習試験のメンバー申請の用紙を記入する時だった。
「ん?実習場所を選択できるのか……どれがいいんだ?」
カイトはドレイクとパチョレックに聞いたが、ドレイクは今までメンバーが集まらず先生と組んで自動的に色々な事が決まったのでイマイチわかっていないらしく自分に薔薇の花びらを振りまいて茶を濁すし、パチョレックはカイトと同じく途中編入生で今回が初なので申し訳なさそうに首を横に振っていた。
そんな凸凹三人組を心配そうに見守っていたリューネが代わりに教えてくれた。
「まったく……先が思いやられるわね。模擬パーティー実習試験は演習のコースを選択できるのよ。それぞれのパーティーに適したものを選べるから中には戦闘を全くしないのも……そういえばセリアは去年、回復職の女子だけでパーティーを組んで治癒院で回復実習に行ってたわよね?」
リューネに話題を振られたセリアは去年の実習の様子を遠い目で振り返っていた。
「うん。回復職コースの女子の定番で、戦闘ができないヒーラー向けの実習です。回復魔法の実践訓練と将来の職場見学を兼ねた内容で、いくつかの治癒院で実際に怪我人に治癒魔法をかけるんですが……怪我が治って元気になった途端に私に求婚してくるクソオs……男性が何人もいて、ちょっぴり『わからせ』を行使して怪我人を増やしちゃったので出禁にされました♪」
セリアは笑顔で誤魔化しているがその場のメンバーはドン引き。特にBクラスにいてセリアと全く面識のないパチョレックは怯えてカイトの袖を握る正統派ヒロインムーブをしていた。
「せ、セリアさんってカイ君の婚約者なんだよね?噂ですごい聖女って聞いてたけど、凄いの方向性と次元が……」
「ははは、パッチョもすぐに慣れるよ。ちょっと思い込みが激しくて、わからせを妄信するあまりに暴走することはあるけど、優しい素敵な女の子だよ」
カイトは自然と惚気た事を言っているが、パチョレックは半信半疑で頷いていた。
「そうなんだ……カイ君もぶっ飛んでるところがあるから、お似合いだね」
パチョレックがそう言うと勝ち誇った顔をしたセリアと目があってしまい、その瞳の危険な輝きが怖くてカイトの後ろに隠れてしまった。
そんな脱線しはじめた空気を真面目なリューネが元に戻した。
「とにかく、パーティーの能力と目的に合ったコースを選ぶ必要があるの。他には騎士団志望の男子なんかは現役の騎士団の野外行軍演習に同行したりするのが人気ね」
「なるほど、ちなみにリューネとフェリスは去年は何のコースを選んだの?」
カイトは残りの婚約者二人に聞いてみると、フェリスはあっけらかんと、
「にしし♪ボクは『その日は間違いなく調子が悪くなります』って予め先生に言ってズル休みをしてたよ」
女友達が少なく未熟な召喚士だったフェリスは開き直って回避して筆記試験で補っていたが、今年はセリアとリューネと組めるのでウキウキしているようだった。
一方のリューネは苦々しい表情で、
「私は……現役女騎士団と市街地の巡回警備体験コース」
「へ~、面白そうじゃん」
「全然。危険な場所には行かないで人通りの多い場所を見回るだけの退屈なコースよ。本当はもっと実践的なコースにしたかったんだけど、他のメンバーの能力とやる気を考えるとこれが無難で……でも今年は違うわ!私たちの学年からはモンスター討伐演習が追加されるもの!」
その『モンスター討伐』というワードに飛びついたのは、自分の撒いたバラの花びらを丁寧に回収していたドレイクだった。
「モンスター討伐!ああ!恐ろしい魔物と華麗に戦う美しい僕の姿が目に浮かぶ……友よ!そのコースを希望しよう!」
せっかく集めたバラを再びばら撒くドレイク……イケメンだがナルシストすぎてついていけない女子は顔を引きつらせていたが、カイトは慣れっこなので自然と対応した。
「俺は別に他の希望は無いし……パッチョはそれでいいか?」
「う、うん。僕も二人がそういうなら……でも足を引っ張っちゃうかも……」
「安心しろよ。俺が何とかするさ。正直パッチョよりもドレイクの方が心配だけどな」
カイトはそう言いながらパチョレックの頭をポンポン……カイトは男同士の自然なスキンシップのつもりだが、セリアとフェリスはギリッと奥歯を噛みしめながら嫉妬の眼差しを向ける。
しかし、カイトとパチョレックに特別な視線を向けるのは他にも……周りにいた『バラを愛でる会』の腐女子達だった。
「キター!キマシタワ!生のカイ×パチョですわ」
「私はドレ×カイ派なのに……やだ……浮気しちゃう」
「不意打ちなんて卑怯よ!ああ!映像記憶スフィアを用意しておけば……」
「いいえ!まだ!まだ間に合うわ!私達の瞼に焼き付いているうちに紙に記録を!部室へ急ぎましょう!」
こうして周りの何人かの女子が慌ただしくいなくなった所で、リューネがカイト達に説明を再開した。
「あー……盛り上がってるところ悪いけど、希望コースは必ずしも認められるとは限らないわよ。特にモンスター討伐演習コースは危険を伴うから、優秀なパーティー限定だし、教員が付きそうから参加できるパーティーに限りがあるって話よ」
「え……それはそうか。理に適ってるね」
「カイトがいるから問題ないかもしれないけど、残りの二人はモンスターとの戦闘経験は?」
ドレイクは優雅に、パチョレックはプルプルと首を横に振った。
それを見たカイトは少し悩み始める。自分がいれば学生の演習で使われるレベルのモンスター相手なら二人のサポートも余裕だろうと思ったが、それでは二人のためにならないのではないか……カイトは今更ながら自分と組もうしなかったSクラスの男子達の気持ちが理解できた。
「そうだな……この書類の提出期限は来週だし、週末に冒険者登録をして近場のダンジョンに行ってみないか?それで問題なさそうならば、モンスター討伐演習コースを希望しよう」
そのカイトの申し出にドレイクは拍手をしながら賛成する。
「素晴らしい……流石我が友。僕達の美しい大叙事詩の1ページに相応しいプランだ」
言動はアレだが意外とまともなドレイクはカイトの案をすんなりと受け入れる……しかしパチョレックは暗い顔をしていた。
「パッチョ……嫌なら無理しなくていいんだぞ?」
「う、ううん……行くよ。僕も自分の魔法を試したいと思ってたし、これでも冒険者登録はしてあるんだ」
「へえ、意外だな」
「僕は平民だからね。15歳以上の男の平民は皆登録してるよ」
女の子にしか見えないパチョレックが言っても説得力に欠けるがカイトはとりあえず納得してダンジョン行きが決定した。
「よし、それじゃあ今週末の土曜日に朝一でドレイクの冒険者登録を済ませて、王都南東にあるC級ダンジョン『クリスタルホール』内でモンスター退治と野営訓練で一泊しよう」
こうしてカイト達はモンスター討伐演習の予行演習をする事を決定して、三人で買い出しに向かった。
そして残った婚約者三人組も提出用紙に記入を始めて、リューネがリーダーシップをとっていた。
「それじゃあ私達三人もモンスター討伐演習コース希望でいいわね?」
セリアとフェリスはカイトと同じコースがいいので、迷わず頷く。これで後は提出するだけ……と思われたが当然の乱入者――ドレイクがカイトとパーティーを組むと決めた時に鋭い視線を送っていた女子生徒だった。
「リューネさん!私も!私もあなた達のパーティーに!モンスター討伐演習コースに同行させてくださいませ!」
リューネは有り得ない光景に驚いて持っていたペンを落としてしまう――この時期にパーティーメンバーに押し入る人間が現れるのは珍しいことではない。むしろ風物詩ともいえる――リューネが驚いたのは、決して自分に弱みを見せないライバルが深々と頭を下げる姿に対してであり、思わず声が上ずってしまう。
「どうしたのリリーナ……訳を説明しなさいよ」
その言葉を聞いて顔をあげたリリーナ・パーマストンの表情から並々ならぬ事情があることがうかがえたので、リューネは気が重くなってため息をついていた。