4-3 わからせ召喚士の男友達その2 男にモテすぎる黒魔導士男の娘
「カイ君!お願いだよ!このままだと僕……僕……」
潤んだ青い宝石の如き瞳から真珠のような涙を零すのはセラ・パチョレック――カイトの男友達なのだが、男子の制服を着ていることに違和感を覚えてしまうほどの美貌――ドレイクのようなイケメン系ではなく、美少女にしか見えない男の娘系の可愛らしい顔と線の細い体つき。その美貌は異性よりも同性を惑わしていた。
「セラ・パチョレック。この私の誘いを断るとは……ぐっ!わからせのカイトか……」
セラを追い回していたBクラスの男子はカイトを見ると苦々し気な表情で撤退していった。
「相変わらずだな……まあパッチョだし仕方ない気も……」
「仕方なくないよ。僕は男だって言ってるのに……どうして……」
怯えながら不思議がるセラにカイトは『むしろ男だから……』という生々しい説明をするのは気が引けて黙ってしまった。
そんなセラことパチョレックと仲良くなったのはドレイクよりも少し後、『適正別自然系魔法演習授業』でのこと――
「あ~あ、やっぱ俺って水属性は相性良くないなあ」
カイトは他の生徒とつるまないで一人で座禅を組んで魔力を練って水属性の戦闘魔法の練習をしているが上手くいかない。しかしカイトだけが落ちこぼれというわけでもない。適正魔法は基本的に自然系とオーラ系の二つを各人が有している――カイトの場合、自然系は水属性でオーラ系は気属性――学園ではそれぞれの適正魔法の訓練をするのが必修となっているが、適正魔法だからといっても必ず上手に扱えるとは限らない。実際、カイトだけでなくセリアやフェリスは典型的なオーラ系寄りで自然系のスペルをほとんど習得できていない。そういうタイプは珍しくなく、リューネのように火属性と光属性をバランスよく習得して混合魔法まで使えるほうが圧倒的にレアケースだった。
そんな実情のため『適正別魔法演習授業』はガッツリとカリキュラムが組まれているわけでなく、指定の場所で適正魔法を自由に練習する自由時間といった感じの緩い授業。そして、この授業には知り合いのいないカイトは一人で魔力を高める訓練ばかりしていて、水属性の魔法の練習をそこまで頑張る気もなかった。
「俺の場合はいざとなったらジュリアナを召喚すれば試験は余裕でトップだからな……それに引き換え魔導士系の皆は大変だねえ」
のんびりとしているカイトとは対照的に真剣な顔つきで講師に教えを乞う魔導士系の生徒達を眺めているとそう思わずにはいられない――カイトは特殊としても、剣士や戦士などの魔法を重視しない生徒もそこまで必死に魔法の練習をしていないが、魔導士系の生徒は別だ。彼らは自然系もオーラ系も両方扱えるようならないと、宮廷魔導士や魔法局などへの就職が絶望的になるから頑張らないわけにはいかない。
そんな彼らからすれば既に宮廷召喚士になっているカイトはやっかみの対象なので、カイトはなるべく目立たず近づかず関わらないように心がけていたのだが……
「ん?こっちから声が……」
カイトは水属性クラスが割り当てられている敷地から少し離れた建物の裏から人の声がするので、気配を消して様子を伺うとイジメの現場に遭遇……しかも普通のイジメではなかった。
「や、やめてよ……普通に魔法の練習をしようよ」
か細い女の子のような声をだすずぶ濡れの美少年――それがカイトとパチョレックのファーストコンタクト。
そんな美少年を取り囲む数名の男子達はニヤニヤと笑っていた。
「はあ?水属性の魔法練習の時間だろ?ほれ『ウォーターボール』」
リーダー格と思しき男子が低レベルのウォーターボールを唱えて水の玉をパチョレックにぶつけると、パチョレックは肉体的ダメージこそほとんど無いものの立ち上げることができない様子だった。
「う、うう……水魔法のコツを教えてくれるっていったのに……」
「へへへ、これからもっといいこと教えてやるよ。だから、これに着替えろよ」
リーダーがそう言って合図を出すと、別の男子がパチョレックにミニスカートのメイド服を投げつけたが、パチョレックはもちろん拒否した。
「こんなの着たって……僕は嫌だよ……」
「うるせえ!早く着替えろよ平民!自分でできないなら……おい、手伝ってやろうぜ」
「や、やめ!ん!んん!んむんん!」
男子が一斉にパチョレックに襲い掛かって、口をふさぎ、無理矢理服を脱がせようとする――カイトはこれがただのイジメではなく、ホモレイプの現場だと理解して止めに入る事を決意した。
「ちっ……クソホモ変態貴族が……コウベ……あいつらの有り余る元気を死なない程度に吸い取ってやれ」
カイトはコウベを召喚してエナジードレインを発動――本当は力を吸い取りすぎて危ないのだが、これだけ元気が有り余ってるなら問題ないだろうと思い、手加減も程々にコウベをけしかける。
「ぐう?何だ?ち、ちからが……あ、あぁぁぁ……」
ホモレイパー達は悲鳴をあげる余裕もなく、あっという間に力を吸い取られて昏倒する。カイトはそのまま立ち去ろうかと思ったが、パチョレックが茫然として動けない様子だったので、放っておけなくなった。
「あの~……その……大丈夫?」
「き、君は……宮廷召喚士になったって噂の『わからせ君』だよね?」
「わ、わからせ君?いや、俺はカイトって名前だよ」
「ごめんカイト君。それより助けてくれてありがとう」
「ああ、お礼はいいから、とりあえずここを離れよう。その前に『ドライ』」
カイトは生活魔法でぐっしょり濡れてしまっているパチョレックの服を乾かすとパチョレックは驚いていた。
「す、すごい……熟練使用人レベルの生活魔法だね」
パチョレックが褒めたのはお世辞ではない。水属性の戦闘魔法が苦手なカイトだったが、水関連の生活魔法の腕前はピカイチだった。
こうして二人は少し離れたところに移動して、カイトはパチョレックの話を聞いた。
「なるほどね。あいつらは君を前々から自分の執事に勧誘を……いや、あれは初めから男娼にするつもりだな」
「僕は平民だけど……黒魔導士として魔法の腕を磨かなくちゃいけないんだ。でも水魔法はどうも上手くいかなくて……」
「ああ、わかるよ。俺も水魔法はからっきしだから」
「でも生活魔法は……ねえカイト君。僕の魔法の先生になってくれないかな?水魔法は苦手でも魔法に関する知識は豊富みたいだし……それに……君なら僕に変なことをしないし」
「いや、まあ構わないけど、普通に先生に教わったほうがいいんじゃないか?」
「先生は……平民よりも貴族の子を優先しちゃうから……」
そう言って二人は魔導士系の生徒に取り囲まれている先生を見ると、てんやわんやしているので怒るよりも仕方ないという気分になっていた。
「まあそうか……わかったよ。それじゃあこれから頑張ろうなセラ」
「その……セラはちょっと女っぽいから苗字で読んで欲しいな」
「パチョレックか……じゃあ略してパッチョで。これなら女っぽくないしな」
「うん、じゃあ僕も略してカイ君って呼ぶよ」
こうしてカイトとパチョレックは友達になって、『適正別自然系魔法演習授業』では二人で魔法の練習をするようになる。すると、カイトの『わからせ召喚士』の風評のおかげでパチョレックにちょっかいを出す者もいなくなり、魔法の練習に専念できるようになったのだが別の問題も……
それは腐女子の視線とコソコソと聞こえる会話。
「まあ……今日もセラきゅんの可愛さが水魔法で引き立ってますわ」
「でゅふふ、カイ×セラ尊い」
「だめよ。二人の呼び名準拠のカイ×パチョが公式なの」
「それも違うって。パチョ×カイこそ至高」
「はあ!?セラきゅんはどう見ても受けでしょ!」
「はい解釈違い。カイト君の変態っぷりを知らないの?セリアさんからいくらでも聞けるわよ。絶対、ノーマルに攻めないで、あえて変態的な受けを楽しむタイプの変態よ」
「ぐぬぬ……それにしてもカイトさんは恐ろしいですね。セリアさん、リューネさん、パレット先生、フェリスさんでは飽き足らずついには男までわからせの範囲を広げるなんて……」
「全くです。だから私達は絶対に近づかないで、こうして二人を鑑賞しましょう」
腐女子の会話というのは、本人達は内緒話のつもりでもヒートアップしてどんどん声が大きくなるもので……離れて真面目に魔法の練習をしているカイトとパチョレックの耳にバッチリ届いていた。
「カイ君ごめんね……僕のせいでカイ君の『わからせ召喚士』の名前に新しい風評被害が……」
「気にするなよ。今更すぎて……でもこのままだとパッチョまで……そうだ!今度ドレイクに引き合わせるよ。三人でいる姿を見せれば誤解も解けるはず」
そんなカイトの安直な思いつきでパチョレックとドレイクを引き合わせると二人もすぐに仲良くなったのだが……腐女子はそんなことでは止まらなかった。
「ふあああ!カイ×パチョにドレイク王子が参戦!禁断の三角関係!」
「やっば!これヤバいって!あの三人が普通の男の友情で終わるわけが……はうう」
「気をしっかり!でも……すごいトリオが結成されたわね」
「変態だけどカッコイイ系の最強召喚士……ナルシストすぎて関わりたくない観賞用美形ハイスペ王子系竜騎士……そして守ってあげたくなる可愛すぎる男の娘系黒魔導士……そそる……だめ……創作意欲がビンビン刺激される」
「ええ、今こそランベルク学園非公認サークル『バラを愛でる会』の力を結晶して新刊を……いえ聖典をつくるのよ」
カイトの思い付きは裏目に出てしまい、ランベルク学園の一部の女子によって三人のアレな本が出回るほどの腐女子達の人気ユニットに……さらにこの三人で模擬パーティー実習試験に臨むことになってしまったので、余計に彼女たちを喜ばせることになってしまった。
おかげさまで11万PVを突破できました。
良ければブックマーク・高評価をよろしくお願いいたします。