4-2 わからせ召喚士の男友達その1 ナルシストすぎる名門貴族の美形善人竜騎士
カイトの男友達であるドレイク・ロートリンゲンは有名人だった。誰もが目を見張る美貌の銀髪の美少年で名門中の名門であるロートリンゲン公爵家の一人息子という最高の出自……なのだがクセの強い人物でもあった。
そんな彼とカイトが仲良くなったのは割と前からで、フェリスの事が落ち着いてすぐの頃……そして、まだリューネがお姉ちゃんプレイに目覚めて素直になる前――
「カイトオオオ!また私に変な魔法かけたわね!」
怒り狂ったリューネが教室でセリアとイチャイチャしているカイトに詰め寄った。
「変な魔法なんて……なんだかリューネの調子が悪そうだったから、元気づけようと思ってオリジナル支援魔法『扉を開けるとテンションアゲアゲなファンファーレが鳴る演出』を……」
「やっぱ変な魔法じゃない!私はただ寝不足でイライラしてるだけなの!それで扉を開けるたびにファンファーレが鳴って、うるさいし皆に見られるし……こんなゴミ魔法を解除しなさい!」
周りの目を忘れて声を張り上げるリューネ……不調の原因は確かに寝不足なのだが、その寝不足の原因はカイトとセリアが夜にイチャついているのを盗み見していたから……そんな事を知らないカイトは彼なりのスキンシップでからかっていた。そしてリューネの反応があまりにも良すぎるのでいたずらっ子なカイトは悪ノリしてしまう。
「うう……ひどい……俺はいつもの明るく元気なリューネに戻ってもらいたいだけで……それにオリジナル支援魔法は魔力効率が悪くて俺のSPの15%も消費するのに……ぐすん」
下手な噓泣きをするカイト……セリアもそんなカイトと一緒に姉をからかう。
「ああ……可哀想なカイト君……お姉ちゃん謝って!カイト君が泣いちゃった!お姉ちゃんを励まそうとしただけなのに!ほら!謝って!」
そんな二人の三文芝居を見せられてリューネは馬鹿馬鹿しくなって、肩の力が抜けてしまった。
「あ~もう、わかったわよ。言い過ぎたわ。でも、これじゃあ恥ずかしいから、せめてもっとマシな魔法にしてよ。とりあえず、やかましいファンファーレはやめて」
何だかんだ押しに弱いリューネにカイトは悪い笑顔を浮かべるが、その口元を手で隠しながら、
「そっか……それじゃあ落ち着く音楽に……チチンプイ!」
リューネの言質を引き出したカイトは改めでリューネにオリジナル支援魔法をかけ直した。
「ふ~ん……今度はマトモなんでしょうね?」
「もちろんさ。あ、リューネの次の講義は別棟でしょ?急いだほうがいいよ」
「あっ!そうだった!むむむ……本当はもっと言いたいことがあるけど仕方ないわね」
そう言って教室を出たリューネをカイトがニヤニヤしながら見送るので、セリアも聖女とは思えない邪悪な笑顔でカイトに尋ねた。
「カイト君……お姉ちゃんにどんな魔法をかけたんですか」
「え?さっき言った通り落ち着く音楽に変更を……正確には『階段を降りる時に壮大な音楽と神々しいキラキラ演出』をかけたから……ふふふ、今頃リューネが聖女扱いされてるかも……あはは」
そう言ってカイトが笑っていると、教室の扉がガラッと大きな音をたてて開く。カイトはてっきり再び怒ったリューネが戻って来たのかと思ったら、そこにいたのは銀髪の美少年――カイトは自分には無関係な人物だと思って気にしなかったが、その男子はズンズンと一直線にカイトに向かってきて、
「君なのかい?リューネさんにあの魔法をかけたのは?」
「そ、そうだけど……」
カイトはこの後の展開が予想できた。きっとリューネに惚れている男子がイタズラした自分に怒って決闘を……めんどうくさいなあと思いつつも、少し喜んでいた。というのもセリア絡みでは似たような展開が何度かあったのだが、リューネでは初めてのこと――そう振り返ると、女子にばかりモテるリューネにも男性ファンがいたことがカイトには少し嬉しかったのだ。
しかし、そんなカイトの予想は大外れ。
「素晴らしい!なんて素晴らしい魔法なんだ!君は素晴らしい魔法使い……いや、真の芸術の理解者だよ!」
「あ、ありがとう。俺のオリジナル支援魔法で褒められたのは初めてだよ」
それは本当だった。カイトの『オリジナル支援魔法』は戦闘では使えないような演出効果を自分で設定して付与する燃費の悪い魔法でイタズラくらいしか使えなかった。しかし、繊細な魔力操作の練習にはもってこいなのでカイトはSPが余っている非戦闘時なんかに修行がてら周りの人間にかけて遊んでいた。ピピンには『頭皮の輝きアップ』をバレないギリギリの絶妙な調整をして、マリアには『エロ漫画風擬音演出』で魅力を上げて楽しんで……おかげでカイトの魔力操作の腕はメキメキ上がったが、それの代償に説教をくらうこともしばしば……だから褒められた事が純粋に嬉しかった。
そんな突然の理解者が興奮しながらペラペラと一人で勝手に盛り上がっている。
「ああ!その魔法が使えれば、僕は自分で薔薇の花びらを撒くことも、その後片付けをする必要もなくなる……なんて画期的魔法なんだ!世紀の大発明だよ!」
「いやあ、それほどでも……そんなに褒められちゃったらサービスしたくなっちゃうじゃないか……チンカラホイッ」
カイトは美少年の美しさを最大限引き出すような『少女漫画風薔薇&キラキラ演出』をかけてあげると予想通り大絶賛。
「なんと!ああ!ただでさえ美しい僕が!これ以上美しくなれないとスランプだったのに……ありがとう!君は僕の友……いや心の友!今日から親友さ!はははは!」
勝手に親友認定して結局名前も名乗らずに嬉しそうに教室を飛び出していった少年にカイトは笑顔で手を振りながら、
「……で、結局あいつは誰?」
キョトンとして首を傾げるカイトに男子に興味のないセリアが淡々と教えてくれる。
「彼はドレイク・ロートリンゲン……Aクラス所属の名門貴族の一人息子でS級の美貌を持つSS級ナルシストの竜騎士です」
「へ~、そう聞くとあんまり関わりたくないタイプだけど悪い奴じゃなさそうだったね」
「ええ、お坊ちゃま特有のお人好しというか……身分や老若男女問わず弱い者を見ると助けずにはいられない善人なんですけど、あのテンションに付いていけなくて浮いてる感じですね」
「な、なるほどね……周りの反応が微妙な理由が少しわかった気がするよ」
と、カイトが呑気なことを言っていると、今度こそリューネが慌てた様子で教室に駆け込んできた。
「カイト!お願い!早くこの魔法を解除して!ついさっきドレイクに同胞認定されるとこだったの!このままだと、あいつと同じナルシスト仲間だと思われちゃう!」
切迫した表情で怒る余裕もないくらい必死に懇願してくるリューネを見たカイトは流石にやりすぎたと反省して、これ以降オリジナル支援魔法はドレイク専用の魔法になっていき、気がついたら無二の親友に……
そして現在――
「ははは!去年も皆がこの僕の美しさに気後れしてしまってね!その時は先生とコンビを組んだのだが……今年はカイトという心の友が!」
「ああ、ドレイクは超名門貴族の跡取りだから試験結果の就職への影響なんて気にせず俺と組めるな。あ、そうすると……パッチョはどうなるんだろう」
カイトはもう一人の男友達の境遇を考えると拒否されてしまう……あるいは誘わない方がいいのかもしれないとも考え始めたが、能天気なドレイクは全く気にする気配がなくカイトの手を引っ張った。
「さあ友よ!もう一人の仲間……パッキーを勧誘しようではないか!早くしないと他のグループに攫われて……いや、そこでパッキーをかけて美しい決闘を!それもいい!」
カイトはドレイクと違って無意味な決闘はごめんだったが、彼の言うことも一理あると思って、Bクラスに向かうと悪い予感は的中していた。お目当ての男友達が他のグループからの勧誘から逃げている真っ最中で、向こうの方からカイトの胸に飛び込んできた。
「カイ君!僕をカイ君のパーティーに入れてよ!」
涙目でパーティー加入を申し出る男友達……その顔はあまりにも可憐で美少女にしか見えないが、カイトの数少ないBクラスの男友達セラ・パチョレックだった
男友達その2も続けて投稿します