4-1 異世界でも恐怖ワード『グループを作ってください』
「模擬パーティー実習試験?」
教室の掲示板に張り出された試験の告知にカイトはキョトンとした顔に――全く聞いたことのない試験の張り紙には『来週中にグループを作って申請してください』と書かれていたので余計に困惑していた。ランベルク学園の授業は大学の講義形式に近い形で行われており、必修科目だけは各クラスで受けるが、他の選択科目は別々の教室で受ける。それは試験も同様で座学であろうと魔法の実技であろうと、それぞれの講義ごとに実施されていたので、そういう垣根を超えた試験に戸惑いを隠せなかった。
そんなカイトの様子に気が付いたリューネが先輩風を吹かせる。
「ああ、カイトは始めてなのね……年に二回、前期後期の終わりにある特殊な実技試験よ。普段の個人の力を測る試験とは違って、それでは測れない集団時の連携や適正を判断するための試験だけど……告知が張り出されたんだから早くパーティーを決めなくちゃね」
「え?学園内の生徒でパーティーを組むの?」
「当たり前でしょ。原則としては3~4人のパーティーを組んで試験に臨むのよ」
それを聞いたカイトは少しホッとした。
「なんだ。それならパレット先生以外の『聖☆わからせ隊』でちょうど四人いるから問題なしだね」
カイトはニコニコしていたが、それとは対照的にリューネは残念そうに溜息をついた。そんなリューネの様子を見てソワソワするカイトに涙目のセリアが追加説明を始めた。
「うう……ぐすっ……本当は私もカイト君と同じパーティーになりたいんです……でも決まりで男女混合は認められていなくて……」
「え!?そうなの!?」
リューネとセリアが残念そうな顔をしている理由がわかったカイトに、同じくガッカリした表情のフェリスが理由を補足した。
「うん。泊りがけの実習だからね。男女が夜を共に過ごすのはNGなんだよ……あ♪でも、ボク達は親公認の婚約者なんだからワンチャンいけるかも?」
フェリスは抜け道を見つけたと思って笑顔になるがリューネが即否定する。
「だめよ。毎年そういう理屈で男女混合パーティーを申請するグループがあるけど認められたことは無いわ。それどころか兄妹でさえダメなんだから諦めなさい」
「そっかあ……それじゃあ、ボクとセリアお姉ちゃんとリューネちゃんで三人パーティーを組めるけどカイちゃんは……」
婚約者三人はジッとカイトを見つめる――その視線はボッチを憐れむ可哀想なものを見る目――カイトはそんな憐憫の眼差しに耐え切れなかった。
「な、なんだよその目は!俺にだって男友達はいるさ!なあ皆!俺とパーティーを組んでくれるよね?」
カイトは大きな声でSクラスの男子に呼びかけた。実際、カイトはすっかり男子生徒とは仲良くなっているのだが、反応は芳しくない。ほとんどの男子生徒は目線をそらしており、誰もカイトの呼びかけに答えないので、カイトはショックを受けてヘナヘナと座り込んでしまった。
「そ、そんな……もしかして俺って嫌われてる……女子に警戒されるのは仕方ないと諦めたけど……まさか男子にも……」
そんなカイトを見かねて『テイマー・召喚士合同クラス』で特に仲の良いテイマーのロッシュが歩み寄ってきたので、カイトを腰に抱き着いた。
「ロッシュ!信じてたよ!俺とパーティーを組んでくれるんだね?」
「いや、その……すまん。俺はもう4人組のパーティーが決まってるし……Sクラスの他の男子もカイトと組む奴はいないと思うぞ」
「ええ、何で!?俺の何が悪いの!?ダメなところがあるんなら直すから見捨てないでよ!」
そんな女々しく泣きつくカイトを落ち着かせるために、ロッシュは丁寧に理由を説明してくれた。
「カイトが嫌いとかそういう問題じゃないんだよ。むしろカイトと組みたい奴もいるだろうが、あえて我慢しているんだ」
「我慢?なんでさ?」
「もう宮廷召喚士の官職についているカイトにはピンとこないだろうけど、この試験は将来の進路に大きく関わるんだよ。騎士とかの武官なんかは特にこの試験の内容を重要視する傾向があってさ……その際、S級冒険者で宮廷召喚士のお前みたいな優秀すぎる人間がパーティーにいたらどうなると思う?」
そこまで聞いてカイトは大体の事を理解した。
「ああ……自分でいうのもアレだけど、どんなに優秀な結果を出しても俺がいたからできたって判断されかねないって事か……確かにそれなら同じくらいの実力のメンバーでパーティーを組むのが無難だね」
「悪いな、そういうことなんだ……Sクラスは何だかんだ真面目な奴が多いからカイトの力を借りずに自分の実力を出し切りたいんだよ……逆にBクラスの見栄っ張りのボンボン貴族なら……いや、お前はそういう奴からは嫌われてるもんな」
ロッシュの言う通りなのでカイトは途方に暮れていた。Sクラスの男子は学園卒業後に騎士や役人になるものがほとんどだ。中には将来的に領主を継ぐ予定の者もいるが、最初から領地にこもって親の領地経営の手伝いをするよりも貴族に顔を売るために若いうちは宮廷で働くのが好ましいという風潮があった。もちろん貴族の子供がそんな殊勝な心掛けの者ばかりではなく、卒業後は領主の地位を継ぐまで王都や自分の領地で遊んで暮らすボンボンもいる。Bクラスのダメダメ貴族の大半がこういうタイプで、そういう輩はカイトを敵視しているからパーティーを組むのは難しい。
そんなカイトを気の毒に思うロッシュだったが、何もしてあげられることはなかった。
「そういう事情なんだ。かくいう俺もモンスター管理局を志望していて、やっぱりそこも模擬パーティー実習が大事で……だからパーティーメンバーで力になれなくてすまないな。とにかくカイトの場合は他のクラスの知り合いをあたった方がいいと思うぞ」
「わかったよ。アドバイスありがとうねロッシュ」
こうして状況を把握したカイトは冷静に考えて黙り込む。
そんなカイトにリューネが気を使って、普段より優しい声で、
「カイト……落ち込まないで。毎年あんたみたいなボッt……余っちゃう生徒がでるから、最終的に余った者同士で先生が調整してくれたり……中には先生と二人組になって試験を受ける人も……」
「いやいや、変に気を使わないでよ。確かにSクラスの男子は無理そうだけど、何人か心当たりのある奴が……いや、そろそろ向こうの方から来るんじゃ……」
カイトがそう言うと完璧なタイミングで心当たりその1が現れる。
「やあ、カイト!心の友よ!喜びたまえ、君にこの僕の模擬パーティー実習のメンバーになる権利をプレゼントしにきたよ」
SクラスにAクラスの銀髪の美少年が派手なポーズで登場すると、多くの人間が関わらないように目を逸らすが、カイトは満面の笑みで彼を歓迎した。
「ドレイク!お前を信じてたよ!あとはパッチョも入れれば模擬パーティーの完成だ!」
そう言って抱き合ってはしゃぐ二人組の光景に、セリア達婚約者三人組はカイトのボッチが回避できて一安心していたが、ある女子生徒は鋭い視線を送っていた。