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3-14 ルミナ姫の真の成長とレインボーカマボコ

 目的のレインボーホエールの鱗を手に入れてダンジョンを脱出した王都へ帰還する船の中で――


「それではルミナ姫様、こちらがアカオニガニのボイルです」


 カイトはアイテムボックスの調理器具でアカオニガニを簡単に調理してルミナに差し出すと、


「カニさん……ルミナが直接殺したわけではありませんが、同じパーティーにいたのですから……ルミナにも命を奪った責任があるですの……」


 ルミナは腹を決めて、新鮮なボイルガニにかぶりつく。


「はふ……美味しいですの!プリプリですの!」


 魚はまだ無理なようだが、さっきまで生きていたカニを堪能するルミナをみたカイトは、今回のダンジョンの戦利品以上の手ごたえを感じていた。

 その他のメンバーもリラックスムードで、操竜をピピンに丸投げしたビッケスは祝杯代わりにアカオニガニのカニみそ甲羅酒をチビチビやりながら、カイトに絡んでいた。


「ふう……あのダンジョンは総合的に判断して非公開になるだろうね。立地が悪すぎるのに、レインボーホエールの鱗は入手法が特殊すぎて、このカニ以外は目ぼしい素材もなさそうだし……」


「そうですね。虹の鱗を手に入れるには特殊な歌が必要だなんて……セリアさんがいなかったら無駄足を踏むところでした」


「それにしてもセリア嬢ちゃんをあそこまでメスとして調教するなんて恐ろしい男だよ……カイト坊や、今からでも本家で正しい性教育を受けたらどうかね?私の部下の次期メイド長は少し胸が小さいけど黒髪の美人で房中術のプロだから、いろんな事を優しく教えてくれるはずさ」


「け、結構です!あと、俺はセリアさんを調教なんてしてません!」


 こんなやり取りをしている反対側で、再び船酔いでダウンしているマーリェンをセリアが看病していた。


「おえっぷ……やっぱりアタイみたいなオオカミには船の上なんて合わないよ……」


「ふふふ、大人しくしてれば可愛らしいですね。また元気になったら今度こそカイト君をかけて白黒つけましょう」


「いや、やめとくよ。あんな熱いラブシーン見せつけられたらアタイも気が引けちまう」


「あらら、随分物分かりがいいんですね。なんだか拍子抜けです」


「む~、アイツが気にいったのは強さと匂いなんだけど……なんだか懐かしい匂いで、妹を思い出して気が昂って、家族が欲しいって欲求が暴走しちまうんだよ」


「妹さんがいるんですか?」


「ああ、生き別れちまって5年以上会ってないけどさ。それにしても……クンクン…アンタからも似た匂いが……アンタが男だったらなあ」


「ふふふ、私……女もイケますよ♡」


「ちょっ、やめろ!アタイはノンケなんだ!キャウウ!尻尾の付け根はらめえぇ!」


 こんなカオスな帰りの船旅もあっという間で、夕刻前に王都の港に到着――


「それじゃあ、私はギルドに戻って報告書を作るから、ここでバイバイだね」


 ビッケスはそう言って別れて、あとはルミナを王宮に帰して王に報告するだけのはずだったが……


「カイトさん……あのお魚さん達はなんですの?」


 ルミナが指差す先には、前歯が突き出たグロテスクな見た目の魚――それが港で漁船の網の手入れをしている漁師の隣に乱雑に積み上げられていた。


「さあ……小さめの魚みたいですが、随分たくさん獲れたようですね。しかし、商品にするという雰囲気でも……」


「行って聞いてみましょうですの」


 一行はルミナに引っ張られるようにその漁師に近づくと、カイトがルミナの代わりに漁師に尋ねた。


「作業中にすいません。その積み上げてる魚は何ですか?」


 単調な網の手入れをしていた漁師は話し相手が現れたのが嬉しいのか嫌そうな顔もせずに対応してくれる。


「ああ、こいつか?正式名称は知らないけど漁師の間ではネズミウオって呼ばれてるヤツだよ」


「ネズミウオ……あんまり美味しくなさそうですね」


「いや、毒も無いし味自体も悪くないが、見た目は悪いし網を噛んで傷つけるし、肝心の身は小さくて食える部分が少ないうえに骨っぽくて売り物にならねえ漁師の嫌われものさ。おまけに今年は大量発生して、たまらねえよ」


 その話を聞いたカイトはダンジョンに向かう途中で遭遇した密漁船が脳裏に浮かんだ。


「それって外国もですか?」


「そうらしいな。特にベイヒン諸島の方はもっとひどいらしく、こっちはマシなほうだぜ」


 それを聞いたカイトがなるほどと相槌を打っていると、ルミナが会話に入ってきて、


「それで……このネズミウオさんたちはどうするですの?」


「ん?このまま放っておくよ。野良猫が嫌そうに食ってくれるし、スラムのガキが勝手に処分してくれるさ。もっとも、食べるというよりも、乾燥させて砕いて肥料にする生ゴミの一部らしいが、骨っぽいからそいつらにも嫌われてるがな」


 カイトはスラムの子供のたくましさに感心していたが、ルミナは納得していない様子だった。


「そんな……せっかく獲って殺してしまったのに食べないなんて……カイトさん……これを美味しく食べる方法はないですの?」


 再びお姫様のワガママに振り回されそうになるカイトだったが今度は乗り気な様子で、ネズミウオを手に持ってマジマジと観察していた。


「これは……ルミナ姫様、これを調理したものを例の会食に出してよろしいでしょうか?ベイヒン諸島連合もネズミウオに困っているならば、美味しい調理法を知ることができれば喜ばれるかと」


「それは名案ですの。私の魚嫌いのせいで散々振り回しておいて申し訳ありませんが、改めてお願いしますですの」


 気高く指示を出すルミナから魚嫌いのお子様から脱皮しようとする意志を感じられる――カイトは、今回のダンジョン探索に同行させて正解だったと確信していた。


「しかと承りました。さっそく帰宅して試作してみます」


 こうして新たな追加指令を受けたカイトは、ルミナの王宮への送迎と王への報告をピピンに任せて、ネズミウオを漁師からもらってセリアと帰宅してキッチンへ――


「カイト君、このブサイクな魚が本当に外交の場に出せる料理になるんですか?」


「もちろん。セリアさんの力を借りれば尚更」


「私の力?任せてください!」


 おだてられたセリアは腕まくりしてスタンバイしたが、カイトはまずは下ごしらえとして、ネズミウオを手際よく捌いて、皮と骨をとって綺麗な白身を取り出す。


「うわあ……見た目のわりに身は白くて綺麗ですけど、食べられる部分が本当に少ないんですね」


「一匹だけだとね。じゃあ、俺はこれをドンドン捌くから、セリアさんは自慢のビーナスハンドでぐちゃぐちゃのミンチにして欲しい」


「了解です!せえあっ!」


 セリアは気合を入れて握りつぶしていくと、あっという間にネズミウオのすり身が大量にできた。


「あとは味を調えて成形して蒸せばカマボコの完成なんでけど……う~ん、これだと地味だなあ」


「それならレインボーホエールの鱗も少しだけ混ぜたらどうですか?」


「名案だね。これなら魚だけの高級カマボコが作れるよ」


 こうしてレインボーホエールの鱗を粉末状にして混ぜる事でキラキラと輝く眩いカマボコが完成……それと同時にリューネとフェリスが帰宅した。


「あっ!セリア!あんた、いきなり『神のお告げが』とか言って早退したと思ったら、やっぱりカイトと一緒だったのね!」


 そんな憤慨するリューネとは対照的に、目ざといフェリスはカマボコの存在に気がついて、


「ねえねえ、このキラキラしたの食べ物なの?」


「ああ、せっかくだから皆で試食しないか?」


 そのカイトの呼びかけで世界初の「レインボーカマボコ」の試食が始まった。

 好奇心旺盛なフェリスが真っ先にパクッとかみつく。


「あむっ……え?これ魚なの?あ、でも嚙めば嚙むほど魚の旨味が……うん、魚臭さがないけど、しっかり魚の味がして美味しい」


 それに続いてリューネも恐る恐る口に入れた。


「モグモグ……虹色に光るからビックリしたけど美味しいわね。やっぱり特殊な食材なの?」


「このカマボコのほとんどは廃棄処分扱いのネズミウオで、あとの味付けは塩とレインボーホエールの鱗の粉末だけだよ」


 そうカイトが解説するとセリアが割って入って、


「それプラス愛です!その食材を手に入れるために、私はモンスターの真ん中で裸になって、体に愛を刻んでラブソングを歌い、カイト君とキスをしたんです!」


 それを聞いたリューネとフェリスはガタッと立ち上がってカイトに無言でにじり寄る。

 そのプレッシャーにカイトはオロオロして狼狽しながら釈明した。


「ち、違う!いや、違わないけど言い方が!俺は真面目に仕事してたんだってば!セリアさん、しっかり説明して二人の誤解を解いてよおおお!」


 少し締まらない形ではあったが。こうしてベイヒン諸島連合の会食用の魚料理が完成した。

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[気になる点] マーリェンの妹…登場の予定は…姉妹丼は…
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