3-11 ほのぼのダンジョン攻略 聖女のカニ狩りと姫様の成長+発情ワンコの躾
「わあ、洞窟なのに明るいですの!」
虹の吹き穴はレインボーホエールの巣穴の役割をしているので、通常のダンジョンよりも内部は広くて開放感があり、ルミナの声が遠くまで反響する。
「ルミナ姫様、このダンジョンにはヒカリゴケが繁茂しているので明るいのです。しかし、明るいからといって油断してはいけません。こういう整った環境にはモンスターにとっても好都合で……」
カイトがルミナをたしなめていると、ダンジョンの奥からモンスターが現れる。
「カイトさん、あのカニさんは何ですの?」
「あれはアカオニガニです。雑食性でレインボーホエールの体の汚れなんかも綺麗にして共生関係なのですが……俺達は歓迎されていないみたいですね」
カイトの説明が終わるのを待っていたかのように、大型犬サイズの赤いトゲトゲしたカニの群れが襲い掛かってくる――それをセリアが迎撃……というよりも一方的に蹂躙した。
「はあっ!せいっ!たあっ!そいっ……って、見た目のわりに強く無いですね」
セリアが一撃必殺で確実に仕留めていくのをビッケスは観察してアカオニガニの戦闘力を分析していた。
「防御力が少し高いだけで単体の戦闘力はCよりのD級……ただ群れで襲ってくるからC級に分類したほうが良さそうだねえ」
意外と真面目に仕事しているビッケスにカイトは耳寄り情報を教える。
「戦闘力の割には、殻は硬くて軽いので防具の素材になりますし……なにより美味しいらしいですよ」
「んんん……そうなると思ったよりも経済価値が高いダンジョンに……う~ん、困った困った」
「え、困るんですか?」
「扱い辛いのさ。立地条件が悪いのに経済価値が高いとなると、冒険者ギルドとしては管理が大変だから……幸いこの辺りは王国直轄領だから一般冒険者に公開しないで、王家の私有地扱いにした方が無難さ」
冒険者ギルドはダンジョンを経済性や安全性などの様々な尺度で査定することで、ランクの格付けを行い、冒険者の入場規制をしたりする。この『虹の吹き穴』においては、入り口が海の中で、おまけに近くには人が行き来できる浜も無くて立地条件がかなり悪い。そうなると管理が難しくなり、冒険者の安全も守れないので、経済価値があったとしても下手に公開しない方がいいというのがビッケスの判断だった。
「そっか……バブルバリアとか使って海に潜れない人には、ダンジョンに到達すること自体が困難ですから、確かに無謀な冒険者には危険なダンジョンですね」
そんなやり取りをしている間にセリアがアカオニガニの群れを殲滅していた。
「カイト君!これも食材になるんですよね?身が傷つかないよう丁寧に倒しましたから、新鮮なうちにアイテムボックスにしまっちゃいましょう」
「あ、うん。助かるよ」
変態な事を除けばよくできた女性であるセリアが賢妻アピールをしながら、カイトと一緒にアカオニガニを回収する。
そんな二人にルミナがパタパタと駆け寄って、
「カイトさん、そのカニさん達を食べるですの?」
「そうです。命を粗末に扱わずに、食材としていただく事が一番の供養になると思います」
それを聞いたルミナは俯いてしまった。
「ルミナは……ルミナは刺身になったマンムルを結局食べられなかったですの。供養できなかったですの」
「当時の姫様は小さかったのですから仕方ありません。それでしたら、このアカオニガニを帰りに一緒に食べませんか?」
そのカイトの言葉を聞いたルミナはキリッとした表情になっていた。
「はい。押しかけるような形ですが同じパーティーになったのですから、同じご飯を食べるのが流儀ですの……きっとお父様もこういうのを見越して……ルミナを大人にするために同行させたと思うですの」
父に似て基本的には聡明なルミナの反応にカイトが笑みをこぼすと、セリアが横やりを入れる。
「それではルミナ姫様。カイト君の最高のパートナーで正妻である私がアカオニガニを倒しますから、姫様は護衛のワンちゃんと一緒に回収をしてください」
「はい。ルミナもパーティーメンバーとして頑張りますの」
こうしてセリアが先陣を切ってアカオニガニを撃退、それをルミナ達が回収するという分業が成立したので、スムーズに進むことができた。
こんな風に即席パーティーが順調な要因はもう一つ――
「スンスン……このダンジョンには危険なトラップの類はなさそうだね。凶暴なモンスターもカニばかりで他のモンスターは臆病で逃げてくから、アタイ達には楽勝すぎだよ」
マーリェンの鼻が危険なトラップやモンスターを検知してくれるので、心理面で随分楽ができている。これで移動は問題ないのだが、本命のレインボーホエールは現れないので、カイトはマーリェンに確認する。
「マーリェンさん、カニ系以外のモンスターの匂いはどうですか?」
「スンスン……周りは甲殻類の匂いばかりで……大型モンスターの匂いがダンジョンの奥から……それもなかなかの数だよ」
「そこがレインボーホエールの巣穴で間違いないですね。このダンジョンの最奥は地底湖になっていて、そこで求愛をしてると思われます」
その話を聞いたマーリェンは警戒を続けながらも、スルスルとカイトにすり寄ってくる。
「おいおい、アタイ達はこれから鯨の乱交パーティー会場に殴り込みに行くのかい?姫様の教育に悪影響じゃないか……まったく、どう落とし前つける気だい?」
「い、いや……だって連れてように言ったのは王様だし……」
「それに……鯨どもが幸せそうにズコバコしてるのに、見るだけでお預けなんて……噂の『わからせ召喚士』は随分意地悪なんだね」
マーリェンは文句を言いながらも、大きな胸をカイトの腕に擦り付けながら、熱い吐息をカイトの耳に吹きかけていた。
「なあ……いいだろう?アンタのどんな変態プレイも受け入れてやるから……ただでさえ船酔いでクラクラしてるのに、アンタの匂いを嗅いでると体が火照って、切ないんだよ……アンタは獣人の女は趣味じゃないのかい?」
「そ、そういうわけじゃ……って、マーリェンは強い男なら誰だっていいんですか?」
「人をヤリマンビッチ扱いなんて酷いじゃないか。もちろん強さは大事だけど……スンスン……やっぱりアンタの匂いは特別だよ。今なら一発で受精して着床する自信がある……アンタ……獣人の血が混じってるんじゃ?」
「俺の元いた世界には男はオオカミだって格言がありますが、俺は純人間です」
「オオカミなのかい?じゃあ、人狼種のアタイとは相性バッチリ。きっとアッチの相性もバッチリだろうから……もう……もう我慢でk……キャンッ」
いきなり服を脱ぎだそうとしたマーリェンの後頭部にチョップをくらわせて止めたのはビッケスだった。
「ほら、発情期のワン公。そろそろ目的地だろう?サカってないで、姫様のそばにいてやりな」
ビッケスのチョップには微弱ながら電気を帯びていたので、ショック療法でマーリェンは正気に戻ってルミナのそばに……こうして目的地である『虹の吹き穴』の最深部に到着した。