3-10 スパイラル召喚『テンペストペガサス』と未発見ダンジョン突入
密漁船の発見とピピンとビッケスの痴話喧嘩以外のトラブルがなかったこともあり、港を出て一時間弱で目的地に到着――
船をとめたビッケスは海を見るとぼそぼそと呟いた。
「この潮の流れの速さは……なるほど、ここにお宝があるという確信が無いと誰も飛び込もうとしないだろうさ」
その隣でカイトもあちこちで渦巻いている海を見て納得した。
「近くの陸地も切り立った断崖しかありませんからね。しかも、なまじっか王都に近いから灯台下暗しってやつですよ」
「ああ、トキョボ山の虹の現象を調査するために、山に登ったり穴を掘った冒険者はいたそうだが、まさか海からとは……で、具体的にどうやって海に潜るのさ?」
「俺の召喚獣の水魔法を使いますから、特別な準備はいらないんですが……」
そんな会話を交わすカイトとビッケスの後ろでセリアとルミナが盛り上がっている――この短い船旅ですっかり打ち解けていた。
「いいですかルミナ姫様。愛の力が……わからせ力があれば水の中でも大丈夫です」
「はい。つまり、わからせ力で苦しくないということですの?」
「いいえ、苦しいですよ。しかし、水中で呼吸のできない苦しみを快感に変える……つまり『水責め窒息プレイ』だと思えばいいのです」
「さすがセリアさんですの!大人の発想ですの!」
短時間で姫様に悪い影響を与えている聖女に皆が閉口――護衛のマーリェンは船酔いが完治しなくてセリアを止める元気がなかった。ということはカイトの出番だ。
「セリアさん……意気込んでるところ悪いけど、召喚獣の魔法を使うから窒息の心配はないよ」
「え、そうなんですか?せっかく姫様に大人の世界を教えられると思ったのに……」
そう言ってしょげかえるセリアの背中をさすって慰めるルミナ……そんな二人を尻目にビッケスはカイトに、
「それで、これからダンジョンに行くわけだけど船の留守番を決めないとね」
「船の留守番?」
「そりゃそうさ。全員で行ったら船が無防備になっちまう。メインのカイト坊やとダンジョン調査の冒険者ギルド代表の私は確定として……」
ビッケスが他のメンバーを見ると全員行く気満々。
「ルミナはレインボーホエールさんの無事を見届けるですの」
「アタイは姫様が行くんだから勿論いくよ」
この主従が行くのは既定路線だから仕方ないとして、問題はベルリオーズ父娘であった。
「私はカイト君に付いてきます!今回に限っては、放置プレイでは満足できません!置いてかれても、泳いでついてます!」
清らかな聖女の瞳は狂気でギラギラと光っている。セリアの本気が全員に伝わると、そのしわ寄せは自然と常識人のピピンへ……
「仕方ない。私が残ろう……カイト、姫様や皆を頼んだぞ」
そのピピンの言葉に残りのメンバーはホッと胸を撫でおろす――実力面でも人格面でも一番安定感のあるピピンが船を守ってくれる方が、クレイジーわからされ願望変態聖女より安心できるからだ。
こうして探索メンバーが決まったので、カイトが早速準備に取り掛かる。
「それじゃあジュリアナ、『バブルバリア』を頼むよ」
カイトは水属性のケルピーを召喚して指示を出すと、いざ海の中へ……と思われたが、ジュリアナは5人のメンバーを見ると首を横に振っている。
「あれ……もしかして店員オーバー?」
「ブルルゥ……」
ジュリアナはコクコクと頷く。本来は一人用の『バブルバリア』を5人……しかも、その大半がS級ステータスなのでバリア内からの魔力の圧力で余計に不安定になることが予想された。
「カイト君、バリアを五つに分けるのはどうですか?」
「いや、それだと海流で皆がバラバラになるかもしれない……まあ、大丈夫だよ。ミミーでておいで」
カイトに召喚されたのは風属性の兎――これから海に潜るのに船の上に召喚されたのが馬と兎というのも少しシュールだった。事実、カイトの召喚獣の欠点は12体もいるのに水中を得意とする召喚獣が少ない事だったが、スパイラル召喚による圧倒的なステータスによる力技で解決することが可能だ。
カイトは集中力を高めてスパイラル召喚を始めて、自然を操る天馬を呼び出すための詠唱をする。
「地上の罪が溢れ出し 終焉の嵐が逆巻く時 裁きの使者が舞い降りる スパイラル召喚 テンペストペガサス」
カイトはミミーをコード化して、海上に螺旋魔法陣を張ってスパイラル召喚――水属性のジュリアナに風属性が追加されて、天変地異を引き起こすペガサスが誕生――膨大な魔力が逆巻くスパイラル召喚の迫力は凄まじかった。間近で見たことのある人間はほとんどいなかったので、即席のパーティーメンバーの反応は様々で……
「はあ……はあ……すごいです……強くて美しいペガサス……もし私が戦ったら……一撃で戦闘不能に……無様に命乞いをする私の上に荒ぶったペガサスが……そしてウマの巨大なイチモツで私の聖域を一突き……だめ……まだカイト君も入れてないのに……でもカイト君の召喚獣に犯されるなら実質カイト君とのプレイ……」
恍惚の表情を浮かべながらペガサスとの獣姦妄想をし始める聖女の反応は完全に異端で、他のメンバーは頼もしさと恐ろしさが入り混じった表情で顔を歪めていた。
「こ、こいつは……カイト坊やが強いのは知ってたつもりだけど、これじゃ冒険者ギルドの総戦力でも勝てないかもねえ」
「すごいですの!ルミナはペガサスさんを見るの初めてですの!」
「こんなのと戦ったらアタイだけじゃ姫様を守れない……でも……この召喚獣の種なら……ゴクリ」
冷静に戦力分析するビッケス、無邪気なルミナ、護衛としての観点から戦力差に絶望するあまり孕まされ願望へ現実逃避するマーリェン……意外とセリアとマーリェンは似た者同士だった。
そんな他のメンバーの反応にいちいち構っていられないカイトはテンペストペガサスに指示を出す。
「それじゃあ海をパカッと割ってくれ」
テンペストペガサスとなったジュリアナはカイトの命令に応えて、ヒヒンといななくと目の前の海が割れて、海底までむき出しになる。そうすると目的の『虹の吹き穴』の大きな入り口を肉眼で確認することができた。
「それじゃあ、行きます。ピピン、ちゃちゃっと終わらせて戻るから船はここに固定しておいて」
カイトはピピンに留守を頼むと、残りのメンバーをテンペストペガサスの風魔法で浮遊させてから、ゆっくり海の割れ目を降下してむき出しの海底に着陸した。
「それではこれから未発見ダンジョン『虹の吹き穴』に突入します。目的はレインボーホエールの鱗の採取と危険度等を測るための調査。中には危険なモンスターがいないと思いますけど、各々が用心するようにしてください」
それに他の四人は頷く――こうしてカイトを先頭にして『虹の吹き穴』へ突入して、本格的にダンジョン探索が開始された。
おかげさまで8万PVを突破できました。
良ければブックマーク・高評価をよろしくお願いいたします。