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3-9 ギルド高速船でのショートクルーズと密漁船退治

「これで全員揃って出発できるけど……正直困ったな」


 臨時パーティーのリーダーであるカイトは、セリア、ピピン、ビッケス、ルミナ、マーリェンの5人を見ながら頭を押さえていた。


「カイト君、どうしたんですか?ヒュッとダンジョンに行って、ベリッとクジラの鱗を剥けば終わりですから、カイト君なら楽勝じゃないですか」


 セリアが可愛らしく首を傾げながら尋ねる――セリアの言う通り、カイトにとって難しいことではないのだが、6人で行動すると話は変わってくる。


「うん……確かに『虹の吹き穴』はそう遠くないし、レインボーホエールも凶暴なモンスターでも無いんだけど、そこに行くまでが……俺だけなら召喚獣に乗って飛んでくんだけど、6人となると移動手段が……」


 王都からトキョボ山までは直線距離にすると案外近いのだが、それは召喚獣で飛んで行った場合の話であって、陸路だと一日近くかかるし、今から船を手配するのも時間がかかる。

 そんなカイトの悩みを最年長のビッケスが解決する。


「なんだい?カイト坊やはそんな事で頭を痛めてたのか……ならギルド所有の高速船を使えば、トキョボ山までならあっという間さ」


「え?本当ですか?」


「ああ、副ギルド長権限ですぐに用意するよ。その代わり、これで私は仕事したんだからダンジョン内の面倒ごとは任せるよ」


 ビッケスはちゃっかりサボる口実をゲットしようとするが、十分すぎる働き――カイトは王がこれを見越してビッケスを指名したのだと感づいて、少し見直していた。

 こうして王都の南の港に停泊している冒険者ギルド所有の高速船に――


「わあ、海龍さんですの。大きいですの」


 ルミナは初めての船旅にウキウキしており、高速船を牽引する海龍を見ると飛び跳ねてはしゃぐ。

 この世界の船は、人の力でオールを漕ぐボートなどの櫂船、自然の風の力を利用する帆船、魔法の力で推力を得る魔導船、海龍系モンスターで牽引する龍船の四つに分類される。その中でも最も早いのが龍船で、これならば目的地まで1時間ほどで到着する。


「ビッケスさん、ありがとうございます。それにしても、レムルドラゴで牽引なんて贅沢ですね」


「ああ、でもお姫様のお忍びじゃあ一般船員を入れるわけには行かないか……仕方ない、私が操龍するからカイト坊やはナビゲーション頼むよ」


「はい、よろしくお願いします」



 こうして無事に港を出発――

 セリアはカイトと船でイチャイチャするつもりだったが思い通りにならなかった。


「セリアさん、凄いですの!聖女なのに、どうやってあんなに強くなったか教えてほしいですの!」


 すっかりハイテンションになったルミナに捕まったセリアは王族を無下に扱うわけにもいかないので対応することに……むしろカイトの正妻アピールする機会だと前向きにとらえていた。

 

「そうですね……分かりやすい言葉を使うなら『愛』ですね」


「愛?それはカイトさんとの愛ですの?」


「その通りです。正確には『わからせ』でして……未成年のルミナ姫様には少し早いですが、運命の男の人と出会い、身も心も捧げる決意をする……つまり『わからされる』ことによって女性は次のステージに行くことができるのです」


「それは素晴らしいですの!ルミナにも……ルミナをわからせてくれる殿方は現れまるのでしょうか?」


「ええ、きっと。それが国内の貴族か他国の王子かは分かりませんが、王様がルミナ姫様を幸せにする殿方を探し出すでしょう……あ、でもカイト君はダメですよ。カイト君の『わからせ』は姫様にはディープかつハードですから」


「ディープかつハード?後学のために是非教えてほしいですの!」


 目を輝かせるルミナと『わからせ』の素晴らしさを説きながらカイトから遠ざけさせようとするセリア――本来は護衛のマーリェンが止めるべきなのだが、船が港を出ると船酔いで早々にダウン。船が苦手な獣人は確かに多いが、マーリェンに場合は『エアロアナライザー』の影響で余計に敏感になってグッタリと横になる――そんなマーリェンをピピンが聖魔法をかけ続けていた。

 この四人が船室でリラックスしている一方で、カイトとビッケスは船首にいた。


「龍船に乗るのは初めてですけど、本当に速いですね」


「これはスピード特化の小型船だから特別さ。おまけに波も風も良好だからね……進路はこのまま真っ直ぐトキョボ山に向かえばいいんだね?」


「はい、入り口はトキョボ山近くの海の中ですから、この進路でお願いします」


「一応聞いとくけど海の中に潜る手段はあるだろうね?」


「ええ、ちょっと人数は多いですけど、俺の召喚獣を使えば問題ありませんので、そこは安心して任せてください」


「ああ、頼んだよ」


 こうして二人の会話が途切れると沈黙して波の音しか聞こえなくなる……カイトはこういう空気が苦手なので、話題を探そうとしてピピンの事を思い出した。


「そういえば……当たり前ですけど、ビッケスさんとピピンは知り合いなんですよね?」


「そりゃあ勿論さ。ピピン坊が本家の屋敷にいたガキの頃から、私はベルリオーズ家のメイドをしてたからね」


「やっぱりそうですか。その割に二人はあまり話す雰囲気もなくて、なんだかいつものピピンらしくないし……」


「そうさね……ピピン坊と私の関係は今の姫様と犬耳の姉ちゃんに近くて、身の回りの世話と護衛だったのさ。決定的に違うのは性別くらいかね……」


「はは、もしかしてピピンの初恋の人がビッケスさんだったりするんですか?」


 カイトは軽いノリで冗談のつもりだったが、ビッケスからは予想以上のハードな返答が飛んでくる。


「初恋かは知らないけど、私がピピン坊の筆おろしの相手だから気恥ずかしいのだろうさ」


「え?あっ、ああ……っす~……」


 義父の過去をそこまで深く掘り返す気はなかったカイトはどうやって流そうかと黙り込んでいると、ビッケスは退屈しのぎの昔語りを続けた。


「カイト坊やは渡り人だからピンとこないかもしれないけど、名門貴族は世継が大事だから特に男子の性教育には力を入れるのさ。それに兄のロベルト坊が問題児だったから、ピピン坊はメイドの私がほぼ毎晩相手してあげたよ。あの頃は今と違って、髪もフサフサで可愛かったねえ……」


「そ、そっすか……は、ははは……」


「今では笑い話だけど、ピピン坊ったら私を嫁にするなんて言い出したり……色々あって最近はほとんど顔を合わせる機会も減ったのに……まったく、男って生き物はどうして初めての女の事をいつまでも引きずるのか……私にはサッパリ理解できないさ」


「男っていうのは……そういうものですよ……」


 当たり障りのない返事をしながら、どうやって話題を変えようかと悩むカイト――このままだと『色々』の内容まで語りだしそうなので、それだけは阻止しなければと焦って余計に頭が空回り――そんなカイトに救世主が現れる。しかし、それは決していいモノではない。その存在に最初に気付いたのはビッケスだった。


「ん……あの船は……」


 ビッケスは片目でギョロッと遠くの沖合にポツンとある帆船を凝視した。


「どうしたんですか?ただの漁船じゃないんですか?」


 カイトの無垢な顔を見たビッケスは呆れたようなため息をついた。


「はあ……カイト坊やは強さとモンスターやダンジョンの知識はずば抜けてるけど、人間絡みの事に関しては鈍感だね……よ~く、見てごらん。何かおかしいことは無いかね?」


「えっと……あれ?他国の商船の旗なのに網をおろしてる?」


「そう、他国の領海での漁は国際条約で禁止されてるけど、商船のふりをして領海に侵入して密漁をしてるのさ」


「ど、どうしましょう」


「ぶっちゃけ見なかった事にしてスルーしたいけど……捕まえるのは面倒だから追っ払うか」


 ビッケスはそう言うと、レムルドラゴの拘束魔法具を開放してけしかけると、密漁船は網を急いで回収して逃げていく――それを見たカイトはケガ人も出ず穏便かつ手早く解決できてホッとした。


「まったく……わざわざ他国でやらなくてもいいのに」


「あの船はそれこそ今度使節団の来るベイヒン諸島連合の船だね……なんでも記録的不漁と食用に向かない魚の大量発生で困ってるらしいから必死なのさ」


「そういう事情があるんですか……今度の外交でそういう問題が解決するといいんですけど」


 カイトとビッケスがそんなやり取りをしながらレムルドラゴが戻ってくるのは待っていると、船が突然止まった事を不思議に思ったピピンが船首に来た。


「カイト、ビッケス、レムルドラゴが離れているけど何かあったのか?」


 普段通りの真面目なピピンなのだが、カイトはさっきの話を聞いてしまった後なので何だか気まずくなったのと、せっかくの機会なのだからと余計な気を利かせた。


「密漁船を発見したから追い払っただけだよ……あ~、ちょっと酔っちゃったなあ……俺は船室で休むから到着するまで交代してよ」


 カイトはピピンの返事も待たずに船室に向かおうとすると、ピピンは何かを察してカイトの手を掴んだ。


「カイト……ビッケスと何を話していたんだ?」


「さ、さあ?いったい何のことだか?」


 カイトは白を切ろうとするが、演技が下手でバレバレだった。

 そんな二人を見てビッケスは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、


「安心しなピピン坊ちゃま。カイト坊やにまだピピン坊ちゃまの好きな体位の話をしてないさ」


「な!?び、ビッケス!カイトに変な事を吹き込むのはやめてくれ!」


 狼狽えながら情けない声をあげたピピンはカイトの手を離してビッケスの口を手で塞ごうとする。

 そのやり取りを見たカイトは二人がなんだか懐かしさを感じているように見えたので、邪魔しないようにそそくさと船室に避難した。

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