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1-7 わからせ朝ごはん ~味とステータスの暴力~

 カイトがベルリオーズ家の一員になった翌早朝――

 リューネは庭で一心不乱に剣の素振りを行っていた。


「296、297,298、299、300……ふう」


 毎朝素振り100本が日課だったが、今日はいつもの三倍――理由はもちろんカイトとセリアに追いつくためだ。


「はあ……そんな簡単に上がらないわよね」


 リューネは自分のステータスウインドウを開いてため息をついた。



〇リューネ・ベルリオーズ 17歳 【魔法剣士】

 レベル27

 生命力:286 精神力:350 筋力:224 耐久力:196 魔力:316 素早さ:271 総合:1643



 昨日までは自慢のステータスだったが、今のリューネには物足りない。

 ステータス総合が1500を超えると、B級冒険者レベルとされるが、カイトはS級、セリアはA級だから、文字通り格が違うのだ。


「今まで特訓メインだったけど、やっぱりダンジョン攻略が必要か……」


 訓練でもレベルは上がるし、個別のステータスも伸びるが、やはりダンジョン等でモンスター退治によるレベリングをする方が手っ取り早く強くなれる。それはセリアが実証している……妹ができたのだから自分にできない道理はない。リューネは自分を奮い立たせた。


「よし、絶対にカイトとセリアに追いついて見せるんだから!」


 そう意気込んだ瞬間に空腹でお腹が鳴る。それと同時にマリアがリューネを呼びに来た。


「リューネちゃん、朝ごはんよ~。皆もう待ってるから早くおいでなさい」


「は~い」


 リューネが食堂につくと、全員席につい待っている――リューネの夢にまで見た賑やかな食卓。そして出来立ての美味しそうな料理。その匂いで食欲をかき立てられたリューネは、口の中を唾液で溢れさせながら、自分の席についた。


「一年ぶりのママの朝ごはん、運動後だから余計に美味しそう」


 そんなリューネに対して、ピピンとマリアとセリアの三人が意味深な笑みを浮かべ、カイトが何か言い淀んでいる。

 リューネは首を傾げながら、スープを一口。たちまち早朝特訓の疲れが吹き飛んだ。


「わあ、このスープすっごい美味しい。このサラダもシャキシャキだしドレッシングが絶品。この卵料理も……うん、味が濃厚でソースも最高!えへへ、やっぱママの料理は世界一ね」


 リューネが満面の笑みで料理を絶賛すると、マリアが一層ニコニコする。


「あらあら~。リューネちゃんったら、そんなに美味しいの?」


「うん、すごく美味しい。ママ、この一年で料理の腕あがったよね?こんなに美味しいと、ママのご飯抜きじゃ生きてけないよ。もうどこにも行かないでね」


 リューネはデレデレ甘えるとマリアがたまらず吹き出した。


「うふふふ。だそうよカイトちゃん、よかったわね~」


「え?なんでカイトなの?」


 怪訝な顔をする娘にマリアが種明かしをする。


「だって、この料理作ったのカイトちゃんだもの~」


 その瞬間リューネは固まって、顔が真っ赤になった。

 カイトも気まずい雰囲気で目線をそらすと、リューネはいよいよ慌てだす。


「あんた、男のくせに料理なんて……ちょ、今の無し!忘れなさい!」


 そんな初々しい反応をする娘にマリアはそっと囁く。


「でも、美味しいでしょ~?」


「う、うん……」


 リューネが恥ずかしそうに小さく頷くとピピンも笑い出した。


「ははは、気持ちはわかるぞリューネ。この一年で、私もマリアもすっかりカイトの料理の虜になってしまったからな」


「そうね~。カイトちゃんの料理が美味しすぎて、私しばらく料理してないもの」


 ピピンとマリアが息子自慢するようにカイトを褒めちぎっていると、


「ピピン、マリアさん……まさか、料理目当てで俺を婿にしたんじゃないよね?」


 そんなカイトの問いに二人は露骨に動揺した。

 

「い、いや、その……カイトは総合的に優秀だからな……」


「そ、そうよカイトちゃん。決して……ううん、そんな理由も……ちょっとだけ……」


「はいはい……って、あれ?セリアさん……口に合わなかった?」


 カイトはアワアワしている夫婦の隣でセリアが俯いているのに気が付いた。

 セリアは涙目でカイトを見つめてきた。


「ううん……すごく美味しいですよ。カイト君……」


「でも、なんだか悲しそうだよ?」


「美味しくて……美味しすぎです、カイト君……私、こんなに美味しい料理つくれない……これじゃあ、カイト君の奥さん失格ですね」


 セリアがポロポロ泣き出し、カイトは慌てて彼女の前に跪いて手を優しく握った。


「そんな事気にしないで。俺の世界では男も料理するのが当たり前だったし」


「でも、私はカイト君に何をしてあげれば……」


「セリアさんがいてくれるだけで……笑っていてくれれば、それでいい」


「カイト君,、優しすぎです。それじゃあ、かえって辛いです」


「じゃあ、今度一緒に料理しよう。」


「一緒に?」


「うん。俺が料理教えるから、セリアさんの好みの味とか色々教えて欲しい」


「でも……そんな事でいいんですか?」


「時間はたくさんあるんだ。お互いの色んな事をゆっくり知っていこう。そうすれば、俺にできないけど、セリアさんにできる事も見つかるよ」


 ようやく泣き止んだセリアがカイトの手をギュッと握り返した。


「カイト君……好き」


「セリアさん、俺もだよ」


 そんな二人の熱いやりとりを白い目で見ていたリューネはスープを飲み干した。


「ったく、朝ごはん食べるだけで大袈裟な奴らね……カイト、スープおかわり」


 リューネがぶっきらぼうにそう言うと、カイトは「うん」と短く返事をして、アイテムボックスからスープの入った鍋を取り出した。

 不意の出来事にリューネは目を丸くする――アイテムボックスはとてもレアなアビリティ。これを習得するだけで、商人に高待遇で雇ってもらえる――リューネはカイトのステータスや保有スキル、アビリティが気になって仕方がなくなった。


「あんた『アイテムボックス』まで……ねえ、ステータス見せなさいよ」


 リューネは軽い気持ちで言ったが、カイトは困ったようにピピンを見つめる。

 渡り人のカイトのステータスは機密扱いで無暗に見せないよう言われていた。


「え、ええっと……あんまり他人に見せるなって……ピピンが……」


「私はあんたの……こ、婚約者なのよ……家族に隠し事する気?」


「カイト君、私も見たいです」


 カイトが姉妹同時に詰め寄られるとピピンがやれやれとGOサインをだした。


「カイト、基礎ステータスだけならいいぞ」


 そうするとカイトが観念したようにステータスウインドウの一部開示した。

 姉妹で覗き込むと、二人同時に息をのんだ。



〇カイト 17歳 【召喚士】

 レベル78

 生命力:731 精神力:808 筋力:580 耐久力:507 魔力:754 素早さ:611 総合:3991



「分かってたけど、流石S級ね。こんな奴に決闘挑むなんて……私、馬鹿みたい」


 そう冷静に分析するリューネの隣で、セリアは息遣いを荒くしていた。

 

「はあはあ、カイト君のステータス……見てるだけでゾクゾクしちゃいます」


 危ない雰囲気のセリアだか、これでも抑えていた。実際の頭の中は完全な狂気。

(はああん!カイト君のS級ステータス!スッゴイ!もはやエッチです!ああ、この筋力で腹パンされ……ダメダメ!せっかくのカイト君のご飯吐き出しちゃう……そう、馬乗りになっての首絞め!これが最適解ですね!ボロボロにいたぶられて仰向けの私にカイト君が馬乗りになって……ああ、これだけでも贅沢なのに、さらに体重を乗せて思いっきり私の首を……無様に白目をむいて泡を吹く私は卑しいメス豚!そんな私をカイト君が優しくお姫様抱っこしてくれる……はあああん!想像するだけでイッちゃううううう!でもでも、カイト君の魔力も堪能したいですね!カイト君の圧倒的魔力で私は魔力回路をズタズタにされて廃人に……ああ、壊れた人形みたいな私を愛おしそうに頬ずりしてくれるカイト君本当に好きいい!……そうです!私はカイト君の肉人形です!これってすごく純愛!……はあはあ、どうしましょう。妄想が止まらないよおおお!カイト君!早く私を壊して!メチャクチャにわからせて!)


 そんな逝っちゃってる妹をリューネが現実に引き戻した。

 

「ちょっとセリア、ボーっとしてるけど大丈夫?」


「うん大丈夫だよ……ふふふ、まだ……まだ、ギリギリ大丈夫」


「そ、そう……ねえ、ついでにあんたのステータスも見せてよ」


「いいよ。カイト君!カイト君も私を見てください!」


「え、あ、はい」


 謎のハイテンションのセリアに気圧されたカイトもリュート一緒に覗き込む。



〇セリア・ベルリオーズ 17歳 【聖女】

 レベル55

 生命力:496 精神力:678 筋力:406 耐久力:321 魔力:650 素早さ:448 総合:2999



 頭では理解していたはずのリューネだが、実際の数字を前にするとショックで言葉を失う。セリアのステータスは完全に学生のレベルを超えており、リューネは自分の妹が天才なのだとわからされる――実際は狂人の部類なのだが、それはこの場の誰も気付いていない。

 そんな固まっている姉をしり目に、セリアがカイトの顔をチラチラ見ていた。


「カイト君……私……どうですか?」


「勿論すごいよ。ステータス総合がもうすぐS級冒険者の目安の3000を超えるね」


「えへへ、私達も……お母さんとお父さんみたいなS級冒険者夫婦になれたら……」


「なれるさ……俺たちなら」


 カイトの言葉に満足した様子のセリアが、呆然としている姉にそっと耳打ちする。


「お姉ちゃんも早くこっちに……じゃないとカイト君、私が独り占めしちゃうよ?」


 この挑発はセリアなりの優しさだ。妹のショック療法でリューネは気力を取り戻す。


「私だって、すぐに追いついてみせるんだから……カイト、今日は一日、私の修行に付き合いなさい!」


 それに待ったをかけたのはピピンだった。


「リューネ……すまないが、カイトは今日、学園の編入試験だ」


「え、そうなんだ……」


 出鼻をくじかれたリューネにセリアが別のプランを提案する。


「じゃあ皆でカイト君の応援に行きましょう」


 この一言で、ベルリオーズ家一同で学園へ向かうことが決定した。

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