3-7 未発見ダンジョン『虹の吹き穴』に臨時ロイヤルパーティー結成
過激なハッスルをした夜が明け――
カイトは切り替えて仕事モードになって、ピピンにさっそくルミナ姫のための食材を提案する。
「ピピン。俺なりに分析したんだけど、ルミナ姫が魚料理を食べられないのは、調理された魚を見ると殺された魚のトラウマが蘇るから……つまりは魚を殺さずに食べる事ができれば問題ないと思うんだよね」
ピピンはカイトの言い分を理解できたが、どうにも矛盾している部分があるので首を傾げた。
「理屈は分かるが……殺さないで食べられる魚なんて聞いたことないぞ」
「ああ、魚を食べると言っても鱗だけを食べるんだよ」
「鱗?食材になる鱗なんて……まさか『レインボーホエール』か?」
「うん。クジラは厳密には魚じゃないし、そもそもレインボーホエールは実際の分類的に海龍だけど……あれ?もしかしてダメ?」
カイトはレインボーホエールを魚としてカウントしていいのか困っていたが、ピピンはもっと根本的な問題を指摘する。
「レインボーホエールの鱗は美味で薬になると聞くが、レア度は最高ランクのSS級……そもそもレインボーホエール自体が幻の存在だし、その鱗も漁師が海で偶然見つける以外の入手方法は私も知らないぞ」
「だから直接レインボーホエールから剝ぎ取るんだよ」
「……レインボーホエールの住処を知っているのか?」
「うん、王都から割と近い未発見ダンジョンにいるはず」
カイトにとっては単なるゲームの知識なのであっけらかんと言っているが、ピピンは話が予想外に大きくなってしまったので、天を仰いでため息をついた。
「カイト……もう一度王宮に……王に直接相談に行くぞ」
「ええ!コッソリ行って取ってこようと思ったのに……」
「確かに未発見ダンジョンを大っぴらにすると面倒なことになるが、こっそりレインボーホエールの鱗を取ってきても、使節団の会食に出したら出所は絶対に問題になる。それに王都の近くにダンジョンがあるとわかった以上、王の耳にいれないわけにはいかないんだ」
生真面目なピピンの正論にカイトは反論できない……しかし、カイトにとって王宮はトラブルを生む危険地帯でしかないから行きたくないというのが本音だが、宮廷召喚士という官職に就いたのでワガママを言っていられない。
「確かにピピンの言う通りだよ……はあ、これが宮仕えの辛さか……」
こうしてカイトは学園を休んで再び王宮へ行くはめに――
不幸中の幸いはピピンのおかげで王にノーアポですんなり会えること。しかも、人払いもしてもらえるので、その点はストレスを感じなかったカイトだったが……
「ええ……ルミナの食べられる魚料理を依頼しただけのつもりだったのに、レインボーホエールに未発見ダンジョンなんて……カイト君はトラブルを起こすのが好きだねえ」
王の呑気な口ぶりにカイトはイラッとした――そもそもルミナの魚嫌いの元凶に、そんな事を言われる筋合いはない……とは言えないのでカイトは黙るしかないのが現実――自分には気ままな冒険者家業が性に合っているとつくづく感じていた。
そんな娘婿を見かねてピピンがフォローに入る。
「カイトは渡り人の知識でダンジョンの情報を持っているので、未発見ダンジョンがあるのは間違いないかと……カイト、そのダンジョンについて説明してくれ」
「姫様のための魚料理の食材となるレインボーホエールがいるのは、王都の南東のオイコリル半島にある『虹の吹き穴』というダンジョンです」
カイトの口から出たダンジョンの情報に王もピピンもキョトンとした顔をする。特にピピンは信じられない様子で、
「オイコリル半島は凶暴なモンスターが少ない地域だぞ?もしダンジョンがあればスタンビートなどの現象で誰かが気付くはずだが……」
「そのダンジョンの入り口は地上にないからね。海を潜らないと行けないから誰も気づかないのは無理もないよ」
それを聞いた王はハッとした表情で膝を叩く。
「もしや……トキョボ山の辺りかね?」
ズバリ場所を言い当てられたカイトは少し驚いた。カイトの前では威厳の無い王だが頭の回転は早い。
「その通りでございます。レインボーホエールが求愛のために虹色の光を発すると、その光がダンジョン内を乱反射して最終的にトキョボ山の山頂の穴から放たれるのです」
「なるほど……余もオイコリル半島で突然虹が現れる現象は聞いたことがあったが、それが原因だったとは……」
「それが『虹の吹き穴』の由来です。その地上への穴は細く入り組んでいて、そこからモンスターが溢れ出る心配はありませんので、放っておいても無害でしょう。もともとレインボーホエールの巣穴のようなもので他に危険なモンスターがほとんどいませんから、場所さえわかればC級ダンジョンといったところかと……」
一通りのカイトの説明を聞いた王は決断する。
「わかった。それではカイト君にルミナの魚料理の件に加えて、レインボーホエールの鱗の採取と未発見ダンジョン『虹の吹き穴』の調査を命ずる」
「はっ!それでは早速行ってまいります」
カイトはさっさと王宮を出ようとしたがストップがかかる。
「いや、待ちたまえ。今回の仕事の中心はもちろんカイト君だが、未発見ダンジョンの調査については冒険者ギルドの人間も同行させてくれ」
王の言うことはもっともだ。現段階ではカイトの口からの情報しかないので、未発見ダンジョンが本当に無害かは第三者が確認するのが筋だった。
「そういうわけで王都の冒険者ギルドの……確かロベルトは不在だから、副ギルド長のビッケスを同行させるように……どうせ昼寝ばかりしていて暇だろう」
「はっ!かしこまりました」
カイトが力強く返事をする隣で、ピピンの顔が一瞬だけ曇る――カイトはそのわずかな表情の変化に気が付いたが今は黙っていることにした――すると、今度はカイトの顔を歪ませる王命が追加される。
「あと……ルミナ……そこにいるんだろう?出てきなさい」
王は玉座の後ろの壁に向かって語りかけると、扉が表れてルミナとマーリェンが登場したので、カイトの目が点になる。
そんなカイトにルミナは可愛らしく謝罪をする。
「カイトさん、ごめんなさいですの。マーリェンがカイトさんの匂いに気づいたので、タイヤキをもらおうと……そうしたら人払いしてお父様とお話をしていたので、きっとルミナの事だと思って盗み聞きを……」
「はは、そんな謝らないでください。タイヤキもあげますから」
姫にしてはお行儀が良くないがカイトは笑ってすましたが……自体は悪化する。
「その……今はタイヤキよりも……ルミナもダンジョンに連れていって欲しいですの」
「はあ!?急にどうして!?」
「だって……レインボーホエールさんが……ルミナのせいで鱗を取られちゃうなんて可哀想ですの」
カイトはレインボーホエールよりもこの親子に振り回される自分の方が可哀想だと言いたかったがグッとこらえていると、ルミナは続けて、
「確かにカイトさんの言う通り鱗ならお魚さんが死なないですけど……本当にレインボーホエールさんを殺さないか……苦しませないか見せて欲しいですの」
なかなかのワガママだが、苦労してレインボーホエールの鱗を取ってきても、実際に苦しませなかったとルミナをわからせないと、結局魚の拒否反応がでてしまうかもしれないので、ルミナの提案は悪い話ではないが問題点がある。
「しかし、姫様の安全が……」
そんなカイトの危惧に王は明るい声で答えた。
「な~に、大丈夫。最強召喚士とS級聖騎士と副ギルド長に元諜報部エースがいればS級ダンジョンでも余裕だろう。それにルミナは英才教育で体力だけはずば抜けているから安心して連れていってくれていいぞ」
王は許可を出してくれたが、暗に連れていけという圧を感じたカイトは従うほかなかった。
「はっ!それでは姫様、早速行きましょう」
「はい!ルミナは足を引っ張らないように頑張りますの!」
ルミナの明るく元気な返事に少し元気づけられたカイトだったが、やっぱり王宮に来ると想定外のことが起こると痛感しながら、ピピン、ルミナ、マーリェンの三人を連れて王宮を後に――あとは冒険者ギルドでビッケスと合流するだけのはずだったが……王宮を出ると、ここにはいるはずのない人間がいた。
「カイト君!やっぱり王宮の女を……私も一緒に行きますね♪」
「せ、セリアさん!どうしてここに!?」
学園にいるはずの婚約者が王宮の門で待ち構えていた事がカイトにとって今日一番の驚きだった。