1-6 ※セリア視点 わからされ願望の変態マゾ豚聖女
私は男が嫌いです。正確には弱い男が大嫌い。
S級冒険者の両親を見て育ったのも大きいだろうけど、きっと私の生まれ持っての性分なのでしょう。
そして私自身も貴族の血統だけど、家柄自慢する男にも虫唾が走ります。それに加えて私より弱いクズは生きている価値無いと思います。
でも【聖女】ってジョブはイメージが大事ですから、そんな私の心の中を表に出さないでいつも静かにニコニコ。そうしてると案の定、勘違いしたオスが寄ってきました。
毎日毎日、聖女を性女と勘違いした馬鹿が来ます。ハエより鬱陶しいです。
聖女は僕のような男の妻に相応しい
――金玉潰して男じゃなくしますよ?
俺の高貴な血が欲しいだろ?
――首を刎ねて逆さ釣りにして丁寧に血抜きしたい衝動を抑えるのが大変でした。
ヤラせろよ
――いっそストレートで清々しいです。だから右ストレートでぶん殴りました。
そんな学園生活にうんざりして、暇さえあればダンジョンに籠っていたら、私はどんどん強くなって、もっともっと男が嫌いになりました。
でも最近気になる人がいます。
と言っても会ったことはありません。両親の手紙で知った渡り人のカイト君。
異世界から飛ばされてきて、メキメキ強くなってるけど、色々やらかす面白い男の子。
『お調子者で、エッチで、いたずら好きだけど、優しい正義感の強い男の子よ』
お母さんが手紙で教えてくれました。お母さんは【テイマー】だから観察眼が鋭いです。カイト君は本当にそういう人なのでしょう。
『渡り人とはいえ召喚士だからと甘く見ていたが、今はもう私とマリアの二人では歯が立たないだろう。でも、安心しなさい。カイトはいい奴だ。息子ができたみたいで私は凄く嬉しい』
お父さんの手紙に驚きました。S級の二人よりも強いそうです。しかも召喚士で。
あとお父さんが息子のように可愛がっているそうです。
息子って事はお兄ちゃんかな?弟も可愛いかも……あれ?私かお姉ちゃんと結婚してもこの家の息子になるんですよね……
この時から異性として意識したのかもしれません。
そして、遂に両親がカイト君と一緒に帰ってくるという知らせがありました。
『カイトは一年でS級冒険者になった。二人の婚約者にしたいから会ってくれ』
一年ぶりの両親との再会よりも、カイト君が気になって仕方ありません。
でもお姉ちゃんは嫌そう。私には理解できません。
そして運命の日――運命の人、カイト君と会いました――その瞬間に私は理解しました。
彼は強い。
――私より、お姉ちゃんより、お父さんより、お母さんより。もしかすると誰よりも。
彼は家柄や血筋に囚われない。
――渡り人だから?それもあるだろうけど、きっと彼の元々の性格なのでしょう。
彼は優しい。
――お姉ちゃんに馬鹿にされても本気で怒りません。他の貴族の男では有り得ない。
うん、わかりました。私はこの人と結婚します。婚約がどうとかは関係ありません。私が決めました。この人の女になって、この人の子供を産みます。それが私の幸せだと確信できました。
そうすると胸が熱いです。こんなのは生まれて初めてです。
これが好き?
これが恋?
これは愛?
わかりません。というよりも、そんなことどうでもいいです。
大切な事は私がカイト君の女になる――この一点です。
でも、お姉ちゃんはポンコツだからカイト君の価値がわかってないみたい。
『あんたと婚約なんて私は認めないから』
馬鹿言ってないで、お姉ちゃんも私と一緒にカイト君の女になりましょう。
私だけが最高の男と一緒になって、お姉ちゃんがカスみたいなオスとくっついて不幸になるのは嫌。
だって私はお姉ちゃんも大好きだから。
お姉ちゃんは凄くいい子です。姉として妹の私を守ろうとしてくれる。意地っ張りで、負けず嫌い。努力家で、学校の成績はいつもトップ。でも、甘えん坊で、可愛いもの好き。
私は姉妹で良かったといつも思います。私が弟で、こんな可愛い姉がいたら……弱くて愚かで愛おしく……ボロボロにわからせてから乱暴に犯すように愛してしまうでしょう。
おっと、変な妄想は一旦やめますね。
カイト君が聞き捨てならない事を言ったからです。
『ああ、親が勝手に決めた婚約なんて気にする必要ないよ』
親が勝手に決めた婚約者なんて気にする必要ない?
私はもう結婚して、その先のビジョンまであるのに……
胸が痛いです。これは本物の悲しみに違いありません。
「え……その私は……カイト君なら……婚約って聞いて嬉しかったですけど。私との婚約……嫌ですか?」
いつもの聖女モードの私だけど、これは演技じゃありません。
つまりカイト君が私を本当の聖女にしたんです。
『そ、そんな事ないよ。俺もセリアさんみたいな可愛い子が婚約者って聞いて嬉しかった』
ああ、本気で嬉しい。両想いでした。胸がポカポカしてきました。
それからのカイト君との会話は弾みます。やっぱり私たちの相性は最高ですね。
お父さんとお母さんも嬉しそう。
だけど除け者にされたお姉ちゃんがカイト君を追い出そうと決闘とか言い出しました。
まあ、結果はわかりきってました。お姉ちゃんのぼろ負けです。
それより勝負の中身が素晴らしいです。
自慢の魔法も歯が立たずボロボロにわからされて、行かないで懇願するお姉ちゃん。
――はあ、お姉ちゃんはやっぱり可愛いなあ。あざとくてズルいよ。
そして余裕のカイト君。
――最高、素敵、やっぱ私の勘は正しかったです。
お姉ちゃんとカイト君も相性良さそうです。カップリングっていうんですかね、私の大好きな二人が仲直りの握手した瞬間は感動でした。
でも……モヤモヤします。嫉妬とかじゃありませんよ。
カイト君に私の力を――ゴミみたいな男を追っ払っているうちに身に着けた力を――カイト君に見てもらいたい。褒めてもらいたい。
もう我慢できません。
「あの……カイト君。私も模擬戦してみたいけど……ダメかな?」
言っちゃいました。我慢できませんでした。
お姉ちゃんが止めてきたけどレベル55ってバラしたら少し静かになりました。
お姉ちゃん黙っててごめんね。別にお姉ちゃんを騙してたわけじゃないの。これが知られて余計にめんどくさい男が来たら嫌だったの……でも、もう大丈夫。
だって見つけたから。私が私でいられる男の人を。
そしてカイト君との模擬戦は凄かったです。脳汁ドバドバ?っていうヤツですね。
私がゴミカス共を葬ってきた『女のスローな攻撃を避けるなんて男の恥だと思ったらアバラ粉々パンチ』をギリギリで見切られました。嬉しいけど、カイト君のあばら骨を触ってみたかったな。
私の固有スキルも見破ってくました。ああ、もっと私を見て。
人前で使ったことのない必殺技もカイト君には見せちゃいました。
そしてどんどん本気になってくれるカイト君。
可愛いドラゴンの召喚獣でバフをかける姿が今日一番貴かったです。
でも……まだカイト君は本気じゃない。
私はもう100%出しきってるけど、カイト君は明らかに手加減してくれてる。
その心遣いが嬉しいけど……本気で来てほしい。
私は本気のカイト君を妄想する――
本気の殺気、鋭い眼光で召喚獣と共に襲ってくるカイト君。
成す術もなくボロボロにされて倒れる私。
そんな私に近づいてくるカイト君。
ああ……とどめ刺されちゃうのかな?
でも不思議と嬉しい自分がいる。
カイト君に殺されるならアリな気がします。私頭おかしくなっちゃいました。
そんな狂った私をカイト君が心配そうな顔で優しく抱きしめてくれる。
ああああああ!このシチュエーション最高!
むしろもっと痛めつけて!ボロボロにして!私が弱い女だとわからせて!
今ようやく、弱い男が嫌いな理由が理解できました。
私は強い男にわからされたい卑しい女だったんです。
聖女としてチヤホヤされても嬉しくない。
むしろ、思いっきりぶっ叩かれたい。踏まれたい。見下されたい。
でも……最後には優しくして欲しい。
私って変態だったんですね。
そんな私は今もの凄く幸せです。
だって、それを叶えられる強くて優しい男を両親が見つけてくれたから。
もう止められない。
カイト君の本気を引き出して、ボロボロにしてもらって、ヨシヨシしてもらうんだ!
そう思った矢先にお父さんに試合を止められました。
悔しかったけど、カイト君が本気を出すと止めるのに騎士団が必要らしい。
それを聞くとゾクゾクしました。
騎士団レベルの暴力によってボロボロに凌辱される私……ああ、頭が沸騰するくらいに興奮してます。
メチャクチャにされる自分を想像して喜ぶ変態マゾ豚聖女――これが本当の私。
それを自覚すると言いようのない不安が襲ってきました
こんな性格だってカイト君にバレたら嫌われちゃいます。
自分でも変態だとわかります。どう考えても頭がおかしい。
カイト君に私みたいな卑しい変態女はふさわしくないです。
お姉ちゃんみたいな可愛い普通の女の子がやっぱり一番です。
辛いです。さっきまであんなに幸せだったのに……
カイト君の目……私をまるで化け物を見るような目です。
こうなると沈黙が一番いたたまれなくて勝手に口が動きました。
「あの……カイト君。がっかり……しちゃったかな?」
『え? 何で?』
「だって、やっぱり……男の子は、か弱い女の子が好きなのかなって……私より、お姉ちゃんの方がかわいいですよね?」
自分で言ってて悲しいです。勝手に舞い上がって、勝手に落ち込むダメな私。
『そんな事ないよ』
噓です。私よりお姉ちゃんの方がお似合いです。
「でも……カイト君の目……私が怖いって言ってます」
『違うよ。尊敬してるんだ。たった一人でこんなに強くなれるなんて信じられなくて』
尊敬?こんな卑しい私を?どうしよう耳までおかしくなったみたいです。
『セリアさんとなら俺もっと強くなれると思ったんだ』
カイト君がこれ以上強くなる?
ダメダメダメ、本当に私が壊れちゃいます。
でも、もう頭が壊れてますね、ごめんなさい。
でもカイト君……本当に……
「私で……いいんですか?」
『セリアさんがいい』
はい、完全に堕ちました~。私の全てはカイト君のものです。
カイト君、責任とってもらいますよ。
セリアさんがいい。セリアさんがいい。セリアさんがいい……
心の中で無限にリピートしてます。この言葉は一生忘れません。
「カイト君これから(一生、妻として)よろしくお願いします」
『うん、よろしく』
今日という日――カイト君と会ったこの日は私の第二の誕生日。
カイト君の女になった日。
自分がマゾ豚聖女だとわからされた日。
カイト君記念日と制定してこれから毎年お祝いをします。
でも、浮かれてばかりいられません。
カイト君の妻にふさわしい――本気のカイト君にわからせてもらえるくらい強くなろうと決意します。
そうするとお姉ちゃんが突っかかってきました。
『ちょっと、なに二人だけの世界作ってるのよ!』
ああああ……お姉ちゃんの顔……焦ったメスの顔になってます!
お姉ちゃんもしっかりカイト君の女だってわからされてました。
わからされた女の子ってすごく可愛いですよね?
でも……もっと……もっとお姉ちゃんの女の部分をさらけ出したい!
「大丈夫だよお姉ちゃん。お姉ちゃんの第二夫人の地位は私が保証するから」
『だ、第二?って、そんな事じゃないわよ。私だってすぐにレベル50超えて見せるんだから……だからあんた達も私のレベリングの手伝いしなさい』
お姉ちゃん、嘘下手すぎ。可愛すぎ。もうちょっと、からかっちゃいます。
「レベリングって名目のデート?ふふ、お姉ちゃんもちょっと素直になってきたね」
『もう!そういう意味じゃないわよ』
こんな私達のやり取りをカイト君が笑ってる。
これは三角関係じゃありません……実質3P……うふふ、やっぱ私って下品な変態女。
これからのカイト君との生活が楽しみだけど……
ハアハアハア……いつまで隠し通せるのか不安……いえ、興奮してます!