2-18 フェリスの隠れた才能と新たな召喚獣
カイトは半ばヤケクソになって片っ端から召喚獣を試してエンシェントゴーレムの最適な手加減を模索することにした。
「ニシキ、火力はミディアム……いや、レアでこんがり焼き上げろ!」
一番威力調整の得意なニシキだったが失敗――表面を焼くだけだと再生してしまうし、火力をあげるとゴーレムのコアがもたなかった。
「ハリー、電撃でショートさせろ」
機械には電気を……という発想は安直すぎた。そもそもゴーレムに電気回路があるわけではないので、コアが一発で壊れた。
こんな感じでゴーレムの残骸が増えるばかりだったが、塵も積もれば山となるで、リューネとフェリスは僅かにレベルが上がっていた。
「よしっ!レベルが28に……なったけど私は何もしてないのよね」
「にしし♪ボクはレベル18。カイちゃんのカッコイイ姿見るだけでレベルが上がるなんて最高だね」
どちらもレベルが1上がったのだが、リューネはため息をついて、フェリスは嬉しくてピョンピョン飛び跳ねる――二人のリアクションは正反対。
そんな2人にカイトが申し訳なさそうに、
「すまん……エンシェントゴーレムの手加減は思ったより難しくて……でも、冷静に考えてみれば、そんな簡単に手加減できるなら今頃人気レベリングスポットになってるのか……」
「それもそうね。まあ、悪いのはカイトじゃなくて、弱い私達なんだから謝ることないわよ」
リューネはとりあえずレベルが上がったから少し満足した様子でカイトを責めたりしなかった。
その隣のフェリスは少し考えこんでから、
「ねえ、カイちゃん……ゴーレムが自動的に修復しちゃうから困ってるんだよね?」
「ああ、コアを壊さない限り破損部分がしばらくすると砂になって、元の場所で再構築するみたいだ」
「ふんふん……ボクが観察したところ、もぎ取ったり破損させたりして本体から分離したパーツが砂になって自動修復機能は発生するみたいだから……ちょっと試して欲しい事があるの」
カイトはそうしてフェリスの作戦を試してみることに――それはただ破壊するのではなく、コア部分に楔を打ち込む事――カイトはアイテムボックスの中に入っていた鋼鉄の杭を取り出した。
「なるほど……ただ壊すと欠損部分が修復するから……おりゃ!」
カイトはコアに到達寸前まで杭を打ち込むと、フェリスの読み通りそれでは自動修復機能は作動しない。そしてゴーレムは杭を抜くことよりも、目に前のカイトを攻撃することを優先していた。
その光景を見たフェリスは悪戯っぽい笑みを浮かべて戦闘モードになる。
「やった!ボクの予想通り!じゃあ、リューネちゃん、僕たち二人で倒そう!」
「え、え、うん」
リューネは少し戸惑いながらもフェリスと共にゴーレムに向かって駆け出す。
カイトはその二人と入れ替わるようにゴーレムから離れた。
「無茶するなよ!倒すことよりも攻撃を回避することを優先するんだ!」
フェリスは心配そうな表情のカイトに笑顔でサムズアップ。
「OK!まあ、ボクは最初は近づく気はないから……リューネちゃん、少しの間ゴーレムの注意をひきつけて!」
「ふっ、それくらい任せなさい」
リューネは素直にフェリスの指示に従ってゴーレムの前で魔法と剣を織り交ぜながら華麗に舞う――自分の攻撃が効かないと理解しているリューネは囮と割り切って、ゴーレムの攻撃を危なげなく避け続ける――しかし、これではゴーレムを倒すことできない。
「うん……あとはボクが上手くやるだけだね……ヘラク、憑依召喚!」
フェリスは会得したばかりの憑依召喚でエメラルドビートルの鎧を身に纏って飛翔すると、タイミングを見計らってゴーレムに突進した。
「リューネちゃん!伏せて!」
リューネは指示通り身をかがめると、その頭上をフェリスが高速で通過――その目標はゴーレムそのものではなく、その胴体中央――フェリスはカイトが打ち込んだ杭にショルダータックルをかました。
「ギ、ギギギギ……ギ」
フェリスの加速をつけた突進で杭がコアまで到達したことによってゴーレムは情けない音を出して機能を停止。
それを見たリューネはそれまでの鬱憤を晴らすように、
「今まで好き勝手してくれたわね……これで終わりよ!」
リューネは追い打ちで杭に飛び蹴りを加えてコアを完全破壊して、エンシェントゴーレムは崩れて砂になっていく。
その瞬間にリューネとフェリスは自分の体の中でドクンと小さな爆発のような衝撃を感じた。
「あうっ!これがA級モンスターの魔素なの!?す、凄い!」
「ひゃあ!?ボクの……体の内側が熱い!」
自分よりレベルの高いモンスターを倒した時に発生する症状に二人を身をよじって反応する。
そんな二人をセリアが恍惚の表情を浮かべながら興奮していた。
「ああ!尊いです!カイト君のサポートがあったとはいえ、二人で自分より強力なモンスターを倒す姿……剣と魔法のハーモニーを奏でて華麗に舞うように敵の攻撃を避けるお姉ちゃん!召喚獣の力を身に纏って勇敢に突進するフェリスちゃん!『聖☆わからせ隊』の初陣は大成功ですね!」
「うん。リューネはもともと実力は確かで実戦向けの性格だし、フェリスの観察力と作戦立案能力は参謀向きだね」
カイトは『聖☆わからせ隊』というパーティー名にはツッコミを入れたいところだが、切り込み隊長の魔法剣士リューネ、参謀タイプの召喚士フェリス、武闘派ヒーラーの聖女セリア、今はこの場にいないが結界魔法の守備型サポート役の緑魔導士パレットと、思いのほかバランスのいいパーティーメンバーに満足していた。そして召喚獣で全局面に対応できる自分がいれば、あらゆるダンジョン攻略やクエストを成功できるビジョンが湧いてきた。そしてやはり今優先すべきは新人二人の育成で、それも順調だ。
「やったわ。一度の戦闘でレベルが29になってる」
「ボクは20になったよ。この調子でガンガンいこう」
こうして『ゴーレム杭打ち作戦』でさらに3体のエンシェントゴーレムを倒したところで、セリアが結界魔法のサンクチュアリを張って、その中で休憩タイム。
「最初はどうなるかと思ったが、結果オーライだね。リューネがレベル31で、フェリスは24か……今日一日でリューネは4、フェリスは7も上がったんなら目標達成ってところだな」
「ええ、やっぱりダンジョンのレベリングは凄いわね。この調子ならセリアにすぐに追いつけそう」
そんなホクホク顔のリューネにカイトは残念な事を告げる。
「う~ん、今はゴーレムの方がレベルが高いからガンガンレベルあがるけど、リューネの適正魔法は光だから聖属性のエンシェントゴーレムだとレベル30後半あたりから今ほど伸びなくなると思う」
「そうなの……ああ、やっぱりソロで倒せるようになりたいわね」
「そう焦る事はないよ。俺の杭打ちのサポートがあったとはいえ、新人二人でA級モンスターを倒すのは凄い事なんだから」
カイトはそう言ってリューネを褒めていると、フェリスがボーっとしているのに気が付いた。
「ん?大丈夫かフェリス……急激なレベルアップの違和感で気持ち悪いなら、今日はこの辺で終わりにしようか?」
「あ、そうじゃなくて……カイちゃんがゴーレムに杭を打ち込む姿を見てたら頭の中に……新しい召喚獣のイメージが……」
「そうなのか?じゃあ、目を閉じてゆっくり瞑想して、そのイメージを口に出してごらん」
フェリスはそのカイトのアドバイスを受けて黙って頷くと目を閉じて深呼吸をして瞑想状態に入った。
「杭……ううん、これは針……頑強な顎……白い胴体……骨かな……そして透明な羽が……わかった!これは蜂!名前は……『コシチェイ』にしよう!」
フェリスは蜂の召喚獣のイメージが固まって神話の怪物にあやかった名前を付けて召喚する。しかし、それはポンと出てくるアゲハやヘラクのような下級召喚獣を召喚する時とは異なり、禍々しい魔法陣が発生したのでカイトは驚きを隠せなかった。
「まさか……上級召喚獣?」
フェリスが召喚したのは成人男性くらいの巨大な蜂だった――骨のような外殻の白いボディ、鋭く硬そうな針、禍々しい顎、一度掴まれたら外れそうにない爪、刃のようなクリスタルの羽――下級召喚獣とは一線を画す迫力を放つ召喚獣をカイトはゲーム知識で知っていた。
「フェリスの固有スキルがインセクトヴァンガードだから蟲系統の上級召喚獣と契約できることは予想はできたけど……スカルホーネットを召喚できるようになるとは……」
「カイちゃん、この召喚獣知ってるの?」
呆然としているカイトに自分の禍々しい召喚獣に少し恐怖していたフェリスは尋ねた。
「ああ、これは蟲系統の上級召喚獣の『スカルホーネット』だよ。魔法は一切使えないけど、そんなの関係ないくらいの戦闘力を持つ高レアリティの冥属性の召喚獣」
それを聞いたフェリスは早速試してみたくなり、サンクチュアリの外でウロウロしているエンシェントゴーレムを見つけると、
「にしし♪コシチェイ!あのゴーレムをやっちゃえ!」
フェリスは面白半分でコシチェイをけしかける――それは戦いというよりも一方的な暴力……殺戮だった。コシチェイが凄まじいスピードでゴーレムに襲い掛かると、まずは爪の一撃でその腕を肩の付け根から引きちぎる。そのまま組つくと頭部を顎で潰して、コアを針で串刺しにする――瞬く間にA級モンスターを屠ると、その主のフェリスは達成感よりも当然手に入れた圧倒的な力が恐ろしくなって、無意識のうちに召喚魔法を解除した。それでも召喚獣経由で魔素の吸収は行われてレベルが2アップ――思わぬ形でソロ討伐を成功させていた。
「か、カイちゃん……この召喚獣、強すぎるよ……」
「……たぶん俺のピースケよりも強いだろうな……フェリスがレベル40になる頃にはS級モンスターも楽々倒せると思う」
それを聞いてもフェリスはあまり嬉しそうな顔をしなかった。
「そっか……でもコシチェイに頼りっぱなしだとボクが本当の意味で成長しないから、必要以上に召喚しないことにするね」
不意に手に入れた力に溺れないフェリスの様子を見たカイトは、彼女がまだまだ強くなる事を確信した。その心構えこそ上級召喚獣と契約できた事以上の価値がある。それが今回のダンジョン攻略で最高の収穫でカイトもすっかり満足していた。
「よし、もう正午過ぎだしそろそろ……」
パーティーリーダーのカイトが撤収の指示を出そうとした時――
「待って!もうちょっと……私にもソロで戦わせて!」
そう叫ぶリューネの目には並々ならぬ闘志が宿っていた。
明日はリューネ視点の19話・セリア視点の20話をまとめて投稿して第二部を完結させて、人物紹介と一緒に最新ステータス等の設定資料も投稿する予定です。