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2-13 パーティー名で緊急わかシス会議――グダグダ議論と禁断の合体

「……一応聞いておくけど、パーティー名は本当にそれでいいのかい?」


 ビッケスがこめかみを抑えながら尋ねるとリューネがすかさず反応した。


「いいわけないでしょ!セリアが勝手に決めたのだし、何より毎回毎回言うたびに微妙に変わってるじゃない!」


 そう言われたセリアは即反論。


「変わってるんじゃないの!変えてるの!本当は『あああああん!カイト君好きいいい!好き好き大好き!愛してる!最強!無敵!強靭!最高の男!そんな素敵なカイト君withわからせシスターズ』ですけど長すぎるから我慢して、毎回違う略し方をしてるんです!」


 真顔で言ってのけるセリアの説得を諦めたリューネはとりあえず婚約者達だけの話し合い――緊急わかシス会議を開くことにした。


「カイト……あんたが下手に口を挟むとかえってこじれそうだからビッケスと世間話でもしててもらえるかしら?」


 カイトはリューネなりの気遣いを素直に受け入れた。


「わかったよ。どうしようもなくなったら、いつでも呼んでね」


 こうしてカイトとビッケスが少し離れたテーブルに移動すると、『まともなパーティー名を皆で決めよう』という議題の緊急わかシス会議が副ギルド長室の応接ソファで始まった。

 進行役は当然、発起人であるリューネだ。


「というわけでパーティー名を決めましょう。まずはさっきのセリアの頭おかしいパーティー名に反対の人は挙手」


 リューネはもちろんパレットとフェリスも静かに挙手すると、セリアは悲しそうな表情に……いたたまれなくなったパレットとフェリスは弁明する。


「すいませんセリアさん。しかし、流石にアレは悪目立ちしてしまいます」


「うん……セリアお姉ちゃんのカイちゃんの想いが表現されてるけど、ちょっと表現されすぎだよ……」


 1対3で否決されたセリアはそれでも納得できない様子で、


「そういう皆はどういうパーティー名がいいんですか?それじゃあ、お姉ちゃんから発表してください」


「そうねえ……『穢れなき聖なる翼』とかどう?」


 リューネらしい王道なネーミングに他の三人の反応はイマイチだった。


「はあ……お姉ちゃん、昼間は真面目だね。世界に一つだけのパーティー名なんだから、もっと自分の色を出そうよ。カイト君と二人っきりの時みたいに……」


「うーん……無難ですが、無難すぎて別のパーティーがすでに同じ名前で登録してそうですね……あと私が昔所属してたパーティーとそっくりすぎてトラウマが……」


「ボクもしっくりこないなあ……ボク達に翼の要素ないし……」


 そう言われると、リューネは少しむくれた顔をして残り二人の案を求めた。


「ん~、じゃあ先生とフェリスはどう?」


「そうですね……『旦那様親衛隊』では?」


「え~、それじゃあセリアお姉ちゃんと同レベルだよ……『ツヨツヨ☆召喚士組』なんかどう?」


 三人寄れば文殊の知恵というが四人ともネーミングセンスは微妙で話し合いはグダグダに……


 カイトはそれを見越していたので、四人とは別で考えようとしてビッケスにパーティー名の決め方を相談していた。


「実際、他のパーティーはどうやって決めるんですか?ピピンとマリアさんは『ラムゴナガルの牙』って神話の聖獣にあやかってましたけど……」


「そうさね……話し合いよりパーティーリーダーが独断で決めちまう事が多いけど、とりあえずパーティー名に個人名を入れるのはやめたほうがいい。特にカイト坊やみたいにハーレム型のパーティーならなおさら。さっきのセリア嬢ちゃんのだと男の嫉妬を買うだけじゃなくて、真面目なパーティーからも敬遠されるだろうねえ」


「ですよね。やっぱシンプルな『〇〇のなんとか』みたいのがいいのかな?」


「副ギルド長としては、最近そういうのばっかりだから区別付かなくて勘弁して欲しいってのが本音さ。パーティー名は早い者勝ちだから、この頃は新しいパーティーが名前被りで弾かる事が多いし、それが理由で決闘する奴がいたり……最悪なのは活動の実体はないのに立派なパーティー名をいくつも取得しておいて、それを売ったりする輩もいるんだよ。そういう馬鹿の取り締まりもギルドの仕事さ。もっとも私は下に丸投げして昼寝してるけど」


「うへぇ、冒険者ギルドって思ったより色んな仕事があるんですね」


「つまらない仕事ばっかりさ。私は合理主義者だからパーティーの管理は各パーティーに数字を割り振ればいいって提案したけど反対されてねえ……それじゃあ格好付かないし、縁起のいい数字の取り合いになるだとさ」


「なるほど……皆それぞれのパーティー名に誇りを持ってるんですね。そういうビッケスさんが現役冒険者の時のパーティー名は?」


「私かい?私の冒険者時代はずっとソロだったから、悪いけどカイト坊やに相談されても力になれないね」


「う~ん、まいったな……とりあえず仮でつけて後で変えるのは?」


「できなくはないがお勧めはしないね。面倒な手続きと手数料を取られるのもあるけど、何よりパーティーの信用が下がる。カイト坊やは渡り人なんだろ?だったら前の世界の好きなモノにあやかってみてはどうだい?」


「それアリですね!それなら……」


 こうしてようやくカイトがパーティー名を本格的に考えようとした瞬間――


「カイト君!決まりましたので、あとはパーティーリーダーであるカイト君の承認だけです!」


 そう言って目を輝かせているセリアの後ろの三人は神妙な顔つきなので、カイトは嫌な予感がしていた。


「そうなんだ……で、話し合った結果は?」


「はい!話し合いの結果『聖☆わからせ隊』に決まりました!」


 まさかのネーミングにめまいを覚えたカイトは無理矢理笑顔を作って、


「お、おおう……最初よりはマシになった気がしないでもないけど……リューネ……どうしてこうなったの?」


 カイトは目の前のセリアではなく、その後ろにいる一番頼りにしていたリューネに説明を求めた。


「そ、その……全然意見がまとまらなかったから最終的に『皆の案を全部合体させよう』ってなってね……『聖』は私、『☆』はフェリス、『わからせ』はセリア、『隊』はパレット先生の案で……」


「ぬおおお!合体事故じゃん!もはや悪魔合体だよ!ビッケスさん!あなたからも何か言ってください!」


 カイトはビッケスを頼ったが、彼女はカイトの期待を裏切った。


「そうかい?いいじゃないか」


「ええ!?あなたまで!?」


「こんなアホな名前なら被る心配も無いし、長すぎず短すぎず……つまり、ギルドとしては管理しやすくて助かるねえ」


「ギルド視点じゃないですか!じゃあビッケスさんはこんな名前のパーティーに加わりたいですか?」


「はあ?嫌に決まってるだろ?それに言ったろう……私は合理主義者だ。今私が何を優先してると思う」


 ビッケスが笑いジワを作ってカイトを見る――カイトはさっきの雑談でなんとなくビッケスの性格を掴んでいた。


「あ~、こんな事さっさと終わらせて昼寝したい……ってとこですか?」


「正解!噂通り察しのいい奴で助かるよ。私の部下にしたいくらいだ」


 こうして味方がいない事を理解したカイトは肩を落としていると、セリアがカイトの顔を覗き込んで、


「む~……じゃあ、カイト君は案があるんですか?」


「え、ええっと……前の世界で好きだったプロレス団体からとって『WWPロック・ザ・グレート』なんてどうかな?」


 カイトの口から突然飛び出した男臭いネーミングにセリア達は眉をひそめる――異世界のプロレス団体に馴染みのない女性陣の反応は芳しくない。結局5人の中にまともなネーミングセンスを持つ者は誰一人もいなかったのだ。

 一応カイトの案を確認したセリアは珍しく夫をたてることをせず、


「じゃあ多数決を……『聖☆わからせ隊』がいい人は挙手」


 一文字でも自分の意見が取り入れられているので婚約者4人はスッと手を挙げる――これが後に史上最強と呼ばれる冒険者パーティー『聖☆わからせ隊』の誕生の瞬間だった。

おかげさまでPV4万とブクマ100を突破できました。ありがとうございます。

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