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2-12 お手軽冒険者登録と高難易クエスト発生

 混沌としたギルドの空気を一瞬で沈めた人物は不思議な女性だった。ぱっと見は左目の眼帯以外に特別変わったところのない中年女性で、背筋はピンとしているが銀髪のウェーブヘアのせいで老婆にさえ見える。背も普通で、体の線も細い。しかし、よく見ると気付く彼女の異常性――存在感が無さすぎるのだ。無駄のない身のこなしと身に纏う武人特有の空気は一朝一夕で身につくものでない。ある一定以上の強者でなければ気づけないタイプの静かなオーラを放っていた。

 そんな彼女の右目がセリアを補足した。


「ん?騒がしいと思ったらセリア嬢ちゃんかい。最近は男にかまけてると聞いてたけど、何の用だい?」


 セリアの顔見知りらしく、少ししゃがれ声でフランクに話しかけた。


「聞いてくださいビッケスさん!私の愛しの夫の素晴らしさを伝えていたのに!皆が私を止めようとするんです!」


「ああ……よくわからないが、あんたが変わってない事はわかったよ。こういう時はリューネ嬢ちゃんに聞いた方が早いね」


 そう言うとビッケスの右目がギョロリとリューネの方へ向かった。


「ビッケス久しぶり……実は私達、冒険者登録とパーティー登録に来たんだけど、酔っ払いに絡まれて……それで私達の婚約者のカイトが騒がれちゃって……」


 リューネの要点を掻い摘んだような返答を聞いたビッケスは大体把握した様子だった。


「ははは、とんだ冒険者デビューになっちまったね。いいさ、今はロベルト坊が留守だから私が直接対応してやるよ……ほら!他の奴らはサッサと自分の仕事に戻りな!」


 少しドスのきいた声を出すと、冒険者とギルドスタッフは散っていった。


「さあ、私に付いてきな」


 こうしてカイトはビッケスに付いていく途中――

 カイトが小声でセリアに耳打ち。


「セリアさんの知り合い?」


「はい、王都冒険者ギルドの副ギルド長で、ベルリオーズ本家のメイド長。そしてS級冒険者です」


 それを聞いて色々合点がいったカイトだが、ビッケス本人が補足した。


「『元』S級冒険者……それに副ギルド長といってもロベルト坊の留守番役の税金泥棒だよ」


 謙遜というよりも自虐的口調ではあったが、カイトは鵜吞みにしなかった。


「そうは言っても今でも腕は確かなようですね……純粋な近接戦闘なら俺はあなたに勝てないでしょう」


 初対面のカイトが自然に話しかけるとビッケスもそれに応じて、


「はは、褒めてるつもりだろうけど、召喚士の若造に言われても【暗殺者】としちゃ素直に喜べないね」


「なるほど……だからその身のこなし……」


「こらこら、婚約者の前で50代の婆さんの体をジロジロ見るんじゃないよ……ほら、ここで話を聞いてあげるから、お入り」


 こうして副ギルド長室に通されたカイト達はソファに腰を掛けた。

 そんな5人にビッケスは慣れた手付きで紅茶を振舞った。


「それで冒険者登録とパーティー登録だったね。パーティー登録は書面に記入するだけだから後でいいとして、冒険者登録はリューネ嬢ちゃんだけかい?」


「ぼ、ボクもです」


 日頃は生意気なフェリスも、眼帯姿のビッケスに気圧されて借りてきた猫みたいに大人しかった。


「ああ、あんたがピピン坊の隠し子のフェリス嬢ちゃんだね?そんなビクビクしなさんな。立場的にいえば私はベルリオーズ家の家来なんだからさ」


 全く家来らしくない堂々とした物言いだが、フェリスはすっかりいつものメスガキモードに切り替えた。


「にしし♪じゃあ、ビッケスちゃん。冒険者登録お願いします……って具体的に何するの?」


「私をちゃん付けで呼ぶなんて大物かもね……なに、ただギルド職員立会いのもと専用の道具でステータスを表示するだけさ」


 ビッケスはそう言うと真っ白な紙を2枚、机においた。


「ほれ、リューネ嬢ちゃんとフェリス嬢ちゃん。この紙に魔力を送れば登録終わりだよ」


 フェリスは紙をマジマジと見ながら、


「へ~、ただの紙みたい。こんなもの使わなくてもステータスオープンすればいいのに……」


「これはステータス等の偽造防止や後から書き込みできない特殊な仕様になってるのさ。ほれほれ、魔力を流せばあっという間だよ」


 その説明を受けたリューネは少し残念そうな表情だった。


「なんだ……もっと模擬戦とかの実技試験とか期待してたのに……」


「貴族のお嬢様にそんな物騒な事をさせられないし、こっちの方が手っ取り早いのさ」


 リューネはそれを聞いて渋々、フェリスはニコニコして紙に魔力を送る――すると白い紙にたちまち二人の最新ステータスが表示された。



リューネ・ベルリオーズ 17才 

〇ジョブ【魔法剣士】

〇固有スキル【ホロウアイズ】

〇適正魔法 火 光

〇アビリティ

 剣術(ベルリオーズ流)19  攻撃魔法20  支援魔法11 

〇スペル

 ファイアボール(火)8  シューティングレイ(光)6  ソルプロミネンス(火・光)4  身体強化・ディバインフォース(光)7

〇戦技

 バーニングスラッシュ(火)6  ライトニングスラッシュ(光)4

〇レベル・ステータス

 レベル27

 LP300 SP356 PW222 DF198 MP323 AG281 総合1680



フェリス・ベルリオーズ 17才

〇ジョブ【召喚士】

〇ギフト【インセクトヴァンガード】

〇適正魔法 風 気

〇アビリティ

 召喚魔法15  支援魔法13

〇スペル

 マルチ召喚6  憑依召喚1  支援強化魔法・ブースト(気)7

〇レベル・ステータス

 レベル17

 LP194 SP281 PW104 DF99 MP298 AG175 総合1151

〇契約召喚獣

 ファントムバタフライ(妖)  エメラルドビートル(風)



「ほ~う……なかなかやるじゃないかい。リューネ嬢ちゃんのレベルは年齢より10も高いなんて真面目に訓練してるんだろうねえ……なんとなく昔のピピン坊を思い出すよ」


 ビッケスはしみじみとした口調で褒めるがリューネは相変わらず不満顔だ。


「最近はステータスが少し伸びただけでレベルは上がってないの!ねえ、これで登録終了?カイト達とパーティー組んでダンジョン行ける?」


「そう焦りなさんな。え~と……これならリューネ嬢ちゃんはC級から、フェリス嬢ちゃんはD級から冒険者スタートだね。それでカイト坊やはS級でセリア嬢ちゃんがA級で……そっちのデカパイ眼鏡は?」


 ビッケスがパレットの顔よりも胸をジロジロ見ていると、パレットはそれを強調するように胸の下で腕を組んで自己紹介。


「私はカイトさんの婚約者のパレット・ポルンカです。現在はランベルク学園の教員をしていますが、数年前までA級冒険者だった結界魔法を得意とする緑魔導士でカイトさんの婚約者です」


 さり気なくカイトの婚約者ということを二回も言っていたが全員スルー。


「ほう、あんたもA級かい。S級1人とA級2人にC級D級の新人が2人なら、この辺りのダンジョンは全部入れるね」


 それを聞いたリューネはガッツポーズした。


「やった!でも、なんで私はC級なの?ステータスだけならB級レベルのはずなのに……」


「ステータスだけ立派でもポンコツな冒険者なんて珍しくないのさ。私としちゃ全員E級からスタートすべきだと思ってるけど、貴族連中がそれじゃあ格好付かないって五月蠅いから、総合ステータスの目安よりもワンランク下から冒険者デビューするのが決まりだよ」


「そっか……言われてみれば野営とかのサバイバル技術は学園の実習しか経験ないし、確かに新人なんだからC級だからって文句つけれないわね」


「ふう、リューネ嬢ちゃんは妹と違って素直で助かるねえ」


 ビッケスはげんなりした口調でそう言いながらセリアに視線を送る。

 カイトもその目線の変化に釣られてセリアの方に顔を向けると、


「セリアさん……また何かやっちゃいました?」


「えへへ♪ちょっとロベルト叔父さんに可愛い姪としてお願いしただけです」


 セリアは女神の如き笑顔で誤魔化そうとしたがビッケスが真相を暴露した。


「何が可愛い姪としてだね。最初からA級にするよう駄々こねて、『わからせます』とか意味不明な事言って、私と模擬戦して無理矢理A級からスタートしたくせに……適正魔法が聖属性なのは父親譲りだけど、頑固な気性は母親にそっくりだよ」


 それを聞いた全員がやれやれという雰囲気になるとセリアはプンプンとビッケスにクレームをつける。


「もう!皆に言わないでくださいよ!ビッケスさんにコテンパンにされて反省したじゃないですか!」


「コテンパン?私のあばら骨と右腕をバッキバキにへし折っておいてどの口が言うのさ……やっぱり、あんたは聖女より武闘家か暗殺者が向いてるよ」


「そんなことありません!私は清楚で可憐なカイト君専用の卑し系性女……もとい、癒し系聖女です!」


 そう言い放ってカイトにベタベタするセリアを見てビッケスは呆れたように、


「はあ……カイト坊や、そのじゃじゃ馬聖女の面倒を頼んだよ」


「はは、わかりました。もう慣れましたし……」


 こんな形で話が脱線したがビッケスが本題に戻した。


「本当は新人研修があるけど、S級のカイト坊やとベテランのパレット嬢ちゃんがパーティーにいるなら直接教わった方が早いだろうね。そういうわけでパーティー登録済ませて、ちゃちゃっとクエストなり受けてみな。もうパーティー名は決まってるんだろう?」


「はい!私達は『最強無敵のカイト君withわからせシスターズ』です!」


 セリアが高らかにパーティー名を名乗った瞬間にビッケスは大きなため息をついた。さっさと終わらせて昼寝をするつもりだったのにパーティー登録が予想外に長引くことを察したのだ。

 それはビッケスだけでなくセリア以外のパーティーメンバーも同様で、必死に脳をフル回転させてまともなパーティー名をひねり出そうとする――こうして『新パーティー名の決定』という高難易度クエストが突然始まった。

明日は出張で投稿できなさそうなので、次話のパーティー名決定を書き上げて午後に投稿する予定です。

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