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2-11 わからせ風評被害再び――狂った聖女式パーティー勧誘


「王都の冒険者ギルドは流石に立派だな」


 王都に来てからは学生生活に専念していたカイトは、初めて見る王都の冒険者ギルドを見た感想が自然と口から漏れていたが、冷静に考えれば当然だ。国内の冒険者ギルドは国が運営している組織であり、王都の冒険者ギルドはそれの総本山――大きさは勿論のこと外観のデザインも地方都市の冒険者ギルドとは一線を画していた。

 しかし、婚約者四人を引き連れて入ってみれば、他と大差のない冒険者ギルド特有の雰囲気にカイトは少しホッとしたが、冒険者ギルドデビューのフェリスは眉をひそめていた。


「うわぁ……ボク、こういうところに初めて来たけど、やっぱりガラが悪い人多いんだね」


「あんまりキョロキョロするな。特にフェリスみたいな女の子が初心者丸出しの雰囲気を出すと……」


 カイトがアドバイスを送った時には既に手遅れ――ギルド内のテーブルで朝から飲んだくれの男二人組がカイト達一行に絡んでくる。

 ひょろ長い剣士風の男が酒臭い口を開いて、


「よお、坊主。別嬪さんと社会科見学かい?俺たちが案内してやろうか」


「あ、大丈夫っす」


 カイトは手短に答えて素通りしようとしたが、引き下がってくれなかった。

 今度はモヒカンの戦士風の男が進路を遮ってきた。


「遠慮すんなよ。色々丁寧に教えてやるからさ……坊やの女には特に」


 そう言いながら二人組はセリア達を品定めするようにジットリとした視線を送る。

 下心見え見えのアル中を相手にするのが嫌になったカイトは心配そうに後ろの婚約者達を見ると、なんだか予想と違う反応をしていた。


「はあはあ……カイト君の女……でも、わかってませんね……私はカイト君のメス豚……ごめんなさいごめんなさい……私の慎みが足りずにカイト君と対等の扱いでごめんなさい……私のわからされ力が不足している証拠……今夜はセルフむち打ちの回数を増やさなくちゃ……もっと豚に……もっと卑しい女に……」


 狂った目でブツブツ意味不明な事を小声で呟くセリアの後ろで、リューネとパレットとフェリスもヘンテコなリアクションをしていた。


「カイトの女……ふふ……って違うわ!私はカイト専用のエッチなお姉t……あわわわ」


「いよっしゃ!引率者とおもわれなかった!親戚のおb……お姉さんとも間違われなかった!カイトさんの女……んほおおおおお!」


「にしし♪カイちゃんの女……う~ん、そんなありきたりな関係よりもボクはカイちゃんの肉奴隷がいいなあ♡」


 四人もいて誰一人まともな人間がいなくて、カイトは絡んできた二人組と同じような怪訝な表情浮かべていた。

 その二人組もまさかの反応に驚いて酔いがさめてしまった様子で声を荒げた。


「坊主!お前、その年で女をあそこまで自分好みに仕上げやがって!せっかく気持ち良く酔ってたのに、朝っぱらから変なモン見せつけるんじゃねえ!」


「え!?ちょっと!?俺が変態に調教したみたいに言うのやめてよ!」


「はあ!?誰がどう見てもアブノーマルプレイでヒイヒイ言わせたメスの反応じゃねえか!」


 そんな騒ぎを聞きつけて野次馬が集まりだした。


『なんだなんだ喧嘩?』


『いや、何だか酔っ払って絡んだ相手がヘビー級の変態だったらしい』


『ああ、いつも酔っぱらってるC級冒険者のボンベとペルルーザか……でも、あの二人が取り乱すほどの変態?』


『聖女風の女の子がいきなりラリった目で謝りだして「メス豚」とか「むち打ち」とか言ってるのが聞こえたぜ』


『それに赤髪の剣士風の子は姉らしくて……自分の姉にエッチな事させてるそうよ』


『私も聞いたわ。あとの二人も「んほおお」って奇声発するし、肉奴隷宣言してた』


『れ、レベルたけぇ……』


 こんな感じでカイトに向けられる視線は、いきなり酔っ払いに絡まれた被害者というものではなく、変態調教した美女四人を引き連れているヤベー奴というもの。

カイトはこれ以上騒ぎになる前にさっさとリューネとフェリスの冒険者登録とパーティー登録だけ済ませよう……少なくとも変に名前とかが知れ渡る前に撤収しようと決意した瞬間だった――


『あ、あいつ!宮廷召喚士の!S級冒険者のカイトだ!』


 王都の冒険者ギルドは人も多いから、カイトを知っている者もいた。そして、これをキッカケにギルドの空気は一変した。


『女の子!いや!女性は皆隠れろ!』


 真面目そうな青年が叫ぶと女性冒険者や女性ギルドスタッフは訳も分からず物陰に隠れた。


『え?え?何?あの子、そんなに危険なの?』


『私は別支部の噂で聞いたことある。史上最年少でS級冒険者になった最強の召喚士がいるって……S級ダンジョンのボトムレスアビスを単独日帰りで全層攻略するバケモノだって』


『私は兄さんから……確かダンジョン都市ニムタカのギルドの受付を無理矢理女の人にさせて全員と寝たらしいよ。何人か孕ませてから逃げ出して、最近は王都にいるらしいから気を付けろって……ガクガク』


『ヒエッ!それじゃあ、あの四人は新しい犠牲者?』


『最近、婚約者を寝取って宮廷召喚士になるために御前試合をした話なら知ってるわ。しかも王に姫様の体を差し出せと召喚獣のドラゴンで脅迫したらしいわ』


『姫様はまだ13歳なのに……あ、悪魔よ!』


 そんな会話が聞こえてくるとカイトは悪い意味で懐かしくなってきた。しかし、前回の学園内の噂より厄介だった。今では学園内での評判も随分マシになったが、冒険者間の噂を消すにしても、そもそもその機会が無い。どんどん歪んで拡散していくのを止める術が思い浮かばずカイトはうなだれる――例の二人組もカイトが危険だと判断して、いつの間にか姿を消して、冒険者たちが遠巻きに取り囲んでいる。

 この状況でセリアはむしろ嬉しそうにウキウキしていた。


「ふふふ……流石はカイト君。王都の冒険者達にも既にわからせの噂が……私は鼻が高いです!」


「いやいや!全然いい噂じゃないじゃん!誤解されまくってるよ!」


「安心してください!この事態を収めて御覧に入れます!」


 自信満々のセリア――カイトは訳も分からず頷くことしかできなかった。


「皆さん落ち着いてください!私はセリア・ベルリオーズ!S級冒険者ピピン・ベルリオーズの娘にして、王都冒険者ギルド長ロベルト・ベルリオーズの姪です!そして、このお方は私の夫!S級冒険者にして『わからせ召喚士』の称号を持つ宮廷召喚士であるカイト君です!決して危険な人ではありません」


 セリアの凛とした声はギルド内に響き渡った。ほとんどの人間はそれを聞いて沈黙――しかし、カイトは初めて知った情報があったので、思わず声をあげた。


「え?セリアさんの叔父さんってベルリオーズ家の当主の?ここのギルド長だったの?」


「はい。少し込み入った事情があるので、話したことはなかったんですが……とにかく、これで私達がギルド長の関係者だと知れば、冒険者達もカイト君に変な事を言えなくなります」


「そ、そうなんだ……正直、俺自身が状況を飲み込めてないけど助かった……ありがとうセリアさん」


 セリアはカイトに褒められると、舞い上がって暴走してしまう。


「でも……せっかくの機会ですからパーティー勧誘も兼ねてカイト君の素晴らしさをもっと伝えましょう」


「え?いや……その必要は……」


「ダメです!カイト君の妻として我慢できません!では……スウウウッ」


 大きく息を吸うセリアを見たカイトは寒気がして止めようとしたが、一瞬遅かった。


「皆さん!カイト君は凄いんです!強くてカッコよくて優しい!史上最高の男!その証拠が私達四人!私達は全員カイト君に女の喜びをわからされたんです!さあ!わからせを希望する女の人がいるならば!是非名乗り出てください!」


 この発言のせいで、せっかく静かになったギルド内がどよめきだしたが、ボルテージの入ったセリアは止まらない。


「何を恐れることがあるんですか!本当は私がカイト君を独り占めしたいんです!でも!でもおおおお!それはダメなんです!カイト君は素敵すぎるんです!ですからカイト君にわかられたメスには!カイト君の婚約者になる権利を!我々のパーティー『好き好き大好きカイト君withわからせシスターズ』に!カイト君のハーレムメンバーに入れてあげます!」


 セリアのあまりにも狂ったパーティー勧誘にカイトは茫然としていた。

 そんなセリアの姿は見た他の婚約者達の反応は様々で、


「セリアお姉ちゃん……ハジケすぎだよ……」


「ああ……私のカイトさんの良さが世間に広まってしいます……」


 フェリスとパレットもカイトの傍らで立ち尽くしていが、リューネは妹の暴走を止めようとした。


「セリア!セリア!落ち着きなさい!それじゃあカイトも私達も頭おかしいみたいでしょ!」


「お姉ちゃん!何を今更カマトトぶってるの!?最近は『心音聞かせ寝かしつけプレイ』にハマってカイト君をオッパイに挟んで寝てるくせに!」


「や、やめてええええ!」


 妹に恥ずかしい事を暴露されたリューネは顔を抑えてしゃがみ込む。

 いよいよ冒険者ギルドが変態聖女の独壇場になろうとした時――


「これは何の騒ぎだい?」


 この事態を収める救世主――眼帯の中年女性――副ギルド長が登場した。

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