1-5 ※リューネ視点 わからせ1号は王道ツンデレ魔法剣士
今日、パパとママが帰ってくる。
パパは強くて優しい【聖騎士】のS級冒険者。
ママはおっとりしてるけど、フェンリルを従魔にする凄腕の【テイマー】。
そんな私の自慢の大好きな両親が一年ぶりに帰ってくるのに……複雑。
何もかもカイトとかいうやつのせい。
そいつのせいでパパとママは王命が下ったのが一年前――
『リューネ、セリア。私達は異世界から来た渡り人を調査するために旅に出ることになった。いつ戻ってくるか……もしかしたら生きて帰れるかわからない』
パパが真剣な顔でそう言った。
私は泣いて引き留めた。行かないでと叫んだ。でもダメだった。
『大丈夫よ~、リューネちゃん。パパとママを信じて。それに週に一回手紙を送るから』
ママは頭を撫でて慰めてくれた。
そして二人はチャッピーと一緒に出発した。
そいつさえいなければ家族四人で暮らせてたのに……
ガランとした屋敷にセリアと私の二人だけ……
私は早く帰ってくるのを願うしかできなかった。
もし渡り人が危険人物だったら……パパとママは殺されるかも……
そうしたら、絶対に仇をとってやる。そして、妹のセリアは私が守ってみせる。
私は死ぬほど泣きながら、そう誓った。
そしてパパとママが旅立ち、私が決意してから10日後に最初の手紙が来た。
最初は警戒してたけど、渡り人のカイトは私と同い年で危険はないらしい。
それを知った時は、ホッとして涙がこぼれた。
それ以降の手紙も渡り人のカイトのことが書かれている。
というよりカイトのことが殆どだ。
『異世界で高度な教育を受けていたようで、飲み込みが早い』
『召喚士だけど体も丈夫で頼りになるわ~』
『信じられない成長速度で教えがいがある。カイトがS級冒険者になるのが楽しみだ』
渡り人の情報は機密事項だから詳細は伏せられているが優秀な奴らしい。
まるで我が子を自慢するような文面から、それが嫌ってほど伝わってくる。
でも、本当の子供は私なのよ。
パパ、ママ、私も頑張ってるよ。
剣術の授業で男子相手に10人抜きしたよ。
魔法も私だけ混合魔法を習得したよ。
総合成績も学年トップになったよ。
だから……カイトじゃなくて、私を褒めてよ……会いたいよ……
ああ、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい……私から両親を奪ったカイトが許せない。
見たことも会ったこともないけど、私はカイトが大っ嫌い。
だからたまに書かれているカイトの失敗談を読むとスカッとする。
『カイトちゃんったら、女盗賊の色仕掛けでレアアイテム盗まれちゃったみたい。私の胸を見てるだけじゃ物足りないのかしら~』
ざまあみろ……ってママの胸見てるんじゃないわよ!
『カイトが失恋したようだ。夜中に泣きついてくるので聞いてみたら、気になっていた道具屋の娘が既婚者だったそうだ。確かにいつも同じ道具屋で買いこんでいると思ったが、そうとう入れ込んでいたようで、見ていて気の毒なほど落ち込んでいる』
いい気味。ちょっと優秀だからって調子に乗るからそうなるのよ。
『カイトちゃんったら、ギルマスにまた説教くらってるわ。前にも受付を可愛い女の子にって抗議したけど、今度は冒険者仲間と街中でデモしたり演説したり……困った子ね~』
パパ、ママ……こいつ本当に優秀なの?ただの馬鹿よね?こんな奴に調査の価値ある?
『カイトがまた失恋した。いや失恋と言えるのか……いきなり単独で世界樹の森に行って世界樹の花をとってきたと思ったら、一目ぼれしたというエルフにギルドのど真ん中でプロポーズしてしまった。しかし、そのエルフはS級冒険者「神樹の守り人エスカム」という男性なんだ。あまりの美貌に女性と勘違いしていたようで、ギルドの笑い者になって、一部の同性愛者に誤解されてしまった』
あはははは!初めてカイトの事で笑えたわ。本当にお調子者の馬鹿ね。
カイトの事は忌々しいけど、手紙が来るのはいつも楽しみだった。
セリアもいつも嬉しそうに読んでる。
でも、私とちょっと反応が違うのよね。
カイトを褒めてばかりの手紙は、私は読み飛ばすけど、セリアはじっくり読んでる。
カイトの失恋の手紙を読むと、私は笑うのに、セリアはホッとしたような表情になる。
私とセリアって双子だけど、容姿以外はあまり似てない。
私と違っておっとりしてるから、悪い男に騙されないか心配だわ。
そして最後の手紙には嬉しい知らせと悪い知らせの両方が書かれていた。
パパとママが任務終了で帰ってくる。もちろんそれは嬉しい。
問題はこっち。
『カイトは一年でS級冒険者になった。二人の婚約者にしたいから会ってくれ』
パパがカイトを気に入ってるのは知ってたけど、これは完全に予想外だった。
婚約って事は……結婚?え、それって、子供つくるって……つまり……嫌よ!
両親を奪うだけじゃなくて、私の純潔までも……いや、セリアまで?
私の大事な妹が、私の大嫌いな男に犯されて、孕まされるなんて……
想像しただけで気が狂いそう。そんなの私が許さない。
「セリア、安心しなさい!私が守ってあげるから!」
気が付いたら思わず叫んでたけど、セリアはキョトンとしてる。
ああ……やっぱり状況を理解できてないのね。
こうなったら私がセリアを……いや、パパとママも私がカイトから守って見せる。
そして運命の日――私とセリアが玄関前で待っているとチャッピーが飛び込んで来た。
一年ぶりにチャッピーをモフると、もうすぐパパとママに会える実感が湧いてきた。
そして、パパとママが見知らぬ少年を連れて帰ってくる。
でも、私にはパパとママしか視界に入らない。
私は二人に涙目で抱き着くと、一年ぶりのパパとママの温もりに夢中になっていた。
そして気が付くとセリアがカイトと思しき少年と会話しているので驚いた。
だってセリアが男と笑いながら話してる姿なんて見たこと無いんだもの……
ここから歯車が完全に狂いだした。
セリアがカイトに自己紹介するよう言ってきたけど、そんな気分じゃない。
「ああ、あんたが例の……ちっ、間抜けな顔ね」
セリアが私を咎めるけど、カイトは顔をしかめるだけで文句の一つも言えない。
ふん、思ったより腰抜けで拍子抜けしちゃうわ。
いやにセリアがカイトの肩を持つけど、私の一年分の鬱憤が止まらなかった。
「セリアは黙ってて。私、こういう人間って大っ嫌いなの」
カイトも流石に反論してきたけど手紙で知った女の失敗談をなじってやるとまた黙った。
あ~、本当に情けない男。何だかこれじゃ私が悪者みたいじゃない。
ママとセリアが擁護してるけど、いまいちフォローになってないし。
「とにかく、あんたと婚約なんて私は認めないから」
こんな男に回りくどいこと言っても仕方ないからハッキリ言ってやった。
するとカイトは簡単に白旗あげた。
『うん。俺も本人の意思抜きでこういう話が進むのって間違ってると思うんだよね』
「あら物分かりいいじゃない。勘違いされなくて助かるわ」
『ああ、親が勝手に決めた婚約なんて気にする必要ないよ』
はい、私の勝ち~。
私みたいな成績優秀な美少女と婚約って舞い上がってたんだろうけどご愁傷様。
さっさと失せなさい……と思ったらセリアと盛り上がってる!?
私が婚約破棄すればセリアも断りやすくなると思ったのに……え、婚約が嬉しいの?
パパとママまで祝福モードで私だけ蚊帳の外ってどういうこと?
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。私と全然扱いが違うじゃない!」
カイトの顔には「は?こいつ何言ってんの?当たり前じゃん」って書いてある。
そりゃ、私の態度を考えれば当然かもしれないけど、男ならもっと食い下がりなさいよ!
それなのに、カイトは私に適当な応対をしてセリアとイチャイチャし始める。
式の日取り?新婚旅行?こ、子供の予定!?
カイトとセリアの会話が理解できない……それより私は眼中に無いの?
「やっぱ私と対応違うじゃない!あとセリアもグイグイ行き過ぎ!」
『そんなことないよ。ねー、セリアさん』
『ねー。もうお姉ちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんだから』
『そうだぞリューネ。カイトはもう家族なんだからもっと素直になりなさい』
『カイトちゃんごめんなさいね~。リューネちゃんも本当はいい子なんだけど、カイトちゃんの言ってたツンデレ?っていうのかしら~。男の子と喋り慣れてないから照れちゃってるのよ~』
『『『『あはははは』』』』
私以外が楽しそうに笑ってる……どうして……こんなのありえない!
パパとママの帰りを楽しみにしてたのに……また四人で過ごせるって思ったのに……
こんなの私の思い描いていた家族の再会じゃない……その原因はそう……カイトだ。
こいつさえいなくなれば昔の家族に戻れると思ったら私は叫んでいた。
「もう我慢できない!決闘よ!」
「あんたと家族になるなんて嫌!私に負けたら出て行って!」
そんな激昂する私にパパが語り掛けてきた。
パパは寂しい思いをさせた事を謝ってくれた。
そして、私が昔言った婚約者探しの約束を覚えて守ってくれていた。
うう……でも嫌なものは嫌……そんな思いがパパに届いた。
『ああ、決闘を認めよう。私が立会人になるよ。リューネが勝ったらカイトに他の住む場所を用意する』
それを聞いた私は嬉しさのあまり飛び上がった。
やっぱりパパは私の味方なんだ。これで、家族をカイトから守れる。
私は有頂天だった……そう、決闘が始まるまでは……
初戦は秒殺。寸止めされなければ顔が潰れる……いや、死んでたかもしれない。
恥を忍んで再戦を要求すると、すんなり受け入れられた。しかも魔法限定ルール。
私が圧倒的有利のはずなのに、魔法でも全く敵わない。レベル78とか反則でしょ。
得意の火魔法は簡単に打ち消された挙句、可愛いハリネズミに電撃魔法をくらう。
私にとってはその痛みよりも、パパとママの前で情けない姿を晒すことが辛かった。
そんな私を哀れんだカイトに回復魔法までかけられた。
屈辱、敗北感……色んな感情がゴチャゴチャになって体が震えた。
「くっ!私を馬鹿にしてるの?これは決闘なのよ!?」
『そういえば決闘だったね……もし俺がその気なら何回も殺されてるって自覚ある?』
何も言い返せない……私のプライドは完全にボロボロ。
もういい、十分わからされたわよ。
私は弱い女。カイトのいう通り、生殺与奪の権を握られる側……
つまり、私はカイトの所有物。
これからこいつのオモチャにされる日々が始まるんだ。
さんざん悪口言ったから、乱暴に犯されるのかな?
子ども妊娠したら開放されるのかな……
ううん、私はどうなってもいいから、お願いだからセリアには優しくして欲しい。
その代わり、私はどんな辱しめだって受けてみせる!
そんな風に悲劇のヒロインぶっていた私にカイトは意外な言葉をかけてきた。
この勝負に勝っても他の所に行くつもりだよ……ですって!?
私以外も衝撃を受けていた。
パパとママはカイトに申し訳なさそうな顔をしてる。
セリアは……悲しいような、怒ってるような……ダメだ、怖くて見れない。
カイトはそんな私達に構わず続けた。
『こっちの世界にきて一年……リューネは嫌だろうけど、世話になったピピンとマリアさんが家族として受け入れてくれるって聞いた時は嬉しかった。けど、俺のせいで本当の家族がギクシャクするくらいなら出ていくさ』
その言葉が今日一番のショックだった――さっきの電撃よりも芯に来た。
そして、今更になってママからの手紙を思い出した。
『お調子者で、エッチで、いたずら好きだけど、優しい正義感の強い男の子よ』
私はカイトに嫉妬するあまり欠点ばかり探そうとして、長所を無視していた。
優しいっていうのも単純に女への下心だと思ってた。ヤッたら終わり的な……
でも、違った。そもそもパパとママがそんな男を私の婚約者にするわけない。
カイトは自分を追い出そうとする私なんかを気遣う本物の優しさを持っていた。
それを自覚すると足が震えだした。
ま、まだ間に合う……そうよ、だって行く当てなんて無いでしょ?
『リューネが心配する必要はないよ。そうだな……正直、王都にも貴族にも興味無いし、また辺境で冒険者生活に戻ろうかな?もともと異世界に来た時は一人だったから元に戻るだけだしね』
それを聞いた私は初めてカイトの目を見た。少し悲しそうな……本気の目。
ダメだ。ハッタリとかじゃない覚悟を決めた人間の目……
どうしよう……私のワガママでカイトを孤独にさせちゃう。
寂しい事がどれだけ辛いか私は知ってるのに……
いや、私にはセリアがいたけど、カイトは本当に一人ぼっちだ。
そもそもカイトが異世界から飛ばされてきただけで、何も悪い事してないのに。
手紙でもパパとママはカイトを息子のように可愛がってた。
セリアも男とあんなに嬉しそう喋るのは初めて見た……
私はセリアを守ろうって思ってたのに、セリアの幸せを邪魔している。
私のつまらないワガママで皆を不幸にしようとしている。
そう気付いたら……もう止まらなかった。
「ごめん!手紙でパパとママがいつも褒めてるからヤキモチやいてただけなの!パパとママを取られたみたいで……私だって頑張ってるのにって、悔しくて。だから、私のワガママであんたに出ていかれたらパパとママとセリアに申し訳ない……考え直して欲しいの」
さんざん馬鹿にしてきたのに、今更こんな事言っても……でも、これが私の今の本音。
『え?リューネはそれでいいの?』
手遅れだと思ったけど、簡単に引き止められそうな雰囲気になった。
ホッとしたけど……カイト、あんた女に弱すぎじゃない?
そんなチョロイと婚約者としてちょっと不安になるわよ……え、婚約者?
そうだった……負けるとカイトと婚約するんだった……
ええい、もう、あんたならいいわよ!
「い、いきなり婚約とかって言われて……正直よくわからないけど……思ったより悪い奴じゃなさそうだし……パパとママとセリアと仲がいいなら、一緒に住むくらい……べ、別に……いいわよ」
う、嘘はついて無いけど……ううう、素直になるのって難しい。
セリアを見習わなくちゃいけないのかしら……
自分の顔が赤くなってのがわかる……ってカイトまでなんか照れくさそうにしてる。
決闘はもういいよね……ですって?こんな恥ずかしい空気で終われるわけないでしょ!
顔と胸の熱を誤魔化すように、私は自分の魔力を練った。
パパとママ……そしてカイトに見てもらうために……
「これが……私がこの一年で習得した火と光の混合魔法『ソルプロミネンス』」
今の私の最強の魔法……やっぱりカイトには全然敵わなかった。
けど、不思議と悔しくない。むしろ晴れやかな気分。
強くて優しい婚約者ができた事の喜びを……わからされたのね、私。
そう自覚すると自然と笑みがこぼれる。
「ふふ……やっぱり私、あんた嫌い」
『そう?おれはリューネの事嫌いじゃないけど』
私の可愛くない照れ隠しをカイトがサラッと受け流した。
ま、まあ……最初だし、こんな関係も悪くないかな?
そう思った瞬間に、私は爆風で吹っ飛ばされた。
完敗……違うわね。そもそも勝負になってない。実力差がありすぎ。
あまりに情けなくて立ち上がる余力は残ってなかった。
そんな私にセリアが駆け寄ってきて回復魔法をかけてくれた。
流石私の妹。学園随一の回復魔法のスペシャリスト。
だけど、私とカイトが和解の握手をした瞬間にセリアも戦いたいと言い出した。
もちろん私は止める。だって、レベル差がありすぎ……え、レベル55?
生まれてからずっと一緒なのに……この一年間は二人っきりなのに知らなかった。
私は寂しさのあまり自分中心でセリアの事しっかり見てなかったんだね……
そこから先は正直、上の空だった……
レベル50over同士の戦いは異次元すぎて目で追うのがやっと。
私が学園でやる模擬戦なんてママゴトだってわからされた。
セリアの両手が金色に輝いた時はちょっと漏れそうだった。
だけどカイトは落ち着いてる……私の婚約者なんだから、そうじゃなきゃ困るわ。
でも、そろそろやばくない?って思ったら流石にパパが止めた。
まったく、もう……二人共、模擬戦なのに本気出すなんて大人げないわね。
……え、カイトはまだ本気じゃない?本気出したら騎士団を動員?
えへへへ……私の周りバケモノだらけじゃない。
とっくに砕けたと思ってたプライドが完全に粉微塵になった。
って、ちょっと目を離したらカイトとセリアがまたイチャついてる。
『お姉ちゃんの方がかわいいですよね?』
『そんな事ないよ』
おい!私の目の前で何言ってのよ、こいつら。
『私で……いいんですか?』
『セリアさんがいい』
カイトのその言葉を引き出した時のセリアの顔は紛れもなく女のそれだった。
私は見逃さない……だってセリアのそんな表情見たことなかったから。
そんな妹に私の中の女の部分が警鐘を鳴らした。
「ちょっと、なに二人だけの世界作ってるのよ!」
『大丈夫だよお姉ちゃん。お姉ちゃんの第二夫人の地位は私が保証するから』
「だ、第二?って、そんな事じゃないわよ。私だってすぐにレベル50超えて見せるんだから……だからあんた達も私のレベリングの手伝いしなさい」
『レベリングって名目のデート?ふふ、お姉ちゃんもちょっと素直になってきたね』
「もう!そういう意味じゃないわよ」
セリアって恋愛面でこんなにストロングスタイルだったの?
ただでさえ【聖女】って男受け抜群のジョブ。
しかも、私より強い……って、このままじゃ妹にまで完敗じゃない!
私は……何事も一番を目指す主義。
必ずレベルも二人に追いついて見せる。
正妻……第一夫人ポジションは、まあ、そのついでになってみせるんだからね!