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2-5 素直になれないお姉ちゃんに愛の処方箋♡

 第一回わかシス会議以降の婚約者達の夜の生活は充実していた。一人を除いて……


「ねえ、お姉ちゃん……もう意地を張らなくてもいいと思うよ?」


 学園の休み時間にベルリオーズ家の三姉妹は集まってミニ会議――議題は『わー、お姉ちゃんだけカワイソーだから私達が恋のキューピッドになっちゃうよ♡』で、セリアがいきなりぶっこんできたわけだがリューネはウンザリした様子だった。


「べ、別に意地なんて……」


 そんなツンデレのお手本みたいな反応するリューネをフェリスがつつく。


「リューネちゃんも素直になればいいのに。今時ツンデレは流行らないよ?」


「流行とかじゃないし、そもそもツンデレなんかじゃないわよ!」


「じゃあ、カイちゃんのこと好きじゃないの?」


 フェリスは意地悪な言い方をすると、リューネはたじろいでしまう。


「そ、そういうわけじゃなくて……物事には順番ってものがあるの!」


「「順番?」」


 セリアとフェリスが同時に首をかしげるとリューネは腕組みをして堂々とした口調で、


「そう、順番。婚約者とはいえ愛してるって言葉を貰わないで、いきなり肉体関係になるなんて不潔よ」


 それを聞いたフェリスはフンフンと頷いた。


「一理あるね。ボクもまだ愛してるとは言われてないや」


「ふっ、いくら同じベッドで寝ても、あんたと私はまだ同じレベルってことね」


 そう言って、したり顔のリューネにフェリスはニヤニヤしながら勝負を提示した。


「にしし♪それじゃあ、ボクとリューネちゃんでどっちが先にカイちゃんに愛してるって言われるか勝負しない?」


 予想外の展開にリューネは動揺を隠せなかったが、新しくできた妹に挑まれて逃げるのは姉としてのプライドが許さなかった。


「ええ、いいわよ。その勝負受けてたつ」


 そんな大見得きった姉にセリアは憐憫の眼差しを送る――賭けの対象にもならない勝敗が見え見えの勝負――セリアはアリと象の戦いにしか見えなかった。もちろんアリはリューネで象はフェリス。恋愛的な駆け引きで男を手玉にとることに関して、リューネがフェリスに勝てるビジョンがまるで浮かばない。

 そして案の定、スタート早々それがハッキリする。


「じゃあ、ボクは早速カイちゃんに愛してるって言ってもらってくるね」


 そう宣言してクラスメイトの男子と談笑しているカイトに向かおうとするフェリスにリューネは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「え?え?愛してるって言葉なのよ?そういうのって長い時間をかけて気持ちをゆっくり育んでから……えええええ?」


 長期戦を目論んでいたリューネを置き去りにしてフェリスはカイトに抱き着いた。


「ん?急にどうしたんだフェリス?」


「カイちゃん♡好き♡好き♡好き♡好き♡好き♡好き♡好き♡好き♡……」


 フェリスは好きを連呼しながら自分の頭をカイトの胸にグリグリする。

 周りの男子に茶化されたカイトは困ったような顔でフェリスの頭を撫でた。


「なんだよいきなり……俺も好きだよ」


 それを聞いたフェリスは不満そうな顔で上目遣い。


「あ~あ、カイちゃんが好きって言うからボクはカイちゃんのこと好きじゃなくなっちゃった」


「え?どうして?」


 カイトが狼狽すると、予想通りの反応に満足したフェリスは小悪魔な笑みを浮かべる。


「大好きになっちゃった♡カイちゃん大好き♡大好き♡大好き♡大好き♡大好き♡大好き♡大好き♡大好き♡……」


 フェリスは今度は大好きにバージョンアップして頭グリグリを再開する。

 カイトがいよいよ困ってしまうとフェリスはアドバイスを送る。


「にしし♪大好きじゃあボクは満足できないよ♡だ・か・ら♡」


「ああ……愛してるよフェリス」


 こうしてフェリスは完全勝利。


「ボクも愛してるよ♡カイちゃん♡」


 フェリスはそう言い残してカイトから離れて姉妹と合流する。

 一部始終を見ていたリューネは燃え尽きたような表情で抑揚の無い声で、


「私の完敗ね……あんたに女として勝てる気がしないわ……」


 リューネは敗北宣言をしてフラフラと次の選択授業へと向かっていく。

 その背中を見たフェリスは、なんだか申し訳ないような気分になった。


「セリアお姉ちゃん……ボクやりすぎちゃったかな?」


「フェリスちゃんは悪くないですよ。素直になれないのはお姉ちゃんの責任です」


「ん~、正直カイちゃんとリューネちゃんってすごくお似合いだと思うんだよなあ。ボクはリューネちゃんのことも好きだから……何か手助けできないかな?」


 その言葉を聞いたセリアは聖女とは思えない表情で小瓶を取り出した。


「フフフフ……任せてください。こんなこともあろうかと私はとっておきの薬を用意したんです」


 そんな姉に対して、媚薬の類だと思ったフェリスは怪訝な表情で抗議した。


「薬なんてダメだよ!ボクも薬で無理矢理イカされた事あるけど……すごく辛いの」


「安心してくだい。これはエッチな薬じゃないですよ。ズバリ『異性に素直になれる薬』です」


「異性に……素直になれる薬?」


「はい♪とあるルートで手に入れた代物で正式名称は『ソメルニアの涙』です。昔、ソメルニアという恥ずかしがり屋の女錬金術師が片想いの幼馴染に告白するために作ったというクリーンなお薬なんです」


「へ~初めて聞いたよ。ねえねえ、それでソメルニアって人はどうなったの?」


「言い伝えでは、今まで溜まっていた想いを一気にぶちまけて告白は大成功。そのままベッドインして喜びの涙が止まらなかったことから『ソメルニアの涙』と呼ばれるようになったそうです」


「すごいすごい!じゃあ、すぐにリューネちゃんに飲ませようよ!」


「流石に学園内でサカられてしまうと困るので、家に帰ったらすぐに飲ませましょう。もちろん……」


 セリアが意味深な笑みを浮かべると、察しのいいフェリスはすぐ理解した。


「うん♪わかってるよ♪リューネちゃんがすんなり飲むわけないから、コッソリお茶に混ぜちゃお♪」


「「ふふふふふ」」


 悪戯な笑みを浮かべた二人は少し面白がりながらも大切な姉のために計画を実行する。リューネより先に帰宅して準備を整えるとターゲットが現れて、


「おかえりなさいリューネお姉ちゃん♡今日は生意気なことしてごめんね♡はい、お詫びにボクがお茶を淹れたから飲んで♡」


 今まで一度もお姉ちゃんと呼んだことのないフェリスが突然愛嬌たっぷりにお茶を差し出すので、色々鈍いリューネも流石に警戒した。


「……あんたらしくないわね……どうせ変な事企んでるでしょ?」


「うぅ……ぐすっ……リューネちゃんはボクのこと妹として認めてくれないの?」


 フェリスの嘘泣きは女性にも有効で、ちょろいリューネには効果抜群。


「そ、そういうわけじゃないよ!わかった!飲むから!だから泣くんじゃないわよ!」


 こうしてすんなりと薬を飲ませる事に成功すると、セリアとリューネはニヤリ。

 セリアは念のためにバレていないか確認する。


「どう、お姉ちゃん。フェリスちゃんが淹れたお茶を美味しい?」


「まあ、普通に美味しいわよ。てっきり変なもんでも入ってるかと思ったけど杞憂だったみたいね」


 そんなリューネの反応にセリアとフェリスはホッとしたが、あまりにも変化がないので薬が効いているのか不安になってきた。


「セリアお姉ちゃん……全然変化がないけど……あの薬って本当に効果あるの?」


「確かな筋から仕入れましたから……それに『異性に素直になれる薬』ですから私達との接し方に変化がないのは当然です……」


 そんな風に目の前でコソコソする二人にリューネは眼光を鋭くする。


「ん?あんた達……やっぱり何か企んでるでしょ?」


 二人はどうやって言い訳しようかと考えた時――


「ただいま~。いや~パレット先生に捕まってさ~」


 そう言いながらカイトがいつも通りに帰宅。

 しかし、リューネの反応はいつも通りではなかった。


「カイトおかえり♡ほら、お姉ちゃんにただいまのキスは?」


 カイトを見た瞬間に抱き着いてデレデレするリューネに他三人は凍り付いた。

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