1-31 王宮の中心で愛を叫ぶ クソオスを舌でわからせる
フェリスの騒動の翌日、カイトはピピンと共に王城へ――
「いざとなると緊張するな」
カイトは王宮の門を前にして、ため息をついていた。
とりあえずはフェリスを保護できたが、戸籍などの法律上はまだドラゴノート家の人間であるのは事実。あの茶番はあくまでその場しのぎに過ぎない。もしこれでローガンが宮廷召喚士になって力をつけられると面倒なので、それを潰しつつ、ピピンの提案を遂行する。
「そう緊張するな。王に会ってお願いするだけ……のはず……」
ピピンにしては珍しく歯切れの悪い物言いにカイトは余計に不安になる。
「まさか俺に官職につけて働かせるって言ってのが王自身だったとはね」
「ああ、プレッシャーにならないよう今まで隠してたが……」
「いや、ナイスタイミングで教えてくれて助かったよ。俺がなにか役職について、国のために働く代わりに、フェリスの養子縁組を協力させる……ついでに、あの糞兄貴の事を告げ口する。うん、シンプルな仕事で嫌いじゃないよ」
そう言いつつもカイトは内心一筋縄では行かないと予感していた。
だから王と懇意の関係だというピピンの存在が頼もしかった。
そんな頼れる義父の後ろについて王宮内を進むと自分が偉くなったように錯覚する。理由はピピンだ。すれ違う人全員深々と頭を下げる。
「もしかして……ピピンって偉い人?」
「う~む、微妙なところだな」
「なんだか今日のピピンはキレが悪いな。偉いに微妙もクソもあるかよ」
「いや、本当に……私自身は貴族の次男坊で爵位は男爵。それだけならハッキリ言って下級貴族だ。しかし、ベルリオーズ家当主の兄は侯爵。その兄は結婚もせず子もいないから、ゆくゆくは私、そしてカイトが継ぐことになる。そうなると一気に上位貴族だ。それとやはり私がS級冒険者ということと、王の覚えがめでたいからな……」
「ふーん、つまり今は微妙だけど出世確実だからってことね……って俺も?」
「そういうことだ。だからカイトに近づいてくるやつも現れるだろうが、当然胡散臭いやつも多い。カイトがそういうのに引っかかるのが怖いから、学園にいれたんだ」
「大丈夫だよピピン。俺はそんなちょろくないって~」
カイトは自信満々にヘラヘラ笑ったが、詐欺というのは、自分は大丈夫と思っている人間ほど危ないものだ。
「美人に泣きつかれても正常な判断できるか?」
ピピンにストレートな言葉を叩きつけられたカイトは、たまらず白旗をあげた。
「ごめん……無理かも」
「はは、だろうな。そういう意味では、カイトが自分の周りを信頼できる女性で固めるのは理にかなっている……まあ、限度はあるが」
「肝に銘じます」
二人がそんな世間話をしていると玉座の間の扉に到着。すると、王との宮廷召喚士の最終面接を終えたローガンが丁度出てくるところだった。
「これはこれはピピン殿。昨日は妹が世話になりましたな」
昨日シッポ巻いて逃げたにしては、えらく威勢がいい。
カイトは不思議がっていたが、隣りのピピンは大体の事は察していた。
「やあ、ローガン殿。面接の方はうまくいったようですな」
「ええ、近いうちに宮廷召喚士就任祝いのパーティーを兼ねてフェリスとの婚姻を発表する予定ですので、ぜひご参加ください」
挑発するようなローガンの物言いに対してピピンは淡々としていた。
「はて?宮廷召喚士就任を祝うのは構いませんが、私の娘と勝手に婚姻発表されても困りますな」
「そちらこそ私の妹であり婚約者のフェリスを誘拐しておいて随分ですな」
それを聞いたカイトはクスッと笑ってしまった。正直、間違ってないからだ。
そんなカイトにイラついたローガンが、
「それでピピン殿……今日は何の用で王と面会に?それもそんな子供を連れて」
ここまでくるとピピンもローガンに喧嘩腰になってくる。
「ええ、私の娘婿であるカイトを宮廷召喚士に推薦するためです」
「「え!?」」
カイトとローガンは図らずも同じリアクションをしていた。
カイトは何の役職かまでは考えていなかった……というより自分で選ぶという発想がなかったので、ピピンが勝手に役職を決めたことに驚いていたが、ローガンの驚きようはその比ではなかった。
「こ、こんな小僧が!?いくら身内贔屓するにしても限度というものがありますぞ!んん?よく見れば昨日フェリスのいた部屋にいたような……」
「そうです。カイトは私の娘であるリューネ、セリア、そしてフェリス……さらに昨日あなたを保健室に案内したパレット女史、この四人の婚約者です」
それを聞くとローガンはカイトをにらみつける。ローガンからすれば、カイトは婚約者であるフェリスを寝取った男だし、自分を袖にしたパレットが自慢していた婚約者。さらに昨日、目を付けたセリアとも婚約していると思うと憎くて仕方なかった。しかし、いくら怒ったところで、基本は弱い女にしか手を出せない小心者。それに玉座の間のそばで騒いでは王の心証を悪くするかもしれないから大人しかった。
「ふーっ……君、いくら貴族でもその年で四人も婚約者を持つのは節操がないのではないかね?」
カイトは宿敵と変なところで意見が一致してしまい、苦笑いを浮かべてしまう。
そのカイトの笑顔がローガンには挑発しているようにしか見えなかった。
「馬鹿にしてるのか!?と、とにかく、いくらピピン殿が推薦しようとも君には荷が重い。悪い事は言わないから宮廷召喚士は辞退したまえ」
「まあ、若輩者の私には決定権がありませんので……」
カイトがそう大人しくしていると、ローガンは図に乗る。
「そうだ君はまだ若すぎる。だから婚約者も半分私に譲りなさい。フェリスと……あのプラチナブロンドの娘も、いやフェリスは元々私のものなのだから、あの女教師もだ。一人いれば十分だろ?」
カイトは最後の言葉だけ共感していた。もし彼女達がそれを望むならば、確かにリューネだけでも構わない。しかし、女を物のように扱うこんな男にだけは渡したくないという気持ちで流石に頭が来た。だけども、暴力を良くない。王宮とは口で喧嘩する場所である
カイトはわざと大きな声を出した。
「ご忠告痛み入ります!しかし!私は四人全員を愛しています!その愛とはあなたの愛とは違います!私は愛しい人から聞きました!あなたの愛とは暴力だと!殴り!蹴り!踏みつけ!いたぶり!さらには自分の出世のために!宮廷召喚士になるために!高官の相手をさせたと!私はまだ未熟ですので!あなたの愛が難解でございます!もしよろしければ!今からともに王の前で!愛について語り合いませんか!」
カイトが突然壊れたように大きな声でまくしたてるので、ローガンはたまらず走って逃げてしまった。
そんな様子を見たピピンが大笑いしていた。
「おいおい、ピピン。俺はピピンが止めてくれると思ったのに……」
「はははは!止める?馬鹿言うな。今更だが、私はカイトに頼まれなくても、事情をきいた段階でフェリスは保護するつもりだったんだ。だから私はフェリスを本当に娘として大切にするつもりだよ。そのフェリスだけでなく、セリアと、さらにはパレットさんまで寄越せと言ってきた時には斬り殺しそうになったんだ。だから、むしろ私がカイトに止めてもらったんだよ。それにしても逃げる時のあいつの顔は傑作だったな。あはははは!」
カイトはピピンがこんなに笑うのを初めて見たので戸惑いを隠せない。
そんな騒がしい玉座の間の前――突然扉が少し開いた。
「お~い、ピピン。余を待たせるだけでなく、余抜きで面白い事するなんてずるいぞ」
扉の隙間から、すねたような顔をした男性が恨めしそうな声で責めてくる。
カイトは説明されなくとも、この人物が国王だと理解した。
おかげさまで1万PV達成できました。
メスガキわからせ編も終盤ですが、最後までお読んでいただけると幸いです。