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1-29 ※フェリス視点  カイちゃんはボクの王子様じゃない

 カイちゃんに喋っちゃった……

 ボクが娼婦の子供だということ……異母兄が婚約者だということ……その兄の命で性接待をさせられていること……どれも知られたくなかった。


 だってカイちゃんはボクが初めて好きになった人だから……ボクにたくさんの初めてをくれた人だから。

 カイちゃんが初めてだよ。固有スキルを褒めてくれたのも、召喚魔法を馬鹿にしなかったのも、プレゼントをくれたのも、頭を優しく撫でてくれたのも、おんぶしてくれたのも、手をつないで歩いたのも、大切な人だって……守りたいって言ってくれたのも……

 そう、カイちゃんが初めてなんだ。ボクの裸を見ても隠そうとしてくれる。殴ったり蹴ったりしない。髪を引っ張らない。怒鳴りつけたり……カイちゃんはボクにひどいことをしない。


 だからだよ。カイちゃんのせいでボクは弱くなった。

 実技試験の次の日……いつもみたいに玩具にされてた……いつもみたいに気持ちのいいふりをしよう……いつもみたいに心を殺してやり過ごそう……今までのボクならできたんだ……でもダメだった。カイちゃん達が楽しそうに街を歩いてるのを想像したら涙が溢れてきた。

 カイちゃんのそばにいたい。

 カイちゃんに触れたい。

 その想いで頭がおかしくなりそうだった。


 次の日にカイちゃんと会った時――ボクはもう止まらなかった。気がついたら、嫌悪しているはずの売春婦みたいにカイちゃんにガツガツ迫っていた。だって……もうカイちゃんの体以外触りたくないんだもん。当然カイちゃんは引いてたね。


『どうしたんだ?何かあったのか?なんか今日のお前、変だぞ?』


 真面目なカイちゃん……綺麗なカイちゃん……ボクみたいに汚れた女なんか……

 そうだ!カイちゃんを汚そう!ボクと一緒になろうよカイちゃん!


「あ~、もうまどろっこしいなあ……ねえ、カイちゃん……しよ♡」


 カイちゃんがこんな事言われても喜ぶ人じゃないってボクが一番知ってるはずなのに、カイちゃんだって男だと思ったら、淫らな言葉が口から止まらなかった。

 そしてカイちゃんはそんなボクを止めてくれる。


『今日のお前おかしいぞ。いつものフェリスに戻ってくれ』


 おかしくなって、ごめんねカイちゃん。もう、いつものボクには戻れない。


「ボクおかしくないもん!カイちゃんは、ボクの事嫌いなの?」


『嫌いなわけない……大切って言っただろ!好きだよ!だから、フェリスを大事にしたいんだ!』


 カイちゃんに初めて好きって言ってもらえたのに……最悪だ。

 そう思ったけど違った。最悪はまだまだこれからだった。


『なあ、フェリス……悩み事があるのか?あるんだったら相談してくれよ。俺、頼りないかもしれないけど、できる限り力になるよ。悩みは、家の事か?友人関係か?進路か?それとも……婚約者とか、そういう関係か?』


 一番好きな人が一番触れてほしくないモノに近づいている事に絶望した。何が何でもそれだけは避けたい。だから……


「もう……カイちゃんイラナイ。ボクのこと……必要以上に知ろうとするカイちゃんなんて……カイちゃんは学園の中だけ……学園のボクだけ見てれば……そもそも実技試験のパートナーだっただけだよね?ボク、もう召喚獣だせるからカイちゃんなんか用済み……もう話しかけてこないで……」


 この時、ボクは実技試験の日、自分の去り際の言葉を思い出していた。


「カイちゃんは……ずっとカイちゃんだよね?」


 あの時すでにボクはこの結末を予感してたんだと思う。無知なカイちゃん……自分だけに都合のいいカイちゃん……そんなのいるわけないのに。

 でも、こんな身勝手なボクをカイちゃんは受け入れてくれる。

 

『……わかったよ。フェリスの言う通りにする……でも、話せなくなる前に、二つだけ、俺の話を聞いてくれないか?』


 ねえ、カイちゃん。この時、ボクは何を心配してたと思う?

 それはね……ブルースフィアモルフォの羽を返してくれって言われないかって事で頭がいっぱいだったんだ。もちろん高価な物だからじゃないよ。ボクの宝物だから。カイちゃんと結ばれなくても、これは死ぬまで持っていようって決めてたから……

 そんな自分勝手なボクをカイちゃんは心配してくれる。

 契約魔法印の事を調べてくれてた……

 こんなボクに、まだ頼ってくれって……


 ああ……わからされたよ……カイちゃんはボクといちゃいけない。失恋とかそういうレベルじゃない。ボクにはカイちゃんを好きになる資格もない。


「じゃあ……今まで色々ありがとね……バイバイ、カイちゃん」


 ボクはこれを言うのが精一杯。

 気づいたら、泣いて走っていた。

 それをリューネちゃんに見られてた。


 ボクは何もする気が起きず、学園を二日連続で休んで女子寮の自室に籠ってた。兄様を説得して寮に入って正解だったと呑気な事を思ったら、ノックする音。リューネちゃんだった。しかもいきなり謝ってくる。意味不明だった。


『ごめん。私、カイトにフェリスに婚約者がいたとしても仲良くするようにとか偉そうにアドバイスしたから……変なこと吹き込んだから……』


 なんだ……全然リューネちゃん悪くないじゃん。リューネちゃんはいい子過ぎる。ああ、だからカイちゃんの婚約者なんだ……そんな事考えてたら、しまいにはリューネちゃんが涙目になる。だから、何故かボクがリューネちゃんを慰めてた。普通、逆だよね?


『カイトも辛そうなの。フェリスが心配で仕方ないみたい』


 もうカイちゃんと喋らないって決めたのに、それを聞くとやっぱり嬉しい。

 そうだね……ボクはカイちゃんを苦しめたくない。

 リューネちゃんに明日から学校に行くことを約束した。


 そして、次の日――約束通り登校する。

 誰も話しかけてこない。うん、これでいいよ。

 一瞬カイちゃんと目が合った。ボクはこれだけで幸せ。

 そう、ボクが悪い……だから、今度カイちゃんに謝ろう。

 時間はまだあるんだ。うん、大丈夫。


 そう思った次の日がこのざまだよ。

 まさかボクの相手した男の親戚が身近にいるなんて貴族社会は狭いね。

 女同士なのになんであんなひどい事……そうだね。男もヒドイ事をするけど、じゃあ女はひどくないかといったら別問題。女の嫉妬は正直男より怖かった。

 結果、ボクの契約魔法印が暴走――結局カイちゃんにまた助けてられちゃった。

 そして火竜の契約魔法印も隠し事もなくなってスッキリした自分がいる。

 何よりカイちゃんはこんなボクを見捨てないでくれた。


『俺……フェリスが好きなんだ。その話を聞いても……いや、今まで以上にフェリスを守りたい』


 ボクは人生で一番穏やかな気持ちになった。

 こんなボクをカイちゃん、セリアちゃん、リューネちゃんが優しく包んでくれる。それをマリア先生とピピン先生が見守ってくれる。ずっとこのまま……

 そう思うとやっぱりダメだね。


『皆さん!ドラゴノート家の当主がフェリスさんを迎えに来るみたいです!』


 パレット先生が絶望を知らせに来た。

 嫌だ……もう兄様といたくない……カイちゃんから離れたくない。


『大丈夫だよフェリス。俺に任せて』


 カイちゃんの優しく力強い声……ああ、セリアちゃん……これがわからせなんだね。

 カイちゃんはボクの王子様じゃない。

 カイちゃんはお姫様しか救わないようなケチでつまんない男なんかじゃないってわからされた。

 カイちゃんはボクの太陽。

 カイちゃんはボクの全てを捧げる人。


 カイちゃんの言う通りに宝物であるブルースフィアモルフォの右羽を渡す。

 にしし♪これでボクとカイちゃんは永久に……って!?ちょっと待ってカイちゃん!なんでピピン先生に渡してるの!!ボクとカイちゃんの永久の愛が!

 そんな取り乱すボクにカイちゃんが近づいてくる。

 えへへ、ダメだ、カイちゃんがそばにいるだけで顔がニヤけちゃう。そんな場合じゃないのに~。


『フェリス』


「はい、カイちゃん」


『フェリスのお母さんの名前を教えてくれ』


 ん?ん?本当に何する気なのカイちゃん?

 でも、ボクはカイちゃんの全てに従います。以後の生涯、ずっと♡

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