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1-27 フェリスの秘密と契約魔法印の発動

 フェリスが学校に来るようになった次の日――

 ジョブ別選択授業は実技試験の復習ということで、グループに分かれて学園の裏山の行軍訓練……カイトとフェリスが特訓した思い出の場所だ。しかし、今日は別々のグループに分かれている。


「お~い、カイト。たまには俺たちとも一緒にやろうぜ」


「うん。よろしく頼むよ、ロッシュ」


 カイトはこの一か月でSクラスの男子とすっかり馴染んでいたので、そのグループに入った。テイマーのロッシュとは特に仲が良くなっていた。

 一方のフェリスは自分から声もかけず、ボーっとしていると、A・Bクラス女子のグループが声をかけてきた。


「フェリスさん。よろしかったら私達のグループに入りませんか?」


「うん……よろしく」


 フェリスは無表情な顔でぶっきらぼうに返事をしている。

 フェリスを可愛がっていたマリアは、そんな教え子を見て心を痛めた。


「カイトちゃん……フェリスちゃん大丈夫かしら?何だか見ていて辛いわ~。女の子がああいう状態だと悪い男がつけこんじゃうから、カイトちゃんがしっかりキープしてあげなくちゃダメよ~」

 

 マリアが冗談っぽく言うが、若干ナーバスなカイトは冷たく返事をした。


「娘婿に不倫そそのかさないでください」


「あら~怖い、私はカイトちゃんがお嫁さん増やすのは反対じゃないのよ~。フェリスちゃんみたいなカワイイ子ならむしろ大歓迎」


「……カワイイから自分の女にするって発想……女の人をモノ扱いしてるみたいで嫌なんです」


 マリアは女性に対して生真面目なカイトに笑ってしまったが、その人柄を理由に大切な娘の婿にしていた。そんなカイトに義母としてアドバイスを送る。


「カイトちゃんは一夫多妻制って誰のための制度だと思うのかしら?」


「そりゃ男に決まってるじゃないですか。男は複数の妻持てるのに、女の人はその逆ができないっていうのは不公平ですよ」


「確かに男女平等の観点からならそうね~。でも実利面で考えたことはあるかしら?」


「実利……ですか……」


「女はロマンチストに見えて男より現実的な生き物なのよ~。不幸になると分かってる相手の妻よりも、強くて好きな男の側室になった方がマシ……そう考える女の人だっているって事を知っておいて欲しいわ~」


 女性の口から言われては、カイトは反論のしようもない。貴重な意見として心にとどめておいた。


 そして、授業は始まり、グループごと別々のルートで裏山の頂上へ向かう。特段難しいことがあるわけでなく、索敵しながら移動する練習なので、生徒にも余裕があり、ロッシュがカイトと世間話をしていると、フェリスの話になった。


「いや~、でもカイトがフェリスさんと距離を置いたみたいでホッとしたよ」


「距離を置くっていうか……でもフェリスは悪い奴じゃないぞ」


「まあ、フェリスさん本人は別としてドラゴノート家がなあ……」


 フェリスの家の事を何も知らないカイトはロッシュに食いついた。


「フェリスの家って何か問題があるのか?」


「ああ、俺の家の領地がドラゴノート領と隣接してるから、いろいろ情報が入ってくるんだよ。先代当主が急死して、現当主はフェリスさんの兄さんだけど、あまりよろしくない人って噂がね」


 どれも初めて聞く話なのでカイトはイマイチ要領を得なかった。


「よろしくないって……具体的にどういう」


「ひとことで言えば不良貴族かな……その兄さん、宮廷召喚士になれなくてグレて、胡散臭い貴族や怪しい商人とつるんでるって聞いたけど……具体的に何してるかまでは知らないよ」


「そうか……色々教えてくれてありがとう、ロッシュ」


 カイトはフェリスに止められていたのに、情報収集してしまい少し胸が痛んだ。

 そんな辛そうな顔をしているカイトを見たロッシュが忠告をする。


「あんまフェリスさんに深入りしない方がいいぞ。貴族にとって大切なのは、いい人脈形成をする事だ。俺は、お前がドラゴノート家に取り込まれるのを心配してたけど、あんなに仲よさそうだと邪魔したくなくてな……せっかく離れられたんだから、わざわざ首突っ込むことはない」


「ああ、心配してくれてありがとう」


 カイトはそう言っておきながらフェリスの事が心配でならないというのが見え見えなので、ロッシュは呆れてため息をついた――その次の瞬間、カイトとロッシュの前を先行していた生徒が騒ぎ出した。

 カイトは皆が指さす方を見ると、火柱が上がっている――カイトは直感で察した。


「フェリス……」


 あそこで何が起きたのはわからないが、間違いなくフェリスがいる。そして何か良くないことが起きている……それだけは分かった。


「ロッシュ!俺はあそこに向かうから、お前は周りの人間を集めながら、安全な場所へ移動してくれ」


 ロッシュはカイトの実力を目の当たりにしているので、指示に従った。


「わかった!だけど無茶するなよ」


 カイトは頷くと全速力で火柱へ向かった。




 そんなカイトが全力疾走する少し前のフェリスのいるグループ――


「ちょっとフェリスさん、なぜ召喚獣を出さないのですか?」


 グループのリーダー格が金切り声をあげるとフェリスは露骨に嫌そうな顔をした。


「病み上がりで調子が悪いの……それに、これだけの人数と従魔がいるんだから、学校の裏山なんかで、わざわざボクの召喚獣を出す必要ないでしょ」


 正論だが癇に障る物言いにグループの女子たちは眉をひそめる――しかし、それだけでは終わらなかった。


「本当は召喚獣が出せないだけではないの?前の実技試験だってカイトさんに全部やらせて、自分では何もやってないって噂ですよ」


 突然難癖をつけられたフェリスは、カイトの事で気が立っていることもあって激高する。


「そんな事ないよ!カイちゃ……カイト君にはAポイントでは頼り切ったけど、それ以外はボクの自分の判断でやったもん!」


「でしたら召喚獣ぐらい出してみてはどうですか?ほら!」


 フェリスはその挑発に乗るが、とても召喚獣をだせるコンディションではなかった。


「来い、アゲハ!あ、あれ……なんで……なんで出てこないの!?」


「ほら、やっぱり。この人がチェックポイント全制覇なんておかしいと思ったのです。それに、いつもカイトさんのこと召喚獣呼ばわりしてたじゃないですか」


「そ、それは……」


「どうせカイトさんに体で対価を払ったんでしょ」


 フェリスは前任の教師の時にも、似たような陰口は叩かれていて、その時は耐えられた。しかし、今回はカイトまで貶されて我慢できなかった。


「違う!カイちゃんはそんな人じゃない!」


 そのフェリスの反応を見て不敵な笑みを浮かべる女子がいた。


「ああ、確かにカイトさんは、そんな人じゃないかもしれませんね……カイトさんは!」


 その言い方に、フェリスは怒りよりも寒気を覚えていた。

 そんなフェリスの反応を楽しむように、その生徒はしゃべり続けた。


「それに……ふふふふ、これ知ったらカイトさんは悲しむ……いや、喜ぶかもしれませんね」


 この段階になるとフェリスは冷や汗を流しながら、


「な、何のこと?」


「実技試験の次の日……あ!顔真っ青!」


 その女子生徒の言う通りフェリスは青ざめて唇が震えていた。


「私の叔父様がおっしゃってましたよ。あなたのお口は最高だったと」


 フェリスは耐えられず、顔を手で覆ってうずくまる。

 その異様な光景に女子たちは色めき立った。


「え?なになに?どういうことですの?」


「この女は当主である兄の出世のために貴族や商人相手の接待する玩具ですのよ」


 その言葉を皮切りに様々な罵詈雑言がフェリスに叩きつけられた。


「あんだけこき使っておきながら何もしてあげないで、自分は他の男の相手するなんて最低の女ですね」


「カイトさんカワイソー。教えてあげなくちゃね」


 それがフェリスのもっとも恐れている事だった。フェリスは縋り付いて、


「やめて!お願い!カイちゃんにだけは言わないで!なんでもするから!」


「それが人にものを頼む態度ですか?」

 

 フェリスは跪いて許しをこう。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 フェリスが壊れたように謝りだすと一同は爆笑――こうなると余計エスカレートするのがいじめというものだ。


「じゃあさ、男にどんな風に挨拶するの?実演してみせてよ」


 フェリスは無理矢理作り笑顔を作ってピースをしながら、


「せ、精一杯ご奉仕させていただきますので、私を可愛がってください……」


「ねえねえ、いままで何人相手にしたの?」


「え、それは……ねえ!もういいでしょ!ボク、君たちには何も悪いことしてないじゃん!」


「はあ?あなたの存在が目障りなのよ。売女のくせにSクラスなんて」


「そうそう、顔がいいからって男子にチヤホヤされて……筆記試験の点数がいいのも、どうせ教師と寝てテストの答え横流ししてもらってるんでしょ?」


 もう言葉が通じない……フェリスは自分の誤解を解くことを諦めて、譲れない事だけは嘆願する。


「ううう、ボクが悪かったから……でも、約束通りカイちゃんには言わないで!」


「ええ、約束は守りますわ」


 それを聞いて一瞬だけ目に光が宿ったフェリスだが、すぐに暗転する。


「でも、他の男子に言って、そこから広まって知っても私たちのせいじゃないよね?」


「あははは、どうせ、そのうち学園内で売ってるのを見られてバレるでしょ」


 フェリスは完全にキレて立ち上がるが、それ以上何もできない。相手は複数人。しかも従魔のモンスターまでいる。ただ立ち尽くして、唇を血が出るほど噛んで、にらみつけるのがやっとだった。

 そんな姿が女子たちには滑稽だった。指をさして笑う。


「そんな悔しかったら召喚獣だしてみなさいよ、雑魚召喚士」


 その瞬間、フェリスは自分の魔法契約印が熱くなるのを感じた。

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