表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/142

1-24 聖女は見た! 無自覚プロポーズと虹の祝福

 早朝のベルリオーズ家の庭――

 カイトと朝の特訓をしていたリューネは水分補給しながら小休止。


「ふーん、白狼の森でオリエンテーリングするなんて、そっちの実技試験って結構大変なのね」


「そっちは体力測定と剣術の模擬戦だっけか?こっちは大変っていうか面倒って感じかな?単純な強さ以外を要求されるテイマーや召喚士向けの試験としてはよくできてると思うよ」


 カイトは訓練用の杖で素振りしながら答えた。リューネがセリアとフェリスにばかり構うカイトに拗ねていたのと、カイト自身そろそろ武器術を身につけたいと思っていたので、最近は朝のリューネの剣術の訓練に杖で参加していた。最初はステータスの暴力でごり押していたが、だんだん技術で対抗できるようになってきてカイト自身ハマっていた。

 自分はへとへとなのに余裕たっぷりのカイトを頼もしさと悔しさをチャンポンした気持ちで見つめていたリューネは小言を言う。


「あんたは余裕でいいわよね~。なんたって副試験官って名目で試験免除なわけだし、羨ましいわ~」


「別にそんないいもんじゃない。やる事は実質、フェリスの御守りみたいなもんだし……そういう意味では日頃と変わらないかな」


 当初はフェリスとタッグを組んで試験を受ける予定だったが、それではカイトがやりすぎてフェリスの試験にならないという事で、カイト試験免除でフェリスを手伝いすぎない範囲でサポートする副試験官として参加することになっていた。


「そっか……でも、フェリスはまだ上手く召喚できないんでしょ?いくらあんたがサポートするったって、それで大丈夫なの?」


「う~ん、本人はやる気もあるし、頭の回転も早くて、才能はあると思うんだけど、こんなに苦戦するのは想定外かな……異界とのリンクは問題ないけど、魔力が不安定なせいで召喚獣の具現化がどうしてもうまくいかないんだよ」


「あんたでも上手くいかない事があるのね……私が言うのもなんだけど、あんた結構教え上手だし、フェリスも要領いいから意外だわ」


「多分、フェリスの契約魔法印が干渉してる思うんだよなあ。そのせいで魔力も不安定になって、体があまり丈夫でないのも、あれが影響してると思うんだけど……」


「じゃあ、消しちゃえばいいじゃない。だいたい女の子の体にそんなもん描く事自体私は嫌なのよ」


「俺も同感なんだけど、フェリスがそれは拒否するんだよ。家の方針だから、あまり口を挟めないのが歯がゆいところだね」


「とにかく、試験は来週なんだから、呑気な事言ってないでよ。フェリスは私の筆記試験のライバルなのに、こんなところで挫折されたら……カイト!とにかくなんとかしなさい!」


 自分の友達にまでツンデレを発動するリューネにカイトは苦笑いを浮かべていた。


「ああ、言われなくとも」


 そうは言ったものの、手探り状態なのは否めない。

 カイトは打開策を思案しながら、フェリスと練習の待ち合わせ場所である学園の裏山に向かった。今日は学園そのものは休みだが、試験まで時間がないので、フェリスとの特訓に付き合うことになった。


 裏山の待ち合わせ場所には既にフェリスが到着して、しゃがんでいる。カイトは、てっきり体調が悪いのかと思ったら、そうではなかった。


「えへへ、お前はどんなガラで生まれてくるのかな~」


 フェリスは子供っぽい事を言いながら蝶の蛹に話しかけている。


「なんだよ。蛹なんか見てたのか……ビックリさせるなよ」


「あっ、カイちゃん!だって、この裏山でこんな蛹初めてみたんだもん」


 少女というよりは宝物を見つけた虫取り少年みたいに笑うフェリス。

 カイトはそんなフェリスが愛おしく思えたが、気恥ずかしくなってしまった。


「フェリスって本当変わってるよな。女の子は、普通は虫なんか見たくも触りたくもないもんじゃないか?」


 カイトは深く考えず一般論を述べただけのつもりだったが、フェリスは急に暗い顔になってしまう。


「やっぱり……カイちゃんは普通の女の子がいいよね……」


 フェリスの情緒不安定さに困惑したカイトは、なんとか機嫌を直してもらおうと腐心する。


「一般的にはってだけだよ。女の子が虫を好きなっちゃダメなんて誰も決めてないからさ」


 カイトがそう言うとフェリスは笑顔になった。

 フェリスに振り回されっぱなしだが、こんなやり取りは意外と嫌ではなかった。


「でも、実際どうして虫が好きなんだ?」


「ん~、好きになるのに理由なんているの?」


 フェリスの無垢な答えに、カイトは「そりゃそうだ」と納得して黙っていると、少し遠い目をしたフェリスは独り言のように続きを語った。


「でも……理由を挙げるなら……あんな不細工な芋虫が、あんなに綺麗な蝶だったり、硬くて強そうな甲虫になったり……すごいなあって憧れる……特に、ブルースフィアモルフォは一回でいいから見てみたいんだ」


「ブルースフィアモルフォって、S級ダンジョン『ボトムレスアビス』の最深部に生息しているヤツか?」


「うん。カイちゃんよく知ってるね。羽が青い宝石を散りばめたような斑点模様になってて、寿命を迎えると羽だけが結晶化して残るんだって。手に入らなくても、死ぬ前に見るのが夢なの」


 カイトはフェリスが語る蝶の事を知っていた。というより、『ボトムレスアビス』は王都に来る前に毎日のように潜っていたダンジョンなので、ブルースフィアモルフォの羽も持っていた。


「そんなに好きならやるよ。え~っと、ほら、これこれ」


 カイトはアイテムボックスから取り出して、一対の結晶化した青い蝶の羽を軽いノリでフェリスの手に乗せた。

 フェリスは思いがけず夢が叶い固まってしまったが、彼女の表情には単純な喜び以外の色も混じっていた。


「カイちゃん……これ……他の子にもあげたりしてる?」


「は?虫を女の子にプレゼントするわけがないだろ」


「そっか……意味わかってないんだ……」


 フェリスは残念そうだが少し安堵したような表情で小さく呟いた。


「意味?俺は偶然見つけて、なんか綺麗だから記念に持ってただけだよ」


 そんなカイトの答えに、フェリスはクスッと笑ってから説明を始めた。


「これは凄く希少で高価なものだけど、それだけじゃなくて……昔は王族の婚姻の贈り物として重宝されてたものなの。ブルースフィアモルフォの羽は完全に左右対称なんだけど、一つとして同じ模様の個体が無いのが特徴でね。男が右の羽、女が左の羽を持つ事で永久の愛を誓うって縁起物。恋愛クソ雑魚童貞のカイちゃんがいきなり渡すからビックリしちゃった」


 知らぬうちにプロポーズめいた事をしていたカイトは驚いて慌てていた。


「え、あ、その、そんなつもりじゃ」


「にしし♪知ってるよ。カイちゃんのバカ♡ざぁこ♡ざぁこ♡……だから、これ返すね」


 フェリスは両手で礼儀正しく青い蝶の羽をカイトに差し出してきた。

 カイトは驚いてフェリスの顔を見ると、これ以上ないくらいの明るい笑顔だった。


「婚約者がいるくせに、ボクが可愛いからって、こんなものプレゼントしたら、セリアちゃんやリューネちゃんが怒るよ?パレット先生とか発狂するかも……カイちゃんのスケコマシ♪」


 いつもの調子のフェリスだが、カイトは少し違和感を覚えた。これを受け取ったら、今までのフェリスでなくなるような気さえしていた。


「返さなくていいよ」


「え?」


「だって、左右一対で渡せばプロポーズの意味にはならないだろ?それに一度あげたもの返されたら、俺がカッコつかないじゃんか」


 カイトが少し照れくさそうにしていると、フェリスは堪えきれずに笑い出した。


「あははは、カイちゃんのくせにカッコつけてる」


「うるせーな。じゃあ、こうしよう。フェリスが一人前の召喚士になって、自分でブルースフィアモルフォの羽を手に入れたら返してくれ。これならいいだろ?」


「ふふん、そういうことなら貰ってあげる。にしし♪すぐに返してやるもんね」


 そう笑った時の彼女の纏っている魔力がとても安定しているように見えた。

 それに気付いたカイトはフェリスに呼びかけた。


「おい、フェリス。今のお前、凄い魔力が安定してる感じがするから、その状態をキープして召喚魔法をやってみろ」


「う、うん」


 フェリスはブルースフィアモルフォの羽を握ったまま目を閉じて集中する――すると、彼女の脳裏には今まではボンヤリとしか見えなかった極彩色の蝶の姿はハッキリ浮かんだ。


「カイちゃん!今、頭の中に蝶がハッキリ見えるよ」


「よし、じゃあ、あとは名前を付けて契約しろ」


「……カイちゃん……ボク思いつかないからカイちゃんにつけて欲しい」


「いや、でも、契約する本人が決めた方が……」


「いいから!早くしないと……あ、だんだん薄くなってく……」


「わかったよ!え~と、じゃあ『アゲハ』でいいか?」


「う、うん。アゲハ、出てきて!」


 フェリスが叫んで召喚したのは、彼女と同じくらいの大きさの虹色の羽の蝶だった。


「あれは確かファントムバタフライ……デバフ系が得意な優秀な召喚獣だぞ。やったなフェリス!」


 カイトは約束通りフェリスの頭をなでると、彼女も嬉しそうに自分からカイトの手に頭を擦りつけてカイトの手を握った。


「カイちゃん!これでボクしっかり召喚士になれたよね!?」


「ああ!これで実技試験も間に合うぞ!」


 二人は虹色の蝶の下で両手を握って喜びを分かち合う――

 やっぱりそれを見守る女が一人……

 セリアはカイトへのストーカー行為を隠密行動・諜報活動の訓練の一環だと自分に言い聞かせて、およそ聖女に必要のないスキルを磨くために暗躍していた。

 結果、彼女はカイトとフェリスの二人が見え、会話が聞こえるギリギリの距離で二人を見守っている――しかし、ビーナスハンドで強化した右手で指眼鏡を作り、左手は耳に添え、視力と聴覚を強化しながら裏山の入り口でハアハアしてる姿は変態のそれ――たまたま近くで遊んでいた近所の子供に声をかけられた。


「ねえねえ、お姉ちゃん、何やってるの~?」


「しっ、子供はもう寝る時間ですよ」


「え~、まだお昼だよ~」


「お、おい、ボリス。この人、なんかヤバそうだから逃げようぜ」


 そう言って離れていく子供達を気にせず、ラブウオッチ続行。


 うっ……ぐすっ……美しい光景です……誰ですか!?フェリスちゃんをメスガキなんて呼んだクズは!?あ、私でした!とにかくフェリスちゃんをメスガキなんて呼ぶことを私が許しません!見てください、あの天使のような笑顔を!確かにカイト君に会う前の彼女はメスガキだったかもしれないけど……今の彼女は純度100%の乙女!フェリスちゃんはカイト君に、自分が生意気なメスガキではなく、恋する乙女だとわからされたんです!あれこそ理想のわからせの形!そして、そんな姿を見せられた私は、自分がいかに下品で破廉恥な女かわからされ……あああ!これも実質カイト君による私へのわからせ!間接わからせ!カイト君の愛を確かに感じます!愛を見せつける愛!いいです!尊い二人と醜い私の対比がグッド!告白します!昨晩はカイ×フェリのイチャラブックスをおかずにして致しました!最高でした!あああ!もっと見たいです!来週の実技試験もストーk……じゃなくて同行したいです!こうなったら『回復職クラス』の治癒魔法実習を私のビーナスハンドをフル稼働させて全員回復させて……絶対二人から目を離しません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ