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1-22 二人だけの召喚練習と裸のフェリス

 カイトがフェリスと出会ってから、学園で過ごす時間の大半は彼女と一緒だ。もちろん学園外の時間を含めればセリアと過ごす時間がぶっちぎり。

 しかし、リューネは微妙なところ……時間の密度を考えればフェリスの方がカイトと親密になっていると彼女は思っていた。


「フェリス……あんたって本当、遠慮って言葉知らないのね。まあ、ここまでくると清々しいわ」


 昼休みにカイト、セリア、リューネの三人に加わってフェリスも一緒にカイトの手料理を食べていた。


「ボクは悪くないよ?こんな美味しい料理を作って、アイテムボックスで出来たての状態で出してくれるカイちゃんが悪いの」


「……それは一理あるわね。カイト、午後はジョブ別選択授業で体力いるからサンドイッチおかわり」


 当たり前のように要求してくるリューネにカイトは小言を言う。


「遠慮知らないのはリューネだろ?まあ、大量に作り置きしてあるから、構わないけどさ……はい、リューネの好きなカツサンド追加ね」


 そんな甲斐甲斐しいカイトにフェリスはそっと寄り添う。


「カイちゃんカワイソ~。えへへ、リューネちゃんの分もボクが優しくしてあげるね。はい、あーん♡」


 カイトはフェリスがフォークで目の前に突き出してきた唐揚げを抵抗することなく口に入れてモグモグ……こういうやり取りに段々慣れてきてしまった。

 そんな二人をリューネは不機嫌そうに眺めながら、ニコニコ笑顔を崩さないセリアをつついた。


「セリア……あんたよく自分の婚約者とあんだけイチャつかれて笑えるわね」


「ふふふ、だってフェリスちゃんかわいいじゃないですか」


「そりゃ見た目が可愛いのは認めるけど、小悪魔の泥坊猫じゃない!」


「え~、中身も可愛いよ~。それに……意外とお姉ちゃんに似てると思うよ」


 セリアは二人がタイプは違えども、根は恥ずかしがりで素直になり切れない雰囲気があるのを本能的に察知したが、リューネはひどく心外だった。


「はあ!?筆記試験の点数以外似てるとこなんて無いわよ!それ以外正反対じゃない、ルックスから性格から何から何まで」


 リューネの言うことはもっともだった。

 リューネは模範的な優等生で、フェリスは勉強のできる問題児。

 リューネはスラッとした中性的な美形で、フェリスは小柄なロリ系。

 リューネは男子より女子人気があり、フェリスは男子に優しくされて女子は苦手。

 他にも指摘すればきりがないくらい色々と対照的な二人だが、意外と仲が悪いわけではない。特別仲がいいという感じではなく、プライベートで遊んだりしないが、普通に喋るクラスメイト……そんなレベルの友人でもフェリスには貴重な存在だった。

 リューネも、あまり貴族的な雰囲気のないフェリスは話しやすい存在であった……しかし、自分の婚約者とベタベタされて容認するかは別問題。


「そういえばカイト……次のジョブ別選択授業でフェリスと二人だけ別で召喚魔法の練習するらしいわね。ママから聞いたわよ……」

 

 カイトは別に隠していたわけではないが、婚約者にジットリとした目で見つめられながら言われると、何だか後ろめたい気持ちになった。


「あ、うん。マリアさんと話し合ったんだけど、やっぱり本来テイマーと召喚士では訓練方法が違うから、次の実技試験までは俺がフェリスをマンツーマンで指導した方がいいって話になって……だから、一応言っとくけどマリアさんが提案したことだからね。変な勘違いしないでね。特にセリアさん、何でさっきから顔赤いの?何か絶対誤解してるでしょ?」


 口元を手で覆ってハアハアしているのを誤魔化そうとしていたセリアに、カイトは念押ししていた。

 しかし、セリアは推しのカップリング――自分の婚約者とメスガキのわからせ妄想が捗って、なかなか興奮を抑えられないでいた。

(あああ!カイト君、早すぎですよ!フェリスちゃんがネットリ丁寧にわからされるのを見たかったのに!会ったその日のうちに攻略しちゃうなんて……カイト君が最高すぎるから仕方ありませんね!そして今からフェリスちゃんと二人きり……何も起きないわけありません!やっちゃうんですか!?やっちゃいますよね!?私ならやります!何を?ナニをです!ああああ!ベタベタに懐くフェリスちゃんカワイイ!そんなフェリスちゃんがオスに豹変したカイト君にメスにされる瞬間……見たいいいい、見たいですうううう!普段は生意気なメスガキのフェリスちゃんが、自分は弱い女だとわからされて目を見開いて呆然とする顔を!そこから快楽の世界に!フェリスちゃん、大人の世界へようこそ!あああ!やっぱり二人きりなんてダメです!私が立ち会わねば!回復職クラスの授業サボって二人の愛を観察したいです!だってこれは正妻としての使命ですよ……そうですよね?カイト君!)

 セリアはそんな願望を無理矢理、胸の内にしまった。


「ふ、ふふふ……安心してくださいカイト君。私は怒ってるのでは無くて……ふふ、仲のいい二人が微笑ましく……はあはあ」


 そんなセリアの不思議なリアクションに リューネも怪訝な表情を見せるが、意外と深刻に受け取っていたのはフェリスだった。

 フェリスはセリアの両手を握って、潤んだ瞳で訴えかける。


「セリアちゃん、カイちゃんはボクに変な事しないから安心して。ボクも真面目に召喚魔法の練習するから……だから、この時間だけカイちゃんをボクに貸して」


 フェリスの純粋な姿に、自分の下品な発想を恥じたセリアは、聖女の姿を取り戻して、フェリスを優しく包むように抱きしめた。


「大丈夫ですよ。私はカイト君もフェリスちゃんも信じています。召喚魔法の練習、頑張ってくださいね」


「えへへ、ボク、セリアちゃん好き」


「私もフェリスちゃんが好きですよ」


 そんな二人を生暖かい目で眺めていたカイトとリューネは、これ以上この話をする事はなかった。




 そして、ジョブ別選択授業で召喚士の二人は学園の裏山に――


「じゃあ、フェリス。早速だけど、召喚できる召喚獣見せてくれよ」


 カイトは普通の事を言ったつもりだったのに、フェリスの顔が曇る。

 いつものフェリスらしくないので、カイトは狼狽する。


「え?召喚獣と契約してないわけじゃないんだよな?それにフェリスの家は上級召喚獣と代々契約してる貴族だって聞いたけど……」


「……笑わないでね、カイちゃん」


「当たり前だろ。絶対笑わないし、馬鹿にしないから見せてごらん」


 フェリスが小さくコクリと頷くと手をかざして召喚魔法を行使する。

 そこに現れたのは、下級召喚獣とも呼べないような普通の蝶。異界の魔物とのリンクはできているが、召喚獣の具現化しっかりできていない――早い話、召喚魔法失敗。


「これが……フェリスの召喚獣?」


「ボク……ダメダメだよね……本当はドラゴンを召喚するはずなんだけど」


「本当はってどういうことだ?俺は自分以外の召喚士を知らないから……特に貴族がどうやって上級召喚獣と契約するのかよく知らないんだ」


 カイトがその辺の知識に疎いのは、ゲームにはない設定だったから――ゲームでは自分のキャラクターに適した召喚獣がガチャ感覚で出てきた。事実、カイトの12体の召喚獣も固有スキルに関連した下級召喚獣ということもあって特別な事をしたわけでない。基本的には自分の魔力を練って瞑想する事で脳裏に召喚獣の姿が浮かび、その時に名前をつける事で契約ができるのだ。

 しかし、一部貴族が独占しているという上級召喚獣と契約する術については、カイトは自分には必要のないものなので、知ろうとする機会もなかった。


「そうか……S級冒険者の召喚士といっても全部を知ってるわけじゃないんだよね……カイちゃん、ちょっとだけアッチ向いてて」


 フェリスらしくない固く冷たい声にカイトは気圧される。


「あ、ああ、わかったよ」


 カイトはフェリスに言われるがまま反対を向く。

 すると後ろから衣擦れの音――明らかにフェリスが服を脱いでいる音だが、不思議と艶めかしい響きではなく、淡々と無機質なものに感じられた。


「カイちゃん……こっち向いて」


 カイトは見なくとも、そこに裸のフェリスがいるのが分かっている。いつもなら、女の子そんなことするなと叱り飛ばすが、フェリスの声音は真剣でそういう空気ではなかった。そして、振り向くと案の定、上半身裸のフェリスが胸を片手で隠して立っていたが、いつものふざけた雰囲気は無い。


「カイちゃん、これが上級召喚獣と契約するための召喚契約魔法印だよ」


 フェリスがそう言って背中を見せると、彼女の背中には竜をかたどった紅い入れ墨のようなものが刻まれていた。彼女の小さく可愛らしい体には似つかわしくないそれは、カイトには呪いのように感じられた。


「そ、それが上級召喚獣と契約の証なのか?」


「うん……僕の家に伝わるのは火竜の契約魔法印……本当はこれで上級召喚獣の火属性のドラゴンが召喚できるはずなんだけど、ボクには才能がないの……ボクが出せるのは蝶々くらい」


 あまりに弱弱しいフェリスに、カイトはかける言葉が浮かばず考え込む。

(召喚契約魔法印か……おそらく魔法陣の一種で、強制的に特定の異界の魔物とリンクを結ぶものなのはわかる……それがフェリスの魔力と相性が悪いのか……いや、もしかして魔力じゃなくて……)

 カイトはゲームの知識を織り交ぜてながら推測した。


「なあ、フェリス……お前の固有スキルってなんだ?」


「ボクの固有スキル?ボクのは【インセクトヴァンガード】って虫の召喚獣と契約できるようになるハズレスキルだよ?」


 カイトの予想が当たったが、フェリスの言葉が信じられなかった。


「ハズレ!?ヴァンガード系は召喚士にとって大当たりスキルだよ!しかも、虫系統の召喚獣とか超大当たりじゃんか!なんで残念がるんだ?」


 カイトの驚きように、フェリスはビックリしていた。


「え?カイちゃん何言ってるの?召喚士にとってドラゴン以外と契約するなんて恥ずかしい事でしょ?」


「いやいや、何その常識?確かにドラゴン系は強いけど、こだわるような事じゃない。誰がそんな馬鹿な事言ったんだ?」


 カイトのその質問にフェリスはビクッと肩をすぼめる。


「え、えっと……家の……家の人に……虫なんてダメだって……」


 カイトはそんなフェリスの様子から、おおよその事を察してきた。

 フェリスは家の事を喋ろうとしないので、推測しかできないが、家の方針で契約魔法印の竜を召喚できるように強要されている。しかし、明らかに適正を無視していた。


「フェリス……ヴァンガード系のスキル効果は強力な半面、デメリットで得意系統以外の召喚獣との契約を阻害するんだ。だから、契約魔法印があってもドラゴン系とは相性がよくないから召喚するのは難しいと思う」


「ええ……ど、どうしよう……」


 痛ましい程に絶望して、上半身裸で涙ぐんで落ち込むフェリス……カイトはそんな彼女があまりにも美しいので、つい見とれてしまった。

 しかし、カイトはやはりいつもの明るくて、舐め腐った態度のメスガキなフェリスの方が好きだった。そんな彼女を取り戻したいと思ったカイトは彼女に自分の召喚士としての知識とスキルを伝授することを決意した。

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