1-21 ※フェリス視点 カイちゃんはボクの王子様になれない
わからせ召喚士?
ジョブ別選択授業について悩んでいるボクの耳に聞きなれないワードが飛び込んできた。後ろの席の女子がヘンテコな噂話をしている。
ボクも話に加われば、もっと詳しい事を聞けるんだろうけど……ボク、友達いない。まあ、ボクのせいだってわかってるから周りに喧嘩を吹っ掛けたりしないよ。女の友達はいないけど、男子は優しくしてくれるから困ってないしね♪
ボクってかわいいもん。昔から嫌ってほど言われてきた……
それにしても男は小柄な女の子大好きだよね?胸の大きな女がモテるのは事実だけど、見るだけで満足しちゃう人も多いじゃん。揉んでヤッてスッキリした男にとって、胸なんてただの脂肪の塊……
そんな事より『わからせ召喚士』について――
どうやら例の転入生の事らしいけど、正直信じられない。
ボクの知ってる『わからせ召喚士』の情報は以下の通り。
一、すごく強い召喚士らしい
二、エッチで強い召喚獣を使うらしい
三、美女を片っ端から襲うらしい
四、ベルリオーズ姉妹とパレット先生の婚約者
正直一番信じられないのは四の婚約者の話。セリアちゃんは鉄壁だし、リューネちゃんはそもそもそういうのじゃない。それに、パレット先生は理想が高すぎて一生結婚できないタイプだと思ってた。
でも、例の転入生は本当にベルリオーズ姉妹の婚約者みたい。セリアちゃんとラブラブで周りがドン引きしてるし、リューネちゃんも自分から認めてた。パレット先生がデレデレ話しかけてるのもみた。
ん~、だとすると余計に変だよ。
だって強そうには見えないもん。リューネちゃんが決闘して負けたっていってるのを聞いたけど、本当なら学年で一番強いことになる。リューネちゃんに下級召喚獣で勝つなんて考えられない。上級召喚獣と契約しなきゃ無理。
でも、転入生は間違いなく平民出身。だとしたら、ボクみたいに上級召喚獣と契約してるとは思えない。そうなると強い召喚獣と契約してるって話が矛盾してくる。
そして何より転入生は女を襲うタイプじゃない。むしろ逆のタイプだよ。女に利用されて痛い目を見るのに、また女に利用されて……それを死ぬまで繰り返すタイプ。よく言えば女に優しいってことだけど、正直ただの馬鹿。一生、女にモテない男の典型。世間知らずな貴族のお嬢様にはわからないかもしれないけど、ボクが見れば一目でわかる。だってボク……
それより今は転入生が噂通りか調べなきゃ。
ボクはこう見えて勉強はできるけど、ジョブ別選択授業は実技があるからサボってきた。事情を知ってた男の先生は見逃してくれたけど、新しい女の先生には通じないと思う。でも、この授業は落とせない。
だから転入生が本当に『わからせ召喚士』なら利用してやる。
同級生の男を操るなんて楽勝。おだてて手を握って目を見つめて笑顔をくれてやれば、勘違いして言う事聞いてくれる。最悪、追加で胸チラすれば余裕だね。本当に男って……
まあ、あの童貞臭い転入生なら、どうとでもなると思う。だって変な噂で女子にケダモノ扱いされてるから、少し優しくしてあげればいいだけ。そう思うと少し可哀そうだけどボクには好都合だね、にしし♪
そして、ジョブ別選択授業の直前に接触成功。
状況が意味不明だったけど、デブにぶん殴られて自分から窓から落ちて裏庭で満足そうに笑ってる……噂以上に変な奴かもしれないけど、本当に強いのかも?
もう訳が分からないけど、とにかく時間がないんだよ。もうすぐジョブ別選択授業が始まっちゃう。
「うわ~、凄い転入生って聞いてたのに、デブに殴られて吹っ飛ばされるクソザコだったんだ~……ざぁこ♡ざぁこ♡ほら起きられないの?雑魚召喚士♡」
最初は落としてから上げる作戦。
いや、こんな事しなくてもボクの可愛さだけで楽勝?と、思ったけど想像より反応が悪い……ミスったかも……
「ねえねえ、聞こえてる~?それとも……あ~、ボクに見とれちゃってるね。えへへ、ボクのこともわからせちゃうのかな~」
仕方ない……太股くらい見せてやるよ童貞くん。
『は?違うし。あと、女の子がそういう、はしたない事しないほうがいいよ』
あれ?思ったより真面目君じゃん。
「え~、今更真面目ぶってるの~?むりむり、もう手遅れだよ♡へ・ん・た・い♪」
『くっそ大人しくしてれば言いたい放題言いやがって!誰だか知らないけど、俺に何か用があるの?無いならどっか行ってくれ』
お、反応してきた。ってボクの名前知らないの?やっぱこいつ女を狙うタイプじゃないね。だって肉食系なら絶対に美少女の名前くらい調べてるし、この状況でボクを追っ払ったりしない。でも、ちょっとムカついたから『わからせリスト』の話をしたら狼狽えてる。
にしし♪なんだか普通に面白そうな奴だね。でも、大事なことはそっちじゃないから本題に入る。
「君、次の時間の『ジョブ別選択授業』は『テイマー・召喚士合同クラス』だよね?」
『ああ、もちろん。俺は召喚士だからな』
よし!とりあえず、召喚士は本当みたい。しかも説明しなくても、こっちの意図を読み取ってくれる。そうそう、実技のテストに協力してくれるだけでいい。それ以上何も期待してないよ。
でもやっぱ一筋縄ではいかない。
『話はわかった……けど、俺に何かメリットあるわけ?おまえだって真面目に授業受けて、テスト頑張ればいいだけの話じゃん』
あ~、ちょっとガッカリ。正論系男子?そういうのモテないからやめたほうがいいと思うよ。まあ、そう言って来ることも想定内。だから例の噂を消す協力をしてあげるって言っただけで飛びついてきた。ふふふ、ちょろいよ?君。
そんな童貞丸出し君だから油断してたなあ……
『どうして俺なんだ?』
確かに……って思った。
『いや、だって、最近転入してきたよくわからい奴よりも、他の実力がわかってるテイマーなり召喚士に頼むのが無難だろ?』
うん、テイマーの男子を堕として協力させるのはボクにかかれば難しい事じゃない。
でも……やっぱり君がいい。理屈じゃない。女の勘ってそういうもんだよ。
理由をあえて挙げるなら……そうだね、君の女の子との接し方かな?
セリアちゃんと君が話してる姿――セリアちゃんがあんなに自然に笑う姿をボクは初めて見た。ただでさえ綺麗なのに、君といる時のセリアちゃんは、女のボクから見ても本当に女神かと思っちゃうくらい。きっと、そこから君に興味が湧いたんだね。
リューネちゃんが君と話す姿――リューネちゃんは変わった。明らかに女になった。肉体というより精神的に……原因は間違いなく君。決闘して負けたからって言ってたけど明らかに嘘。強さもリューネちゃんにとって大事だろうけど、セリアちゃんの言葉で言うと「わからされた」んだろうね……君の強さ以外の何かに。
パレット先生は――見てて痛々しいからパス。
とにかく……もういいじゃん!こんな事恥ずかしくて言えないし……
「ね?ね?二人しかいない召喚士なんだから仲良くやろうよ?」
こう言ったらカイちゃんは歯切れが悪かったけど承諾してくれた。
って、カイちゃん!?何この呼び方?カイちゃんもビックリしてるけど、ボクだって男にちゃん付けしたのは初めてだよ!あわわわわ、なんだか胸がソワソワする……不思議な感覚……でも、主導権はボクが握るの!
「だって、カイトって呼び捨てするのは嫌だし、『君』とか『さん』よりも似合ってるよ♪ね、いいでしょ?カイちゃん」
ふう、なんとか乗り切ったけど、これからカイちゃん呼び確定。
でも、だんだん馴染んでく。えへへ、カイトなんて呼ぶより絶対似合ってるよ♡
そうだよ……カイちゃんはカイちゃんだからカイちゃんなの!
カイちゃんはボクをフェリスって呼び捨て……まあ悪くないかな?
にしし♪カイちゃんってちょろくてかわいい♡
『ちょろくて悪かったな。でも、俺がちょろくなかったらどうする気だったんだ?』
……ふふ、まあ、ある意味そっちの方が楽だけどね……
でも、カイちゃんなら……
「あー……そっちの方がカイちゃんは嬉しいかな?」
とりあえずボクの控えめオッパイ……あ♡カイちゃん喜んでる♡
うんうん、パレット先生と比べたら物足りないかもしれないけど、胸チラって小さめの女の子の方がそそるらしいね……カイちゃんは照れてるけど目がボクの胸にしっかり釘付け。にしし♪少し小さいけど、形と柔らかさに関しては自信あるよ♡
そして、こんな場面にセリアちゃんが登場――
あらら?カイちゃんったら、必死に弁明してる……かわいい♡
だから、いじめたくなっちゃった。
「あ、セリアちゃん♪ごめんね、カイちゃんとボク、たった今パートナーになっちゃったから。ね、カイちゃん♡」
『おい、フェリスふざけんなよ!誤解を招くようなこと言うな!』
「え~、ボク嘘言ってないもん♪じゃあ、先に行ってるから、上手く説明しておいてね。カイちゃん、頑張れ♡頑張れ♡」
にしし♪慌てるカイちゃんにエールを送って先に移動する。
大丈夫だよカイちゃん。これくらいじゃあセリアちゃんはカイちゃんを捨てたりしないよ?女だからわかる。本当に怒ってたらカイちゃんじゃなくてボクに詰め寄ってくるだろうしね……
そして、先にボクがジョブ別選択授業の場所で待ってると……あ♡カイちゃんきた♡
ちょっと怒ってる?にしし♪カイちゃん、全然怖くないよ♡
しょうがないな……お詫びに腕組んで上げるね♡
わあ……カイちゃんの腕と体……思ったよりガッシリしてる……でも……カイちゃんって本当に不思議だね……何で全然怖くないんだろ?こんな人初めて……
あ、新しい担当のマリア先生だ……確かセリアちゃん達のお母さん……え、カイちゃんも息子?って、ああ娘婿ってことか……いいなあ、優しそうなお母さん。カイちゃんも仲良さそう……へえ、カイちゃんって失恋続きだったんだ……見る目のない女達がいるんだね。カイちゃんは絶対アタリ。会って間もないけど、わかるよボク……
「ぷぷぷっ♪カイちゃん、そんなに失恋してたの?かわいそう♡童貞♡非モテ♡意気地なし♡でも、ぼくがいて良かったね♪」
『はあ?俺にはセリアさんとリューネとパレット先生がいるからいいの』
カイちゃんは正しい……ボク、カイちゃんのそういうとこ好きじゃない。
でも……うん、やっぱり、そこがいい♡ボクがセリアちゃんだったらすごく嬉しいだろうね。だけど、ボクはセリアちゃんでもリューネちゃんでもパレット先生でもない。だから嫌……今ぐらいボクだけ見ても罰は当たらないよ?カイちゃん♡
そんな感じでカイちゃんと結構いい感じだけど周りの空気は悪かった。
カイちゃんの男子からのヘイトは思ったよりキツイ。でも、カイちゃんを見る機会が多いSクラス男子は案外カイちゃんに友好的だ。うん、だってカイちゃんって変わり者だけど無害で嫌いになる要素ないよね。
でも、A・Bクラス男子は……ああ、あれは男の嫉妬。Sクラスの平民ってだけでもアイツ等のプライドを傷つけるだろうけど、それに加えて高嶺の花のベルリオーズ姉妹と婚約して、男子がオカズにしてた巨乳教師パレット先生まで堕としたんだから仕方ない面はある。だけど、カイちゃんがレイプしたみたいなのは流石におかしいよ。ちょっとでも話せば、そんな人じゃないって簡単にわかるのに……でも、カイちゃんが強いって聞いてるから遠巻きにしか陰口叩けないんだ。ださい・根性無し・女とヤる事しか考えない猿・ケダモノ……まあ、それが普通の男だよね。カイちゃんが隣にいると、そんな常識をつい忘れちゃう……
そして、ボクの悪評はいつも通りだね……うん、別にいいよ。気にしない。辛くないもん。ボクだって好きでモテてるわけじゃない。前任のスヴォル先生も確かにボクが美少女だから甘かった面は否定しないけど、それだけじゃないもん。でも、いいよ。いちいち相手にしない。だって無駄。それにカイちゃんを誑し込んだのは否定しないしね……ふん、あんな噂を信じて広めるより、ボクの方がよっぽどマシだもん。
そして授業が始まると早速Bクラスのテイマーが喧嘩売ってきた。カイちゃんはイマイチピンと来ないみたいで、吞気な顔してるけど……正直、仕方ない面もある。
テイマーはバランス型で色々な役割を担う縁の下の力持ち的な万能職だけど、ボク達召喚士はジョブの分類的には魔導士系統――それなのに攻撃魔法が使えないし、支援魔法や回復魔法も本職の魔導士程じゃない。それで微妙な下級召喚獣しか出せない上に、体力的に前衛も無理ってなると扱いづらいよね。そのくせ上級召喚獣を扱える一部の貴族は態度がでかいんだから余計嫌がられるのは……ボクもわかるよ。
でも、あんな隷属の首輪を使ってる貴族のボンボンテイマーには言われたくない。自分の力でモンスターをテイムしないで、金出して買ってもらったり、親から譲ってもらうケースがほとんど。そもそも、このテイマー・召喚士合同クラスの授業だって、ほとんど自分の従魔の自慢合戦・マウントの取り合いしかしないから時間の無駄だった。それが嫌で、召喚士はボクだけだから、スヴォル先生に頼んで一人で別の場所で召喚魔法の練習してた……だから確かにサボりだけど、あんた達よりも頑張ってるもん!
幸いマリア先生はボク達の味方だった。ボク、マリア先生好き。
まあ、先生からしてみれば、義理の息子を馬鹿にされたんだから、こっちの味方になるのは当たり前かな……って思ったけど、そんな感情的な話でもないみたい。
カイちゃんが史上最強S級冒険者!?
S級冒険者って噂は知ってたけど、これもデマだと思った。
カイちゃんが強そうに見えないってのもあるけど、そもそも基本的に召喚士は冒険者にならない。平民の下級召喚獣しか使えないような召喚士では冒険者として大成は期待できないから、本当に冒険者として成功を目指すなら別の魔導士系のジョブに転職するのが常識。それ以外の上級召喚獣と契約してる貴族の召喚士は、国に仕える宮廷召喚士として国防を担ったりして安定した生活を送ってる。
ボク……どんどんカイちゃんが分からなくなってく……でも、同時にどんどん好きになってるのもわかる。マリア先生に最強って言われても、面倒ごとを嫌がって、しらを切ろうとしてるカイちゃんの横顔……なんだか笑っちゃうけど……かわいいよ♡
だから、からかっちゃう。
「え?カイちゃん、童貞なのに最強なの?すごいね♡童貞♡最強♡ヘタレ♡つよつよ♡」
『うるせぇな!っていうか、褒めるか貶すかはっきりしろ』
「にしし♪だってカイちゃん、褒めるとすぐに調子乗りそうなんだもん」
『くっそ、意外と人を見る目ありやがる』
ボクは人を見る目がある……よく気付いたね……でも、そこは鈍感でいて欲しい。
ボクって……ワガママだね……
ボクがそんな自己嫌悪に陥っていると、なんだか周りがヒートアップして、マリア先生がカイちゃんに面倒ごと丸投げして模擬戦をすることになった。
可哀想なカイちゃん……でも頼りにされてる証拠だから頑張ってね。
ボク、周りが敵でも、召喚士仲間として……一人の女の子として応援するよ。
「カイちゃん頑張れ♡頑張れ♡負けるな♡つよつよ♡最強召喚士♡」
そして模擬戦が始まった。
カイちゃん一人に対して、ボンボン貴族テイマー七人と従魔七匹。
こんなのズルいよ……最初はそう思ったけど、カイちゃんやマリア先生の様子を見てわかった……これじゃあハンデが足りないんだ。カイちゃんは困った顔してるけど、あれは子供を相手に困っている時の大人のそれ……うん、よく知ってるよ……
ボンボン共はそんなカイちゃんの考えを読み取れない。
『ほら召喚士!はやく召喚獣を出せ!始められないだろ!』
知性の感じられない男の大きい声……大嫌い……カイちゃん、やっちゃえ!
するとカイちゃんは白い小さい可愛いドラゴンを召喚した。噂を信じてた奴らは困惑してたけど、たぶん一番間抜けな顔をしてるのはボクだと思う。
「へ~、やっぱ噂なんて当てにならないね。竜……カイちゃんとお揃いか……」
カイちゃんとお揃い……本来なら嬉しいはずなんだけど……こんなところはお揃いになりたくなかったな……
ううん、今はそんな事はどうでもいい!あんな小っちゃい小竜じゃあグリフォンなんて倒せないよ……あれ?カイちゃんが悪そうな笑顔になってる……えへへ、カイちゃんってそんな顔もするんだ♪
ボクがそんな呑気な気分でいたら、カイちゃんのドラゴンが凄い速さで飛んだ次の瞬間、相手の従魔たちにキラキラの魔法をかけた。攻撃魔法じゃないのは一目でわかったけど、意味が分からない……けど、すぐにわかった。従魔達は隷属の首輪が外れて、自分のテイマーに襲い掛かってる。
ぷぷぷっ、痛快で笑っちゃうよ。ボクはカイちゃんだけじゃなくて、開放された従魔達にも呑気に声援を送る。そんなボクのところに、隷属の首輪の対になる腕輪が飛んできた。偶然なのはわかる。投げたテイマーはむしろ人的被害を避けるために、人のいない方に投げたんだろう。そこに偶々ボクがいた。それだけのこと……うん、正しい判断。そうだよ……正しいはいつもボクをいじめるんだ。今度の正しいはグリフォンになってボクを襲ってきた。ボクは腰が抜けて座り込んじゃった。
『おい、フェリス!お前も召喚獣だして身を守れ!』
カイちゃんまでボクを怒鳴らいでよ……助けてよ……
ボクは情けない声を出していた。
「ボ、ボク、戦える召喚獣出せないの!助けて!」
『はあ!?ったく!』
カイちゃんは呆れたような声を出した……嫌われちゃったかな……
ボクがそんなヒロインごっこをしていると、カイちゃんは見たことない体術でグリフォンを倒してくれる……もうヒロインごっこじゃなくて、本当にヒロインになった気分だった。
「えへへ、ありがとうカイちゃん」
気づいたらカイちゃんに抱きついていた。
でも、ボクなりに精一杯のお礼なのにカイちゃんは不満顔だった。
え?召喚できるようになれ?
カイちゃんのいじわる……えへへ、でも今は召喚できない事が嬉しい♪
だって、そのおかげでカイちゃんっていう王子様が現れたんだもん。
だけど、恥ずかしくてそんなこと言えない。
「え?召喚できたよ?」
『うそ?ど、どこだよ?』
「カイちゃん」
『は?』
「ボクが助けてって言ったら来たから、カイちゃんは今日からボクの召喚獣ね♡」
ボクなりの精一杯に照れ隠し……カイちゃんも満更でもなさそう♡
でも、ちょっとふざけすぎたかな?カイちゃんがボクの頭を軽く叩く。
わかってるよ……すごく優しい……本当に軽く……傷つけるつもりがないのはわかってるんだよ……愛すら感じるよ……それでも……ダメだった。
「ぃやぁっ!」
反射的に頭を庇って、意図せず本当のボクの声が出てしまった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……お願いだから出てこないでよ……初めて男の人を好きになれそうなんだよ……だからお願い……弱い自分……汚れた私……今だけでいいから……カイちゃんの前でだけは出てこないで!普通の女の子でいさせて!
そんなボクに片膝をついて心配そうに見上げてくれるカイちゃん……本当に王子様みたいでカッコイイ……でも……カイちゃんはボクの王子様になれないよ。でもそれはカイちゃんが悪いんじゃない。ボクが悪いんだ。
だって……王子様が結ばれるのはお姫様だから……ボクはお姫様じゃないから……ボクはお姫様になれないから……お姫様になれる資格を……とっくの昔に無くしちゃったから……カイちゃんが強く優しいほどに……その現実をわからされる……あああ……なに今更悲劇のヒロインぶってるんだろ……ボク……
馬鹿馬鹿しい気分になって、ようやくいつもの笑顔を作れた。
「えへへ~、引っかかった。カイちゃん女の子に弱すぎ。童貞♡非モテ♡DV男♡」
『くっそ!一瞬でも悪いと思って損したじゃねーか、このメスガキ』
よかった♪カイちゃんにバレてない。えへへ、鈍いカイちゃん好き♡
ちょうどいいタイミングでマリア先生が来てくれた。
ボクは動揺を隠すためにカイちゃんから離れてマリア先生に抱きつく……マリア先生すごく暖かい……頭も優しく撫でてくれる……やっぱり女の人なら頭触られても大丈夫なんだね……ボク……
残りの授業は楽しかった。
カイちゃんが頑張って講義してる。
ボクはマリア先生の膝の上で甘えてる。
あんなに嫌だったジョブ別選択授業はすごく楽しかった。
カイちゃんのおかげだよ。ありがとう♡
そして……どうか神様……こんな時間が少しでも続くようにしてください……ボクからこんな穏やかな時間を……気持ちを……カイちゃんを奪わないでください。
不穏な終わり方ですけど、ここまでがメスガキわからせ編前編になります。
次章のメスガキわからせ編後半までシリアス展開が続いて、それからはイチャラブ日常パートと修行・ダンジョン探索の短編形式になる予定ですので、お楽しみいただければ幸いです。