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1-20 わからせ召喚士はメスガキの召喚獣

 ただの授業のはずが模擬戦――カイトは異世界人の喧嘩っ早さに慣れたつもりだったが、学園でもこうなるとは思ってなかった。そして、冒険者時代の喧嘩より面倒なのは、貴族の子供である学生にやり過ぎると後で面倒。わざわざ手加減に神経を使うから、やってられないというのが本音だった。

 そんなカイトの気も知らない貴族のボンボン7人が喚いていた。


「ほら召喚士!はやく召喚獣を出せ!始められないだろ!」


 対戦相手は未熟なテイマー7人とその従魔のグリフォン3匹、シルバーウルフ2匹、ブラックリザード1匹、ロックラプトル1匹のC級モンスターが7体――いつもなら鎮圧専門のハリーの電気で痺れさせてお終いなのだが、今は一応ピースケだけと契約していることになっているから選択肢がない。


「しゃーない……ピースケ頼むよ」


 白い小さな竜が召喚されると、噂を信じて身構えていた者たちは拍子抜けしてしまい反応に困っていた。


「え?触手の召喚獣じゃないの?」


「誰よヌメヌメの召喚獣って言ったの?」


 そんな混乱の中、フェリスは品定めをするような目でカイトを見ていた。


「へ~、やっぱ噂なんて当てにならないね。竜……カイちゃんとお揃いか……」


 フェリスが少し複雑な表情になるが、カイトは前を向いていたので気付かなかった。

 カイトの眼前には、キョトンとしている7人と7匹――自分達の従魔をカイトが呼び出した召喚獣と正々堂々、勇壮に戦わせようとしていたのに、召喚されたのがペットみたいなドラゴンなので格好がつかない。

 そんな理由で固まっているテイマー達にカイトの方から声をかける。

 

「今更だけど摸擬戦って何をしてどうなれば決着なの?マリアさんもわざと曖昧にしてたみたいだけど」


「それは……互いの従魔が先に戦えなくなった方が……」


「え!?あんた達、自分は戦わないの?」


 カイトが驚いたのは無理もない。カイトの知っている腕利きのテイマーは皆、高い戦闘能力を有している……というよりも、そうでなければ強いモンスターをテイム出来ないのだ。しかし、マリアの言う通り、貴族テイマーは他人の力を使えるから、まったく別物――彼らはカイトの問いに固まって動けない。

 そして、よく観察してみたら、どの従魔にも似たような首輪がつけられている。


「マリアさん、あんな首輪使ってる従魔、俺は知らないんだけど」


「あら~、カイトちゃん気づいちゃったのね。あれは貴族テイマーがよく使うモンスター用の隷属の首輪よ~。早い話、自分の実力以上のモンスターをテイムする高価なアイテムなの。貴族は有難がってるけど、私達一般人テイマーからすれば恥ずかしい初心者マークみたいなものよ~」


 マリアは意味深な笑みを浮かべるので、カイトも意図を理解して悪い笑顔になる。


「それじゃあ……ひひひひ、ピースケで正解だわ」


 カイトはピースケを見つめるが、ピースケは全く理解していないので、「ぴ?」と小さく鳴いて首をかしげていた。

 カイトはそんなピースケに指示を出すが、それは攻撃命令ではない。


「ピースケ、あの従魔たちに『アンロック』と『リリース』をかけてやれ」


 ピースケは戦闘力が12体中最弱でも、スピードは並のS級モンスター以上ある。テイマーとその従魔も反応出来ず眩い聖属性の魔法をモロに受けていた。


「くっ!何の魔法だ!?って、うわあああ!従魔の隷属の首輪が外れてる!?」


 隷属の首輪がピースケの魔法で外れたモンスター達は解き放たれ、隷属の首輪の対となる腕輪を持っている貴族テイマーに襲い掛かろうとしていた。

 予期せぬ修羅場になって混乱した7人は悲鳴をあげて逃げ惑うが、そのうちの一人は冷静になって、その腕輪をなるべく人のいない遠くに投げ捨てる――それが偶然、他の生徒と離れて一人だけポツンとしていたフェリスの足元に転がってしまう。すると、一匹のグリフォンがフェリスへ向かっていった。


「おい、フェリス!お前も召喚獣だして身を守れ!」


 カイトが怒鳴るように叫んだが、フェリスはペタンと腰が抜けて座り込んでいた。


「ボ、ボク、戦える召喚獣出せないの!助けて!」


「はあ!?ったく!」


 カイトは短く吐き捨てると、身体強化魔法をかけて、一足でフェリスの元へ跳躍して、グリフォンにかかと落としを喰らわせて無力化する。その頃には、残りの6匹もマリアが鞭で打って疑似的にテイムして落ち着かせていた。

 カイトが振り返ってそれを確認すると、フェリスが抱きついてくる。


「えへへ、ありがとうカイちゃん」


「は~……お礼よりも召喚できるようになってくれよ」


「え?召喚できたよ?」


「うそ?ど、どこだよ?」


 カイトは驚いてキョロキョロ見渡すがどこにもいない。

 するとフェリスがニッコリ笑ってカイトの顔を見る。


「カイちゃん」


「は?」


「ボクが助けてって言ったら来たから、カイちゃんは今日からボクの召喚獣ね♡」


 カイトは魔性の女というものを体験した。少し前の自分なら簡単に堕ちているという自覚があった……しかし、今は婚約者が三人いる。その余裕分、理性が勝った。

 こんな事をしているとフェリスはいつか勘違いさせた男の恨みを買うだろう、とお節介な兄のような気分になって叱りたい気持ちの方が強くなり、軽く頭を叩いた。

 本当に軽く、蚊も殺せない程……それなのに……


「ぃやぁっ!」


 フェリスはビクッと体を震わせて悲鳴を上げると、頭を抱えて動かなくなってしまったので、カイトの方が驚いてしまった。


「ご、ごめん!痛かったのか?」


 カイトは片膝をついて、俯いているフェリスの顔を確かめようとしたら、彼女の口がニヤリ。


「えへへ~、引っかかった。カイちゃん女の子に弱すぎ。童貞♡非モテ♡DV男♡」


「くっそ!一瞬でも悪いと思って損したじゃねーか、このメスガキ」


 そんな感じで、伸びているグリフォンの隣で二人がイチャついていると、マリアがソロソロとやって来る。


「あらあら~、授業中にお母さんの前で青春するなんてカイトちゃんもすっかり成長したわね~。帰ったらリューネちゃんとセリアちゃんにも教えてあげなきゃね~」


 マリアが遠まわしに脅迫してきたので、カイトは慌てて密着してくるフェリスを引きはがした。


「す、すいません。こいつがからかってくるもんで……」

 

 ワタワタとカイトが言い訳していると、フェリスが今度はマリアに抱き着いた。


「マリア先生。カイちゃんがボクのこと怒るの。怖いよ~」


 するとマリアはフェリスの頭を優しく撫でてあげた。


「あら~、カイトちゃんったら、こんなにカワイイ子をいじめちゃダメでしょ~。バツとして、授業の残りの時間、私の代わりにテイマーと召喚士それぞれの長所短所を講義してね」


「ええ!?せっかく模擬戦も無事終わらせたのに~」


 しかし、マリアの目がマジなのでカイトは降参した。

 一時の混乱が収まったテイマー・召喚士合同クラスの教壇に立った。

 カイトは開き直った。


「は~い、噂の召喚士のカイトで~す。マリア先生からの御指名でヘルプ入りまーす」


 Sクラスの男子は少し笑いそうになっていたが、他はやはりまだ硬かった。


「え~と、テイマーと召喚士それぞれの長所短所って事ですけど、そのためにはまず、召喚魔法とテイムの違いを理解しなくてはなりません。そもそも召喚魔法とは、異界の魔物の力と魂を呼び寄せる空間魔法という面とその呼び寄せたモノを具現化する創造魔法という二つ面が……」


 いきなりの無茶ぶりに応えているカイトだが、フェリスはすっかりマリアに懐いて、猫のように膝の上に収まっていた。


「マリア先生、カイちゃんの説明つまんな~い」


「し~、頑張ってるからそういう事言っちゃだめよ~」


「は~い、じゃあ応援してあげるね。頑張れ♡頑張れ♡まだ変態扱いされてるけど、ボクは味方だからね、カイちゃん♡」


 カイトはかえって惨めな気持ちになりながら残り時間、精一杯に召喚士とテイマーについて経験談を踏まえて講義を続ける。カイトにとっては想定外にハードになったマリアの初授業だが、その努力は決して無駄ではなかった。

 この授業に参加していたSクラス女子からだんだんまともな噂が流れ始める。


『召喚獣は可愛いドラゴンちゃんでしたわね』


『そうでしたね。冷静に考えて噂通りの危険人物なら入学できるわけありませんよ』


『それにフェリスさんをグリフォンから守ってたし、女の敵ってわけじゃなさそう』


『マリア先生が最強と認めるS級冒険者ですから強い事だけは噂通りみたいね』


『そもそもセリアさんが「わからせ」を連呼するから変な噂になっただけな気が……』


 こうしてカイトへの風当たりは和らいだが、フェリスに振り回される日々が始まったので、結局平穏は帰ってくることはなかった。

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