1-19 マリア先生の初授業は臨時講師兼わからせ召喚士の模擬戦
この世に浮気の誤解を解く努力をする事ほど不毛で疲れる事はない。セリアの説得を終えて、学園の端にあるモンスター厩舎についたカイトだが、疲労の色を隠せていない。
そんな娘婿を見たマリアは流石に何事かと思った。
「あらあら~、カイトちゃんったら……これから私の初授業なのに、何でもうゲッソリしちゃってるのかしら~」
「いやあ……色々あったんですよ……本当に色々」
「ふ~ん、そうなの~……で、色々あると可愛い女の子も捕まえちゃうのね~」
マリアはカイトと腕を組んでいるフェリスを見ながら、いつもの「あらあら~」をしているが、カイトは必死に釈明をした。
「違うんです。本当に違うんです。さっきセリアさんにも何回も説明したんですけど、本当に違うんです」
「安心して~カイトちゃん。私は怒ってるわけじゃなくて……うふふ、失恋続きで可哀想だったカイトちゃんが幸せそうで、お義母さん嬉しいのよ~」
それを聞いたフェリスは小悪魔な笑みを浮かべてカイトを馬鹿にする。
「ぷぷぷっ♪カイちゃん、そんなに失恋してたの?かわいそう♡童貞♡非モテ♡意気地なし♡でも、ぼくがいて良かったね♪」
「はあ?俺にはセリアさんとリューネとパレット先生がいるからいいの」
カイトがそう言うとフェリスは不機嫌そうな顔になる。
そんな二人を見た男子生徒が毒づいていた。
「ちっ!召喚士と合同授業って、あのサボり女とインチキ変態編入生かよ」
そう言って露骨に敵意剥き出しなのはA・Bクラスの男子達。
Sクラスの男子は、この一週間でカイトが噂と違ってまともな人間な事を自分の目で確認しているし、凶悪聖女セリアの制御装置として重宝しているので、敵意を向ける者は皆無だった。
しかし、それ以外のクラスの男子は例の噂を信じていた。
「本当なのかよ?セリアさんとリューネさんだけじゃなくて、パレット先生とも婚約してるって噂……」
「ああ、本当らしい。噂だと編入試験の時に、複数人がかりでパレット先生を襲って、既成事実を作って婚約させたらしいぞ。もう妊娠してるかもって……」
「しかも婚約者のセリアさん達の目の前で、触手の召喚獣で凌辱してから磔にしたんだってさ」
「くそっ!俺の憧れのパレット先生が……あの野郎、平民のくせにパレット先生の胸を独り占めしやがって」
そんな会話が聞こえてきたカイトだったが知らんぷりしていた。
(ちくしょう!否定しようにも、妊娠以外ほとんど事実じゃねーか!パレット先生、あちこちに喋ってるな、コレ……妊娠もパレット先生の願望だろ絶対……)
そう心の中で愚痴るのが精一杯。相変わらず微妙に真実に掠ってるから始末に追えなかった。あと、パレットの男子生徒からの人気を知ったカイトは、ちょっと優越感を覚える一方で、男子達に対して申し訳ない気持ちにもなっていた。
「パレット先生……なんだか全然モテないみたいな事言ってたけど、そりゃ巨乳美人女教師がモテないわけないよなあ」
カイトが呑気にそんな感想を漏らしていると、思わぬ援軍が現れる。
「皆さん!カイトさんを悪く言ってはなりません!」
カイトは自分の目を疑った……そこには綺麗な目をしたポクさんがいた。
「ポクさん……やっぱ、青春の絆の力が……」
カイトは勘違いして勝手に感動していたが、ポクさんの様子は異常だった。
「カイトさんは崇高な存在……そう、我々がその名を口にするにも、本来ならば聖女様の許可を頂きに行かねば……そうです……私は生きていては……あ、あああ……そう私はラド……私は豚脂……ああ、あ、ああ……」
「だ、大丈夫か!おい、誰か保健室に運べ!」
こうして授業が始まる前にリタイアしたポクさんをカイトは心配そうに見つめていた。
「本当に大丈夫かな?ポクさん……そうだ、調子が悪いんならセリアさんに回復魔法をお願いしようかな?」
こんな調子で、カイトに対するヘイトはまだ笑える要素があったが、フェリスはそうもいかなかった。
そもそも、フェリスはS・A・B全てのクラスの女子から敬遠されていた。
「あのビッチがこの授業出てるの初めて見ましたね」
「ええ、前任のスヴォル先生が辞められたから、出ざるを得ないのでしょ?」
「噂になってたもんね。単位の代わりにいかがわしい事してたって」
「で、今度は転入生たらしこんだのかしら?まあ、お似合いですわね」
やはり女子の噂の方が陰湿だったが、フェリスは無視していた。
そんな険悪な空気のまま、青空の下で授業が始まった。
「新しくこの授業を担当する事になったマリアよ~。私はこういう仕事は初めてで不慣れだから、何か要望があったら教えてね~」
S級冒険者テイマーのマリアとS級モンスターのフェンリルのチャッピーという豪華な教壇――それに対してBクラスの貴族の男子生徒が挙手をした。
「では先生、私たちテイマーとしては下等な召喚士と一緒に授業を受けるのは納得いきません。S級冒険者でテイマーの先生なら、わかりますよね?」
マリアは自慢の娘婿が馬鹿にされて、一瞬イラッとして殺気を出したが、カイト以外にそれに気付く者はいなかった。
「あらあら~どうして~?確かに召喚士とテイマーは根本の部分は違うけど、どちらもモンスターを使役して戦うという共通点があるから、互いに学ぶことはあると思うわ~」
マリアは優しく諭そうとしたが効果は薄かった。
「似ているだけで召喚士など基本的にテイマーの下位互換じゃないですか!特に平民の召喚士なんて、どうせ下級召喚獣しか出せないはずです」
「そうかしら~?私はテイマーというジョブに誇りを持ってるけど、召喚士が羨ましい時もあるわよ~。それに、私の知っている人間で最強なのは召喚士だもの~。ねえ、史上最強S級冒険者で召喚士のカイトちゃん?」
マリアが煽るような口ぶりでカイトに話を振った。
しかし、カイトはこれ以上悪目立ちしたくないので茶を濁そうと努力したが、代わりにフェリスが反応した。
「え?カイちゃん、童貞なのに最強なの?すごいね♡童貞♡最強♡ヘタレ♡つよつよ♡」
「うるせぇな!っていうか、褒めるか貶すかはっきりしろ」
「にしし♪だってカイちゃん、褒めるとすぐに調子乗りそうなんだもん」
「くっそ、意外と人を見る目ありやがる」
そんな感じで、マリアとフェリスの美女二人にカイトがチヤホヤされるのをみていたテイマー男子達は余計に意固地になった。
「この変態召喚士が最強?冗談もいい加減にしてください。しかも平民ですよ?本来この学園の生徒にふさわしくない存在です。きっと裏口で入学したに決まってます」
Bクラスの貴族男子は引っ込みがつかなかったので、勢いで罵倒したが、この発言は完全にマリアの地雷を踏んでしまった。
「うふふふ、私も平民出身よ~。じゃあ、私も教師失格かしらね~」
「え、いや……先生はS級冒険者ですし……」
「それ言ったらカイトちゃんもS級冒険者よ~。正直、私より教えるのも上手だから、臨時講師って事にして授業丸投げしちゃおっかなあ、なんて考えてるわ~」
そのマリアの言葉に、多くの者が驚いたが、一番ビックリしてるのはカイトだった。
「え?初めて聞いたんですけど?」
「うふふふ、だって初めて言ったんだもの~」
「いやいや、そういう問題じゃなくて……」
カイトが頭を抱えているとマリアは名案を思いついてパッと笑顔になる。
「そうだわ~、じゃあこうしましょう。召喚士が弱いって思ってる人はカイトちゃんと模擬戦しましょう。もちろん、モンスター使っていいし、時間も勿体ないから、皆まとめてやりましょ~」
そのマリアの案に、召喚士嫌いの男子が沸き立つが、カイトは完全なとばっちりなので、勘弁してくれといった顔でマリアに抗議する。
「なんでこうなるのさ……俺はイチイチあんな奴ら気にしないってー」
「だめよ~。だって自慢の息子を馬鹿にされた私が気にするもの~」
「ええ~、やっぱそっち~?」
「当たり前よ~。それにあの手のボンボン貴族のお馬鹿ちゃん達は口で言っても無駄よ~」
「……なんだか、えらい実感こもってますね」
「もちろんよ~、だって実際に今まで貴族のダメダメテイマーをたっっくさん見てきたもの~。自分で直接戦いたくないって理由でなる人が多くて、モンスターのテイムも他人の力を借りて最後のおいしいとこだけやるし、何よりテイムしたモンスターでマウント取り合ったり……正直、貴族出身のテイマーって見下してるの。だから、噂のカイトちゃんの『わからせ』をお母さんもお願いしちょうわ~。生意気な子達全員カイトちゃんがやっつけちゃって欲しいのよ~」
そういうマリアからは、いつものおっとり系人妻テイマーの優しさはなかった。
(うわぁ……そういえばベルリオーズ家の皆は貴族嫌いだっけ……マリアさんも顔に出さないだけで内心腹立ってるんだろうな)
そこまで察したカイトは渋々だが承諾した。
「わかりましたよ……俺が孝行息子でよかったですね」
「流石私の息子ね~。はい、ご褒美前払いよ~」
マリアはそう言ってカイトを抱きして胸を顔に押し付ける。
カイトもまんざらでもない顔をしてたので、テイマー男子達はより一層闘志を燃やし、女子は白い目で見ていた。
結果、カイトの対戦希望者は7人。
カイトはその7人プラス従魔と戦うはめになった。
いざ模擬戦が始まるとマリアは審判だから当然中立。
そうなるとカイトを応援するのは一人だけ……
「カイちゃん頑張れ♡頑張れ♡負けるな♡つよつよ♡最強召喚士♡」
味方はフェリス一人と寂しかったが、それでも今のカイトには嬉しかった。
おかげさま5000PVを突破できました。
次の目標の10000PVに向けて毎日投稿を続けますのでよろしくお願いいたします。