1-18 メスガキクエスト 二人ボッチの召喚士
カイトは基本的にフェミニストだ。女性に優しく……それがモットー。だからメスガキという女性を蔑視するような言葉が嫌いだ。
そんなカイトでさえも、幸せな気分を台無しにして、いきなり雑魚呼ばわりしてくる目の前の少女のことはメスガキと呼びたくなってしまった。見た目も言動もメスガキだからというのもあるが、クラスメイトということ以外は名前も知らないから仕方ないという理由もあった。
そんな繋がりの薄い彼女の事をカイトがクラスメイトだと覚えているのは、一度見たら忘れられないくらい美少女だから――ツーサイドアップの銀髪、それとコントラストになって映える小麦色の褐色の肌、小柄だが程よい肉付きの肢体、特に太股から尻のラインは一度見たらしばらく目が離せないほど官能的――そして何より顔がいい。あどけない顔立ちなのに、小悪魔チックな雰囲気で、ルビーのような赤い目は魅了の魔法がかかっているようだった。
そのメスガキはカイトを馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
「ねえねえ、聞こえてる~?それとも……あ~、ボクに見とれちゃってるね。えへへ、ボクのこともわからせちゃうのかな~」
スカートをめくるような素ぶりで挑発的な言動を繰り返すが、カイトはその誘いに乗らない。
「は?違うし。あと、女の子がそういう、はしたない事しないほうがいいよ」
カイトが冷めた対応すると、メスガキは驚いたような顔をしていた。
「え~、今更真面目ぶってるの~?むりむり、もう手遅れだよ♡へ・ん・た・い♪」
「くっそ大人しくしてれば言いたい放題言いやがって!誰だか知らないけど、俺に何か用があるの?無いならどっか行ってくれ」
「ボクは君と同じクラスのフェリス・ドラゴノートだよ~。てっきり、噂の『わからせリスト』に入ってると思ってたんだけどな~」
カイトはメスガキの名前を初めて知ったが、今はそれどころではない。
「ちょっと待て!何だよその『わからせリスト』ってのは!?」
「うっわ!変態プラス嘘つきとか、なっさけな~……皆言ってるよ~。今は大人しくしてるけど、次の獲物を物色してるんでしょ。女の子を見る目がケダモノだって評判だよ、き・み♪」
噂に拍車がかかって、ありもしない話が出始めている事にカイトは絶望した。
しかし、そうすると、このメスガキことフェリスは何故そんな危険人物のそばに来たのか不思議で仕方がない。
「そのケダモノの俺に何の用?」
「にっしっし……ボク、君にお願いあるんだよね~」
美少女が可愛らしい声で頼んできたとはいえ、ろくでもない事の気配を察知したカイトは、返事をせずに神妙な面持ちでジッとフェリスを見つめた。
「も~、そんなに構えなくたっていいじゃん。別に恋愛とかプライベートの相談とかじゃないよ~。あれあれ?もしかして、そういう期待しちゃってた?ごめんごめん、ボクってすぐ男の子勘違いさせちゃうから」
「してねーよ。いいから早く本題に入れ」
「ふん、せっかち、早漏……まあ、いっか。君、次の時間の『ジョブ別選択授業』は『テイマー・召喚士合同クラス』だよね?」
「ああ、もちろん。俺は召喚士だからな」
それを確認できたフェリスはニヤッと笑う。
「実はボクも召喚士でね……その授業の事で困ってるんだ~。最近、その授業の先生が替わっちゃったのは知ってるよね?」
「ああ、マリアさんが新しい先生になったんだろ?」
「そうなの。前の男の先生は……いひひ、ボクがカワイイからって色んな事免除してくれてたんだ~。でも、流石に女の先生は無理っぽいから、そこで君にお願い」
「はあ……テストの協力ってとこか?」
「へぇ~、変態召喚士のくせに物分かりいいじゃん。えらいえらい♡今までは授業もサボりがちで、月一の実技試験を免除してもらってんだけどさ……それのパートナーになって協力して欲しいの……だめ?」
フェリスは可愛らしく首を傾げてオネダリしてくる。普通の男には断れない破壊力があったが、女性関係でやらかしまくっているカイトは冷静だった。
「話はわかった……けど、俺に何かメリットあるわけ?おまえだって真面目に授業受けて、テスト頑張ればいいだけの話じゃん」
カイトの正論にフェリスは頬を膨らませた。
「ボクには色々事情があるの!それに……君に全くメリットがないわけじゃないと思うけどな~」
「具体的にはどんな?」
「ほら~、君って今、変な噂で困ってるでしょ?」
「ま、まあ、それは……」
「でしょでしょ♪でも実はボク、その噂全然信じてないんだ~」
「本当か?おまえ意外といいやつだな」
「にしし、だって君明らかに童貞じゃん。噂みたいな事できるわけないでしょ?」
「ちょっ!おま!ど、童貞は関係ないだろ!」
「あはは、やっぱ童貞丸出し♡そう……だから、君がボクと普通に接してる姿を見せれば自然と噂なんて消えてくと思うんだよね~」
そのフェリスの意見は一理ある――カイトはそう思えたが、それと同時に別の疑問が浮かんでくる。
「どうして俺なんだ?」
そのカイトの質問にフェリスは不意打ちを食らって驚いていた。
そんなキョトンとしているフェリスにカイトは続けて、
「いや、だって、最近転入してきたよくわからい奴よりも、他の実力がわかってるテイマーなり召喚士に頼むのが無難だろ?」
至極当然の疑問だが、フェリスは少しばつの悪そうな顔をしていた。
「……ぼく……正直、あんまりテイマーの人と仲良くないの……授業サボってたのもあるけど、そもそもテイマーと召喚士って仲良くないし……それに召喚士ってぼくと君の二人だけだよ?」
「そ、そうなの?」
「知らなかったの?ぼくのドラゴノート家みたいに代々上級召喚獣と契約できる貴族以外に召喚士になる人なんていないよ?」
「んんん……話には聞いてたけど、ここまでとは……」
召喚士が最強ジョブだと知っているカイトには信じられない話だが、これがこの世界の現実だった。
「ね?ね?二人しかいない召喚士なんだから仲良くやろうよ?」
フェリスは純粋で屈託のない笑顔でいうのでカイトは拒絶できなかった。
「まあ、そういう事ならわかったよ。ただ、俺に頼りきったり、ズルはなしだぞ?」
「え~、けち~。まあ、それでいいや。よろしくね、カイちゃん♪」
「か、カイちゃん?」
「だって、カイトって呼び捨てするのは嫌だし、『君』とか『さん』よりも似合ってるよ♪ね、いいでしょ?カイちゃん」
「わかったよ……俺はフェリスって呼び捨てにさせてもらうからな」
「うん。これでぼく達はパートナーだね……にしし、やっぱ僕の読み通り……わからせ召喚士なんかじゃなかったね。カイちゃんって、ちょろっ♡」
思いっきりナメラレたカイトだが、これまでの事を考えると否定できないので悔しかった。
「ちょろくて悪かったな。でも、俺がちょろくなかったらどうする気だったんだ?」
その言葉を聞いた瞬間、フェリスは妖艶な女の顔になった。
「あー……そっちの方がカイちゃんは嬉しいかな?」
フェリスは突然、シャツのボタンを外して、胸元を見せてくる。胸は小ぶりだが、その分隙間が大きくて、かえってエロイ事になっていた。
いきなり脱ぎだすフェリスにカイトは呆気にとられて、反応が遅れた。
「ば、馬鹿!女の子がそんなことするんじゃない!それにこんなところ誰かに見られたら……」
フェリスと健全な姿を周囲に見せて噂を消すどころでなくなる……カイトがそんな危惧を抱いたが、それとは別の危機が迫っていた。
「か、カイト君……フェリスちゃんと……あ、ああ……」
そこには放心状態のセリアが立ち尽くしていた。
カイトは一瞬、目の前が真っ白になるが、すぐに気を取り直した。
「ち、違うんだ!セリアさん!話を……」
そうカイトが釈明する途中で、フェリスは胸元がはだけたままカイトにくっついた。
「あ、セリアちゃん♪ごめんね、カイちゃんとボク、たった今パートナーになっちゃったから。ね、カイちゃん♡」
「おい、フェリスふざけんなよ!誤解を招くようなこと言うな!」
「え~、ボク嘘言ってないもん♪じゃあ、先に行ってるから、上手く説明しておいてね。カイちゃん、頑張れ♡頑張れ♡」
フェリスはそう言い残して、シャツのボタンを留めながら走り去る。
カイトは取り残されてセリアと二人きり――気まずい沈黙。
「せ、セリアさん……本当に誤解なんだ」
「カイト君……」
カイトがビクッとして身構えると、息を荒くして目がハートマークの形容しがたい笑顔のセリアが詰め寄って、
「はあはあ……最初から♡細かく♡実演を交えて♡説明してください♡」
「えええ!?せ、セリアさん!?何で嬉しそうなの!?何で興奮してるの!?」
これでもまだカイトは聖女の本性に気づかなかった。
おかげさまで評価ポイントが100を突破しました。
感想とレビューもいただきありがとうございます。
メスガキ編は思ってたよりも長くなりそうなので、導入にあたる今の章をメスガキ編の前編に、これ以降の恋愛とシリアスとハードエロ要素が強くなる部分をメスガキ編の後編に分けたいと考えております。また、後半は戦闘シーンが多くなるので、詳細ステータスを含んだ人物紹介などの設定資料を挟む予定です。
良ければブックマークと高評価をよろしくお願いいたします。