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6-12 空振りに終わる調査初日と不穏な気配

「こ、これは……エビュアさんから聞いてはいたけど……」


 エンシェントパレスの宮殿内に足を踏み入れたカイトが言葉を詰まらせたのは、想像よりも中が整いすぎていたから……新築の内覧会ならばウキウキするような好物件なのだが、今回の目的はあくまでも調査であり、ゴーレム関連のメカニズムを解き明かす事……そうなると、この状況は喜ばしくなかった。


「結界魔法の影響か屋内の空気も綺麗で怪しい気配が何もない。いっそモンスターがいてくれた方が……」


「そうなんや……外はゴーレムが徘徊しとるのに中には何もおらへん。他の遺跡型ダンジョンみたいに何かを守るガーディアン的なゴーレムがおれば、そこに大事なものあるって証拠なんやけど、あるのは普通の家具ばかり……それらも年代物ってだけで、特別なもので無いのは調査済みでな……アレもその一つなんやが、壁にガッツリ固定されてた外せんのや」


 エビュアがそう言って指差した先には女性の肖像画――どことなくセリアに似た雰囲気があることから、その場の全員がその女性が誰なのかを瞬時に察した。


「もしかして……あれがキオヴァス・シスカ?どこぞのインチキ聖女と違って神々しいわね」


 リューネが嫌味たっぷりに肖像画の女性の美しさを讃えると、セリアが頬を膨らませながら、


「そんなことないです。ああいう顔した女に限って心の中は爛れた性欲が……聖女の私が言うんだから間違いありません」


 調査が始まる前から姉妹喧嘩を始める婚約者の間に入ったカイトは、


「一応ここもダンジョン内なんだから、二人共冷静に……まあ、そんな口喧嘩ができるくらい安全そうだし、宮殿は広いから、模擬パーティー実習も兼ねてることだしグループで分かれて調査しよう。1時間後に、このエントランスホールに集合で……あと、危険がなさそうだからといって単独行動は厳禁……それじゃあ、調査開始」


 こうしてカイトのグループとリューネのグループは分かれて調査を開始した。しかし、ダンジョン調査というよりも遺跡見学ツアーのような雰囲気。

 カイトのグループはエビュアがため息をつきながら、周りを見渡していた。


「アカン……前回と何も変化があらへん。カイトはんくらいのデカイ魔力が入ってくれば、何かしらの防衛システムが作動するのを期待しとったけど、そういうわけでもなさそうやな。この日のためにウチが開発した『魔力探知機・ビンカン丸』に何の反応もあらへん」


「まあ、そっちの方が安全で嬉しいんですけど、見て回る限りだと、ただのだだっ広い空き家って感じですね。ゴーレムさえいなければ、高値で売れそうなくらいに作りが立派ですし……」


「ゴーレムがおらんくなったら、ウチとしては価値が無くなってまうけどな」


「そのゴーレムの事なんですけど……もしゴーレムに作用する何かがあるとしたら、やっぱり地下じゃないですか?」


「ウチもそう睨んどる。でも肝心の地下に行く階段が見つからんのや」


「なら作っちゃいましょう。ブー、土魔法で地下へ道を……」


 カイトは悪気無くブーを召喚して、さっそく土魔法をかまそうとすると、エビュアが慌てて制止した。


「アカンアカン!あくまでも調査で、エンシェントパレスを壊すような事をしたらアカンで!」


「あ、そっか……それならせめてブーで地面の下を感知して……って、あれ?」


「無駄や。地下にも結界が張られとる……それを無理にこじ開けようとしたら何が起こるかわからへん。せやから、皆で地下へ行けそうな場所を探そうやないか」


 カイトのグループはこういう流れで一階を中心に地下への入り口を探索していた一方、リューネのグループは色々な部屋を見て回っていた。


「う~ん……建築様式に歴史を感じるけど、それ以外はなにも変わったところは無いわね……皆は何か気づいた?」


 最初は気を張っていたリューネだが、あまりに何も起きないし、ダークプリズムアイにおかしな反応もなかったので、少しリラックスした様子で自分のメンバーに問いかけた。しかし、リューネ以外も目ぼしい発見をすることができず、首を横に振る。

 そんな中で目ざといフェリスが口を開いた。


「えっとね……もう前情報で知ってたことだけど、確かにこの宮殿には女の人が住んでたみたい」


「確かに聖女も錬金術師も女性の名前だったけど、どうしてそう思うの?」


「だって宮殿内の家具なんかが、背の低いボクでも扱いやすい大きさや高さの物ばかりだもん。きっと住んでた人も小柄な女性だったんじゃないかな?」


「なるほど……聖女の隠居先だから男子禁制だったのかもしれないわね」


 リューネは自分の妹である聖女をまじまじと見て、少し釈然としない表情を浮かべながら、フェリスの意見に頷いていた。


「あとボクが気になるのは、こんなに広いのに使用人のスペースが全然無いのが……もしかしたら、敷地内にあったのが風化して無くなったかもしれないけど、それにしても広さの割には生活感が薄すぎると思うんだ」


 そんなフェリスの観察眼はグループの担当教官のパレットを唸らせた。


「流石はフェリスさん……洞察力はおそらく学園でもトップクラスでしょう」


「にしし♪パレット先生、もっと褒めて褒めて♡でも、肝心のゴーレムの手掛かりになりそうなものは全然見つからないね……」


 これが一番の収穫となったところで一時間が経過したので、エントランスホールで合流――双方の調査結果を報告し合ったが、ゴーレムに繋がりそうな情報は皆無だった。


「そうか……そっちもアカンかったか……ただ、女ならではの見方は興味深いのお……今までの調査はほとんど男ばかりやったから、そういう調査報告は無かったんや。ただ……ウチとして聖女様に何かしら反応するかと期待しとったんやけど」


「私には全く反応しません……でも何というか……結界を張っている割には拒絶している感じが無く、建物や家具を保全するためって印象が……」


 そのセリアの抱いた印象は、その場の全員が少なからず感じていた。少なくともトラップの類も見当たらず、安全を確認できたので、カイトはより分散しての調査をすることを決断する。


「この様子なら、そこまで警戒する必要はなさそうなので、グループをもっと分けて……せっかく9人もいるので、グループを三つに分けませんか?」


「お、それはええな。せやけど、戦力が偏りすぎんように……そうやな……ウチは一応今は試験官でもあるから竜騎士坊ちゃんと黒魔導士ちゃんと……カイトはんには……」


 エビュアが人員の組み合わせを考えていると、フェリスがニヤリと笑みを浮かべて、


「はい!はい!ボクがカイちゃんと……あとは……リリーナちゃんも!それで残りのリューネちゃん、セリアお姉ちゃん、パレット先生のグループはどうかな?この組み合わせが戦力的に一番均衡してると思う」


 エビュアとしては、その辺のパワーバランスを正確に把握できていないが、戦力の配分としては問題無さそうなので、フェリスの案を採用した。


「まあ、それでも問題ないやろな。それじゃあ、その3グループで調査再開や!」


 こうして再び調査が始まると、フェリスがカイトの袖を引っ張って、


「ねえねえ、カイちゃん……実はボク……気になる部屋を見つけたの」


 カイトはフェリスの言われるがままに付いていく、そこは大きなベッドのある寝室。


「ここか?ただの寝室みたいだな……おそらく聖女の使ってた部屋だと思うけど」


「こっちこっち、このベッドなんだけどね」


 フェリスが手招きするので、何の疑いもせずベッドを覗き込むと、フェリスにベッドに押し倒された。聖属性の結界魔法のおかげでベッドはフカフカで埃もたたず、フェリスに馬乗りになられたカイトは驚いて、


「フェリス!いきなり何を!まさかダンジョンの影響で……」


「にしし♪違うよ。ボクは正気……ねえ、リリーナちゃん」


 フェリスはニコニコと振り返ると、リリーナは静かに頷きながら入口のドアに寄りかかって塞いでいる……その状況を飲み込めないカイトは、


「ちょ、今はダンジョン内……しかも実習中なのに……」


「ええ~、雷獣連峰でリューネちゃんと楽しんだくせに……カイちゃんのエッチ♪」


「な、なんでそれを……」


 カイトが後ろめたいような顔をしていると、フェリスの代わりにリリーナが、


「昨晩のテント内の恋バナで……カイト先生がダンジョン内でセリアさんに隠れてリューネさんとコッソリプレイを楽しんでいたと……それを聞いたら我慢できず……私も見て勉強させて欲しいですわ!」


「ちょっ!リリーナさん!バカな事言ってないで!フェリスをとm……んむっ」


 フェリスはカイトの口をネットリしたキスで塞ぎ、


「もう♡今更真面目ぶっても♡カイちゃんがエッチなのは皆の共通認識だよ♡それに……ほら、窓の外見てよ。ダメな男共がゴーレム討伐に再チャレンジして苦戦してる……あ、一撃で吹っ飛ばされてる。本当に雑魚ばっか……それを高みの見物しながら昼間から皆に隠れてのプレイ……この優越感♡絶対に凄く気持ちいい♡じゃあ始めよう♡」


 フェリスがカイトの耳元で囁きながら、服を脱ぎ始めた瞬間――


「どうしたの!?急に闇の増幅が……って!アンタ達!この状況で何やってんのよ!」


 リューネがドアに立ちふさがっていたリリーナごと蹴とばして乱入してくると、まさに今からヤロうとしている二人を見て激高したが、フェリスは悪びれた様子もなく言い返す。


「いいじゃん!リューネちゃんなんて出陣式の最中にカイちゃんと絡みついてくせに!ここにいる人間にはバレバレだったんだからね!」


「え、ちょ……ま……それは……」


 そんなやり取りをゾクゾクしながら見守るセリア、リューネに後ろから吹き飛ばされて伸びているリリーナを介抱するパレット、そして騒ぎを聞きつけて飛び込んできたエビュア……伝説の聖女の寝室は瞬く間にカオス空間と化してしまった。


 こうして調査は収穫無しで引き上げようと、エントランスホールを通過した時、セリアが不意に立ち止まって、


「あれ?」


「どうしたのセリア?」


「え、ううん……気のせいだと思うけど、聖女の肖像画がこっちを睨んだ気が……」


「そう?あんたと違って、清楚な笑みを浮かべてるじゃい」


 そんな呑気な会話をするくらいに平和に終わった調査初日――この日のフェリスのエッチな悪戯がエンシェントパレスの封印を解く切欠になるのだが、この時は誰も気がついていなかった。

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